順調にパワーアップするサイボーグさん。
でもマイペースな魔法少女さんには振り回されっぱなし。
いつの間にか彼女面して当然のようにサイドカーに乗り込んでくる系の魔法少女さんに一矢報いる日は果たして来るのか……?
放課後の教室で、また僕は物思いに耽っていた。
なんと先日、ついにサイボーグさんのバイクに乗せてもらっちゃったんだ。
サイボーグさんの装甲と同じ黒くてゴツいバイクで、前からカッコいいって思ってたんだよ。
広い採石場を目一杯使ってのカーチェイスは正直心が躍った。
――なんかお前、ちょち楽しそうじゃねーか?
キャラ的に余裕たっぷりの微笑は崩しちゃいけないと思いつつ、ちょっとサイボーグさんにはバレてたっぽい。
テンションが上がり過ぎて、少しだけキャラが崩れていたかもしれない。
でもサイボーグさんがキュアチェリーのことを丁寧に観察してくれてるんだって分かった。
さてはサイボーグさんの方も、口調は荒々しいけど実は結構キュアチェリーのこと好きだったりして?
そうだったら……嬉しいな。
まぁでも、プリキュア的にはあんまり銃は使わない方が良い気もする。
トリガーが付いていたりして実質銃器な販促武器って本家プリキュアにも結構あるけど、あんまり銃に見えない演出がされていることが多い気がするし。
ドラゴン頭のビーム砲を拝借するのがギリギリの線で、黒銃を借りるのは良くなかったかもって後から思ったんだ。
それと……何だかサイボーグさんが少し力強く感じたんだよね。
背中のエンジンが割と高い水準で安定するようになった気配がするんだよ。
なんでそんなのを感じ取れるんだって話になると、僕自身でも全く説明できないんだけどさ。
ちょっと前まではリミット解除した後にボロボロになってたのに、今後はそんな機会も減っていくのかな。
――哀れみの言葉は要らねーよ。でも同情するなら金をくれ……じゃなくて、この間みたいに背中のエンジンを調整してくれ。
4号と戦った時に左手と腹部の中身が見えてしまっていたサイボーグさんの姿を思い出すと、今でもドキドキしてくるけど。
サイボーグさんのスペックが上がるにつれて、あれも見られなくなっていくのかも。
……ちょっと、寂しいな。
もちろん、サイボーグさんが傷つかなくて済むのは良い事だと思うんだ。
傷ついて欲しいなんて、冗談でも言っちゃいけない事だと思う。
――20年前の事件で何が起こったのか……知ってることを全部吐いてもらう。
僕なりに20年前の事件ってやつを調べた感じ、謎の怪物が現れて死者や行方不明者が沢山出たぐらいの事しか分からなかったけどさ。
あのサイボーグさんの身体を見たら、辛くて苦しいことがあったのは分かる。
サイボーグさんがパワーアップしたお陰で、傷つく危険が減るのは……良い事なんだ。
そう、自分に言い聞かせるたびに。
何だか心の奥が苦しくなったような気がした。
自然と、溜息が出た。
僕のアンニュイな心境を察してくれるはずもなく、翌週には新たな地球外知性体が現れた。
変身して駆け付けた僕が目にしたのは、なんと今回も5号と同じカブトムシだった。
なんか特撮の流用怪獣みたいな……。
ただ5号と違うのは、かなり高いところをゆっくり飛んでいることだ。
たぶん地上30メートル以上だぞ、アレは。
そして、10センチぐらいの子機カブトムシを少しずつ生み出しているみたいだ。*1
子機は機動力こそ無いみたいだけど、その正体は小型の爆弾らしくて、7号がゆっくりと上空を通過した経路が火の海になってしまっている。
どうしようか。
キュアチェリーに、地上30メートルまで届く遠距離攻撃なんて無いぞ。
球体バリアは、ちょっと面倒な仕様があって足場には出来ないし……。
「お姉さん、攻撃手段はお持ちでしょうか?」
「こっちのブレインの試算じゃぁ、ドラゴンヘッドでも無理だ」
駆け付けたサイボーグさんと一緒に、作戦タイムだ。
でもダメかも……。
ドラゴン頭のビーム砲はキュアチェリーが使った方が高威力だけど、それで再計算しても無理そうだってさ。
というかサイボーグさん、警察に顔が利く人だとは知ってたけど、オペレーターみたいな組織的なバックアップ体制があるのか。
本当に、特撮の地球防衛組織みたいだ。
警察に協力してもらえるなら、ヘリコプターか何か出してもらう……?
