魔法少女さん、尋問されるも微笑ではぐらかすことに成功。
その姿はまるで、アクションが出来るかオーディションで聞かれた時に微笑で誤魔化した強者小林豊のようであった。(微笑万能説)
なお、そのせいで勘違い連鎖が始まる模様。
20年前、あたしらの街は火の海に包まれた。
あたしの友達も何人も死んだし、当時中学生だったあたし自身も致命傷を負ったはずだった。
命が消える感覚は一生味わいたくないし、思い出したくもないもんだな。
だけど……あたしは生き延びた。
あたしが再び目を覚ましたのは、何年も後のことだった
生家の地下室を改造して作られたラボで、あたしの目覚めを喜んでくれた母さんの顔は、18年分老け込んじまってた。
脳以外の全てを機械の身体に置き換えられ、それでもあたしは生還したんだ。
科学者だった母さんが、あたしを延命したそうだ。
元々天才的な頭脳を持つ科学者だった母さんだけど、それだけじゃぁ全身改造型のサイボーグなんて作れる訳も無かった。
あの20年前の惨劇――「夜明けの大火」の際に漆黒の異形を退けた存在を確保して、その力を借りたんだ。
ラボの片隅には、全高1メートル半ぐらいの機械仕掛けのカラスが今も佇んでいる。
その中のブラックボックスを解析して、母さんはあたしを生まれ変わらせるだけの技術を手に入れたらしい。
本当はもっと大手のところで研究されるべき存在なんだろうけど、諸外国から存在を隠蔽する意味もあって、政府に伝手があった母さんのラボに秘密裏に預けられたそうだ。
それに伴って、あの災厄を引き起こした漆黒の異形に関する公式記録も抹消されて、地球外知性体って単語だけが関係者の記憶に残ることになったっつーわけ。
「お前は、一体何者なんだろうな……?」
あたしが近づいて、鉄の拳でコツコツと翼を叩いてみるも、機械仕掛けのカラスは何も言ってくれなった。
20年前の「夜明けの大火」の後から、一度も起動していないらしい。
ブラックボックスの中身が全部解明できれば疑問も解消されるかもしれないけど、現状半分も終わっていないみたいだ。
脚が3本あったことから、神話になぞらえてヤタガラスなんて暗号名で呼ばれているが、あたしらはコイツの本当の名前すら知らない。
一応、動力部にある桜色の結晶体は淡い発光を継続していて、休眠状態とはいえ完全に活動停止している訳じゃないらしい。
死んだように全く動かないくせに、細かい傷を付けても時間が経つと治ってしまうみたいだ。
まるで生物みたいだが、どんな技術なのか母さんですら解析が追い付いていないんだとか。
あたしのサイボーグボディの動力にも桜色の結晶体は使われているんだけど、地球人にとってオーバーテクノロジーすぎる代物だから制御も安定しない。
この間の地球外知性体1号との戦いのときも、あたしが動力リミットを解除する荒業を使っちまったせいもあって、生命維持すら怪しい危険域までいったんだよなぁ……。
そんで、そんな絶体絶命の時に現れたのが……地球外知性体2号だった。
後にキュアチェリーと名乗ることになるソイツは、何もかもが規格外な存在だった。
怪物の心臓部を浄化して人間に戻す力も大概だが、キュアチェリーはその後にあたしのサイボーグボディに手を当てて、たぶん桜色の結晶体に干渉したんだ。
お陰で生命維持装置も復旧し、あたしはギリギリのところで生き延びることが出来た。
「ヤタガラス。お前とキュアチェリーは、一体どんな関係があるんだ?」
返事が得られないのは百も承知のうえでの、独り言だった。
夜明けの大火の直後からヤタガラスは母さんのラボに預けられていたと聞くし、ヤタガラスに由来する技術を他の組織が持っているとは考えづらい。
だけど、桜色の結晶体に干渉することが出来たキュアチェリーは、ヤタガラスに何かしらの因縁を持っているとしか思えねーんだよな。
警察に引き渡した1号や3号の素体被疑者たちは怪物化に関して何も覚えていなかったらしいし、あたしらが情報を得る足がかりとしての最有力候補はキュアチェリーになっちまうんだ。
改めて思い出してみても、イミフな女だったな……。
見た目だけの印象で言ったら、ひたすらに綺麗な女って感じだ。
魔法少女みたいなフリフリの恰好はともかく、なんていうか……色気があるって、あんな感じなんだろうなって思った。
声の通りの良さだったり、流し目だったり、一つ一つの所作に目が誘導されるっつーか。
今の中坊はみんな、あんなマブい女ばっかりなのか……?
いや、そんなバカな。
あたしの学生時代を振り返ってみても、おっとりした落ち着きのある女ぐらいなら居たけど、あのレベルのゲキマブはお目にかかれなかったぞ。
外見は中学生ぐらいだったけど、実年齢は読みづらい女だったように思う。
20年前の夜明けの大火の関係者ならどんなに若くてもアラフォーではあるはずだ。
あたし自身の直感としても、実年齢は見た目以上のような気はしている。
黒銃を向けられても物怖じせずに、のらりくらりと惚けてみせるあの鉄面皮は、海千山千の老獪な妖怪婆と言いたくなる胆力だった。
でも同時に、世の中の汚い事なんか何も知らない箱入り娘みたいな雰囲気もしたんだよな……。
考えれば考えるほどドツボに嵌ってく感じがするわ。
マジで何なんだよ、あの女。
やっぱり力尽くでも尋問するべきだったか?
