魔法少女さんとサイボーグさん   作:カードは慎重に選ぶ男

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前回のあらすじ

Q:つまり、どういうことだ……?
A:今まで戦ってきた地球外知性体の皆さんはアンノウンじゃなくてアギトだった。

手持ちの情報があまりにも少なすぎて、サイボーグさんと0号の会話に入ってこられない魔法少女さん……。




第18話:サイボーグさんと残酷な真実

 

 

 

 

 

 

 

「故郷で呼ばれていた名ならば、あるぞ。俺は『太陽の子』だ」

 

 

0号の言葉を聞いて、あたしは何を言って良いか分からなかった。

今まで信じてきたものが土台から崩れちまったからだ。

こいつの言うことが本当なら、0号を倒しても地球外知性体に変貌する人間は増え続ける。

つーか、地球外知性体による被害を抑えることを考えるなら、むしろ0号は殺しちゃいけない存在だ。

 

 

「……地球外知性体へと変貌した地球人は殺すしかない、というのは聊か結論を急ぎ過ぎていませんか?」

 

そこへ口を挟んできたのは、鈴の音のような声だった。

ほんの少しだけ緊張感を含んでいるものの、冷静な人間の言葉に思えた。

あたしと違って、チェリーの奴にとっては新出の情報なんて殆ど無い話だろうし、当然っちゃぁ当然か。

 

 

「確かに君には進化した地球人を元の姿に戻す力がある。

だが体内の因子そのものを除去している訳では無いから、再発は防げない」

 

でも冷静なのは0号も同じだった。

今までの戦いでキュアチェリーが地球外知性体を浄化してきたことを0号もちゃんと知っているんだ。

その中で、9号と4号の素体になった人間が同じだったことまで把握している。

けど、今まで地球外知性体を倒し続けてきて何とかなってる訳だし、あたしだって順調にスペックアップしてんだ。

なら感染者を殺す必要なんて無いだろ。

 

 

(わたくし)たちの戦闘能力と浄化能力では対処しきれない事態が訪れる、ということでしょうか?」

 

なんだけど、あたしの楽観を見透かしたようにチェリーが0号へと言葉を返した。

言われてみれば、チェリーの懸念も分かる気がした。

あたしとチェリーで対処できない事態が訪れるから、0号はそれを阻止するために動いているんだとしたら……?

 

 

「この20年で進化の因子もまた地球人に適応を始めた。そして因子は宿主の認識にも影響される。

地球人たちは進化出来ることを知ってしまった。あとは加速度的に進化するだろう」

 

確かに、進化の方向性が素体の認識能力に影響されてると思う節はあった。

10号が度重なる変態の末に0号を模した姿になった件だ。

やっぱりアレは、20年前の夜明けの大火を知る人間の認識をベースに変貌したんだろう。

20年前に0号を見た時のトラウマが、10号の進化の方向を決定づけたんだ。

 

 

「そして最終的には地球人が滅びる、という訳ですね」

「何も手を打たなければ、そうなる。だが今なら、災厄の子と推定50億人の感染者を殺せばまだ間に合う」

 

50億って途方もない数じゃねぇか……。

地球の人口って60億ぐらいじゃなかったか?

……と思ったけど、それって20年前の知識なんだよな。

今の人口ってどれぐらい居るんだ??

 

 

「確かに地球人が滅びるのは避けたいですね。けれども……」

「言いたいことは分かる。俺とて故郷が滅んだ身だ。親しい者が死ぬ悲しみと苦痛は誰よりも知っている。だがやらなければ地球人も滅ぶ」

 

故郷をヤタガラスに滅ぼされた0号は、50億人を殺し尽くすことで悲しむ人間が居ることだって分かってるんだ。

それを承知で、地球人の絶滅を防ぐために動いてる。

 

あたしは今まで0号を殺すために戦ってきたし、親友のトウコを殺された恨みは今でも忘れちゃいねぇ。

0号があたしの親友を殺したっていう事実は変わらないからな。

けど、人類が滅ぶとなると、今まだ生きてる母さんの方が大事だって考えちまうところはあるんだよな……。

たぶん付近の住人と一緒に避難してると思うんだけど、あとで探さねぇと。

……その殺される50億人の中に母さんが入ってたら、あたしはどうしたら良いんだろうな。

 

 

「感染者を特定する手段は、お持ちでしょうか?」

「生かしたまま黒判定を出す方法は無い。だが災厄の子や聖櫃の半径100メートル以内に入ったら確実に手遅れだ。

加えて、災厄の子や聖櫃ほどの感染力はないが、人から人へも感染する。俺や『御使い』のように進化の因子に抵抗力を持っていれば話は別だが」

 

「ヤタガラスも抵抗力を持ってんのか……?」

 

なんだと……?

太陽の子が進化の因子に対して抵抗力を持ってるのは知ってたけど、ヤタガラスも?

機械も進化することがあんのか?

