・ネタバレ防止の為タイトルは隠します。
・ハッピーバースデーぼっちちゃん!(5日遅れ)
・約10,000文字、普段より長いです。
・舞台版続編ヤッター!
・『#06:カチカチ』の約束、皆さま覚えてますでしょうか?
・では、御覧ください。
「やだ!」
子供の声が聞こえる。
あれは、誰なんだろう?
「ライブなんて絶対行かない! バンドなんて大っきらいだもん!」
せっかく誘ってくれたのに酷い態度だ。
そんなんだから、姉は「誘わなきゃよかった」と吐き捨ててしまう。
「虹夏ライブハウスなんて一生行かなくてもいいもん!」
──思い出した。
あれは、わたしだ。
「わーんっ! お姉ちゃんのバカーッ!」
そうだ、わたしはバンドが嫌いだった。
「わあぁあぁんっ!」
バンドを始めてから、お姉ちゃんは全然家に帰ってこなくなったし、遊んでくれなくなった。
だから、バンドが嫌いだった。
「いらないもん……別に夢なんて」
寂しがるわたしに、お母さんは言った。
『虹夏、夢はね──』
その時は、その言葉の意味が分からなかった。
そして、それから一か月ぐらい後に。
お母さんが死んだ。
「もうずっと家にいる!! 何もしたくない!!」
わたしは『絶望』した。
どこにも行っても、なにをしても、ムダだと思えた。
全部悲しいだけだから。
「結べないもん……もうお母さんいないもん!!」
泣きじゃくるわたしを見て、お姉ちゃんも、泣いていた。
その日の夜、お姉ちゃんは自分たちのライブに、わたしを連れて行ってくれた。
そして、ライブが始まって、キラキラ光るお姉ちゃんを見て。
お母さんの言葉が理解できたんだ。
ありがとうお母さん。
ありがとうお姉ちゃん。
──今度は、あたしの番だ。
*
加速装置の力は圧倒的だった。
「う、ぁ……!」
ふたりの姿を捉えられない。
しかも溶けるより早く殴ってくる、液化も間に合わない。
「もう一発行くよー!」
腹に拳がめり込む。
内臓が潰れる。激痛が弾ける。
血で溺れそうになる。
「ぁっ、が、か」
「んもー! ちゃんと戦ってよお姉ちゃん!」
戦いは、第1Tオーグの優勢で進んでいた。
加速装置の存在は大きい、だがそれ以上に──ひとりは、痛みに慣れていなかった。
(あ゛あ゛あ゛あ゛!! 痛い痛い痛い痛い痛い!!)
弱点とは言えない。
ただの少女が、どうして殺し合いに耐えられようか。
「虹夏ちゃん死んじゃうよー? あはははは!」
それでも意識を保っているのは、意地だ。
気絶したら、すべてが終わってしまう。
それだけは絶対に許されない。
「ぁ、ああああ!」
麻痺ガスを放出、同時にギターから共鳴音波を響かせる。
「加速!」
加速したふたりは『音波』を追い越す。麻痺ガスも加速の風圧で吹き飛ばされ、ひとりのマスクを殴り飛ばす。今度は顎が砕ける。
「そんなんで、よくここまで来たね! そんなに虹夏ちゃんが大事なのかな!?」
ライダー戦は洗脳プログラムに大半を任せていた。しかしふたりを殺すわけにはいかない、プログラムは使えない。
「隙だらけ!」
「あっ!?」
髪の毛が触手のように伸び、ひとりのギターを奪い取った。
「プラーナを回復されるのは、ジャマだよ!」
瞳を輝かせる。
ビームで、ギターを壊そうとする。
──だがその時。
「!?」
ふたりが、ごぼり、と吐血した。
奪ったギターも地面に落とした。
「ふたり!?」
チャンスだ。
今なら足にビームを当てられる。
それで動けなくすれば、どうにかできるかもしれない。
そしてひとりは。
「──っ!」
撃てなかった。
