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「天国なんて、つまらない場所だ。」
暗闇とは言わずとも、しかし快晴とは絶対に言えない赤黒い空が、枯れた木々の様に醜い荒れた大地を見下ろしている。
そんな地面の上に建てられた一軒の喫茶店――――――所謂、『地獄屋』の中で、地獄に居る者とは思えぬ綺麗な毛並みを持った少年が、天国なんてつまらないと愚痴を吐き捨てていた。
「ふーん。でも、そうやからって態々こんな地獄まで来たん?」
そんな少年の愚痴を、テーブルに肩肘付いて顔を支えながら聞いているのは、両肩に可愛らしい犬の人形を乗っけた、和風冥土姿の店員。
翡翠の瞳と深紅の瞳を持った、所謂オッドアイを持った少女の言葉に、少年はやや不機嫌そうに、こうに返した。
「そうだよ。何か悪いか、地獄の番犬。」
そんな少年に、少女は悪怯れる事もなく、寧ろその真逆ににやにやとした笑みを浮かべながら、似た様に返した。
「悪いとは言わへんよ、天国の猫さん。」
そう。
少年こそ天国の猫。始まりの楽園、始まりの猫。神が創り出した原初の生命の一体にして、最も最初に創られた原初の猫。
少女こそ地獄の戌。地獄に佇む死者の門の守護者。死神より任を課せられ、逃げようとする死者の魂を喰らう獄門の番犬。
少年の名を、猫守糾祖。
少女の名を、戌亥とこ。
対極の二人。双璧の二匹。本来ならば、出逢う事など決して有り得ない組み合わせだ。
「でもなぁ…あんまし、良いとも言えへんよ? アンタ、天国暮らしやったんやろ? 堕天したりせんの?」
「俺は無能な天使達とは違う。始まりの猫、この世に生み出された原初の生物の一体だ。堕天なんてしない。」
「あー、そっか。アンタ、世界で最初に産まれた猫さんやもんね。」
凄い子が来たなー、と、大して驚く事も無いまま、戌亥はお茶が入った湯呑をカウンターに座る糾祖へと差し出した。
何の変哲もない、暖かい緑茶。だが、暖かいという部分にこそ戌亥の目的があった。
始まりの猫にも、猫舌は備わっているのか、どうか。そんなくだらなくも面白そうな目的が、其処には有った。
糾祖はありがとう、と言いながら、暖かい緑茶が淹れられた湯呑を普通に持ち、ゆっくりと喉へと流した。
熱さに驚いてビクッとする事もなければ、ふーふーと息を吹く事もなく。
始まりの猫は、普通にお茶を飲んだのだ。
「ふぅ…緑茶か。確か、日本とかいう場所で造られたんだったか…良い飲み物だな、これは。」
「そ、そうねー。ウチも好きなんよ、緑茶。」
「そうか。…ところで、猫舌なんてものは、本当は無いという事を知っているか?」
「へ、そうなん?」
「正確に、猫舌なんてものはない。猫舌と呼ばれる人間は、唇に食べ物や飲み物が触れる様にして食べて飲んでをしているんだ。」
「ほへー…猫さん、物知りやね。」
「伊達に何億年も生きてない。」
猫は何でもない様に涼しげに。
犬はつまらなそうに不貞腐れ。
その二人は、仲の良い友人の様に見えた。
おしゃべり