前回のおさらい
あかつき号事件 → 夜明けの大火
オーパーツorオーヴァーロード? → ヤタガラス
氷川誠+葦原涼+木野薫 → 木原マコト
氷川さんの節穴アイと葦原さんの不幸体質と木野さんのサバイバーズギルトを盛り込まれてしまったサイボーグさん……。
4号の攻撃の余波で、ガキどもが立てこもってる校舎が倒壊しようとしてる。
その一瞬に、いけ好かねー女のピンクの瞳がこっちを見た。
自分でも説明できない感覚だったけど、あたしは……とっさに黒銃で地球外知性体4号の注意をひきつけた。
そして、校舎が轟音を立てながら崩れ落ちる前の刹那、あの女が躊躇無くガキどもの隠れ場所へと突入したのが見えた。
重いものが落下する音に、ガラスなんかが砕ける甲高い音が混じって不協和音みたいだった。
3階立ての校舎の瓦礫に押しつぶされたら人体なんて一溜まりもないハズだけど、瓦礫の隙間からピンクの光が見えた。
たぶん、3号をハメ殺すときに使った球状のバリアを展開してガキどもを守ったんだろう。
でも、ピンクの光は瓦礫の下から動く気配が無いな。
もしかしてアイツ……展開後のバリアを動かせないのか?
ガキどもを守ったまでは良いが、バリアを解除できないのか。
襲ってくる4号の爪を、鋼の身体を軋ませて回避しながら。
あたしは、状況の悪さを噛み締めた。
「母さん、リミット解除だ。例の新兵器を使うには、今のままじゃ出力が足りねぇ」
『…………現場の判断を、尊重します』
「大丈夫。母さんの創ってくれたこの身体は、人類最強だ」
心配かけて悪いな、母さん。
でも、チェリーが居ないまま戦闘を続けても活動限界の問題が出てくるから、決断は早いほうが良いんだ。
あたしは、装甲バイクのサイドカーから放り出されていた新兵器を左腕に接続した。
それは……地球外知性体3号の残骸を改造して作られた、龍の頭のままの形状の粒子砲だった。
「リミット解除!」
桜色の結晶体を核に作られたエンジンが、あたしの背面部で唸りをあげた。
身体中の漆黒の外装の隙間から桜色の光が漏れ出して、身体全体の温度が急上昇しているのがモニタで確認できた。
人間が触ったら一溜まりもないようなエネルギーを、左腕のドラゴンヘッドに収束させて……。
「ファイアっ!!」
直後、頭部カメラがホワイトアウトした。
踵で地面を削って砲撃の反動を耐えることが出来たのは一瞬のことで、その後は身体ごとひっくり返っちまったんだ。
だが……効果は、バツグンだった。
復旧したあたしの視界の中で、4号はその腹から下を失って横倒しになっちまってる。
そんでもって……あたしの狙いは、もう一つ。
砲撃の射線は、チェリーの球状バリアの上を掠めるように狙ってあったんだ。
邪魔な瓦礫が吹き飛ばされたおかげで、4人のガキどもを両手で抱き抱えながらチェリーがその姿を現した。
ガキどもが助かってよかった、と思った。
でも、それと同じぐらいにあたしは、羨ましいと思っちまってた。
その綺麗で真っ直ぐな佇まいもそうだけど、あたしの赤熱した両腕じゃぁ、ガキどもを抱き上げるなんて無理だからだ。
大火傷をさせるのが目に見えてるし、もしあたしの内部の機械部品でも見えたら怯えさせるだけだ。
ガキどもを逃がしてやったチェリーは、ボロボロのあたしを一瞥して地球外知性体4号へと駆け寄った。
残った前足だけで移動しようとしていた巨大狼だったが、下半身を失ったそいつに機動力なんてものは残っていない。
それに、ぐちゃぐちゃに絡まった電気コードの中に紫色の心臓部が見えた。
チェリーの奴は一目散に4号へ肉薄して、長手袋に覆われた両手を患部へと突っ込んだ。
「ハート……キャッチ!!」
長手袋に覆われた指が、紫の心臓部を確保したのが見えた。
直系30センチほどの球体を、あの女が抱きかかえてやると、見る間に球体は人間の姿へと戻っていった。
相変わらずデタラメっつーか、理不尽っつーか。
律儀に物理法則に従ってるのがバカらしく思えてくるわ。
こっちは指一本動かすのですらリハビリの成果だってのにな。
気絶している元灰色狼の人間を適当な場所に安置したキュアチェリーは、あたしの方へと歩み寄ってきた。
いけ好かねー女だが、あたしの心配はしてくれてるみたいだな。
実はさっきリミット解除したから、生命維持装置が不安定なんだ。
この間みたいに桜色の結晶体に干渉して上手いことあたしを助けてくれ。
けど、あたしの近くまで来たキュアチェリーは、歩みを一瞬だけ止めて視線を泳がせた。
そこで初めて、あたしはサイボーグボディのダメージが思った以上に深刻なことに気付いた。
砲撃用ドラゴンヘッドに接続していた左腕は強化外装もボロボロで、スキンも剥がれて人工筋肉が見えてしまっていた。
よく見たら下腹も、巨大狼の折れた爪が突き刺さったせいで中身が漏れちまってる。