妹は撃てなかった。
「はぁ、はぁー……か、加速ッ!!」
「!!」
咄嗟にギターを取り返す。
しかし、すれ違うように身体を刻まれる。
「──ぁ、ぃ」
「そ、そろそろ諦めた?」
「……まさか、その加速、身体が」
「……今更ふたりの心配? 見捨てたくせに……すっごいイライラする!」
加速装置を使う度に。
ふたりの身体は壊れていく。
「なんで、そこまでして」
ギターを盾代わりに。
猛攻に耐えながら、ひとりは問う。
「言ったでしょ、幸せになってほしいの!」
「全然分からない!」
「じゃあ、分かるよーに言ってあげる。ふたりたちは、化け物なの、どこにも帰れないの!」
「!!」
容易く人を殺せる怪物。
そんなものを受け入れる社会は、存在しない。
その言葉にひとりは察する。
わたしの知らない間に、妹も人でなくなった絶望に打ちひしがれたんだ。以前のわたしのように。
だけど、結束バンドがそれを変えた。
「違う! みんなわたしが必要だって──」
「そうやって引き留める! だから分からせてやるの! お姉ちゃんに関わったらどうなるのか!」
「みんなを襲ったのはそのため!?」
「分かったでしょ? お姉ちゃんがいると、みんな巻き込まれるって!」
社会は改造人間を守ってはくれない、だから必ず不条理に襲われる──周りの人も巻き込んで。
「バンドを辞めるのが、お姉ちゃんの幸せ!」
ふたりが殴りかかる。
ひとりがギターを振るう。
──ピキリ、と音が鳴った。
「──あ」
「限界、だね」
ギターが砕けた。
動力部が爆発。ひとりは吹っ飛ぶ。
「もうプラーナは回復できない、ね……」
加速の負荷でふたりも吐血。
お互いに動けなくなる。
「お姉ちゃん、虹夏ちゃん助けたい?」
「……え?」
意図の分からない問いかけ。
困惑する姉に、ふたりは手を伸ばす
「その『鍵』をくれれば、血清をあげる。ふたりが世界を変えるから!」
分からない。
ふたりは──なにを言ってるの?
「……なんで?」
「バンドを辞めても幸せは壊される、
だから、『鍵』で世界を変えるの! お姉ちゃんの幸せをふたりが守る! 誰にもお姉ちゃんを傷つけさせない!」
絶望は突然降り注ぐもの。
押し入り強盗に教われた日、ふたりはそれを知った。
だから、あらゆる不幸から姉を守る。
その為に世界を変える。
「それが、ふたりの幸せ」
妹の願い。
それを聞いたひとりは。
「絶対に渡さない」
即座に拒絶した。
こんな願いは認められない。どうして、わたしの幸せを願うのか分からないけど。
「……なんで?」
「それは、幸せじゃない」
ふたりに全部を押し付ける。
幸せなはずがない。
断言できる。
「──なら、分からせてあげる」
ふたりが振り返る。
ビームの照準が、虹夏の頭蓋に合わさった。
彼女が殺される。
「バンドを続けたら、こういうことになるってね!!」
「止め──」
そして、仮面から、ビームが──
「ぉ、おおおおお!!」
まさにその瞬間。
シン・サイクロン号が飛び込んできた。
*
サイクロン号を跳ね上げる。
ふたり目掛けて、ぶち当たりに行く。彼女は寸前で液化し回避──これで、虹夏の殺害阻止に成功。
一文字はひとりに手を伸ばす。
「大丈夫か嬢ちゃん」
「……す、すいません、一文字さん」
「謝罪じゃない、そこは感謝だ」
「あ、ありがとうございます、一文字さん」
「『さん』じゃない、ここは呼び捨て……は、ちょっとアレだよな」
「あ、あの、そのバイクは」
「借りた!」
ひとりは、彼の手を取り起き上がる。
「状況は最悪だな」
