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「……………え゛?」
承認欲求と同じぐらいのプレッシャーを喰らいながら、なんとか第二話投稿です。どうぞお収めください。
今日は記念日だった。
有名バンドが来るわけじゃない、開店何周年記念ってわけでもないし、特別なことも予定されてない。
それでも、このライブハウスを作った理由を思えば、忘れられない日になる。
そのはずだった。
「なんでなんだよ……」
今日は、妹のバンドの初ライブだった。
当然、成功するなんて思ってない。
初ライブから上手くいくバンドなんて一握りだ。
失敗を積んでこそ成功がある。
──ただしそれは
「……最悪だ」
予想できるか?
初ライブ当日に、ギターボーカルが失踪するとか。
妹は下北沢中を走り回り、ギリギリまでギターを探したが、結局見つからなかった。最悪わたしが手伝うことも提案したけど、頑なに断られた。
その結果がこれだ。
ギターは『華』だ。
ベースとドラムだけじゃキツい。
お客さんからしたら、どうやったって
それをなんとかしようと頑張って──無力感だけが募っていく。重いプレッシャーにミスが増える。そのミスで動揺、演奏がズレる。
悪循環そのものだ。
「一曲目、ありがとうございましたー! じゃあ早速二曲目! 入ります!」
そんなんで盛り上がるわけがない。二曲目なのに会場は静かなまま。
それでも演奏を止めないのは、バンドとしての意地か、ライブハウスに迷惑をかけたくないのか……逆にそのせいで、空気の悪化が止まらない。客もスタッフも全員いたたまれない顔をしている。
「止めてくれよ……っ!」
あんな『辛い』演奏を見たくて、出る許可を出したんじゃない。
これは誰が悪いんだ?
身内贔屓をした私が悪いのか?
目を逸らしたくなったその時──チケット売り場の扉が開いた。
「店長! こっちです!」
「……なんだよ、ライブ中だぞ」
「ギタボ! ギターボーカルの子が来たんです! こっち来て案内を! わたしは売り場離れられないんで!」
わたしは飛び出し、売り場へ顔を出す。
そこにいたのは。
「へ、ヘヘーイお姉さんッ! キープテキーラを一丁!! ジョッキでお願いシャースゥゥゥ!!!」
「あ゛?」
「あっ死にます」
我ながらビックリするほど冷たい声が出た。
*
少女は下北沢中を走り回っていた。
それを追うということは、追う側も下北沢中を走り回るということ。
「アッ、アッ、アッ」
ひとりは、真夏のアスファルトのミミズみたいに死にかけていた。
やっと到着したけど辺りは真っ暗。見つからないよう歩いていたせいだ。まさかライブ始まってるんじゃ……
しかし一難去ってまた一難。
目的地を
「……悪の秘密基地?」
改造人間がなにをほざくか。
まあ、周りと浮いてるのは確か。
繁華街の奥まったところ。ビル前の階段を下ったところに『STARRY』の看板が光る。
スマホで調べたところライブハウスらしい。
「この奥に、あの子が……」
ヤバい。超恐い。
ライブハウスなんて、近所のコンビニにさえ入れないわたしには、宇宙の果てと同じ未知の世界だ。
独自マナーあったらどうしよう、もし、こんなのがあったりでもしたら……
『刑法第
十字架に吊るされる後藤ひとり。
特に復活とかせず、彼女は灰となる。
非常にまずい(断言)。
このまま入るのは危険過ぎる。
盛り上げる用意をしなければ。
陽キャ、時間は夜。よしお酒だ、陽キャのお酒ってなんだ。えっとテキーラとテキーラ、テキーラっ……てダメだ他のお酒知らn
「あれ? どうかしたんですか?」
準備は間に合わなかった。
階段下から、受付スタッフが突如現れた!
実はSTARRYは、階段下すぐの所がチケット売り場になっている。販売中だから扉も開けたまま。人の気配に気づいた時、ちょっと顔を出すぐらい簡単なのだ。※けど途中入場できるかは会場や状況で変わります。ライブハウスはマナーを守って楽しみましょう。
「あ、あ、あの……」
「……えーっと?」
緊急事態発生!
会話デッキをスタンバイ!
カードをドロー、
「お客さんですか?」
「い! いぇっ違います! お客違います!」
「お客さんじゃない?」
うん、わたしはお客さんじゃない。ちょっと様子を見にきただけ。ライブを聞くつもりはないから間違っていない。会話デッキが役に立った!
「あっ!?」
「えっ」
急な大声にひとりは怯む。
まさか会話間違えた?
「君、ギターボーカルの子!?」
……!?
