【完結】後藤ひとりは改造人間である   作:鹿狼

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・ラスボス戦です。
・ネタバレ防止の為タイトルは隠します。
・ハッピーバースデーぼっちちゃん!(5日遅れ)
・約10,000文字、普段より長いです。
・舞台版続編ヤッター!
・『#06:カチカチ』の約束、皆さま覚えてますでしょうか?
・では、御覧ください。


〇〇〇〇〇

「やだ!」

 

 子供の声が聞こえる。

 あれは、誰なんだろう? 

 

「ライブなんて絶対行かない! バンドなんて大っきらいだもん!」

 

 せっかく誘ってくれたのに酷い態度だ。

 そんなんだから、姉は「誘わなきゃよかった」と吐き捨ててしまう。

 

「虹夏ライブハウスなんて一生行かなくてもいいもん!」

 

 ──思い出した。

 あれは、わたしだ。

 

「わーんっ! お姉ちゃんのバカーッ!」

 

 そうだ、わたしはバンドが嫌いだった。

 

「わあぁあぁんっ!」

 

 バンドを始めてから、お姉ちゃんは全然家に帰ってこなくなったし、遊んでくれなくなった。

 だから、バンドが嫌いだった。

 

「いらないもん……別に夢なんて」

 

 寂しがるわたしに、お母さんは言った。

 

『虹夏、夢はね──』

 

 その時は、その言葉の意味が分からなかった。

 そして、それから一か月ぐらい後に。

 お母さんが死んだ。

 

「もうずっと家にいる!! 何もしたくない!!」

 

 わたしは『絶望』した。

 どこにも行っても、なにをしても、ムダだと思えた。

 全部悲しいだけだから。

 

「結べないもん……もうお母さんいないもん!!」

 

 泣きじゃくるわたしを見て、お姉ちゃんも、泣いていた。

 

 その日の夜、お姉ちゃんは自分たちのライブに、わたしを連れて行ってくれた。

 そして、ライブが始まって、キラキラ光るお姉ちゃんを見て。

 

 お母さんの言葉が理解できたんだ。

 

 ありがとうお母さん。

 ありがとうお姉ちゃん。

 

 ──今度は、あたしの番だ。

 

 

 *

 

 

 加速装置の力は圧倒的だった。

 

「う、ぁ……!」

 

 ふたりの姿を捉えられない。

 しかも溶けるより早く殴ってくる、液化も間に合わない。

 

「もう一発行くよー!」

 

 腹に拳がめり込む。

 内臓が潰れる。激痛が弾ける。

 血で溺れそうになる。

 

「ぁっ、が、か」

「んもー! ちゃんと戦ってよお姉ちゃん!」

 

 戦いは、第1Tオーグの優勢で進んでいた。

 加速装置の存在は大きい、だがそれ以上に──ひとりは、痛みに慣れていなかった。

 

(あ゛あ゛あ゛あ゛!! 痛い痛い痛い痛い痛い!!)

 

 弱点とは言えない。

 ただの少女が、どうして殺し合いに耐えられようか。

 

「虹夏ちゃん死んじゃうよー? あはははは!」

 

 それでも意識を保っているのは、意地だ。

 気絶したら、すべてが終わってしまう。

 それだけは絶対に許されない。

 

「ぁ、ああああ!」

 

 麻痺ガスを放出、同時にギターから共鳴音波を響かせる。

 

「加速!」

 

 加速したふたりは『音波』を追い越す。麻痺ガスも加速の風圧で吹き飛ばされ、ひとりのマスクを殴り飛ばす。今度は顎が砕ける。

 

「そんなんで、よくここまで来たね! そんなに虹夏ちゃんが大事なのかな!?」

 

 ライダー戦は洗脳プログラムに大半を任せていた。しかしふたりを殺すわけにはいかない、プログラムは使えない。

 

「隙だらけ!」

「あっ!?」

 

 髪の毛が触手のように伸び、ひとりのギターを奪い取った。

 

「プラーナを回復されるのは、ジャマだよ!」

 

 瞳を輝かせる。

 ビームで、ギターを壊そうとする。

 ──だがその時。

 

「!?」

 

 ふたりが、ごぼり、と吐血した。

 奪ったギターも地面に落とした。

 