「お、お願いします、あの子にもパリハライズを!」
「無理だ、データがない」
仮にこの場でデータを取れても、彼にプログラムは作れない。
「5分を切る」
彼は決断を迫る。
「手立てはあるのか」
「……マ、マスクを外します」
元々のふたりからは、考えれない行動の数々。マスクの生存本能を高める機能の影響なのは間違いない。それを取れば望みは生まれる……『多少』であっても。
「その後は」
「……え、えっと」
「まさか、ノープラン、なのか!?」
「そ、そこは『信頼』……なんて言えないけど……あ、あと数分、信じてほしいです、
「………」
とんでもないバカだ。
付き合う理由はない。
──だが、まだ5分は残されている。
ならば賭けない理由はない。
「分かった、なにがなんでもマスクを外す」
なぜなら、自分は仮面ライダーなのだから。
「行くぞ、嬢ちゃ……
「……お、お願いします、
三つの仮面。
異形の瞳が、光り出す。
*
「か、加速っ」
ふたりがスイッチを押す。
しかし、全身の激痛に倒れ込む。
「今だ!!」
その隙を突き、マスクの破壊を試みる。
「ま、だ、だぁ!」
一瞬の間にふたりは液化、地面に溶け込んでしまう。
次の攻撃は地面から来る。
ひとりとライダーは、真下を警戒。
だがそれは罠。
「違う! ステルスだ後藤」
「遅い」
瞬間、ひとりは後頭部を掴まれた。
ふたりは、予めステルス化した上で、地上に出たのだ。
背後を取られた。
そして、地面に思い切り叩きつけられる。
「鍵を渡して!」
背中にビームが照射される。
皮膚が焼き切られる。
背骨を直接炙られる激痛。
断末魔が溢れ出す。
「うぁ、あああ゛あ゛あ゛!?」
「鍵を渡せば、もう痛くしないよ!?」
「いや、だ!!」
千切れそうな意識の中、ひとりは髪の毛を伸ばし、ふたりを縛り上げる。
「拘束なの!?」
「は、隼人、さん、今!!」
「任せ──」
「だから、ふたりは溶けれるんだってば!」
ふたりは再度液化。
髪の毛の拘束から脱出。
再び地面の亀裂に逃げ込もうと──
「分かってるさ」
だが、ライダーは予想していた。
「同じ手は通じないってな」
タイフーンが回りだす。
最大出力、あたりの空気が、猛烈なパワーで吸われていく。
液化したふたりも、吸い込まれていく。
「え、ぁ、なにが!?」
もし、ダイナモに呑まれたらどうなる?
ふたりは、液化を解かざるを得なかった。
「掴まえた!」
吸い寄せたふたりを、ライダーが捕える。
「は、離してッ」
「残存プラーナは僅か、もう液化はムリだな!」
ライダーが手を掲げる。
マスクへ手刀を振り下ろす。
「は!!?」
だがなんと、手刀がふたりの頭を
(殺──いや、これは!!)
「ここだけ、なら、溶かせたよ」
全身液化は不可。
なら、手刀が当たる箇所だけで良い。
それをふたりは瞬時に実行した。
(なんてセンスだ……!)
「今度は、ふたりの、番だね」
「ヤッベ──」
そして、この時間で、再使用の余力は稼げていた。
「加速!!」
ライダーが加速世界へ引き摺り込まれる。
加速装置の使用時において、かかるGや空気摩擦は速度相応。
専用の改造をしてない存在が、そのスピードに晒されれば、どうなるか。
──御覧の通りだ。
「ぐがああああッ!?」
加速のGがライダーを破壊。
地面へ叩きつけられ、足の骨が砕け散る。
「は、隼人さん!!」
「そこで、おとなしく見てなよ──ぁ゛、が」
更に吐血する。
マスクは既に真っ赤。
加速装置の連続使用。
ふたりの身体は限界を越えていた。
(こ、これ以上加速させたら、ふたりが……!)
