猫に九生有れども尾一つ噛まれりゃ泣いちまう   作:全智一皆

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猫は善悪を超越した存在である。気紛れを身に着け、世界を気儘に旅する存在である。


猫と戌と人間、或いは神とさんばか

 

 

■  ■

「えっ…めっちゃイケメン! ちょ、いにゅい羨ましい!」

「こ、この人がとこちゃんが言ってた始まりの猫さん…髪めっちゃ綺麗。」

 地獄に在る喫茶店「地獄屋」の店内、そのカウンターの席にて。

 原初の猫にして天国の住人「猫守糾祖」は、いつもの様に地獄屋で穏やかなティータイムを過ごそうとやってきたのだが、其処には店員であり友人である「戌亥とこ」だけではなく、赤髪の女と銀髪に水色のメッシュが入った気品な王女が居たのだ。

 来るや否や、この二人が韋駄天の如き速さで駆け寄り、現在の様にじっとりと舐め回す様に見られているのだ。

「………………」

「あはっ、凄い顔しとるよー、猫さん?」

「舐め回される様に見られるのが好きな奴なんて居ないだろ……主に錬金術師、お前の視線だ。」

「え、何でうちが錬金術師だって知ってるの!?」

「現代でそんな衣装を纏ってる奴はそう居ない。何より…薬品の臭いがする。」

「えっ……」

 嘘でしょ…と、何故かは分からないがショックを受ける錬金術師。そして、その様子をけらけらと戌亥は笑っている。

 良い性格だよ、本当に。と、やや呆れながら、いつもの様に緑茶を頼むと注文する。

「その点、皇女は良い。視線も嫌にはならんし、匂いも気にならん。」

「あ、ありがとうございます。」

「そう畏まらなくて良い。此処では立場は誰であれ同じだ。客という一個人に過ぎない。まぁ、君が礼儀を気にするのであれば、言葉遣いも変えるが。」

「猫さんもだいぶ堅いと思んやけど。」はい、緑茶。

「ほっとけ。俺は元からコレだ。」ありがとう。

 流れる様な会話、夫婦の様なやり取りに、錬金術師と皇女殿下は絶句した。

 彼女と長い間一緒に居るが、あそこまで流れる様なやり取りは今まで一度も見た事がない。あんなにまで柔らかい表情の戌亥とこを、一度も見た事がない……!!!

「これが年の差ってやつか…」

「何言ってるの、アンジュ…」

「わたしと猫さんとじゃ、年の差なんて桁違いやわ。それこそ仙人と凡人くらい。」

「そんなにあんの!?」

「これでも、生物が誕生した時から生きてる身だからな。」

 涼しげに流すが、二人は大いに驚いた。

 生物が誕生した時から生きている。その言葉だけで衝撃が走る。

 生物が誕生した時というのが、いったいどれだけ前の事なのかは二人には分からないが、目の前の彼が彼女等が思う以上の存在である事は理解した。

「あぁそういえば、先日に下界の妖怪と天国で出会ったぞ。」

「天国で妖怪と? 死んでもうた子かな」

「いや、迷い込んだだけだ。それに、妖怪とは言ったがほぼ人間だ。あれだ、下界で言うケモミミ? を持つ者だ。」

「もしかして環先輩じゃないよね…」

「そんなまさか…ちなみに聞くんですけど、その子の色は…?」

「紫」

「まさかのおかゆさん!?」

「後輩も驚いていたな」

「それ絶対に天音かなたさんじゃん!」

 知り合いが多いようだな、と呟きながら、飲み干して空になった湯呑をテーブルに置き、椅子から立ち上がった。

「あら、もう行くん?」

「あぁ。あのクソめが……上司から仕事を押し付けられたからな。やらなければ」

(クソ女神って言おうとしたよね?)

(クソ女神って言いかけたね)

(クソ女神って言いたかったんやろね)

 

 変な上司を持つって大変なんだなー。そう思った三人であった。

 

 

「っくしゅ…風でも引いちゃったかしら?」

 ちなみに、その本人(もしくは本神)―――『モイラ』は仕事を全て彼に押し付けて現世を楽しんでいた。

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