三大勢力アンチなので好きな方はブラウザバックしてください。
あるところにただの村人が居ました。
別に特別なことなんてありません。平々凡々な村に住む農家の子供で、将来は親から農地を譲り受けてそこを耕して一生を過ごすのだろうなと考えていました。
同年代の異性だけいなかったのでお嫁さん探しだけは他の村に行かないとと考えていましたが、それもまだまだ先の話。今は毎日を生きるのに必死です。
先祖代々祀っている神に祈りを捧げ、生きられることに感謝し、畑を耕して明日に備えて寝る。そんな毎日を送っていました。
たとえ今が神話の時代と呼ばれ、名だたる英雄の活躍が耳に聞こえてきても、男には関係のないことでした。両親はいたって普通の村人。神の血を継いでるわけでも、宣託を受けたわけでもない人間なんてそんなものです。
戦争に駆り出される様子もない。ただ鍬を振るうだけの人生。
それを男は好んでいました。平和が一番だと。
そんな平和は、一瞬で崩れ去りました。
戦争ではありません。
神話の怪物が暴れたわけでもありません。
神々の怒りを買って大災害を受けたわけでもありません。
英雄の試練でもなければ、神々の試練でもありません。
ですが、それはまさしくバケモノでした。
蝙蝠の羽を背中から生やし、尻尾も生えており、なのに人型で人を嘲笑うような半月の口を隠すことなく宣ったのです。
「ああ、ツマラナイ。こっちの人間の贓物も赤いのか?」
そんなわけのわからないことを言って近くにいた女性のハラワタを抉り出したのです。すぐに村人達は二手に別れました。戦えない老人、女子供は他の村へ避難を。男手は全員何かしらを手に持ってバケモノを殺すために戦いを。
神話の時代だったために獣などの被害は隣人の如くよくあることでした。だから村人達は戦えました。男も子供とは呼べない年齢だったので鍬を持ってバケモノと戦いました。
三日三晩殺し合い。結果として男衆は全滅。しかしバケモノ──悪魔もしっかりと討伐できたのです。
トドメを刺した男は息も絶え絶えになって村を一望しました。
両親から預かっていた畑は見るも無残にボロボロです。家畜も全て殺され、無事な家はどこにもありません。逃げた女衆も帰ってきません。
もう大丈夫だと。村はなくなってしまったけどあのバケモノはいなくなったと伝えようとズタボロな身体を引き摺って男は避難先になっている隣の村に向かいました。
隣の村も、全てが更地になっていました。
何か証拠はないのかと、生きている人はいないのかと男は必死に探しました。しかし見付かったのは烏の羽と思われる漆黒の羽根だけ。それが何を意味するのかわかりません。
ただ村には物理的に破壊するには不可能な、それこそ槍などを象った破壊痕があるということが見て取れるだけ。
男は自分の村も、隣の村も、両親も知人も、一瞬にして無くしてしまいました。
全てに絶望して、男は膝を折りました。そして彼の慟哭が辺りに響きます。
「神よッ!私達が何をした⁉︎慎ましく生きていただけだろう!誰かに憎まれるようなことをしたか?していないだろう‼︎それでこの仕打ちはあまりではないか……!ゼウス神よ!」
その声に応えるように空から逞しい髭を整えた筋骨隆々な老人が現れます。その老人の神々しさを見て男はその存在が神だとわかりました。
まさかこんな木っ端な人間の嘆きに応えてくれるとは思わず、男は泣き崩れたまま空を見上げます。
「……スマヌ。我々の監視が甘かったせいだ。貴様には我々を恨む権利がある」
「あれは……。ただの怪物ではないのですか?ゼウス神よ」
「違う。アレは、あんな悍ましいものが我らギリシャの生き物なわけがない。貴様の村を襲った異形は三大勢力……聖書という神話体系に含まれる悪魔だ。そしてこの村を襲ったのは同じく三大勢力の堕天使と言う。ギリシャとは相容れぬ畜生どもよ」
「あなた方以外の崇拝されている神の勢力だというのですか?」
「そうじゃ。我々は領分を守っているのだが、最近三大勢力で大きな戦争があったようでな。その混乱に乗じて末端が暴れているらしい」
