魔法少女さんとサイボーグさん   作:カードは慎重に選ぶ男

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前回のあらすじ

ヤタガラスと0号の真実に頭を痛めるサイボーグさん。
だがそんな時、0号によって母親が殺されていたことが発覚してしまう。
機械の身体は涙を流すことさえ許してくれなかった。




第19話:魔法少女さんと小さな理由

 

 

 

 

「母、さん……」

 

 

お姉さんの搾り出したような一言から、僕は状況を察した。

とりあえずこの場では、微笑は封印しよう。

シリアス顔をしとかないと最悪お姉さんに殴られそうだ。

なんせ、母親を目の前で殺されてショックを受けている相手だ。

 

このまま何も言わずに去るのも良くない気がするけど、かける言葉が見つからない。

気まずい……。

誰も何も言わなくて気まずい状態を「お通夜みたい」って言ったりするけど、実際に人が死んだ場面に出くわしたら冗談でも言えない……。

プリキュア基準で見ても、そんなハードな展開なんて……ムーンライトさんぐらいしか思い当たらない。

改めて考えてみると、ムーンライトさんって目の前で殺された父親のことを、一人で家族の帰りを信じて待っていた母親にどんな気持ちで説明したんだろう……。

 

 

……現実逃避は良くないな、とは分かっているんだけれども、実際何も言えることが無いんだ。

お姉さんが全く動かなくなって、僕も反応に困っている。

俯き加減で微動だにしないお姉さんは……泣いているように見えた。

フルフェイス装備だし実際に涙が見える訳じゃないんだけど、気持ちの問題だ。

 

 

結局、警察の人達が集まってきたところで僕は退散することにした。

また後日うかがいます、なんて言い残しながら……現場から、逃げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして翌日。

キュアチェリーとして、僕は半壊した民家を訪れた。

壁の穴はブルーシートで塞いであるだけだった。

雨漏りを防ぐための最低限の応急処置だ。

さすがに死体があった所だけは跡形も無く綺麗にされていたけど、少しだけ血の匂いが残っている気がした。

 

この度はお悔やみ申し上げます、なんてインターホン越しに声をかけて、僕は中に入った。

見るからに非日常の住人なキュアチェリーが普通に民家の呼び鈴を鳴らしている図は微妙にシュールかもしれないけど、まぁ仕方ないよね……。*1

家の中に入ってみると、人外パワーの持ち主たちが争った跡で一杯だった。

たぶん0号たちが戦いながら地下から地上へと移動してきた感じなのかな?

そう推測しながら、僕は地下室へと脚を進めた。

 

階段を降りていくと、地下室とは思えないぐらい広い空間に突き当たった。

何に使うんだか分からないような剥き出しの基盤があるかと思えば、古くて厚いテレビみたいなものもあったりして、少し煩雑な部屋だった。

色々な機械の音も聞こえて興味の尽きないラボなんだけど……今回は弔問も兼ねているし、あんまり楽しそうにするのも良くない。

 

そして、一見すると人の気配が無いようなラボの中に、僕はサイボーグさんの姿を見つけ出していた。

椅子に座ったまま微動だにしないサイボーグさんは、本当に置物のようだった。

 

 

「せっかく来てもらってなんだが、母さんが居ねぇから検査は出来ねぇぞ」

「そう……でしたね」

 

重苦しい沈黙が流れた。

息が苦しくなる、泥みたいな静けさだ。

口火を切ったのは、お姉さんの方だった。

 

 

「お前は、どうする。0号の提案の件だ」

 

お姉さんが口にしたのは、母親の件じゃなかった。

0号の提案というと、主に3択問題だ。

 

選択肢A:地球人はそのまま滅びる

選択肢B:推定50億人の感染者を殺して地球人類を存続する

選択肢C:その他

 

 

「50億人を死なせずに事態を収拾したいと思っています」

「相変わらず優等生の回答だな。勝利の秘策はあるのかよ?」

 

主にこの3つなんだけど、Aは最悪だし、Bもなるべく避けたい。

だけどCは全く道が見えてこない状況だ。

ならば、ここは正直に言った方が良いと思う。

というかお姉さんの質問には今までも大体正直に「知らない」って答えてるけど。

僕がお姉さんの質問を誤魔化したのって、身バレ関連だけなんだよ?

コウノトリ? 何のことだか分かりませんね。

 

 

「ありません」

「……迷いなく言い切りやがって」

 

気休めを言っても仕方がない場面だと思うんだ。

ただでさえ事態は緊迫している訳だし。

この際、油断の類は全て捨てるぐらいの気でいた方が良い。

いつもなら顔の良い女の余裕の微笑を浮かべるところなんだけど、やっぱりシリアス顔を継続しとこう。

 

 

「お姉さんの方は、どうですか?」

 

問い掛けながら思ったけど、よく考えたらサイボーグさんって結構大きい組織の一員なんじゃなかったっけ?

警察と協力できているのもその辺りのコネクションがあるからだったはずだ。

ということは、もしかしてお姉さんの一存では判断できなかったりするの?