「ふたり!?」

 

 チャンスだ。

 今なら足にビームを当てられる。

 それで動けなくすれば、どうにかできるかもしれない。

 そしてひとりは。

 

「──っ!」

 

 撃てなかった。

 妹は撃てなかった。

 

「はぁ、はぁー……か、加速ッ!!」

「!!」

 

 咄嗟にギターを取り返す。

 しかし、すれ違うように身体を刻まれる。

 

「──ぁ、ぃ」

「そ、そろそろ諦めた?」

「……まさか、その加速、身体が」

「……今更ふたりの心配? 見捨てたくせに……すっごいイライラする!」

 

 加速装置を使う度に。

 ふたりの身体は壊れていく。

 

「なんで、そこまでして」

 

 ギターを盾代わりに。

 猛攻に耐えながら、ひとりは問う。

 

「言ったでしょ、幸せになってほしいの!」

「全然分からない!」

「じゃあ、分かるよーに言ってあげる。ふたりたちは、化け物なの、どこにも帰れないの!」

「!!」

 

 容易く人を殺せる怪物。

 そんなものを受け入れる社会は、存在しない。

 その言葉にひとりは察する。

 わたしの知らない間に、妹も人でなくなった絶望に打ちひしがれたんだ。以前のわたしのように。

 

 だけど、結束バンドがそれを変えた。

 

「違う! みんなわたしが必要だって──」

「そうやって引き留める! だから分からせてやるの! お姉ちゃんに関わったらどうなるのか!」

「みんなを襲ったのはそのため!?」

「分かったでしょ? お姉ちゃんがいると、みんな巻き込まれるって!」

 

 社会は改造人間を守ってはくれない、だから必ず不条理に襲われる──周りの人も巻き込んで。

 

「バンドを辞めるのが、お姉ちゃんの幸せ!」

 

 ふたりが殴りかかる。

 ひとりがギターを振るう。

 ──ピキリ、と音が鳴った。

 

「──あ」

「限界、だね」

 

 ギターが砕けた。

 動力部が爆発。ひとりは吹っ飛ぶ。

 

「もうプラーナは回復できない、ね……」

 

 加速の負荷でふたりも吐血。

 お互いに動けなくなる。

 

「お姉ちゃん、虹夏ちゃん助けたい?」

「……え?」

 

 意図の分からない問いかけ。

 困惑する姉に、ふたりは手を伸ばす

 

「その『鍵』をくれれば、血清をあげる。ふたりが世界を変えるから!」

 

 分からない。

 ふたりは──なにを言ってるの? 

 

「……なんで?」

「バンドを辞めても幸せは壊される、()()()()()()()

 だから、『鍵』で世界を変えるの! お姉ちゃんの幸せをふたりが守る! 誰にもお姉ちゃんを傷つけさせない!」

 

 絶望は突然降り注ぐもの。

 押し入り強盗に教われた日、ふたりはそれを知った。

 だから、あらゆる不幸から姉を守る。

 その為に世界を変える。

 

「それが、ふたりの幸せ」

 

 妹の願い。

 それを聞いたひとりは。

 

「絶対に渡さない」

 

 即座に拒絶した。

 こんな願いは認められない。どうして、わたしの幸せを願うのか分からないけど。

 

「……なんで?」

「それは、幸せじゃない」

 

 ふたりに全部を押し付ける。

 幸せなはずがない。

 断言できる。

 

「──なら、分からせてあげる」

 

 ふたりが振り返る。

 ビームの照準が、虹夏の頭蓋に合わさった。

 彼女が殺される。

 

「バンドを続けたら、こういうことになるってね!!」

「止め──」

 

 そして、仮面から、ビームが──

 

 

 

「ぉ、おおおおお!!」

 

 

 

 まさにその瞬間。

 

 シン・サイクロン号が飛び込んできた。

 

 

 *

 

 

 サイクロン号を跳ね上げる。

 ふたり目掛けて、ぶち当たりに行く。彼女は寸前で液化し回避──これで、虹夏の殺害阻止に成功。

 一文字はひとりに手を伸ばす。

 