その八つ当たりで男は家族も村も失ったのです。
到底許すことはできません。
ですが男の身体はもう限界です。ダメージも疲労も蓄積し、ここ一週間何も食べておらず人間としての活動に限界を迎えていました。
そんな男を、ギリシャの主神は見捨てませんでした。
「のう。儂らのお使いをしてくれんか?英雄では他神話への干渉になってしまう。それは我々も、我々の配下もじゃ。じゃがただの人間なら、加護を与えただけの人間であれば他の領域に忍び込むことができる」
「……お使いとは?」
「なに。あの悍ましい奴らを殺してくれればいい。我らの領分を犯す時点で無法者だ。殺すべき罪がある」
「わかりました。あなた様のお使い、果たさせていただきます」
男はゼウスから簡単に死なない不死の加護と、なんてことのない鉄の剣を一本もらいました。そして三大勢力のことを教わり、悪魔は好き勝手して堕天使は神器なるものを探すために人間を虐殺し、天使は他の二つの種族と敵対という名の傍観をしていると聞きました。
なので男は目につく限りのバケモノ狩りを始めました。
男はただの人間なので死なないだけで強くはありません。悪魔や堕天使に殺されかかったことは数え切れないほどです。それでも一人でも救おうと、自分と同じ犠牲者を出さないためにとギリシャを走り回りました。
その男は無名ながら、神々も認める英雄になったのです。ギリシャを守るただの人間。復讐に囚われながらも守った人間の数の方が多い、護国の勇者。
名前は神話に残りません。ヘラクレスやアキレウスのように、後世に残ることはありません。
なぜなら彼はずっと生きているから。
死ぬこともなく世界を放浪し、三大勢力絶対殺すマンとなって神話の時代も人間の時代も生き続けました。
人間と神々の訣別を遠い地で知り、人間の時代を受け入れて。だからこそ暴れる三大勢力のバケモノを歴史の影で狩り続け。人の世を見守り、時には休んで、神々から報酬を貰って。
彼が世界に名を残したのはたった一度の歴史だけ。
それは人類史においてのターニングポイント。
五世紀の出来事だった。
・
男はその時たまたまブリテン諸島に近付いていた。ローマなどで狩りを続けてある程度目処が立ったために島国も訪れてみようと考えただけの話。ヨーロッパ諸国を巡って人間の営みも発展してきたなと思っていた頃に入ったブリテン島で、彼は不倶戴天の敵の一団を見た。
一団だ。今まで彼は各個撃破してきた程度に群れで遭遇することはあまりなかったのだが彼は悪魔の団体を見た。
それも百とかいう数字ではない。四桁を超える大軍なんて初めて見た。その悪魔の集団が人間の集団を襲っているのだから男は本能的に人間の集団を助けるべく剣を抜いて突撃した。
人間の集団もある程度武装をしているようだった。革の鎧を着て剣や槍、弓矢で応戦している。各々の技能が高いのか人間より遥かに優れる身体能力を持っている悪魔を何体も倒していた。
人間も捨てたものではないなと思いながら抜刀。悪魔狩りのプロフェッショナルとして一刀の下に一匹を殺した。
突然の乱入者に、軍を指揮していた男は驚愕の声をかける。
「貴公は⁉︎」
「ただの悪魔祓いだ。悪魔を見て我慢できなかっただけのこと」
「助かる!サクソン人は凶暴でいつも侵攻の際には手を
「──サクソン人?」
その言葉の意味はわからなかったが、男はとにかく悪魔を倒し続けた。半日ほど戦って悪魔もかなりの数を減らしたとわかったのか、撤退していく。
話しかけてきた男がリーダーだったようで、勝鬨を上げるように黄金に輝く剣を空へ掲げていた。
「我々の勝利だ!」
「アーサー王万歳!」
周りにいた騎士が喝采を浴びせる。王様だったのかと男はここで初めて気付いた。見てみれば鎧も武器も他とは一線を画するほどに豪華だと思い当たる。
ある程度の喝采が終わると野営の準備を始めていた。こんな海沿いの場所が本拠地ではないのだろう。だがもうすぐ夜の帳が落ちるために移動は朝日が登ってからということで今日はここで野営をするらしい。