なんで!?
どうしてそんな解釈に!?
ここで後藤ひとりの外見を見て見よう!
女子学生には(一応)見える。
ギターを背負っている。
更にお客さんではない。
トドメにこの受付スタッフ、本来のギタボの見た目を知らない。
そりゃ勘違いをする。
「どこに行ってたんですか! もうライブ始まっちゃってますよ! まだ間に合います店長には私から言いますから!」
「ち、ち、ち」
「遅刻? 謝るのは後!」
抵抗する間もなし。手を掴まれ、階段下へ引きずり込まれるひとり。
もう逃げられないゾ♡
「店長! こっちです! ギタボ! ギターボーカルの子が来たんです! こっち来て案内を! わたしは売り場離れられないんで!」
ライブハウスの店長!? 絶対『ヤ』のつく人だ! 下手な回答したら殺される……大丈夫だ会話デッキを信じろ、いけるぞわたし!
「へ、ヘヘーイお姉さんッ!」
以下略。
「……この子ギタボじゃないぞ」
耐久限界を越えたひとりはドロドロに溶けていた。
一応意識はある。ギリギリだけど。
「えっ、だって妹さんのバンドコミックバンドじゃ」
「名前だけで判断すんな……言いたいことは分かるけど。コミックバンドでもここまで奇怪な奴はいねぇよ。ギタボは喜多って赤毛の子だ」
「がふっ」
『奇怪』と書かれた矢印がスライム後藤を貫く。
「じゃあこの子、通りがかっただけ?」
「さあな。まあ話せば分かるだろ」
話すって……まさかこれ『お話』ってやつ!?
あの、『オイ譲ちゃん事務所の奥来てもらおうか』的なお話!?
やっぱなにか独自ルールを破っちゃったんだ。! 早く脱出しないと。急がないと『オイ譲ちゃん』展開に! でもどこへ逃げれば!? やばい、どうしよう、急がないと! 逃げ場があああ……また意識がぁぁぁ……
「あー、もしかして、やっぱりライブ見に来……」
少女が消えた。
「……店長、消えましたね」
「消えたな」
「帰ったんですかね?」
「いやずっと見てた。瞬きしたらなんか消えた」
なんか消えたのか。そっかそっか……
二人は互いを見つめ合う。
どっちも顔が真っ青。
「き、きっとうっかり会場へ入っちゃったんですよ」
「そ、そうだな。じゃあちゃんとドリンクチケット買って貰わないとな」
その時、会場側から別のスタッフが顔を出す。
「店長、いつまでそっちにいるんですか。二曲目終わっちゃいますよ」
「あ、ああ、すぐ戻る」
「まったく、誰と長話してたんですか。誰もいないのに」
「え?」
「誤魔化さない。監視カメラで見てましたけど、
「…………」
「て、店長!? 先輩!?」
恐怖体験に二名失神。
今日一日で
最強のオーグメントの名を欲しいがままにする後藤ひとりであった。
はっ……ここは何処?
なんか意識が飛んでたような、ちゃんと脱出できたのかな。
それにしても落ち着く……ダンボールの中にいるみたい。なんか自宅の押し入れっぽくてホッとする。でもここどこ? 意識が飛んでたから分からない。
ダンボールを脱ぎ、辺りを見渡す。
楽器のケースや、流行りの曲のスコア。カバンや飲み物は多分私物。
どうやらバンドの控室らしい。
……控室?
「!?」
控え室だって!?
なにやってんの、わたしぃぃぃ!?
