『ぼざろ』と『シン仮面ライダー』のネタバレにご注意ください。
一人の男が見下ろしていた。
一人の男が倒れ伏していた。
「決着だ。アンタの負けだ」
見下ろす男は奇妙な見た目をしていた。
バッタを模したマスクを被り、ライダースーツのようなアーマーを着込んでいた。
「……そのようだな。恐れ入ったよバッタオーグ、いや仮面ライダー第2号」
「イワン・タワノビッチ。アンタの敗北でSHOCKERは壊滅だ。だがスッキリとまではいかない。根本からキッチリ叩かなきゃダメだ。だから
イワンの頭部へ手を当てる。
ライダーのマスクが光る。
彼のプラーナへアクセスしているのだ。
しかし、ライダーの雰囲気が困惑に変わる。
「……『鍵』はどこだ」
「どうかしたのかね?」
「とぼけるな。『アイ』に接触するための8つの鍵、その1つはお前が持っているはずだ」
ライダーの様子がおかしいのか、イワンは不敵に笑いだす。
「組織とは、ままならぬものだ」
「は?」
「どれほど崇高な理念を掲げても必ず『派閥』が生まれる」
「消滅するまでの時間稼ぎのつもりか?」
「『内敵』にも備えなければならなかった、ということだよ。それに私は最後の『絶望派』だ、尚の事だろう?」
「いい加減にしろ、時間稼ぎなら──」
「ここにはない」
ピチョン──と水滴が落ちる。
「なんだって?」
「君達では見つけることはできない。見つけたとしても
「倒せない? オーグメントか? いや、なぜそれを話す?」
「『理念』だよ。私はSHOCKERを信じている。だから最期までそれに殉ずる」
イワンは、隠していた装置を起動させた。
「!!」
「説明してあげた理由は、ここで必ず始末する、という意味だ。我々が信じた世界幸福のため、アイは死守させてもらう」
基地が轟音を立てる。
炎が溢れ出す。
ライダーは跳躍する。現れたバイクにまたがる。マフラーが吠えホイールが回転する。シン・サイクロン号が走り出した。
20XX年3月下旬。
横浜市金沢区にある海洋研究施設が爆破事故により消失する。
しかし、この事件はニュースにならない。
週刊誌に載ることも、ネット記事に乗ることも、誰かに知られることもない。
一人の少女がブランコで揺られていた。
しかし、『コレ』は少女と言っていいのか。
通りがかった人の内、十人中百人が同じ感想を漏らすのは間違いない。
少女というか不審者。
不審者というか『怪人』。
その原因は、少女の
けど、本人的にはそれどころではない。
彼女は今日新しい黒歴史を更新したばかり。ホヤホヤの羞恥に悶絶してる真っ最中だ。脳内では地球文明が分解されている映像が上映されている。
いっそ私の黒歴史の砂塵にしてくれないかな……変な電波を受信していた少女だが、不意に正気に戻る。
……中年男性だ。
自分が不審者だと、彼女は自覚している。
そんな自分がいる公園にやって来る人がいた。それ自体に驚きだ。
それ以上に驚いたのは、その男性から哀愁が漂っていたことだ。
きっと家族もおらず、社会の荒波に揉まれているに違いない……外回りの最中に、力尽きてしまったんだろう。
そうだ、辛いのは私だけじゃないんだ……ありがとう、おじさん。私にひとりじゃないって教えてくれて……!
「パパ!」
「ッ!?」
しかし、少女に絶望が襲い掛かった!
無垢な声で駆け寄る少女!
後方には微笑みを浮かべた妻!
娘を抱きしめる父!
朗らかな家族のジェットストリームアタックが少女に迫る。回避率95パーセント!
「がっ」
結果:直撃
戒め:100パーセント以外信用してはいけない
少女は心に致命傷を負った。
勝手に可哀想な人とか決めつけてごめんなさい……深い悲しみの中、涙を流した──本人はそのつもりだった。
だが、現実では別のことが起きていた。
涙ではなく、
「!?」
バリバリ……ドッゴォッ──発射されたビームは、少女の
「あ゛っ!?」
幸い、俯き気味だったお陰で、直撃せずに済んだ。
もし人に当たっていたら?
