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「突然なんやけど、猫の手も借りたい所やからさ。仕事、手伝ってくれへん?」
「唐突だな。」
地獄の片隅に有る喫茶店『地獄屋』の店内、そのカウンターにて。
開店して間もなく、まだ客が来ていない時間帯の店内で。
『始まりの猫』と呼ばれる天国に住む少年、猫守糾祖はカウンターの席で、出された緑茶を優雅に飲んでいた。
天国の住人であるにも関わらず、地獄の店でティータイムを楽しんでいた猫守だったが、地獄屋の店員であるケルベロスの少女、戌亥とこに突如として頼まれ事をされていた。
「手伝え、と言われてもな。俺は給仕の仕事などした事はないが。」
「でも知ってるやろ?」
「大雑把な知識ではあるが、一応は。丁寧な言葉遣いと明るい表情を保ちつつ、注文の品を運んで客を饗せば良い…で、合っているか?」
「だいぶ知っとるねぇ。」
流石は長生きの猫さんやー、と、彼を茶化す様にけらけらと笑いながら小さな拍手をする戌亥。
褒め言葉には思えない軽さだな、と彼は不機嫌そうな表情をしながら、彼女が入れた緑茶をゆっくりと喉に流す。
今回は前の様に暖かい訳ではなく、冷蔵庫で冷やされていたのかとても冷たく、心地良い風の様な味わいだった。
「で、どうなん? 手伝ってくれるん?」
テーブルに肘を付き、掌で頬を支えながら、彼女は彼に再びそう問い掛ける。
湯呑を置き、少し間を開けて―――彼は結論を出した。
「分かった。給仕の真似事なら、暇潰しにもなるだろう。」
答えはOK。地獄屋の仕事、正確に言えば接客業の手伝いをして良いと、彼女の頼み事を快く了承したのだ。
だが、彼のその回答が予想外だったのか、戌亥は目を見開いて驚いていた。同時に、耳をピコピコと小さく動かしてもいた。
「なんだ、その顔は。断られると思っていたのか?」
「まぁ、正直。くだらんとか、する理由が無いとか言われて断られるんかなーって思ってたんやけど…」
「…さっきも言ったが、暇潰しだ。天国は暇ばかりで、俺は立場の都合で仕事すら満足に出来ないからな。」
「ほーん。詰まる所、ニートって事?」
「…まぁ、間違いではないだろうな。仕事が無く、暇なのは事実だ。しかし、だから手伝うと言ったんだ。それに、仕事の経験も有って損は無いだろう。」
そう言い終えて、緑茶を飲み干して席から立ち上がる。
どうやら、仕事を手伝う事は本当に嫌ではないらしい。寧ろ、どこか楽しみにしているまであった。
「そういえば、猫の手も借りたい所だと言っていたが…何か緊急事態でも起きたのか?」
「あー…まぁ、緊急事態って言う程の事やないんやけど…うちの店員の一人が風邪引いてもうたから、今日は一人足りひんのよ。だから手伝ってもらおうかなーって。」
「なるほど。地獄でも風邪は有るのか。それは初めて知ったな。」
「意外と現世と変わらんよ、地獄も。まぁ、外界より騒がしくはあるけど。」
「地獄だから、騒がしいのは当たり前…か。阿鼻叫喚が響き渡るというのも、大変なものだな。」
だが、今は取り敢えず。
「仕事の内容を教えてくれ。全力を尽くす。」
「けっこう本気やね?」
「猫の手を借りたいと言ったのはお前だろ。始まりの猫が手を貸すんだ、無益にはさせん。」
「あはっ。可愛くないおててやねぇ」
「だが、頼もしい手だ。」
小さな猫の手は可愛らしいが、役不足だ。
だが、彼の様に大きな猫の手は、とても頼もしい。
来る者は皆、同じ客