キュアチェリーのキャラ解釈を補強する百木テツヤ少年。
掴みどころのない微笑美少女キャラを固める。
変身すると別人みたいになるのは大先生の
町中に避難警報が出ている最中、僕は人知れずキュアチェリーへと変身して現場へ駆けつけた。
スカートが風に靡く感覚は慣れないけど、下半身はドロワ仕様なので安心だ。
現場に踏み込んだ僕を待ち構えていたのは、火の海の中で悠然と低空飛行している真っ赤なドラゴンだった。
ヘビみたいに細長い東洋龍風のシルエットで、全長は5メートルぐらいありそうだ。
僕はとっさに物陰に隠れて、巨大ドラゴンの様子を観察した。
巨大ドラゴンは、断続的に炎を吐きながら地上1メートルぐらいの高さを飛行している様子だ。
幸いにも、まだこっちには気づいていないみたい。
先制攻撃を叩きこみたいところだけど、あの細長い身体に対してこの間みたいな飛び蹴りをしても、直撃は難しそうだ。
近接打撃以外に手札なんてあったか?
……と思ったが、一つだけ心当たりがあった。
僕は相変わらず物陰に潜みながら、機会を見極めた。
狙い目は、巨大ドラゴンが炎を吐く瞬間だ。
「チェリー・シェード」
小声で呟きながら僕はドラゴンの頭の周囲に球状のバリアを展開してやった。
直系1メートル程度のバリアに頭部を包まれた状態で、ドラゴンが炎を吐いてしまったら何が起こるか。
自分自身の炎に焼かれ、ドラゴンは苦しみのたうち回った。
この間は直系3メートルぐらいあったはずなんだけど、僕の本体から離れると限界半径が狭くなるみたいだ。
もっとも、今回の場合は狭くても全然問題ない。
ドラゴンが抵抗して暴れ回ったせいで球状バリアが破れそうになったけど、なんとか気合でバリアを維持して。
数分後には頭部を蒸し焼きにされたドラゴンは虫の息だった。
そして更に幸運なことに、僕は既にコイツの心臓部がどこにあるか見つけていた。
火を噴くときに、喉の奥に紫色の球体部が見えたんだ。
「ハート……キャッチ!!」(物理)
ぐったりして動かないドラゴンに忍び寄って恐る恐る両手を大口に突っ込んだ僕は、掛け声とともに紫色の球体を引っこ抜いた。
今回は思ったよりあっさり抜けてしまった。
直系30センチ程度の心臓部を抱きしめて、ピンク色の謎エナジーを送り込んでやると、球体は次第に人体へと姿を変えていった。
中年の女性が出てきたけど、前回と比べて共通点らしいものは見えてこない。
特に怪物になる基準が分からないんだ。
もしかしたら、基準なんて無いのかもしれないけど。
ドラゴンが暴れた余波で火の海が解消されたのは不幸中の幸いなのかな。
ともかく意識のない中年女性を適当な道端に安置した僕は無事に勝利の凱旋を果たした。
「そこの女! 止まれ!!」
凱旋を果たしたかったんだけど……。
立ち去ろうとした僕に駆け寄ってきたのは、この間の黒ずくめのパワードスーツの人物だった。
しかも、一般的な拳銃よりも大きい黒銃をこっちに向けている。
かなり警戒されているみたいだ。
一応、僕の傍らには民間人としか言えない中年女性が倒れているので、パワードスーツさんも誤射を恐れて引き金は引けないと思いたい。(希望的観測)
この間は分からなかったけど、声から察するに中身は女性だろう。
顔が完全に隠れているので年齢はハッキリとは言えないけど、成人はしていないような気がした。
しかし、改めてパワードスーツの全体像を見てみると、中々にカッコイイじゃないか……?