それは、数十センチに渡り溶断され、ピンク色の蒸気を噴き出す地面を見れば分かることである。え? ビームを撃てた理由? 少女は人間ではないからだ。
「…………」
「…………」
無事だ。無傷だ。しかしあの家族にとって恐怖体験に変わりはない。
「…………あっあの」
「!!」
声をかけた途端、母親は子供をかかえ公園から脱出。父親は妻と子を護るように動き、妻と子が逃げてから、続けて脱出。
弁解、したかっただけなのに……いやダメだ、こんな危険人物の言い訳なんて、聞いてくれる訳がない!
「かっ完全に終わった、わたしの人生……」
どうしてこうなっちゃったんだろう?
泣きたいけど、泣いたらまだビームが出かねない。泣くに泣けない少女は、おもむろにスマホを取り出す。
自分のチャンネルを見て、現実逃避をする為だ。
しかし、スマホに映った自分を見て、やるべきことに気付いた。
「穴、塞がないと」
泣きたいけど、そっちが先。
少女──後藤ひとりは、ずーっと被りっぱなしだった、『ライダーヘルメット』を脱いだ。
*
『バンドを組んでチヤホヤされたい』。
ライダーヘルメットを被る不審者系JK後藤ひとりの行動原理は、その一言へ集約される。
ひとりは陰キャであった。
しかし人一倍承認欲求が強かった。
そんな彼女が思い至ったのは、中学一年生の頃。テレビ番組にとあるロックバンドが出たことから始まる。
『バンドは陰キャでも輝けるんで──』
神託であった。
もしくは予言であった。
幸い父親は元バンドマン。ギターは家にある。これはギタリストとなりメジャーデビューからのタワマンライフをせよというお告げに違いない。
でもまず人並みに演奏できるようにしないと。下手な演奏聞かせたら羞恥心で死ぬ。
──と言って数年後、ひとりは中学を卒業。
バンドは組めなかった。
何故か? 演奏が下手だったから?
違う。全てはひとりがコミュ障だったからだ。
というか友達さえできなかった。バンド云々以前の問題だった。
ならば高校デビューだ!
高校でこそバンドを組んでやる!
と決意して一か月後。
友達──0人。
会話回数──0件。
ロイン登録者──家族のみ。
現実は非情である。
それもこれも、入学式に出れなかったのが全部悪い。スタート時点で仲良しグループは固定されていて、つけ入る隙がない。
え? グループ云々関係なくお前話しかけれないだろ?
それを言ったら戦争だ。
ともかく、嘆いてばかりもいられない。
今度こそ友達を作る為、とっておきの秘策と共に登校した。
腕には複数のバンドのリストバンド。
バッグには大量のバンドの缶バッジ。
ジャージの下にはゴキゲンなバンドTシャツ。
トドメに背負ったギター。
後藤ひとりフルアーマープランの完成だ。
『話しかけられないなら、話しかけて貰えばいい! この存在感、絶対誰かしら声をかけてくれる筈!』
とんだ他力本願である。
確かに存在感はあった。バンド女子感も凄かった──ヤバい女とクラス全員が思った。
特に、被りっぱなしだったヘルメットがダメだった。
フルアーマー改め、女怪人ギターメットが爆誕した。
ヤバい女から、女怪人へと後藤ひとりはレベルアップ。目線すら合わせてくれないまま一日が終了。
黒歴史を更新しただけと気付いた結果、この公園に転がり込み、家族へビームをぶっ放すところへ繋がるのだ。
*
「はぁぁぁ」
ヘルメットの修理を終えたひとりは、疲労感に溜息を吐いた。
ビームの穴は透明テープで塞いだ。破損に備えて、持ち歩いて良かった。応急処置を終えたヘルメットをまた被る。
見ての通りだ。
少女は登下校でも、学校でも、この公園でも、ずーっとヘルメットを被っている。絶対に外すことはない。
ライダーヘルメットだが、バイクはない。
そもそも免許持ってない。
ギグバを背負いヘルメット装備の全身ピンクジャージ女。
死角なしの不審者であった。
挙句、透明テープ付きヘルメットという呪物を被ったせいで、不審者オーラがより強化された。もう野良猫やカラスさえ近づかないだろう。
「はぁ」
またブランコに腰かけたひとりは、肩を落とす。
落胆ではなく、安堵の仕草だ。
「……当たらなくてよかった」
ビームが当たらなかったことに、胸を撫で下す。誰も傷つかないで、本当に良かった──心の底から思った。
だが、それはそれとして、負のオーラ力は更に高まっていた。
今日一日で、黒歴史を二度も更新してしまった。もう立ち倒れない。さっきの奇行も直ぐにネットへアップされてしまう。
そうしたら、そうなったら……!