「大丈夫か嬢ちゃん」

「……す、すいません、一文字さん」

「謝罪じゃない、そこは感謝だ」

「あ、ありがとうございます、一文字さん」

「『さん』じゃない、ここは呼び捨て……は、ちょっとアレだよな」

「あ、あの、そのバイクは」

「借りた!」

 

 ひとりは、彼の手を取り起き上がる。

 

「状況は最悪だな」

「お、お願いします、あの子にもパリハライズを!」

「無理だ、データがない」

 

 仮にこの場でデータを取れても、彼にプログラムは作れない。

 

「5分を切る」

 

 彼は決断を迫る。

 

「手立てはあるのか」

「……マ、マスクを外します」

 

 元々のふたりからは、考えれない行動の数々。マスクの生存本能を高める機能の影響なのは間違いない。それを取れば望みは生まれる……『多少』であっても。

 

「その後は」

「……え、えっと」

「まさか、ノープラン、なのか!?」

「そ、そこは『信頼』……なんて言えないけど……あ、あと数分、信じてほしいです、()()()()……!」

「………」

 

 とんでもないバカだ。

 付き合う理由はない。

 ──だが、まだ5分は残されている。

 ならば賭けない理由はない。

 

「分かった、なにがなんでもマスクを外す」

 

 なぜなら、自分は仮面ライダーなのだから。

 

「行くぞ、嬢ちゃ……()()!」

「……お、お願いします、()()()()!」

 

 三つの仮面。

 異形の瞳が、光り出す。

 

 

 *

 

 

「か、加速っ」

 

 ふたりがスイッチを押す。

 しかし、全身の激痛に倒れ込む。

 

「今だ!!」

 

 その隙を突き、マスクの破壊を試みる。

 

「ま、だ、だぁ!」

 

 一瞬の間にふたりは液化、地面に溶け込んでしまう。

 

 次の攻撃は地面から来る。

 ひとりとライダーは、真下を警戒。

 だがそれは罠。

 

「違う! ステルスだ後藤」

「遅い」

 

 瞬間、ひとりは後頭部を掴まれた。

 ふたりは、予めステルス化した上で、地上に出たのだ。

 背後を取られた。

 そして、地面に思い切り叩きつけられる。

 

「鍵を渡して!」

 

 背中にビームが照射される。

 皮膚が焼き切られる。

 背骨を直接炙られる激痛。

 断末魔が溢れ出す。

 

「うぁ、あああ゛あ゛あ゛!?」

「鍵を渡せば、もう痛くしないよ!?」

「いや、だ!!」

 

 千切れそうな意識の中、ひとりは髪の毛を伸ばし、ふたりを縛り上げる。

 

「拘束なの!?」

「は、隼人、さん、今!!」

「任せ──」

「だから、ふたりは溶けれるんだってば!」

 

 ふたりは再度液化。

 髪の毛の拘束から脱出。

 再び地面の亀裂に逃げ込もうと──

 

「分かってるさ」

 

 だが、ライダーは予想していた。

 

「同じ手は通じないってな」

 

 タイフーンが回りだす。

 最大出力、あたりの空気が、猛烈なパワーで吸われていく。

 液化したふたりも、吸い込まれていく。

 

「え、ぁ、なにが!?」

 

 もし、ダイナモに呑まれたらどうなる? 

 ふたりは、液化を解かざるを得なかった。

 

「掴まえた!」

 

 吸い寄せたふたりを、ライダーが捕える。

 

「は、離してッ」

「残存プラーナは僅か、もう液化はムリだな!」

 

 ライダーが手を掲げる。

 マスクへ手刀を振り下ろす。

 

「は!!?」

 

 だがなんと、手刀がふたりの頭を()()()()()()()()

 

(殺──いや、これは!!)

「ここだけ、なら、溶かせたよ」

 

 全身液化は不可。

 なら、手刀が当たる箇所だけで良い。

 それをふたりは瞬時に実行した。

 

(なんてセンスだ……!)

