地を歩いて駆け来る
讃えられし神のもの
恐れられし妖のもの
されど等しく、愛い猫のもの
■ ■
「あれ…此処どこだろ?」
その日、人の姿を象った猫又の少女「猫又おかゆ」は見知らぬ場所で目を覚ました。
澄み渡る群青の空、何処までも続く地平線の如き白い雲の大地。何か特徴的なものが有るという訳でもない殺風景。
しかし、何処となく神秘的な何かが漂っている不思議な場所。まるで、死んだ生物が辿り着くとされている場所の一つである『天国』の様な場所だ。
猫又おかゆは、そう思った。此処は天国なのではないか? と考えた。
「事実、その通りだ。」
そう思った瞬間、まるで心を読まれたかの様に、それを肯定する声が彼女の背後から掛けられた。
声のした方へと振り返ってみれば、其処には一人の少年が立っていた。
まるで出来たての絹を思わせる麗しい艶のある金髪と、雲一つ無い青空の様な水色の瞳、そして頭に生えている猫の耳。
同類のようで、しかしあまりにも格差が有り過ぎる存在。彼女にとって、否、全ての猫にとって父親とも呼べる存在。
原初の猫。始まりの猫。神によって創り出された最初の生物達の一体。この世に初めて産み出された、猫の祖となる者。
「初めましてだな、猫又おかゆ。俺は猫守糾祖と言うものだ。」
地獄にある喫茶店「地獄屋」の常連客にして天国の住人―――猫守糾祖である。
「はぁ…って、なんでぼくの名前を知ってるの?」
「猫だからな。」
「答えになってなくなーい?」
「れっきとした答えだ。俺は猫に通ずる全てを知っている。だからお前の事も知っている。」
「へぇー、すごーい。じゃあ、ぼくの誕生日は?」
「お前の飼い主が拾った日を誕生日としているなら、2月22日だ。そして年齢は、人間で換算すると16歳。身長はアホ毛を含めて152cm。体重は」
「わーわー! ストップ、すとーっぷ! そこまで細かく言わないで良いよ!」
「そうか。それは助かる。俺とて幼児のプライバシーを解説するのは気が引ける。」
「幼児って…」
幼児呼ばわりされた事に不満を抱く彼女だが、しかし残念ながら、彼にとってそれは変えようもない事実である。
彼は世界が創り出され、そして生物が誕生したその時から楽園に居座り続けていた原初の猫。その実年齢は億にも至る。
そんな彼にしてみれば、其処らの天国の住人や外界の存在は、皆等しく子供なのだ。まだまだ半端者な若人同然でしかないのだ。
「まぁ良いや。取り敢えず、なんでぼくは天国に居るのー?」
「切り替えが早いな…まぁ、その方が助かるが。しかし、何故と言われても困る所だ。正直、俺にも分からんのだ。」
「えー? 何でも知ってるんじゃないのー?」
「あくまで猫に関する全てを知っている、というだけだ。あと何でもは知らない。知っている事だけだ。」
「わー、アニメについては知ってるんだねー。」
「実際に観た事はないがな。上司から聞かされたというだけだ。」
「上司とか居るんだー。やっぱり神様?」
「あぁ。現在進行系で外界に降り立って遊んでる女神だ。」
「猫さんは降りた事ないの?」
「過去に一度だけ。それからは降りていない。
まぁ、地獄になら降りているがな。」