『報告:女怪人ギターメットに子供が襲われました──』
容易く想像できてしまう。
こんな見た目の女子高校生私以外にいる訳がない、あっという間に学校が特定されて、個人情報も家も特定されて──
アカウントは大炎上。マスコミに包囲される自宅。父はクビ。〇〇〇は幼稚園でいじめに。学校は退学(辞めれるからちょっと嬉しいかも)。重罪で私は逮捕。一家離散の走馬灯が流れ、遂にクライマックス。
『えー、では被告、殺人未遂で火炙り!』
ごめんなさい……お母さんお父さん……責任はとるから……元気でいてね……〇〇〇。燃やされる己の姿で、少女の人生は幕を閉じる。
でもそれで良いと思った。
私はこの世界から消えた方が良いんだから。
願い通り、後藤ひとりは砂塵へと還った。
「ギ、ギター!!?」
「ピォ!?」
突然聞こえた少女の声。
散らばった砂塵が逆再生めいて集結、ひとりは蘇生する。
顔を上げると、金髪の少女がこちらを見つめていた。
「…………」
「…………」
この沈黙合戦、さっき経験したような。アレ? じゃあまたドン引きされてる?
あ、うん、絶対そうだ。だってわたし女怪人ギターメットだし。今さっきビーム撃った危険人物だし。
って、まさか、見られてた!?
あり得る話だ。撃った時轟音してたし。
この人はわたしを警察に突き出そうとしているんだ……違う! 研究対象として回収しにきた国家エージェント……これも違う!
ダメだ。どのルートへ転んでもバッドエンド一直線。
指名手配されるかバラバラのホルマリン漬けにされるか血液凝固剤を呑まされ凍結させられるかのいずれか。
どれも地獄。苦しむぐらいならひと思いにやって欲しい。
命乞い、じゃなくて死に乞いをしなくては。
言うんだ! 『どうかいっそ楽に殺してください』と!
「どッ!! どど、ドドドドド」
「どうして奇妙なオノマトペが!?」
哀しいかな。後藤ひとりが家族以外と話すのは一か月ぶり。コミュ障の喉は咄嗟の発音ができる構造になっていない。あと音量調整もできない。ただ周辺に『ド』のブロックを展開しただけだった。
コエカタ〇リン的なイメージである。え? 展開できた理由? 後藤ひとりは人間ではないからだ(二回目)。
ダメだ終わった命乞いさえ失敗した殺される。
齢15歳。長いようで短い人生だった。走馬灯が流れる──あっ黒歴史しかないや。
しかし、何時まで待っても、金髪の少女は殺しにこない。てっきりあのアホ毛がブーメランみたいに飛んでくるかと思ったのに。ひとりには不思議だった。
「……よし!」
金髪の少女は覚悟を決めた様子で、『ド』ブロックを退かしながら、少女へ近づく。
そう、覚悟が必要だった。
少女はひとりの装いに少し……いやだいぶ引いていた。
ギター&ピンクジャージだけならまだしも、ヘルメットがトドメだった。声をかけるべきかどうか、ずっと躊躇していたのだ。
しかし、少女は踏み込んだ。
助けて欲しい。この危機的状況を救って欲しい。
だから勇気を出して、声を掛ける。
「あの!」
「あっ、はい!?」
「そのギター弾けるの?」
「あっ、はい」
「どれぐらい?」
「そ、そこそこ弾けるはず、です」
「そっか! 実は今すごい困ってて、あ、ムリだったら大丈夫なんだけど、ダメなら勿論断っていいんだけど……でもやっぱり困ってて……うん、言っちゃおう!」
一度決意を決めたんだ、言い切っちゃおう。
少女は決意する。
なおひとりは『絶対だいじょばないやつだぁぁぁぁ』と怯えていた。
「お願い! 私のバンドで今日だけサポートギター、してくれないかなぁ!」
「!?」
「実はギターボーカルの子が、ライブ当日に辞めちゃって! ある程度弾ける人ならできる曲だから、なにとぞーっ!」
「え、あっ、はい」
「はい!? 良いってことだよね!?」
「ぁ、ちが」
「本当にありがとう! すごい嬉しいよ!」
ああああ何してんだわたしぃ!
