魔法少女さんとサイボーグさん、廃遊園地への道中でイチャイチャしてしまう……。
サイボーグさんに死亡フラグ?
廃遊園地は、昼間だってのに不気味なほどに静かだった。
可愛い動物の顔が付いているゴーカートは、汚れてゾンビみたいになっちまってる。
メリーゴーランドの馬たちも、やっぱりゾンビみてぇだな。
コーヒーカップの底には泥水が溜まっちまって、本物のコーヒーよりも黒い。
そんな遊園地の最奥部の、申し訳程度に屋根のある野外ステージの中央に、そいつは座り込んでいた。
標準的な地球人より一回り大きい人型で、漆黒の身体に赤い眼を輝かせた怪人……地球外知性体0号と呼ばれる存在だ。
錆びついて軋んだパイプ椅子に腰かけながら、0号はあたしらを待っていた。
「答えを聞かせてくれ」
「50億人を犠牲にするのも、地球人が滅びるのもナシだ」
「ですけれども、必ずや第3の道を見つけ出してみせます。それまで待っていただけないでしょうか?」
あたしらの答えを聞いて、0号は特に驚かなかった。
表情が読みづらいバッタみたいな黒い顔を歪めもしないで、淡々と言葉を返してきた。
「この星が滅びれば次の星が犠牲になる。君たち地球人だけの問題では無いんだ」
「黒い揺り籠はお前が破壊したんだろ。なら次の星で災厄の子が生まれる心配は無いんじゃねぇのか?」
母さんのラボで研究されていた黒い揺り籠……0号の言うところの聖櫃は、既に破壊されてるんだ。
というか、この間あたしの家に来た時の0号の目的がそれだったんだろうな。
その過程で、抵抗を試みた母さんも地球外知性体に覚醒しちまって、人外バトルが発生したって流れだ。
そして、黒い揺り籠の破壊が完了しているなら、少なくとも次の惑星が犠牲になる心配は無いはずじゃねぇのか?
「散布能力でいえば聖櫃や災厄の子には及ばないが、進化の因子は感染者からも移る。
君達も、空を飛ぶ個体を見たことがあるだろう? 地球を飛び出す個体が出るのも時間の問題だ」
確かに7号は空を飛んでやがったな。
アポロみたいに、13号ぐらいになったら月に到達する地球外知性体も出るかもしれねぇ……。
確かにそう考えたら、黒い揺り籠や風杉マナだけを処分しても対策としては不十分か。
「
「……そのようですね」
「結果的には、そうなってしまったな。だが可能な限りの命を救おうとした君達の姿勢は素晴らしかった。少なくとも俺はそう思う」
あたしとチェリーが覚悟してた結論になっちまったな。
……そういや、黒い揺り籠が破壊されたのって、チェリーは知ってるんだっけ?
あたしは説明してない気がするけど。
まぁチェリーのことだ、大体何でも知ってんだろ。*1
合図も無しに、あたしは黒銃の抜き打ちをかました。
0号は仰け反りすらしないで、牽制の弾を無視して直進してきた。
「チェリーブロッサム・ハリケーン!!」
そんな0号の突進を、チェリーの放った粒子砲が正面から捉えた。
桜吹雪が0号の身体を覆い、大音響とともに押し流した。
野外ステージから放り出された0号は、付近の事務棟と思しき建物へと背中から叩きつけられて爆炎に飲まれた。
やったか、なんて冗談は言えなかった。
ドラゴンヘッドを構えたまま真面目な顔をしているチェリーを見れば、これで終わったなんて楽観は持てない。
案の定……半壊した事務棟跡から、0号が悠然と歩いて出てくるのが見えた。
両腕から煙が上がってるところを見るに、腕を交差して防御した感じか?
何にしても損傷は軽微ってところだな。
こっちに向かって歩いて来てるだけだってのに、謎の威圧感に溢れてやがる……!*2
「トウッ!」
……0号の姿が視界から消えた、と思った次の瞬間には、あたしの隣でチェリーの奴が殴りつけられていた。
とっさに球体バリアを張ってたあたり反応自体は出来てたみたいだが、それも甲高い音とともに砕かれちまってた。
軽いゴム鞠みたいに弾き飛ばされたチェリーを目で追う余裕なんて無かった。
あたしは考えるよりも早く中段蹴りを放った。
人間相手なら掠っただけでも致命傷を負って不思議じゃない攻撃だが……0号は腕で堅実に防御しながら後ろ飛びにあたしから距離をとった。
瞬発力も腕力もあって、そのうえ防御も堅実ときたもんだ。
最大速度はあたしらより上のくせに、緩急を理解した動きもしている。
「リミット解除!」
出し惜しみをしている余裕は無さそうだ。
あたしは装甲の隙間から桜色の光を溢れさせながら、0号に殴り掛かった。
ステゴロ同士の戦いが始まった。
だが全体的なスペックアップを繰り返してきたうえにヤタガラスと合体して出力補助を受けているあたしでも、0号相手では分が悪かった。
インファイトに持ち込んじまえば機動力の差は多少埋められるにしても、純粋なスペックで負けてたら世話ねぇな。
あたしの拳や蹴撃も当たっちゃぁいるんだが、上手く防御されたり反撃されたりで、なかなか決定打になりゃしねぇ。
それでも何とかなってるのは、0号側があんまり積極的に攻撃してきてねぇからだな。
「おっと……なかなか、やりづらいな」
「……ナメやがって」
チェリーの奴が物陰を走り回って、幾度となくドラゴンヘッドによる死角からの砲撃を狙ってるんだがな。