バイク用のライダースーツみたいなものをベースに体中に装甲を盛るスタイルで、無骨さと未来感が絶妙なバランスで同居しているというか。
キュアチェリーのビジュアルに文句がある訳じゃないけど、あっちの方も心惹かれるデザインだ。
そんなロマンを感じさせるパワードスーツさんが僕を敵視しているのは……悲しいよ。
ポーカーフェイスで物憂げな微笑だけは絶対に死守するけどさ。キャラ的に。
「お前は……何者だ?」
こちらに銃口を向けて、張り詰めた雰囲気のままに問いが投げかけられた。
都合が良いというか、期待通りというか。
僕は二つのポイントを意識しつつ、名乗りを上げた。
「たとえ人々の心が枯れ果てようとも……」
意識したうちの一つは、「溜め」だ。
少しゆっくり目に喋るのと、台詞の区切りを意識すること。
ヒーローの名乗り口上は突然言われると聞き返したくなるような文言が多いからだ。
「
そしてもう一つは、適度にカメラから視線を外してやることだ。
この場合はカメラっていうか相手の目だけど、意識すべき点は変わらない。
そうすることで、次に目が合ったときの印象を強くしやすくなるんだ。
「夢の使者、キュアチェリー。とくと御覧あれ!」
マナちゃんが熱く語ってくれた理想像を体現した存在として、僕は渾身の名乗り口上を言い切った。
あの熱量で語られるほどのパーフェクト美少女を演じるからには、顔に一抹でも不安があったらダメだ。
決め顔の最後に流し目でパワードスーツさんを観察してみた。
……呆気にとられているというか、困惑しているみたい。
「それで、目撃情報にあったドラゴン……地球外知性体3号って名づけられた奴から出てきたのが、そこに倒れている民間人なのか?」
「ええ。先日の方と同様ですよ。……3号?」
あのクワガタやドラゴンって、やっぱり地球外知性体って呼ばれてるのか。
地球人が変身しているんだから、その呼び名はおかしい気がするんだけど、正体が判明する前に名づけられてそのままになっているのかもしれない。
もしくは、怪物にされていた人々が社会復帰しやすいように、あえて実態と異なる通称を用いているのかな?
それにしても、3号?
この間のクワガタが1号か2号だとしても、僕の知らない欠番がいるんだろうか。
「1号はこの間のクワガタムシだ。2号は、なんつーか、言い難いんだけどなぁ……」
ここでパワードスーツの女性は少しだけ言い淀んだ。
僕は冷静に、大体の事情を察した。
パワードスーツさん、見た目が黒ずくめで怪しいから、地球外知性体の2号にカテゴライズされちゃったんだね。
可哀そうに……。
不憫すぎて涙が瞳ににじんできた気がする。
「そんなふうに呼ばれてしまうなんて、心中お察しいたします。悲しいですよね……」
「可哀そうなものを見る目をやめろ!? 2号はあたしじゃねーよ! お前だよ、お前!!」
僕が……地球外知性体2号??
嘘だ、僕を騙そうとしている……!*1
儚げな微笑を崩さなかった自分自身を賞賛したいぐらいだった。
とりあえず小首を少しだけ傾げておくか。
「
何をバカなことを。
透き通るように可憐なパーフェクト美少女であるキュアチェリー様に対してその呼称は、目が腐っているとしか思えない。
自画自賛という言葉が理性の片隅に聞こえた気がしたけど、画を描いたのは僕じゃないからセーフ。
当たり前だけど僕はブーメランを投げて自滅するような間抜けではない。
「その質問を返せるってことは、あたしをクワガタムシやドラゴンの同類として見てるってことじゃねーか!? チョヅイてんじゃねーぞ、ケンカ売ってんなら買うぞこのカマトト女!!」
ちょづ……?
なんか、ちょくちょく良く分からない単語が混じってくる感じだ。
昭和語みたいな……?
あと、ブーメランが返ってきたような気がしたけど多分気のせいだ。
パーフェクト美少女のキュアチェリーは簡単にレスバに負けたりしない。
面の皮は意地でも死守するぞ。
鉄面皮ともいう。
「ふふ……。だって、どれも男の子が好きそうだったものですから」
男の子ってそういうの好きでしょ?(体験談)
実際クワガタもドラゴンもパワードスーツも好きなんだよ。
敵として出てこなければさ……。
今度は口元に長手袋装備の指をあてながら、嫌味にならない程度に微笑んでみせた。
加減を間違えると煽っていると思われかねない綱渡りだけど、まぁ何とかなるでしょ。
口には出さないけど、こういうのは顔が良ければ許されるんだ。
「まぁ、それは良い」
パワードスーツさんはイラつきを一応収めたみたいだけど、僕に向けっぱなしの銃口はそのままなんだよなぁ。
アイスブレイクが足りないのか。
一緒にお茶でも飲む?
フルフェイスのパワードスーツで飲める気がしないし、口には出さないけど。
というか全身装備のパワードスーツさんがキュアチェリーと一緒にお茶飲んでるって想像したら割とシュールかもしれない。
「20年前の事件で何が起こったのか……知ってることを全部吐いてもらう」
なに……?
