猫に九生有れども尾一つ噛まれりゃ泣いちまう   作:全智一皆

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今更、自分を偽る間柄でもないのだし


猫被らぬ関係

 

■  ■

「猫さんって敬語使ったりするん?」

「今日も唐突だな」

 

 今日も晴れ空な(真っ黒だけど)地獄、その喫茶店の中で猫と犬はのんびりとしていた。

 猫はいつも通り、犬が煎れたお茶を優雅に飲んでいて、犬もいつも通り、猫がお茶を飲む姿を飲みながら唐突に質問をする。

 いつも通りの平和な日常である。地獄に平和とか無縁も良いところではあるけれど、まぁ、とにかく平和である。

 

「あまりないな。俺より上の存在は創造主か最高神くらいのものだから」

「やっぱ、そっかー。猫さんは偉い人やもんね」

「別に偉いと言われる程の立場にも就いてないがな。猫らしく、ただ自由気ままにしているだけだ」

「やから地獄まで来るんやもんねー」

「天国は退屈にも程があるからな。それに、友人の所に来る事は普通だろ」

「毎日は来ん思うけどね」

「そうか。まぁ、変えるつもりはないがな」

 

 猫は自由気ままなのだ。だから地獄にも遊びに行くものなのだ、そうなのだ。

 故に、それを変えるつもりも一切ないのだ。

 ちなみに、戌亥とこは猫の発言にまんざらでもなかったりする。

 

「ところで、何故、いきなり敬語の話しを? 使えないのか?」

「いや、そんな事はあらへんよ? 単に気になっただけ」

「そうか。使えなかったら従業員としてどうなんだ、と言おうとしたが、そういう訳ではないんだな」

「そらね。私も、普通に敬語くらいは使えますー」

「そういうものか?」

「そういうもんよ」

「ふむ……なら暇潰しに、互いに敬語で話してみるか?」

「おぉ、ええね。思えば、私と猫さんってお互いに敬語使った事ないもんね」

「そうですね。私の場合、そういった性格でしたので」

「うわぁ…」

「おい、うわぁとは何だ、うわぁとは。その反応はないだろ」

 

 あからさまに顔を顰める戌亥。どうやらお気に召さなかったらしい。

 だが、それもそうか。それなりに長い間タメ口で話していた友人が、敬語を話し始めれば違和感を覚えるのも無理はない。

 もしくは、彼が自分に対して他人行儀なのが気に食わないのか。

 どっちにしたって、彼が敬語なのは嫌らしい。

 

「敬語にして数分も経たずで終わったぞ。どうするんだ」

「知らへん。わたし悪くないもん。悪いのは敬語使った猫さんやもん」

「お前は偶に子供の様になるな。素か、それとも戯れか…どちらにせよ、随分と愛い面じゃないか」

「あんま難しい言葉は分からんのやけど、褒めてる?」

「あぁ、褒めている。」

「ふーん…そ。でも、何も出ぇへんよ?」

「お前が淹れてくれた茶の一つで間に合っているから、問題ない」

 

 必要なものは、既にこの手の中にある。

 涼しげに言う可愛げのない猫に、犬は不満そうでまんざらでもないような、複雑な表情を浮かべていた。

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