なのに止まらない。ふたりはよろめきながら、ひとりのマスクを引き剥がそうとする。
「鍵を渡して! お姉ちゃん!」
「嫌だ!」
「虹夏ちゃん死んでいいの!?」
「それも、嫌だ!」
「わがまま言わないで! みんな不幸にしたいの!? それとも、まさか、お姉ちゃんが世界を変えるの!?」
「そんなつもり、ない!」
ふたりのマスクへ手を伸ばす。
渾身の力を込め、引き剥がそうとする。
「世界を変えなくても幸せはある、結束バンドにいた時間は夢みたいだった!」
「……知ってるよ、お父さんが、お母さんが、ジミヘンが、家族がいて、幸せだった……でも、みんな壊れたじゃんか!!」
「それ、は……っ」
「全部、ムダなの!」
「……違う」
みんなが教えてくれた。
もし、わたしが最後に消えたとしても。
一緒にいた日々は忘れないって。
「ムダにしたくない、だから、文化祭に出るんだ!」
わたしを彩る記憶が。
ギターを通じて、歌へと変わる。
それは、誰かの記憶に残り続けるだろう。
きっとそれは、『幸せ』と呼んでいいことのはずだから。
「自分のことばっか……そーやって、みんな不幸にするの……ふたりを見捨てた時と同じだよね!?」
全身からビームが放出。
ひとりは吹き飛ばされる。
(分からない、なんで、こんな、ふたりは必死なの……!?)
時間が迫る。
これ以上、かける言葉が見つからない。
妹の心が分からない。
ふたりはドス黒い叫びを上げる。
「わたしは認めない、お姉ちゃんを不幸にするバンドなんて、大嫌いだ!!」
「ダメだよ、そんな嘘」
掻き消えそうな。
なのに、その声はハッキリ聞こえた。
声の主を見て絶句する。
どうして、そんな怪我で立っていられるのか。
どうして、ふたりに声をかけたのか。
けれども、なによりも。
──どうして、ギターを持っているのか。
ふたりが捨てたギター。
もう一本のオーグ用ギター。
それを携えて、虹夏ちゃんが立っていた。
*
立てるような状態じゃない。
なのに、虹夏ちゃんは、その両足で立っていた。
「ウソ? ふたりはウソなんて」
「お姉ちゃんがバンドに、奪われたみたいで、寂しくて、バンド嫌いなんだよね。だけど本当は、見たいって思ってる……」
「ふたりの、なにが分かるの!?」
「分かるよ、あたしも、妹だったから。知りたいよね、なんでお姉ちゃんが、バンドに夢中なのか」
必死で立つ理由は分かっていた。
わたしのためだ。
「ぼっちちゃん」
わたしを助けようとしている。
わたしじゃできない
「ううん」
それで、いいの?
君からしたらあの子は他人でしかない。
それでも、わたしを助けてくれるの?
「お願い、ギターヒーロー」
──聞くまでもないことだ。
命を使い切るような、その優しさを信じなきゃ。
「はい」
わたしは
「喧嘩は、これで、終わりです」
ギグバを開ける。
ブラック・ビューティ。
お父さんの形見を見て、ふたりは首を傾げた。
まさか、わたしたちが、なにをしようとしてるのか、分かってないのかな?
「わたしは、ヒーロー」
だってギターだよ?
やることなんて、一つしかない。
「ギターヒーローと、もう一度、名乗らさせてもらいます」
虹夏ちゃんに合わせる余力はない。
つまり、その歌を導くのは、わたしの役割。
だってリードギターだから。
貴女はわたしを助けてほしい。
わたしは貴女の力になるよ。
(一緒に、ふたりに、聴かせよう!)
