サイボーグさん「50億人を死なせるのは嫌だけど代替プランなんて思いつかねぇぞ。どうすんだ……」
魔法少女さん「0号に物凄い顔で『ゆるさん!!』って言われそうですね……」
僕たちは、無人のラボを背に飛び立った。
ヤタガラスを下背部に合体したサイボーグさんに抱きかかえてもらって、いつかのハネムーン再びだ。
前と同じように、膝裏と背中に腕を回してもらって、どさくさで僕はお姉さんの首へと両腕を絡めた。
身体中で感じる機械の感触だ……!
お姉さん、出来るだけゆっくり飛んで!
ライダースーツ風の外面に覆われているせいで視覚的には分からないけど、しっかり抱き着いてみると絶対に生身じゃない硬さが味わえるんだよ。
こっそり胸元に顔をうずめて耳を押し当ててみれば、やっぱり有機生命体らしからぬ音が聞こえる。
モーターの回る音だとか、歯車が軋む音だとか、何かの液体が吹きつけられる音だとか。
直接中身を見なくても、想像を掻き立てられるハーモニーだ。
こんなに幸せで良いのかと思うぐらいに幸せだった。
顔だけは意地でも、余裕の微笑をキープするけど。
「なぁ、今のうちに言っとくけどさ」
そんな幸せの飛行旅の最中、お姉さんが口を開いた。
なんだろう。
0号と戦うにあたっての懸念事項?
「0号と戦ったうえで、もし勝てないと思ったら……あたしを見捨ててお前だけでも逃げ延びろ」
「嫌です。自己犠牲は美しくなんてありません」
お姉さんの指示は、一応理解は出来るものだった。
でも僕は即答で拒否した。
理由は単純だ。
僕が、お姉さんに死んでほしくないからだ。
危険を想定するのは良い事だけど、死ぬのを受け入れてほしくはない。
「……聞いてくれ。地球人の進化がどうのこうの、って話を0号がした時にさ。あたしが真っ先に想像したのは巨大な地球外知性体たちじゃなくて、お前のことだったんだ」
お姉さんは、言葉を継ぎ足した。
1号とキュアチェリーの戦いを見た時から、僕の強さには一目置いていたことを。
そして、地球外知性体の心臓部を浄化できる能力も替えが利かないものだ。
キュアチェリーの余裕ぶった態度と台詞回しは気に食わないと思っていたけど、それでも言っていることは正しいと理解できている、と続けた。
「進化した人類なんてものが居るとしたら、お前のことだって思った。お前の存在そのものが、最後の希望なんだ。だからお前だけは絶対に死ぬな」
うん。
言いたい事は分かるよ。
キュアチェリーは、あらゆる意味で超人だ。
身体能力にしても浄化能力にしても人間が一朝一夕で真似できるものではない。そして可愛い。(重要)
「そう、ですね……。確かに、力が強くなければ守れないものはあります」
力なき正義は無力、なんて多分僕が生まれる前から使い古されている化石みたいな台詞だよね。
古典の推理小説なんかの引用台詞でも似たようなのがあった気がする。
どんな高潔な理想も、暴力によって蹴散らされれば容易く歴史の闇へと葬られる。
プリキュアだけに限らずニチアサ民なら、防衛や抑止のための力が必要であることなんて説明されるまでもなく知っていることだ。
「癒しの力も、あれば助けられる人間は増えるでしょう。華やかさも大切です」
実際、どうして地球外知性体を浄化して元に戻せるのかは全然分からない。
はっきり言って雰囲気で浄化しているとしか言えない。
でもこの力に助けられているのは本当だし、人類の最後の希望だと呼ぶお姉さんの気持ちも分かる。
ビジュアルにしても、特に商業でグッズを売らなきゃいけない本家の人たちにとっては死活問題だよね。本当に。
まぁ僕はバックにバンダイカーン様が居ない野性のプリキュアだから販促とかは無いんだけど、僕とマナちゃんの二人で築いた理想像は崩したくはない。
「ですけれども……どれも本質ではありません」
プリキュアだから強い?
プリキュアだから可愛い?
プリキャアだから諦めない?
プリキュアだから浄化できる?