コミュ障という生物には、返事に困ると脊髄反射的に『あっ、はい』と言う習性がある(ひとり調べ)。それが仇となった。慌てて否定するも、声が小さすぎて聞こえてない。
「じゃあ一緒に行こうか!」
少女はひとりの手を握り──そして呟いた。
「あれ、春だけど
ただの疑問。ちょっとした雑談。
その一言が、ひとりを現実へと引き戻した。
「ダメ!!!」
「きゃっ!?」
衝動的に手を振り払う。
ダメだ。誰もわたしの手に触れちゃいけない。『危険』過ぎる。だって……待って。わたし、今なにをした?
「いたたた……」
ひとりは青ざめた。
「あっ、ご、ご、ごめ、ケ、ケガ」
「あー、だ、大丈夫、ちょっとビックリしただけだから。痛みもないから安心していいよ……えっと、つまり、サポートギター、嫌だったってことだよね……ごめん。無理やり連れて行こうとして」
そんなことない。まともに返事できないわたしが悪いんだ。
そう伝えたいのに言葉が出ない。
咄嗟に動けない自分の口が嫌になる。でも、このままじゃ、あの人は嫌な思いを抱えたままになる。
「でもね、ありがとう! ライブはなんとかしてみるから!」
「あ! あっあの!」
どもりながら、俯きながら。
それでもどうにか、言葉を絞り出した。
「う、嬉しかったです、とても。サポートでも、誘ってくれて」
「そうなの?」
「そ、そうです。でも……サポートギターは、できません。あ、貴女のせいじゃないです。でもできないです。できないのは、私のせいです。ご、ごめんなさい……何の力にもなれなくて……ラ、ライブ、頑張ってください!」
言えた。どうにかだけど。
意味が分からないと思う。引かれるかな。いきなり暴力を振るうヤバい奴だもん。警察に通報されるかな。仕方ないか。
恐る恐る、顔を上げた。
「──ありがと! 頑張るね!」
影を引き連れて、あの人は笑っていた。
*
金髪の少女が去り、またひとりだけが残された。
断った癖に、未練がましい感情が渦巻いている。ああ、バンド参加したかったなぁ……奇跡だって思えたのにな。
それを蹴ってしまった。今までとは比較にならない思いが胸に溢れる。奇跡は二度も起きやしないだろう。
良いんだ、これで。
ギターを上手く弾ける自信もない。ライブを台無しにするだけ。それぐらいで済むならまだ良い。
最悪の場合……ひとりは自分の手を見た。
ブランコの鎖を掴んでるわたしの手。
ゴム手袋をつけたままの両手。
「間違ってない、よね」
最初から間違ってた。
人じゃないわたしには、どれも過ぎた夢なんだ。
もう帰ろう。
ブランコから立とうとした時、手の触感を思い出す。
誰かの手を握ったのいつ以来だっけ。なんだかとても久しぶりな気がする。
『ギ、ギター!!?』
『本当にありがとう! すごい嬉しいよ!』
『──ありがと! 頑張るね!』
どうして。忘れられない。
声が。手の温もりが。影を引き連れた笑顔が。
あの人が気になって仕方がない。
ちゃんと他のサポートギター見つけられたのかな。見つからなかったら、ギターボーカルなしでライブだ。
残ってるメンバーはどうなんだろ。ギタボがいなくても、別のギターかキーボードがあればインストができる。
もしいなかったら……どうだろう。
ケガもだ。大丈夫って言ってたけど、強がりだったらどうしよう。ケガしながら演奏なんてして、悪化でもしたら。いや、わたしの考え過ぎ……どうなんだ分からない。
ダメだ。耐えられない。
「……見にいくだけ。それだけ、だから」
ひとりはブランコから立ち上がる。
少女の行先は知らない。
しかし『追跡』はできる。足跡に残る『熱』が見える。これを辿れば、いつか演奏会場に到着できる……なおひとり本人は、『足跡って見えるんだな、へー』程度にしか思ってない。知覚できているのが熱と分かってない。
ギターバックを背負い直し、ひとりは金髪の少女を追った。
そう、わたしは必死だった。
だから気づかなかったんだ。
立つ時、ブランコの鎖を、強く握ってしまったことを。
ブランコの鎖はひしゃげ、千切れかけていた。
──そして、改造人間たちが、転がり出す。
タイトル元:ぼっち・ざ・ろっく!#01『転がるぼっち』より
原作と違い、虹夏ちゃんが名乗らなかったせいで、お互い名前も知りません。ぼっちちゃんの不審者オーラが過ぎて、流石の虹夏ちゃんも、名前を言うのを無意識下で躊躇したからです。
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