けど、そもそもあたしはキュアチェリーに勝てるのか……?
あたしが大分ダメージを与えた後とはいえ、地球外知性体1号と戦っていた時のキュアチェリーはその細腕からは考えられない腕力で戦ってたよな。
しかも、あたしのサイボーグボディの中枢である桜色の結晶体に干渉する能力まで持ってるときたもんだ。
絶望的に相性も悪いよなぁ、やっぱり。
それに、地球外知性体に変貌した人間を元に戻す手段を握っているのが現状キュアチェリーだけである以上、万が一にも奴を殺してしまったら救えない命が幾つも出てくるだろう。
つまり事実上あたしらにはキュアチェリーを殺すという選択肢が存在しないんだ。
金の卵を産む鶏を殺せないのと一緒だ。
ハナから殺す気で戦うなら話は別だけど、生け捕りオンリーでキュアチェリーと戦うとなると、まぁ絶望的としか言えんわな。
まだ奴が力の底を見せていないのも厳しいトコだし。
母さん経由で政府の人らの要望を聞く限りでも、キュアチェリーに関しては慎重に現場対応を行えって声が強いみたいだ。
こういう時ってアホな偉い人が強硬策をガンガン出してくるみたいなイメージあったんだけど、意外とそうでも無いんだな。
まぁそういうのは回ってきても母さんのトコで握り潰してるのかもしれねーけど。
答えの出ない考えに浸っていたあたしを現実に引き戻したのは……警察組織からの通信だった。
母さんが政府に伝手を持っていることもあって、警察組織からは情報を回してもらえるんだ。
気になる内容は……新たな地球外知性体の可能性のある怪物が現れた、と。
バイクを駆ってあたしが現場に辿り着いたとき、既にチェリーは新手の地球外知性体と交戦していた。
今度のは……全高2メートルぐらいの灰色の狼だ。
小学校の校庭を広く使って、命がけの鬼ごっこを繰り広げてやがるな。
『マコト、聞こえるかしら? 今、その怪物は地球外知性体4号と名づけられたわ』
「了解。現場判断で対象撃破と要救の対処を行う」
あたしのメインカメラから共有された映像を見ていた母さんから、通信が入った。
母さんは大まかな指示は出すけど、基本的には現場判断を優先してくれる。
地球外知性体1号と戦うときのリミット解除も、渋ったけど認めてくれたしな。
まぁそのせいでガチ目に死にそうになった訳なんだけどな……。
ともかくバイクに備え付けたサイドカーから黒銃を取り出して、あたしは灰色狼に接近しながら銃撃をかました。
遠距離から攻撃できるのが銃器の利点ではあるけど、なるべく近くから当てた方が威力は上がるからな。
なんだけど……多少怯む程度で、巨大狼を斃せる気配は無いな。
爪や牙による攻撃を回避しながら、丈夫なコイツを斃す術を考えた。
地球外知性体1号を相手にしたときは、リミット解除からの脳筋パンチ連打で戦ったけど斃しきれなかったんだよな。
しかもそれで自分自身が死にかけてちゃ世話はねーよ。
それにしても……チェリーの奴は、ひらりひらりと体重なんて無いみたいな動きで回避してやがるな。
あたしは回避行動ひとつとっても鋼のスプリングと関節をきしませて、100キロ近い身体を必死に動かしてるってのによ。
ヤタガラス由来の力を使っているなら、あいつもサイボーグであって然るべきな気はするんだけど、あたしの目にはそうは見えねーんだ。
筋力や瞬発力は人間のそれじゃないんだけど、全体を通してみると生物として自然な形に見えるっつーか……流れるような美しさがあるというか。
あたしがサイボーグボディをどんなに使い込んでもあそこまで自然に動けないだろーなって感じの動きなんだわ。
攻めあぐねながら回避行動をとっているあたしに……キュアチェリーの奴は何か共有しておきたい情報があるみたいだな。
鈴の音みたいな声とともに、チェリーの奴は口を開いた。
「お姉さん。実は校舎の中に逃げ遅れた子供たちが居まして……」
「そいつは厄介だな。情報提供に感謝する」
よく見たら、校舎の1階に一つだけカーテンが閉じられた部屋があるな。
頭部カメラの焦点を合わせてみたら、カーテンの隙間から最低4人以上のガキがこっちの様子を見てんじゃねーか。
まぁ実際、こういう時って外に走ったほうが良いのか立てこもったほうが良いのか判断できねぇよな。
立てこもるのも間違いとは言えねぇ。
だが……今回はそれが悪い方に傾いた。
巨大狼が灰色の尾をフルスイングして、停車してあったあたしのバイクを弾き飛ばしたんだ。
特殊装甲やらサイボーグ用追加装備やらを盛り込んで1トン近くなってしまっている特殊バイクが、猛スピードで校舎へとたたきつけられた。
校舎が倒壊しようとしている、って分かった。