「進化、と言いましたね。そんなものがあるとしても、本当に変えたくないものを守るための進化であって欲しいと
いや、プリキュアだから諦めないって言っている時は本家でも偶にあるけどさ……。
そうじゃないんだよ。
順番が逆なんだ。
まず理不尽や固定観念へ言い返したい理由があって、そういう人間に力が与えられている世界だから美しいんだよ。
「どんなに苦しみに心を苛まれても、理不尽へ言い返せるお姉さんのような人にこそ『進化』という言葉は似合うと思います」
時々中の機械を見せてくれるお姉さんへの下心が無いといえば嘘になるけど。
でも、僕はお姉さんのことを本当に凄い人だって思うんだ。
20年前に親友が殺された後も、昨日母親が殺された後も、結局お姉さんは再び立ち上がった。
もちろん周囲の人間の助力もあっただろうけど、最後にそれを決めたのはお姉さん自身だ。
僕は、そんなお姉さんのことが好きだ。
キュアチェリーと一緒に戦ってくれる人が貴女で、本当に嬉しかった。
「そんな愛しいお姉さんに、絶対に生き延びてほしいんです。
「……そいつは、買いかぶり過ぎだ。あたしが今日までに立ち直れなかったら、どうする気だったんだよ」
……うん、その可能性は割とあったと思うよ。
母親の惨殺死体を目の当たりにするなんて体験、トラウマになるに決まっている。
立ち直ったお姉さんは凄いと思うけど、立ち直れなかったらそれはそれで仕方ないと思う。
「元々、無理に戦わせるつもりはありませんでした。お姉さんが辛いだけの世界であれば、それを維持するためにお姉さんが無理をする義理はありませんから」
辛い時に誰も支えてくれない世界なんて滅んでしまえ、ぐらいの気持ちでいた方が良いよ。
そのぐらいに思っていた方が、苦しんでいる人に優しく出来ると思う。
きっと、辛い時にガマンを続けること強いられた人間は、次の世代にもそれを強いる人間に育ってしまうよ。
「一見優しいことを言ってるみてぇだけどよ、皆がそう思っちまったら人類が滅びるよな……?」
「世界を維持したいと思える人が誰も居ないようであれば、それが地球人の種族としての寿命です」
まぁその時は潔く滅びれば良いよ。
極論染みているかもしれないけれど永遠に続くものなんて無いし、誰も存続を望んでいない世界を延命しても仕方ない。
僕個人としては、まだその時ではないと思っているけど。
いつか、そうなる時も来るかもしれない。
「前々から思ってたが、なんかお前と話してると宇宙人と会話してる気分になってくるんだよな……」
「0号という本物の異星人と話したことのある人間の台詞とは思えませんね」
え……?
なんだそれ。
僕、何か異星人っぽいこと言った……?*1
少しだけ驚きつつも、いつもの微笑は崩さずに余裕ぶって答えることは出来たけど。
なんでそんなふうに思われたんだろう。
やっぱり防衛隊とウルトラマンの関係みたいな先入観が、お姉さんの中にあるのかな……?
こちらは生まれも育ちも地球なんだし、お姉さんの先入観のせいでそう聞こえているだけじゃないの?
「いや、0号も考え方自体はそんなに
50億人を殺して進化の因子を撲滅するって話も、狂牛病が流行した当時に疑わしい牛が全部殺されたってのと似た感覚だろうしな」*2
きょうぎゅうびょう……?
初めて聞いた名前だ。
名前の響き的に、狂犬病の牛バージョンみたいな感じ?
なんだか、大昔のニュースとかの影響で一定以上の年齢の人間は大体知っているみたいな雰囲気を感じる。
とりあえず美少女の曖昧な微笑で誤魔化しとこう。
ミステリアスな女を気取る身としては、なるべく年齢は特定されたくないし。
「それと一緒で、『地球人が滅んでもそれはそれで問題ない』みたいな割り切り方を出来るのは地球人の立ち位置での発想じゃねぇだろ。ましてや0号を今から止めようとしている状況でよ」
うーん……?
人類の存続のために積極的に動ける人もそうじゃない人も居る、ってだけだし多様性の範囲内じゃないかな?
僕は前者だけど、辛い思いばかりしている後者の人たちに更に人類存続のために尽くさせるっていうのは、それはそれで外道の匂いがする気がするんだ。
ただ実は、そのぐらい割り切って考えられる人間って意外と居ないのかもしれない……。
プリキュア文法的には、キュアアクア変身失敗問題と一緒だという話ではある。
たとえ人類の命運がかかっているとしても義務感や強迫観念で行動するのは良くない、っていうのは大切なことだと思うんだけど、案外実践できないものなのかも。
「地球人かくあるべし、という強迫観念に囚われていませんか? 無暗に枠を作っても息苦しくなるだけですよ」
まぁ枠を作ること自体が悪いとは言わないけどさ。
僕で言ったら「キュアチェリー」としてのロールだって枠の一種だし。
けど自分が苦しくなる枠なんて出来るだけ早く捨てちゃった方がいいと思うよ。
「そういう物言いが宇宙人っぽいって言ってんだっつーの」
お姉さん、頭が固いっていうより、頭が古くない??
思い返してみると根性論でリスクを無視しようとするぐらいには頭昭和な人だったっけ……。
でも。
そんなどこか古臭いところも、なんだか愛おしく思い始めている自分がいて。
0号の隠れ家になっている廃遊園地が見えてきて、この御姫様抱っこが終わってしまうのが惜しく思えて。
この戦いが終わっても来週も再来週もこんな言い合いをして、ちょっぴりずつでも互いの事を理解するのが嬉しく思える日々が続いていくんだ。
お姉さんの硬くて力強い腕に抱かれながら、僕は本気でそう思ったんだ。