でも、小型の機雷カブトムシに集られたら厳しいかも。
僕やサイボーグさんなら1発や2発でダウンしたりしない威力の爆弾だけど、多分ヘリコプターだと近づく前に墜とされる。
「……手段が一つだけ、あるにはある」
おお!
秘密兵器だね!
こんなこともあろうかと、ってヤツ!
どんなのが出てくるの? ワクワクしてきた!
「あたしのサイボーグボディは、理論上はヤタガラスと合体できるように設計されてんだ。
肝心のヤタガラスが一度も起動しないモンだから成功率もクソも無いけどな。けど……お前なら、ヤタガラスの起動方法を知ってるんじゃねぇのか」
……ん?
ちょっと、何を言っているか分からないぞ。
パーフェクト美少女の曖昧な微笑で間を持たせながら、サイボーグさんの言っていることを頭の中で整理してみよう。
・防衛組織ではヤタガラスっていうサポートロボが作られていて、お姉さんはそれと合体できる! ←分かる
・ヤタガラスが起動できなくて、お姉さんたちは困っている! ←まぁ分かる
・その起動方法をチェリーなら知っているハズ! ←分からない
どういうことだ???
分からないよ。
お姉さんが何を期待しているのか全然分からないよ。
分からなすぎて何をどう質問したら良いのかすら分からないよ。
ヤタガラスなんて名前自体が初耳だし、防衛組織なんて縁も所縁も無い野性のプリキュアに一体何を求めているんだ。
(美少女の微笑で誤魔化す時間:累計2秒)
ひょっとして、ウルトラマンと防衛隊みたいなノリで、防衛隊の一員が実はキュアチェリーみたいな疑いがかかってる?
でもアレってフィクションだから成り立つんだと思う。
現実的に考えたら、戦闘のたびに行方不明になる職員なんているなら、その人に監視を付ければ良いだけなんだ。
この説は無さそう。
(パーフェクト美少女の儚げな笑顔で誤魔化す時間:累計4秒)
……もしかしてサイボーグさんの背中のエンジンを調整したのと同じ感じで、僕が触って何とかできる可能性を期待されてるのかも?
ヤタガラスっていう新メカは、お姉さんの背中のエンジンに近い何かで作られているってことなのかな?
けど、「触れば起動できるはずだ」じゃなくて「起動方法を知っているなら情報を教えろ」みたいなニュアンスだったように思った。
僕に触って欲しいっていう言い方じゃなかったから、この説もハズレだろう。
(顔の良い女が意地で曖昧な微笑みをキープして誤魔化す時間:累計6秒)
うん、分かんない!
ここは正直に知らないって言おう!
「
「お前っ!? こうしてる間にもどんどん町が焼かれてんだぞ!? この状況でもまだカマトト面を続けるってのか!!?」
サイボーグさんの怒りが伝わって空気がビリビリ震えた。
今にも黒銃に手をかけそうだ。
お姉さん、焦っているみたい?
20年前の事件でたくさん人が死んだみたいだし、その時の事を思い出しているのかも。
普段なら魔女裁判じみたことはしないって言えるぐらい理性的な人なんだけど、ちょっと焦りで頭が回っていないみたいだ。
ここで僕まで焦ったら終わりだ。
キュアチェリーはキャラ的に焦っちゃダメだろっていうのもあるけど、なんとかサイボーグさんにも冷静になってもらわなきゃ。
僕は膝を折って正座スタイルで腰を落とした。
口元の微笑も正して、真面目な顔を作った。
そして……背筋をピンと伸ばしたあとに、目を瞑って三つ指をついてみせた。
「御容赦ください。……力不足を不甲斐なく思う心は、
土下座まですると芝居臭さが出るかなと思って、三つ指ポーズを選んでみた。
……目を瞑ったの、失敗だった気がする。
サイボーグさんの反応が見えないじゃん。
チラっと目を開けて反応を窺ったりしたらギャグになりそうだし、本当に悪手だったかも……。
まさかと思うけど僕、頭に銃を突きつけられてたりとかしないよね??
「…………お前の言葉を全面的に信じるわけじゃねぇ。でもここでキレ散らかして押し問答をするのがみっともねぇことぐらいは、分かってるつもりだ。済まなかったな」
ああ、成功して本当に良かったよ……。
ここで沈黙が続くようだと、本当に目を開けるタイミングが分からなくなっちゃうからね。
僕はゆっくりと身体を起こして、再び立ち上がった。
サイボーグさんの全く表情の読めないフルフェイス装備は相変わらずだったけど、今の声を聞く限りだと少しは冷静さを取り戻したと思って良さそうだ。
「お気遣い、痛み入ります」
じゃあ、作戦会議再開といこうか。