今もまた、0号には回避されちまった。
というか0号が砲撃を警戒した動きをしてるから、辛うじてあたしも殺されてないみたいな感じだ。
2人でインファイトするって選択肢もあったが、どの道キツそうだな。
「くらえ、王の威光っ!」
「うおっ、眩しっ!?」
しかも時折腹部を光らせて目潰し攻撃まで織り交ぜてきやがる。
10号が似た技を使った時は電子レンジみたいな熱光線だったっぽいけど、本家はただ眩しいだけだな。
頭部カメラが麻痺するのは一瞬だけど、どうしても動きが止まっちまう。
この目潰しフラッシュはチェリーの方にも効いてるみたいで、そのたびにチェリーの動きも止まっちまってるのが遠目に見えた。
まぁ5回も6回も見せられたら多少は慣れるとはいえ、中々に面倒だ。
「チェリー! こっちも目潰しだ!」
あたしの合図で、チェリーの奴がいつも撤退する時に使ってる光の花びらを大量に降らせた。
それも、0号の頭上からだ。
一瞬だけ視界が埋まった0号の隙をついて、あたしらは近くの建物へと逃げ込んだ。
あたしらが逃げ込んだ先の建物は、ミラーハウスだった。
三角形で区切られた小さな部屋が無数に繋がっているタイプのミラーハウスだ。
まぁ床を見ながら歩けば鏡にぶつかる心配なんて無いんだけどな。
少し進んだ先で、あたしらは狭い中で身を寄せ合いながら作戦会議を始めた。
「お前の方が前衛なら何とかなったと思うか?」
「厳しかったと思います。さらに言うと、2人で接近戦に持ち込んでも同様かと……」
そもそもさっきの作戦は、ドラゴンヘッドの反動ダメージでチェリーが自滅しないっていう前提ありきだ。
現に10発近く粒子砲を撃ってるのに、チェリーはピンピンしてやがる。
あたしが砲撃役だったら、いくらスペックアップしてるとはいえ、そんなバカスカ撃てないわ。
それでも厳しいとなると……どうしようもねぇな。
「大丈夫か?」
「……すみません」
狭いミラーハウスの中で立ち話をしている最中、チェリーの奴がフラついた。
肩を掴んで支えてやったチェリーの身体は、いつも以上に華奢に思えた。
平然としてるように見えても、やっぱりドラゴンヘッドを連発した疲労が多少はあるのか?
なんだか、チェリーの微笑の中に違和感があるような気がしちまった。
そんな、時だった。
ミラーハウスって場所は、文字通り鏡が本当に多い建物だ。
ちょち視界を広げれば、目の前の相手の横顔や後ろ姿だって見える。
だから……あたしに正面から向き合っているチェリーの背中が見えちまった。
その背中は……酷い火傷で、ドロドロになっちまってた。
あたしは、背筋が寒くなった。
チェリーの微笑が、痩せ我慢にしか見えなくなった。
「お前……その背中、どうした」
「…………気付かれてしまいましたか」
たぶん、チェリーの奴は隠し通せてるつもりだったんだろう。
あたしには、全く大丈夫には見えなかった。
「あの『王の威光』と呼ばれた光のせいです。おそらく、進化の因子を持った生物を焼き尽くす技なのでしょう」
――感染者を特定する手段は、お持ちでしょうか?
――生かしたまま黒判定を出す方法は無い。
かつての0号とチェリーの会話から、進化の因子を持った生物を殺す範囲技みたいなのがあるのは薄々気づいてたけど。
あの腹部からのフラッシュがそれだとは思いも寄らなかった。
あたしには眩しいだけで全くダメージが無かったしな。
だがあの「王の威光」と呼ばれた技は、あたしへの目眩しであると同時に、チェリーには直接ダメージを与える範囲技だったんだ。
たぶん、普通の感染者があの光を浴びたら即死するんだろう。
チェリーがこの程度で済んでいるのは、自前で浄化の力を持っているからか。
その理屈で考えると、あたしも進化の因子自体は持ってるはずだから多少はダメージを受けてもおかしくないんだが、多分桜色の結晶体かヤタガラスに何かあるんだろうな。
あとチェリーの場合は球体バリアでダメージを軽減してるだろうから、その恩恵もあるんだろうけど。
そのうえで、チェリーが背中ばかり焼かれている理由を、あたしは察しちまってた。
こいつ……ドラゴンヘッドが壊されるのを嫌って、「王の威光」の時にはドラゴンヘッドを腹側に抱えて背中で光を受けてやがったんだろうな。
ドラゴンヘッドも元は地球外知性体3号の一部なもんで、「王の威光」で破壊される危険があるからだ。
だから、「王の威光」の直後はチェリーの砲撃も止まっちまってたんだ。
少しでも、0号に対する勝ち筋を残そうとしたってのか。
……ったくよ。
自己犠牲は美しくないんじゃなかったのかよ。
お前だって無理してんじゃねぇか。
泣き叫んでもおかしくないような深手を負ってるくせに、なんでそんな鉄面皮を貫けるんだよ。
「予定変更だ。こいつを使ってくれ。頼む」
あたしは、ガワだけの親友のポケベルを懐から取り出して、その中に収納されていた銀色の鍵を取り出した。
いつものリミット解除とは違う……正真正銘の最後の安全装置だった。
あとがき
実は初期プランだと、この廃遊園地にポケベルを握りしめたままの白骨死体がある予定でした。
しかし母親の死から立ち直った後にそれをやっても、くどいかなぁ……と思って没イベントに。