 

 

「ああ、『御使い』も生命体だからな。進化の因子で狂うことを危惧して、抵抗力を持つよう設計されているようだ。

……見たところ、君にも同じ動力が使われているようだな」

 

桜色の結晶体が進化を抑制するってことなのか。

でもヤタガラスとあたしの動力部の分で合計2個しか存在しないし、今の地球の科学力じゃ再現不可能な代物なんだよな……。

……手前勝手な話だけど、あたしだけは進化の因子で狂う心配がなくなって、ちょち安心しちまった自分が居る。

ただ、黒い揺り籠を調べてた母さんが抹殺対象に入っちまってるのは、いただけねぇな……。

風杉マナと一緒に遊んでた子供たちも確実にアウトな訳だしな。

 

 

「君達にしてみれば今すぐ決められる話でも無いだろう。もっとも、地球人にも進化する者が出始めた以上、終末は決して遠い未来の話ではない。

だが俺とて好き好んで殺戮を犯すわけではないんだ。もし何か分かったら、明日の日没までに街外れの廃遊園地まで来てくれ」

 

俺はそこに居る、と言い残して0号はあたしの実家から姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

立ち去った嵐が嘘みたいに、後には静けさが残された。

あたしは、キュアチェリーの反応を窺っちまってた。

いつも余裕ぶって何でも知ってるみたいな顔をしているはずの、いけ好かない女は……神妙な雰囲気だった。

絶望に染まっている訳じゃないけど、かといって活路を見出している訳でも無さそうだ。

 

 

「お前でも、迷ったり途方に暮れたりすることなんてあんのかよ?」

 

やめてくれよ。

お前まで打つ手なしなんて言い出したら、あたしらはどうすりゃいいんだ。

本当はまだ何か隠し玉があるんだろ?

 

 

「地球人の滅びを回避して、50億人の感染者も救うとなると……一筋縄ではいきませんね」

「いつものカマトト、じゃねぇのか? 本当に心当たりは無ぇのかよ?」

 

静かに、チェリーは小さく首を横に振った。

本格的にマズい事態だ、とあたしも怖くなり始めていた。

それでも、あたしが辛うじて理性を保っているのは……生き汚い話だけど、やっぱりあたしだけは進化しないっていう前提があるからかもしれねぇ。

サイボーグボディの中枢である桜色の結晶体が、あたしを守ってくれるからだ。

 

 

「頼みがある。お前の力を……母さんのラボで調べさせてくれ」

 

そしてコレが、あたしが思い付く最後の手だった。

キュアチェリーの力を、ヤタガラスのブラックボックスを解析した天才科学者である母さんに調べてもらうんだ。

もちろん、調べたからといって有益な情報が出てくるとは限らない。

災厄の子である風杉マナを調べても何も分からなかった訳だし、キュアチェリーを調べても同様の結果になる可能性は高い。

加えてチェリーが首を縦に振らなきゃどうしようもない。

 

正直、今までのチェリーだったら適当にはぐらかしていた頼みだと思う。

でも状況が状況だ。

地球人の滅亡がかかってるなら、チェリーの奴でも応じてくれるんじゃねぇかな?

……っていう淡い期待はあるんだけど実際どうなんだ。

チェリーだって宇宙人なら、地球人を見捨る選択肢だってあるんじゃねぇか?

 

 

 

「承知しました。微力ながら協力いたしましょう」

 

自分で頼んどいてなんだけど、そんな即決してくれんのかよお前。

もしかして、もっと早く頼んでても快諾してくれたか……?

いやまぁ多分状況のお陰なんだろうけどさ。

災厄の子である風杉マナとの繋がりがあるみたいだし、マナが殺されるのはチェリーにとっても地雷なんだろう。

 

 

「まぁなんにしても、母さんが戻るまで待ってもらうことになるけどな。戦闘音もしなくなってるし、すぐに帰ってくるだろ。たぶん」

「そうさせて頂きます。(わたくし)も、するべきことがありますから……」

 

そう言いながら、チェリーの奴が目を落とした先には……トマトみたいに潰れた紫色の元球体があった。

さっき0号に潰された仏さんか。

確かに弔ってやるにしてもそのままの姿じゃあんまりだからな。

死者に浄化が効くのかどうか知らんけど、戻せるなら戻してやってくれ。

 

 

「今だけは、(わたくし)が弔いの花となりましょう」

 

腰を落としたチェリーが両手を伸ばして、紫色の心臓部の残骸へとかざした。

チェリーの掌から溢れた光を浴びて、残骸は次第に人型へと戻っていった。

 

 

 

 

 

……あたしは、目の前の光景を理解することを拒否しちまってた。

というか、今までも「その可能性」を無意識のうちに頭から外して考えちまってたんだ。

考えたくも無かった、最悪の結末だ。

黒い揺り篭が進化の因子をばら撒くって聞いたときにも、気づかないフリをした可能性だった。

 

 

「せめて、安らかに御眠りください。おばあさん」

 

肉塊に戻って、辛うじて個人の区別がつくようになった、その顔は。

一番そこに居てほしくない顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

母さんだったものを前に、あたしは何も言葉が出てこなかった。

この身体は涙を流すことすら出来なかった。

視界の隅で、ストレス値が異常域を示していた。

 

 

 

 

 

 

 

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