男はあの大軍についてはどうしたものかと思い悩むものの今までがワンマンアーミーだったためにこのまま集団行動はできないなと考えていた。たとえ死にかけてもゾンビ戦法で勝ってきた男はあの大軍であっても殺し切ると殺戮モードに入っていた。
数は力だが、この集団に居続ける意味も意義も感じなかった男は早々に立ち去ろうとしたがアーサー王と呼ばれた青年に呼び止められてしまった。
「貴公!先ほどの戦いは助かった。是非我が国からの礼を受け取ってほしい」
「いえ、気になさらず。悪魔はこの世から消滅させないと気が済まないだけですので」
「悪魔?そう言えば悪魔祓いと先ほども述べていたが……。サクソン人は悪魔に取り憑かれていたのか?」
「……まさかあなた方はアレを人間だと認識していたのか?アレは人型なだけで人ではない。身体能力も思考回路も全く違う、人間を餌か孕み袋としか思っていない畜生だ。島国だから知識の伝聞が上手くいっていないのか……?いいだろう、予定変更だ。あなた方にアレの基礎知識を叩き込んでやる」
そうして男は円卓の騎士に加入する。物語によっては何百人もいる騎士の一人だ。彼に関する記述はアーサー王物語や他の派生の物語でも所詮端役に過ぎない。
それでもギリシャの神々は喜んだ。彼が認知されたと。彼の偉業を自分達以外も知っていくことになるのだと。
「貴公、名前は?」
「名前か。……ある方々からしか呼ばれない名だが、それくらいしか呼び名がないのも事実。エクリプスと、そう呼んでほしいアーサー王」
エクリプスという名前の騎士は特に物語上出てこない。大きな争いには参戦していたとか、円卓崩壊の際には我関せずを貫いたのだとか、カムランの丘ではアーサー王を守るために散ったとか様々だ。
だが彼のおかげで後々のイギリスは聖書信仰をせず、アーサー王物語を基盤とした女王制を確立することとなる。
誰が自国を襲ってきた野蛮な化け物の所属する聖書を尊ぶというのか。そういう話だ。これはアーサー王がエクリプスの話を聞いて未来永劫守るようにと遺したために死守されることとなった。
エクリプスがやったことは三大勢力に関する基礎知識。そして国内の状況を聞いて更に困惑することとなる。
「悪魔以外にも堕天使や天使までも襲ってくるというのか……?確かにこの国はギリシャなどと比べてもまだ人間の世界への移行が済んでいないように思えるが、それも時間の問題だ。移行に積極的になる聖書どもでもない。……いや?まさか、そういうことか?」
堕天使は堕天した者の中でも二種類いる。自由を謳歌したくて堕天した者。そして不本意ながら堕天してしまい、神の下に戻るために何か功績を立てようとしている者。
エクリプスの隣の村への襲撃は人間に宿った神器を回収しようとした堕天使によるものだった。そしてこのブリテンには何故か神器所有者と思われる人間が多数いた。円卓の騎士のほとんどは属性武器系の神器所有者だった。
この回収に堕天使が現れるのはまだ納得できても、天使は意味がわからなかった。
「いや、そもそも神器は神のシステムによるものだと聞いた。これほど強力な神器が多いのなら天使が出張ってきてもおかしくはないのか?三大勢力内での戦争を有利にするためなら強力な武器が必要だ。特に円卓の騎士なんてかなりの戦力だろう」
悪魔がブリテンを襲うのは他の勢力の戦力増強を阻止するため。堕天使は天使に戻りたいという我欲。天使は純粋に戦力増強の一手として。そんなところか。
神代が過ぎ去って幾星霜。世界から英雄と呼ばれるような人物はどんどん減ってきている。だというのに円卓の騎士は神代の英雄と遜色ないと神代に生きたエクリプスが認めるほどに彼らはその精神も戦闘力もズバ抜けていた。
戦力として引き抜くなら現在地上で一番の軍隊だった。だからこそ狙われるとわかり、エクリプスは力を貸すことを決める。
三大勢力に狙われてしまったブリテンを救済するために、エクリプスは唯一の大々的な干渉行為を行う。
だが結局、カムランの丘の悲劇を食い止めることはできなかった。