わたしたちは、互いのヒーロー。
そして、二人で一つのヒーローだから。
「鳴り止まなくてなにが悪い
青春でなにが悪い──」
観客は一人だけ。
今夜限りのライブが始まった。
*
二人のギターが重なり合う。
バッキングが、リードギターが、夜空を震わせる。
「なに、なんなの」
虹夏は思い出す。
初めてのバンドミューティング、その帰り道。もしもの時、ぼっちちゃんを、助けなきゃいけない。
その為に約束をした。
『大変なスケジュールになるけど……必要だとわたしは思う。やれそう?』
必要な時が来たよ。
かなり、想定外だったけど。
──
それが、あの日交わした約束。
「その身体で、なんで、歌えるの……?」
──だが、虹夏は今にも倒れそうだった。
脚には風穴。
致死性のヴィルース。
痛みで意識が飛びそうになる──だけど、身体の中まで響く、彼女のギターが、わたしの声を導いてくれる。
それがリードギターなんだ。
貴女が助けてくれるなら。
わたしは貴女の力になろう。
(一緒に、ふたりちゃんに、聴かせよう!)
わたしたちは、互いのヒーロー。
そして、二人で一つのヒーローなんだから!
「うるさい……ジャマだ!」
「させるか!」
「ライダー!? 足は折ったのに!?」
「手はまだ動く、這いずったんだよ……おとなしくライブ聞け!」
「どいて!」
虹夏は幼い自分を幻視する。
あの子は昔のあたしだ。
寂しいってだけじゃない。幸せを奪われて、どこにも行けなくなったんだ。なにをしても悲しだけで、全部ムダって思ったわたしと同じ。
「今すぐ止め──」
「させるか、って言ったろ!」
「関係ない人はあっちいって!!」
「ぐがッ!?」
「手も砕いた! これで、動けな……あああ! もう歌わないでよ!」
昔のわたしと同じなら、助ける方法も同じだ。
「止めて! 歌わないで!」
見せてあげる。
あの日、お姉ちゃんが、わたしに見せてくれたのと同じように。
バンドに夢中になった
夢が輝いてることを。
このライブで!
*
「なんで笑ってるの!? 改造人間とバンドしても、全部ムダになるのに、どうして、楽しいの!?」
ふたりは錯乱していた。
全てはムダになる、なのに、死にかけなのに、楽しんでいて──あり得ない光景だ。
認められない。
信じられない。
致命的な矛盾に思考が止まる。
それは、マスクを壊す最後のチャンスだった。
(クソ! 動けねぇ!)
手は破壊された。
脚は折れたまま。
誰かの助けが必要だ。
しかし、ここにそんな人はいない。
そう、『人』は──カッコ悪いが、なりふり構っていられない。
(……頼む、サイクロン!)
ライダーはベルトの装置を回し、サイクロン号を呼び寄せる。そして、自分自身をふたりの方へ向かって、
「なにが、なんでもだ!!」
渾身の頭突き。
ライブに錯乱していたふたりに、回避の余裕はなく。
「──ぁ」
マスクは割れた。
呪縛は解かれた。
音を遮るものは、もうない。
*
歌が響き渡る。
夢を見せるために。
夢を見続けるために。
「机の上には無い僕らの答え
ずっと隠してた
大切な言葉を 今! ほら!
伝えなきゃなんだ」
あの子は多分正しい。
改造人間とバンドをするなんて夢物語だ。たくさん辛い思いをして、最後に別れがやってくる──そんな終わりかもしれない。
だからこそ、終わりが来るからこそ。
止まっちゃいけない、この心に、強く刻まなきゃ。
「たとえば人と違う夢描くこと
君と喧嘩したこと
全ては最高のプレゼント
大人になった僕へのプレゼント」
人生のすべてに、ムダなことなんてない。
悲しくても、辛くても、絶望だらけでも。
最高だったって、胸を張りたい。
「──ねぇ そう信じてんだ なにが悪い」
だから楽しもう。
こんな状況でも笑い合おう。
『夢』はそうやって生まれてくる。
もっとこうしていたいって、未来を信じることができる。『夢』があれば、絶望の中でも進んでいける。
「おしえて
僕は何処へ向かえばいい?
心は透明だ!