さすがに背骨相当のフレームまでは逝ってないけど、緑の基盤やら細かいネジやらがズタズタに散乱しちまってるな……。
道理で動けないと思ったわ。
チェリーの奴は相変わらずの微笑を崩さなかったけど、あたしにかける言葉を選んでいるみたいだった。
もしかして驚いてるのかとも思ったが、コイツはその程度で驚くタマじゃないだろうな。
「哀れみの言葉は要らねーよ。でも同情するなら金をくれ……じゃなくて、この間みたいに背中のエンジンを調整してくれ」
昭和生まれのジョークは、何となく通じる気はしたんだよな。
20年前の夜明けの大火を知っている人間なら多分年上だろうし。
なんだけど、チェリーはあたしの軽口をスルーして歩み寄って来て……正面から、あたしを抱きしめた。
頭同士がすれ違うような構図のハグのせいで、あたしの頭部カメラからはキュアチェリーの顔が見えなくなっちまった。
「おい……火傷しちまうぞ」
リミット解除の余熱が散っていないあたしの身体は、人間が触ったらタダじゃ済まない危険物のはずだ。
それを、チェリーの奴は正面から抱きしめたまま動かなかった。
少し待っていると、あたしの背中側のエンジンが安定稼働し始めたのが分かった。
たぶん、あたしを抱きしめたままのチェリーが手を伸ばして桜色の結晶体に干渉したんだろう。
「世の花は、みな太陽の子らです。陽気に焼かれるような軟な咲き方はしておりません」
ああん? どういうことだ……?
お前は強い花だから、あたしに触っても平気……ってことか?
何となく言いたい事は分かるが、一瞬理解が遅れる妙な言い回しを使いやがって。
チェリー語とでも言いたくなる独特の言葉遣いだな。
そのまま……チェリーは動けないあたしを抱きしめ続けた。
でも多分、あたしが身体の中身を見られたくないのを察していたんだと思う。
逃げ遅れた人達の目に、あたしの中身が晒されないように気をつかってくれたんだろう。たぶん。
何も、チェリーは聞いてこなかった。
きっと、こっちの事情も全部察してるから聞きたい事なんて無いんだろうな。
太陽に関する言い回しも、ヤタガラスの暗喩にしか聞こえねぇ。*1
暗に、あたしのサイボーグボディがヤタガラスに由来するテクノロジーの産物だと知ってるって言いたいんだろう。
こっちは、お前に聞きたい事が山積みだってのによ。
「なぁ。一般人としか言えない奴らが地球外知性体になっちまうのは、なんでなんだ」
「
言えないってか。
そんな何でも知ってるような顔して、慈愛の化身みたいな態度をとってるくせに。
ちっぽけで哀れな人間どもには何も教えてくれないのかよ。
「お前、そればっかりじゃねぇか。お前が知らなきゃ誰が知ってるってんだよ」
「……お天道様なら、全てお見通しかもしれませんね」
はぐらかしの定型句みたいな事をぬかしやがって。
段々腹が立ってきたぞ。
こっちが動けないと思ってチョヅいてんじゃねーぞ。
……と思ったが、お天道様ってのもヤタガラスの暗喩か?
解析が済んでいないヤタガラスのブラックボックスの中に、答えがあるって言いたいのか?
その中身まで知ってるっていうのかよ。どんだけだ。
それを全部知ったうえで、はぐらかす理由があるとすれば……それは、あたしの戦力不足か?
1号や4号に苦戦するような雑魚じゃぁ、情報を知って黒幕の元に行っても犬死するだけだからって話かよ。
「そいつを、今のあたしが掴んだらどうなる」
「火傷では済まないでしょう。挑戦は美徳ですけれども、物事には適切な準備というものもありますから」
……本当に、気に食わねぇな。
見下しやがって。
お前は正しいのかもしれんけど、気に食わねぇ。
あたしの嫌いなタイプの女だ。
天と地ほどの実力差があるのは認めるけどな。
やがて警察の協力者たちが来て、あたしは回収されることになった。
ボロボロのあたしを引き渡して、立ち去ろうとしたチェリーは……一度は背中を向けたものの、何かに気づいたように再びあたしの方に目を向けた。
相変わらずのいけ好かない微笑のままに、チェリーは涼やかな口調で言い放った。
「……あの。念のために口にしておきますけれど、『お天道様』は物の例えです。本当に宇宙に行ったりしないでくださいね?」
「てめぇっ!? ンなこと分かってんだよ!? ぜってー、いつかブッ殺してやる!! 絶対にだ!!」
どんだけあたしの事をバカにしてんだ!?
そのすまし顔、いつか絶対ぶん殴ってやる!!
人をブチ切れさせる天才かよ!?
結局、渾身の叫び声も虚しく、動けないあたしは警察車両に積み込まれて搬送された……。
ちくしょう。ちくしょー……。
首を洗って待ってやがれよ……!
魔法少女さん(お姉さんの中から機械が見えてる……? なんかカッコイイ……!)
無意識のうちにショタの性癖を開発してあげるお姉さんが出てくるので、おねショタです。(迫真)
なお、話が進むごとにメカバレ性癖を拗らせていく模様。