どうしてよりにもよって控室!? あそこからは逃げれたけど、今度は不法侵入じゃん!? いくら慌ててるからって! もうダメだ犯罪成立だ。刑務所に向かってドナドナドーナー……
「じゃない、そうだ、ライブ見なきゃ」
この際、見てしまおう。後のことは後で考えよう……現実からちょっと逃げたいし……
控室の隙間から様子を伺う。
どうか上手くいってますように……
そしてひとりは。
「……そんな」
決断の結果を思い知る。
ドラムを叩くあの子。
ベースを弾く青髪の少女。
その二人だけ。
地獄だった。
「……見つからなかったんだ、誰も」
無力感、悔しさ、いたたまれない空気。会場にあるのはそれだけ。
「……私のせい?」
あの時、勇気を出していれば。
わたしが憶病だったせいで……いや、演奏とか憶病とかの問題じゃない。わたしがバンドに参加、いや、誰かに触れたりしたら……
死人が出かねない。
そうなったら、わたしは
「二曲目! あ、ありがとうございましたー!」
あの子に、笑顔が張り付いていた。
ベースの人は一見冷静そうだけど、目線が不安に揺れている。
わたしは立ち尽くすだけ。
けど仕方がない。わたしにしては頑張った。
元々の目的は達成した。
ライブは失敗。それだけの話。誘いを蹴ったわたしには関係ない。また人がいなくなった隙を見て出ていこう。
「次で、最後です、聞いてください!」
そっか、次でもう最後。
この地獄みたいな時間が、やっと終わるんだと、わたしも思ってしまった。
──だからそのお客さんに、悪気なんてない。
「やっと終わりか……」
その呟きが聞こえたからだろう。
少女の笑顔が、遂に崩れた。
その時、控室に静寂が戻った。
ダンボールが消え、ひとりの姿も消える。
監視カメラにはなにも残らない。
ただ、空のギターバッグだけが増えていた。
*
悪いのはわたしだ。
バンドを組んで、ギターボーカルも来てくれて、調子に乗ってたんだ。顔合わせもそんなにできなかったけど、人を騙すような子には見えなかった。なにか事情があったのかもしれない……それに気づけなかった。だからこんなことになっている。
みんなごめん。
こんなことになっちゃって。
三曲目もダメだった。最初からズレた。私が走ってしまった。
原因は分かってるんだ。
走ってるのは……私自身が、ライブを早く終わらせたがっているから。
だって……わたしだって、こんなの……
ああ、誰か助けてくれないかな……そう、都合の良い悲鳴を上げた時。
ギターの音が轟いた。
「……え」
演奏をぶった切り、
二人の少女、スタッフ、客、全ての目線がステージへ向かう。
そこにはダンボールがいた。
「は?」
完熟マンゴーのダンボールが鎮座していた。
いったい、いつから?
さっきまで、なにもなかったはずなのに……その混乱さえ、ぶった切られた。
再びギターが響く。
誰かが、ダンボールの中でギターを弾いてる。いつのまにかアンプまで繋げてある。
ざわつく会場。怪奇現象を見た気分だ、わたしだって動揺してる。
全ての疑問を置き去りにして、ギターソロが始まった。
「二曲目のイントロ……?」
テンポがまるで安定してない。音もだいぶ外してる。
でも確かに、二曲目の最初の部分。
「……!」
中の人が誰かなんて分からない。
けど、言いたいことは伝わった。ベースとアイコンタクト。イントロの終わりに合わせ、ドラムスティックを打ち鳴らす。
二曲目のリベンジが始まる。
演奏は下手なまま。
ギターは不安定、音も外す、ダンボールでアイコンタクトもできない。
助っ人の正体はド下手ギタリストだったんだ。
だけど止まらない。
下手なままだけど、さっきまでとは、まるで違う。
ギターが加わったおかげで、わたしたちはスリーピースバンドになれた。
ギターを追ってドラムが走る。
早く終わらせるためじゃなく、弾む心に乗せられて。
ベースのテンションも上がりだし、演奏が激しさを増す。
「凄いな、アレ」
「どうしてダンボールなんだ……凄いけど」
「あんな曲だったんだな」
わたしたちの『楽しい』が伝播する。
お客さんたちの身体も動き出す。
少しだけ、ギターが心配だ。
ちょっとだけど苦しそう。お客さんが楽しんでるのにも気づけてないみたい。助けに入ったのに、上手く
でも、『本当は楽しくてしょうがない』、そんな『音』も聞こえてる。
だからあとで伝えてあげよう。
大丈夫、楽しい演奏ができてたよ──って!
初ライブは、奇跡的に成功した。
嬉しさで泣きそうだけど、それどころじゃないのは分かってる。
控室に戻った彼女に、ベースが声を掛けた。
「虹夏の知り合いなの?」
「リョウの知り合いじゃなかったの?」
「私にあんな凄い知り合いいないよ」
ドラムの少女、伊地知虹夏。
ベースの少女、山田リョウ。
目線の先には完熟マンゴー。
「…………」
「……じゃあ、誰?」
圧が半端じゃない。
気のせいか『ゴゴゴゴゴ』って聞こえる。
「動かないね」
「酸欠で死んでたりして」
「助けてくれた人になんてこと言うの!? そんなわけないでしょ……ないよね?」
ダンボール内で全力演奏。
……ないと言い切れないのが怖い。
「さあ虹夏の出番。あのダンボールを外すんだ」
「え!? あたしが取るの!?」
「バンドのリーダーは虹夏でしょ。ちゃんとお礼を言わなきゃダメ。『サポートギターしてくれてありがとう……ド下手だったけど』って」
「言えるかぁ!」
そりゃ確かに下手だったけど!