20年前、と言われましても??
そもそも小学5年生の僕が生まれる大分前の話だぞソレは。
本当に全く心当たりが無いネタを唐突に振られて、本気で困惑している。
ミステリアスな美少女の微笑だけは意地でも維持するけど!
「答えられねぇ……ってか?」
知らないものは答えられないんだ……。
悔しいだろうが仕方ないんだ。
心なしか、黒銃を握る手に力が籠った気がする!
こっちには疑似的な人質の民間人が居るから銃弾は飛んでこないと思うけどさ。
焦ったり慌てたりするのはキュアチェリーのキャラじゃない気がするから、出来るだけ落ち着いた口調で知らないって答えとこう。
「恥ずかしながら、存じておりません。何せ
どうなのコレ。
一応キュアチェリーの外見は中学生ぐらいの女子だから、20年前を知らないのは不思議じゃない。
ただ変身系魔法少女の文脈で考えると、とんでもない年齢詐称のケースも有り得る。
僕の年齢的に20年前を知らないのは本当なんだけど、相手が素直に信じてくれている雰囲気じゃない気がする。
「……そうかよ。知らないことを証明は出来ねぇってのは道理だし、あたしも魔女裁判を始めるほど野蛮じゃぁ無いつもりだ」
あ、絶対に納得してない人の言い方だ……。
というか、20年前の事件ってこの人何歳だよ。
せめて顔ぐらい見えればなぁ。
さっき僕の勘が未成年って判断した気がするんだけど、やっぱり気のせいだったのかもしれない。
「だがな、お前は怪しすぎる。地球外知性体と化した人間を元に戻すなんて人智を超越した能力を持った人物が、こうも都合よく現場に居合わせるなんてことがあるか? 何者かの作為を疑いたくもなるってモンだろ」
文脈から察するに、20年前にも地球外知性体が出たみたいな感じだ。
そして当時は地球外知性体の心臓部を人間に戻す術がなくて、その末路は悲惨だったみたいな流れか?
その流れで考えると、脅威の再来に備えて特撮ヒーロー番組の地球防衛組織的な文脈でパワードスーツが開発されていたみたいな経緯がありそうかも?
でも、だったら先週の巨大クワガタが1号なのはおかしい気もする。
それに、パワードスーツさんの指摘もその通りなんだよな。
プリキュアの第1話なんかの流れだと、故郷を滅ぼされた落ち武者妖精が地球人に力を分け与えるところから話が始まることが多い。
なんだけど、僕の場合はその手の妖精役が居なくて、本当に力が「無から生えてきた」としか言えない感じなんだ。
その能力が地球外知性体1号の出現と同時期に発現したとなれば、何者かの作為を疑いたくもなる。
ましてや、僕の転入初日に始まった事件な訳だし。
「そのような御仁がいらっしゃるなら、ぜひ
まぁそんな存在は居ないと考えても、それほどおかしい訳じゃないけど。
例えば、実は1週間以上前から能力自体はあったけど僕自身が気付かなかったっていう線もゼロではないんだ。
能力の素養自体は昔から持っていて、それが緊急事態に際して発現したみたいなパターンだ。
その場合でも僕の年齢から考えたら20年前の事件ってヤツとのリンクは限りなく薄い気はするけど、その事件の全容を知らないのが痛い。
結構大規模な事件っぽいから、近所で聞き込みでもすればある程度情報は集まりそうではあるのが救いか。
「チッ……。限りなく黒に近いが、辛うじてグレーだな。行けよ」
「少々意外ですね。
客観的にキュアチェリーが怪しいのは分かるし、力尽くで制圧されるかと思ったけど。
パワードスーツさんは黒銃を降ろしてくれた。
挑発的に見られないように気をつけながら、微笑をキープしつつ僕は相手の真意を探った。
「……この間の地球外知性体1号の時には命を救われたからな。それにお前が3号を撃破したのも事実だ。その分を加味しての保留判断だ」
「御心遣い、痛み入ります。ごきげんよう」
僕は、眩いばかりの桜吹雪を目くらましにして戦場を離脱した。
口調は荒々しかったけど、思ったより理性的な人で良かった……。
これは、戦場を離脱してから気付いたんだけど。
僕の方からも少しぐらい質問すればよかった……。
パワードスーツの人の名前すら知らないじゃん、僕……。