「今度は、ふたりの、番だね」

「ヤッベ──」

 

 そして、この時間で、再使用の余力は稼げていた。

 

「加速!!」

 

 ライダーが加速世界へ引き摺り込まれる。

 加速装置の使用時において、かかるGや空気摩擦は速度相応。

 専用の改造をしてない存在が、そのスピードに晒されれば、どうなるか。

 ──御覧の通りだ。

 

「ぐがああああッ!?」

 

 加速のGがライダーを破壊。

 地面へ叩きつけられ、足の骨が砕け散る。

 

「は、隼人さん!!」

「そこで、おとなしく見てなよ──ぁ゛、が」

 

 更に吐血する。

 マスクは既に真っ赤。

 加速装置の連続使用。

 ふたりの身体は限界を越えていた。

 

(こ、これ以上加速させたら、ふたりが……!)

 

 なのに止まらない。ふたりはよろめきながら、ひとりのマスクを引き剥がそうとする。

 

「鍵を渡して! お姉ちゃん!」

「嫌だ!」

「虹夏ちゃん死んでいいの!?」

「それも、嫌だ!」

「わがまま言わないで! みんな不幸にしたいの!? それとも、まさか、お姉ちゃんが世界を変えるの!?」

「そんなつもり、ない!」

 

 ふたりのマスクへ手を伸ばす。

 渾身の力を込め、引き剥がそうとする。

 

「世界を変えなくても幸せはある、結束バンドにいた時間は夢みたいだった!」

「……知ってるよ、お父さんが、お母さんが、ジミヘンが、家族がいて、幸せだった……でも、みんな壊れたじゃんか!!」

「それ、は……っ」

「全部、ムダなの!」

「……違う」

 

 みんなが教えてくれた。

 もし、わたしが最後に消えたとしても。

 一緒にいた日々は忘れないって。

 

「ムダにしたくない、だから、文化祭に出るんだ!」

 

 わたしを彩る記憶が。

 ギターを通じて、歌へと変わる。

 それは、誰かの記憶に残り続けるだろう。

 きっとそれは、『幸せ』と呼んでいいことのはずだから。

 

「自分のことばっか……そーやって、みんな不幸にするの……ふたりを見捨てた時と同じだよね!?」

 

 全身からビームが放出。

 ひとりは吹き飛ばされる。

 

(分からない、なんで、こんな、ふたりは必死なの……!?)

 

 時間が迫る。

 これ以上、かける言葉が見つからない。

 妹の心が分からない。

 

 ふたりはドス黒い叫びを上げる。

 

「わたしは認めない、お姉ちゃんを不幸にするバンドなんて、大嫌いだ!!」

 

 

 

「ダメだよ、そんな嘘」

 

 

 

 掻き消えそうな。

 なのに、その声はハッキリ聞こえた。

 

 声の主を見て絶句する。

 どうして、そんな怪我で立っていられるのか。

 どうして、ふたりに声をかけたのか。

 

 けれども、なによりも。

 

 ──どうして、ギターを持っているのか。

 

 ふたりが捨てたギター。

 もう一本のオーグ用ギター。

 

 それを携えて、虹夏ちゃんが立っていた。

 

 

 *

 

 

 立てるような状態じゃない。

 なのに、虹夏ちゃんは、その両足で立っていた。

 

「ウソ? ふたりはウソなんて」

「お姉ちゃんがバンドに、奪われたみたいで、寂しくて、バンド嫌いなんだよね。だけど本当は、見たいって思ってる……」

「ふたりの、なにが分かるの!?」

「分かるよ、あたしも、妹だったから。知りたいよね、なんでお姉ちゃんが、バンドに夢中なのか」

 

 必死で立つ理由は分かっていた。

 わたしのためだ。

 

「ぼっちちゃん」

 

 わたしを助けようとしている。

 わたしじゃできない()()()を、ふたりに伝えようとしてくれている。

 

「ううん」

 

 それで、いいの? 

 君からしたらあの子は他人でしかない。

 それでも、わたしを助けてくれるの? 

 

「お願い、ギターヒーロー」

 

 ──聞くまでもないことだ。

 命を使い切るような、その優しさを信じなきゃ。

 

「はい」

 

 わたしは答える(応える)

 

「喧嘩は、これで、終わりです」

 

 ギグバを開ける。

 ブラック・ビューティ。

 お父さんの形見を見て、ふたりは首を傾げた。

 まさか、わたしたちが、なにをしようとしてるのか、分かってないのかな? 