三曲目の最後とか、
というかアレ、何の音だったのかな?
「リョウはやらないの!?」
「ごめん恐い」
「……そっか」
恐いならしょうがない。
……恐る恐るダンボールへ近づく。
「死にかけのセミを触りにいってるみたい」
「山田ぁ!」
ちょっとUターンしてバックブリーガー。
「あの、恥ずかしいのかもしれませんけど、直接お礼言いたいので……ダンボール取りますね。じゃあ取ります! それっ!」
同時に口を開く。
ライブ中に感じたそれを伝えるため。
「あのね──」
その中には──
「え!?」
「……いない?」
何もない。
誰もいない。
影も形もなかった。
「リョ、リョウ、演奏終わってから、誰かこの中から出ていった?」
幼馴染は顔を青くしながら首を横に振る。
控室の気温が、心なしか下がった気がした。
ま、まさか本当にオバ……
「っ虹夏、待って」
「え?」
「そこ、なにか引っかかってる」
ダンボールの持ち手になにかがある。
「これって」
「……見覚えが?」
虹夏は、その変哲のない物を見て、目を見開いた。
「ゴム手袋……?」
『あのね』の続きは、まだ届かない。
*
やってしまった。
わたしは何をしてるんだ。バカなことをした。調子に乗った、最低だ。ライブを台無しにした!
「──ッ!」
酷い演奏だった。ドラムとベースだけの方がきっとマシだった。乱入しておいてなんてザマだ!
後悔してももう遅い。
ライブはもう終わった。全然助けられなかった!
なんでわたしは、こんなことを……自宅の扉を乱暴に扉を開ける。
『あらー、お帰り、ひとりちゃん』
『お帰り、遅かったじゃないか、どうしたんだ?』
出迎えてくれた両親も無視して、自分の部屋へ転がり込む。
「うぁ、ぁ、あああああ!」
出なければよかった。
辛い。心が抑えきれない。衝動のまま叫ぶ。
近所迷惑だとか、〇〇〇が起きるとか、そんなことにさえ気が回らない。
「うぅ……なんで、なんで……!」
だけど、酷い演奏よりも、何よりも分からないのは。
「なんで……
ライブ台無しにしておいて、楽しいってふざけてる。
なのに心は弾んでる。初めてのライブ、初めてのセッションが、頭から離れない。
「……なんで……楽しかったの…………」
みんな、楽しんでたのかな? 分かんない。必死だったから見てなかったけど……調子に乗っちゃダメだ。あり得ないそんなこと。
それでも気持ちは誤魔化せない。まともにできなくて、惨めで、悔しくて、なのに心が弾んでて、嬉しくて……頭がぐちゃぐちゃだ。
「うっ……うぅ……」
ヘルメットを濡らしながら、呻き続ける。
しばらく喚き散らして、やっと落ち着いた頃、自分のギターが目に入った。
それが現実を突き付けてくる。
「……ギターだけは、人並み、だったのに」
三曲目、最後の時に、わたしが引き裂いてしまったのだ。
これが現実。唯一の取柄すら、今のわたしはまともにできない。
「……夢みたいだったなぁ」
だから、夢の時間はもう終わり。
とっくに終わってた夢を、また見れた。
それで十分過ぎる。
だって、こんな身体じゃ、夢は追えない。
そう泣きながら『日課』を始める。
まずは……あれ、片方ない。無くしちゃったのかな。買い直せばいいか。
片手のゴム手袋を外す。
続けてヘルメットを脱ぐ。
最後に『鏡』を見る。
自分の姿が映る。
戻っているかも──僅かな願いを込めて。
「……ダメだ」
いたのは、夢を壊した
割けた瞳孔。
びっしりと張り巡らされた鱗。
顔に走る裂け目。
口内に収まってない鋭い犬歯。
……あぁ、また今日が終わる。
何か一つも、変わっていないまま。
──後藤ひとりは改造人間である。
タイトル元:仮面ライダー初代オープニングテーマ『レッツゴー!! ライダーキック』より
この次元のぼっちちゃんは、原作時空よりギターがド下手と化しています。どうしてド下手になったのかは、次回で説明予定……ところでどうやって結束バンドに合流させよう?
また、高評価投票をしていただいた、
☆9:刺身の盛り合わせさん 蒙衆昧愚さん クロノワールさん フラフラジールさん 余田 礼太郎さん 上のフナムシさん あんこ区大魔王さん 野点さん 怠慢屋さん 乙亥さん フォレス・ノースウッドさん
誠にありがとうございます!感謝感激です。
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