大切はここにある ほら!」
君にも『夢』を見て欲しい。
小さなあたしのように。
「心臓がうるさく僕に伝えんだ
「行こうぜ ずっと先へ」 先へ
惨めな夜もバカ笑いも
あのね、その後が言えた日の笑顔も」
だって、夢は。
どんな辛いときも、道を照らしてくれる光になってくれるから!
「鳴り止まなくてなにが悪い
青春でなにが悪い──……」
霞む視界の中。
虹夏は光を目指す。
この、キラキラした世界を、わたしたちも見せれただろうか。
ああ、でも一つだけ。
幸せってなにか、わたしたちは分かった気がした。
*
光が眩しい。
瞼が重たい。
眼を開くと一面の白。
「……あの世?」
「物騒なこと言わないでくれ」
「……一文字、さん?」
虹夏は意識を失っていた。
眼が覚めるまで、一文字が隣で見守っていた。
マスクは外していた。
「ふたりちゃんが血清を打った。もう死ぬことはない」
「……お礼、言わないと」
「ヴィルースを撃ったのアイツだぞ?」
「正気じゃなかったんだし、気にしてないよ……」
彼は呆れた。そりゃマスクのせいでの凶暴化だが、だからって納得できるのか?
「全員お人好しかよ……」
「あの、ぼっちちゃんは?」
「無事だ、ふたりちゃんの方についてる、行くか?」
「ううん、邪魔しない」
少し離れた場所。
ひとりは妹へ膝枕をしていた。
彼女たちも、マスクはつけていなかった。
やがて、ふたりが目を開ける。
「………」
「あ、お、起きた?」
「殺して」
ひとりは一瞬息を呑み……落ち着いて、問いかける。
「……どうして?」
「……分からないの、苦しんでほしいけど、幸せになってほしくて」
ふたりは、自分でも分からない感情を、たどたどしく口にする。
ボロボロと、溢れる涙を交えながら。
「みんな死んだのに、バンドで、ギター弾いてたの、許せなくて……」
「みんなを、わたしも苦しめたかったの?」
「……みんなのこと、忘れたのかなって……バンドしてたら、不幸になるし、でも、ギター弾くお姉ちゃんは、キラキラしてて、好きなままで……取り返して……守らなきゃって思ったの」
全て本心なんだろう。
自分の元で守ろうとした。
バンドも辞めさせようとした。
連れ戻そうとする奴は『敵』だった。
どれも、子供が持っちゃいけない感情だった。
その一因は自分にある。
「……ごめんね」
ひとりも泣いていた。
「なんて言われるか恐くて、全部忘れてたの。一人で楽しんでてごめん。それでも、あんな目に合わせたのに、まだ、ギターが好きで、ごめん」
「……
「しょ、SHOCKERには、少しだけ感謝したほうが」
「は?」
途端涙が引っ込んだ。
この姉なに言ってやがる?