 

 

「こっちの偉い人は、もう賽を投げたつもりで居るみてぇだな。

一応人類存続の道をあっちでも考えるつもりではあるみたいだけど、それが間に合わなそうなら最前線で戦ってきたあたしらの判断を信じる、ってさ」

 

その答えを聞いて、安心したような、不安になったような……。

でもそれ以上に、僕は気になったことがあった。

お姉さんから、あまり暗い雰囲気が感じられないんだ。

最初の沈黙は重苦しく感じたけど、あれは僕の側でバイアスをかけて見ていたせいかもしれない。

 

親を失って1日で吹っ切れるなんてこと、あるのかな……?

空元気じゃない?

無理してない?

 

 

「お姉さん、予想していたよりも冷静に見えますけれども……無理をしていませんか?」

「無理……か。全くしてないとは言えねぇ、かな。実際、昨日の夜がピークで本当に酷かった」

 

お姉さんは、言いづらそうにしながらも少しずつ話してくれた。

母親の遺体を警察の人達に任せて、家の応急処置もしてもらいながら、お姉さんは何もする気が起きなかったそうだ。

20年前の親友を殺された恨みを晴らす気力も無くなっていたし、かといって母親を殺された復讐をするモチベーションも無かった。

大切な人が皆この世からいなくなってしまって、もう全部がイヤになってしまっていたんだって。

母親が全力で生かしてくれた命と身体があるから自殺は出来ない、というギリギリのラインで物事を考えてしまうぐらいには本当にどん底だったみたいだ。

 

 

「けどさ。本当に癪だけどよ。お前はいけ好かない女だが……やっぱり正しかった」

 

――(わたくし)を愛でてくださる方がいて、(わたくし)が愛おしく思う方が居ます。それだけでは……足りませんか?

 

でもお姉さんは、戦いの中で何度も遭遇した僕の言葉を覚えていてくれたんだ。

確か、7号を倒した後にお姉さんの方から戦う理由を聞かれた時に答えた台詞だよね、それ。

身バレしない範囲で言える、僕の本心からの答えだ。

そういうのを覚えてくれているの、嬉しいな。

なんていうか、胸の奥が暖かくなるっていうのかな。

上手く言えない、でも幸せな感覚なんだ。

 

 

「近所のガキどもが噂してるのを聞いちまったことがあってな。お前ほどじゃねぇけど、案外あたしも人気あるんだって思い出したんだ」

 

――お姉さん、御自身で思っているよりもファンが多いんですよ。

 

そっか。

いつも身を挺して戦っているお姉さんの格好良さは、ちゃんと伝わっているんだね。

我が身のことのように嬉しいよ。

まぁパーフェクト美少女のキュアチェリー様には届かないかもしれないけど!

 

 

「あたしを好きでいてくれる奴が居るなら、そいつらを死なせたくないって思っちまった。お前の言う通り、戦う理由なんてそれで十分だった」

「……素敵な理由だと思います」

 

身近なもののために戦うっていうのは、プリキュア文法的にも大切なんだよ。

4クール番組の総決算として世界を救うのは、結果的にそうなるに過ぎないんだ。

基本的には、自分の大切な……ちっぽけな理由のために戦って、それが積み重なって世界が救われる。

敵との宿命を持たない一般人が、宿命を持った妖精や異世界人と二人三脚で戦うっていうプリキュアのフォーマットが、それを可能としているんだ。

 

……全くの余談だけど、その視点で考えると良い意味で異色作だったのがヒープリだ。

アレは逆転の発想で、宿敵に人生を壊された子供が、仲間と一緒の戦いを通して積み重ねた経験で普通の子になっていくっていうコペルニクス的転回の産物だよ本当に。

だからこそ、最終展開で自分の命が大切だっていう当たり前のことを言えるようになるのが熱かったりするんだけど……まぁそれは置いておこう。

 

何はともあれ、やっぱりサイボーグさんは妖精やブラペ枠だよね。

僕の方は異星人との因縁なんて全くないうえに変身能力の由来すら不明な野生のプリキュアでしかないし、20年前から因縁を積み重ねているサイボーグさんが宿命担当と考えるとしっくりくる。*2

そんな二人が手を組むとなれば、プリキュア的にはオーソドックスな展開だと言える。

長年愛され続けているテンプレに沿った外れない王道展開だ。

 

 

 

「あたしと一緒に0号と戦ってくれ。キュアチェリー」

「喜んで」

 

お姉さんが差し出した手をとって、その硬さが頼もしく思えた。

第3の道を示せないのに50億人を殺すのもイヤだなんて虫の良い話は、0号には通用しないだろう。

なら0号とは戦う覚悟をすべきだ。

 

その時に肩を並べていてくれるのが、お姉さんで良かった。

僕は、心からそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そういえば。

ようやくその名前で呼んでくれたね。お姉さん。

 

 

 

 

 

 

*1
ピンポーン!

「奥さん! 太陽戦隊です!」(サンバル感)

*2
またしても何も知らないキュアチェリーさん……

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