「ほ、ほら、拾われてなかったら、わたしたち絶対死んでたし」
「ないよ? 改造されたんだよ? 最低だよ?」
「え? あ、確かに」
「サイテー……」
「あっ、ごめん……」
そりゃ事実なのだが、ここで言うことではない。
最悪に空気の読めない――ある意味、いつのも姉らしい──失言に、ふたりはそっぽを向いた。
「………」
「えっと、悪いのお姉ちゃんだから、許さなくてよくて」
「………」
「な、なにをすればいいかなー……?」
「それ聞くの?」
マジで分からないのである。
なんなら、姉妹喧嘩すら人生初。
ひとりは本気で困り果てていて──やっぱり昔と変わらない
「……ライブ」
「え?」
「お友だちとだけなんてズルい、ふたりともライブして」
「わかった、でも曲は?」
「アレ、発表会の」
「……うん」
ふたりを膝に抱え上げる。
ギターを構える。
タンバリンの代わりに、両手を広げる。
跳ねる四拍子。
行くよ? せーの! で歌が始まる。
「「とぅいんくる とぅいんくる
りとるすたー
はうあいわんだー わっゆーあー
あっぷぁばうだ わーそーはい……」」
刻まれた傷はあまりに深い。
この姉妹は、もう元通りにはなれない。
「「とぅいんくる とぅいんくる
りとるすたー
はうあいわんだー わっゆーあー……」」
だがそれは、絶望だけじゃない。
他人は分からない、だから関わり合って、互いの心へ痕を残す。それは傷と同じく無くならず、思い出として在り続ける。
そこからは、新しいナニカが生まれるはずだ。
音楽だって、バラバラな個性が一つに集まって、生まれてくるのだから。
「「とぅいんくる とぅいんくる
りとるすたー
はうあいわんだー わっゆーあー……」」
音楽は、頑張る人を裏切らない。
姉妹は歌い続ける。また一緒の思い出を、生み出していきたいから。
*
虹夏は再び眠った。
その隣で、一文字は、朝日を背に立つ。
いつのまにかそんな時間だ。
「俺だ」
無線が入る。
「ああ、終わっ……体内に核爆弾ッ!?!? あ? 対応は済んで……済んでるなら、頼むから先に言え!」
最悪なドッキリにキレた後、彼は確認する。
「奴らは? 対処済か。ありがとう、そう伝えといてくれ」
無線を切る。
江の島大橋に光が刺す。
空は水色、雲は真っ白。
みんな助けられた。怪我は負ったが、誰も彼も生きている。
……助けられたのだ。
あの時と違って。
勿論、過去が変わったわけじゃない。絶望は消えない。しかしこの戦いを通じて、一文字は救われたのだ。
祝福のような夜明けを前に、一文字隼人は呟いた。
「ああ。これで心スッキリだ」
──そして、改造人間たちに、朝が来た。
タイトル元:ぼっち・ざ・ろっく!第3エンディングテーマ『なにが悪い』より
『シン・ぼっち・ざ・ろっく カード』
伊地知虹夏
結束バンドのドラム&リーダー。
後藤ひとりと出会い、物語の始まりとなった人。
ふたり以外で唯一の『妹』であり、だからこそ、一番彼女の心に寄り添うことができた。虹夏がいなければ、後藤ふたりの救出は、絶対にできなかったのだ。
ひとりにとっては、自分を暗闇から引っ張ってくれるヒーロー。虹夏にとっては、夢への道を引っ張ってくれるヒーロー。互いが、互いにとってのヒーローだった。
そして、この戦いにより、彼女たちは二人で一つの、ダブルヒーローに成ったのだ。
もっとも、こんな鉄火場は二度と起きないだろう。
仮面ライダーがいる限り。
『なにが悪い』を聴かせるのは決まっていました。
しかし江の島にドラムは持ち込めません。
かと言って、虹夏ちゃんだけボーカルオンリーはちょっと寂しいです。
なので、虹夏ちゃんにもギターを弾いて貰うことになり、#06カチカチの伏線を仕込むこととなりました。
「人生の全てに無駄なことなんてない」……なにが悪い、の歌詞と重なるものを感じた、気がします。
最後の一文は、#01転がる改造人間の、最後の一文と呼応させてます。「朝が来た」なのは、かえってくるライダー、の歌詞ネタです。
これでシリアスは終わり!
心がスッキリした方は、下のボタンを押すのです!!
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高評価をくださった皆さまです!
☆10:柚子乃葉さん
☆9:AO1104さん poyayanさん tubuyakiさん 味音ショユさん
投票、ありがとうございます!!
おかげさまで、ここまでどうにか書けました!
評価、お気に入り、感想、ここすき、もう完結だけど是非プリィィィィズッ!!
喜「次回!」
リョ「後藤ひとりは改造人間である」
虹「最終回!」
ぼ「『人間コンプレックス』」
虹「せーのっ!」
全員「是非「見「て「て」ください!」てね~!」
虹「……もっかいやる?」