 

「わたしは、ヒーロー」

 

 だってギターだよ? 

 やることなんて、一つしかない。

 

「ギターヒーローと、もう一度、名乗らさせてもらいます」

 

 虹夏ちゃんに合わせる余力はない。

 つまり、その歌を導くのは、わたしの役割。

 

 だってリードギターだから。

 

 貴女はわたしを助けてほしい。

 わたしは貴女の力になるよ。

 

(一緒に、ふたりに、聴かせよう!)

 

 わたしたちは、互いのヒーロー。

 そして、二人で一つのヒーローだから。

 

 

 

「鳴り止まなくてなにが悪い

 

 青春でなにが悪い──」

 

 

 

 観客は一人だけ。

 今夜限りのライブが始まった。

 

 

 *

 

 

 二人のギターが重なり合う。

 バッキングが、リードギターが、夜空を震わせる。

 

「なに、なんなの」

 

 虹夏は思い出す。

 初めてのバンドミューティング、その帰り道。もしもの時、ぼっちちゃんを、助けなきゃいけない。

 その為に約束をした。

 

『大変なスケジュールになるけど……必要だとわたしは思う。やれそう?』

 

 必要な時が来たよ。

 かなり、想定外だったけど。

 

 ──()()()()()()()()()()()()

 

 それが、あの日交わした約束。

 

「その身体で、なんで、歌えるの……?」

 

 ──だが、虹夏は今にも倒れそうだった。

 

 脚には風穴。

 致死性のヴィルース。

 痛みで意識が飛びそうになる──だけど、身体の中まで響く、彼女のギターが、わたしの声を導いてくれる。

 

 それがリードギターなんだ。

 

 貴女が助けてくれるなら。

 わたしは貴女の力になろう。

 

(一緒に、ふたりちゃんに、聴かせよう!)

 

 わたしたちは、互いのヒーロー。

 そして、二人で一つのヒーローなんだから! 

 

「うるさい……ジャマだ!」

「させるか!」

「ライダー!? 足は折ったのに!?」

「手はまだ動く、這いずったんだよ……おとなしくライブ聞け!」

「どいて!」

 

 虹夏は幼い自分を幻視する。

 あの子は昔のあたしだ。

 寂しいってだけじゃない。幸せを奪われて、どこにも行けなくなったんだ。なにをしても悲しだけで、全部ムダって思ったわたしと同じ。

 

「今すぐ止め──」

「させるか、って言ったろ!」

「関係ない人はあっちいって!!」

「ぐがッ!?」

「手も砕いた! これで、動けな……あああ! もう歌わないでよ!」

 

 昔のわたしと同じなら、助ける方法も同じだ。

 

「止めて! 歌わないで!」

 

 見せてあげる。

 あの日、お姉ちゃんが、わたしに見せてくれたのと同じように。

 バンドに夢中になった理由(わけ)を。

 夢が輝いてることを。

 このライブで! 

 

 

 

 *

 

 

「なんで笑ってるの!? 改造人間とバンドしても、全部ムダになるのに、どうして、楽しいの!?」

 

 ふたりは錯乱していた。

 全てはムダになる、なのに、死にかけなのに、楽しんでいて──あり得ない光景だ。

 認められない。

 信じられない。

 致命的な矛盾に思考が止まる。

 

 それは、マスクを壊す最後のチャンスだった。

 

(クソ! 動けねぇ!)

 

 手は破壊された。

 脚は折れたまま。

 誰かの助けが必要だ。

 しかし、ここにそんな人はいない。

 そう、『人』は──カッコ悪いが、なりふり構っていられない。

 

(……頼む、サイクロン!)

 

 ライダーはベルトの装置を回し、サイクロン号を呼び寄せる。そして、自分自身をふたりの方へ向かって、()()()()()()()

 

「なにが、なんでもだ!!」

 

 渾身の頭突き。

 ライブに錯乱していたふたりに、回避の余裕はなく。

 

「──ぁ」

 

 マスクは割れた。

 

 呪縛は解かれた。

 

 音を遮るものは、もうない。

 

 

 *

 

 

 歌が響き渡る。

 夢を見せるために。

 夢を見続けるために。

 

 

 

「机の上には無い僕らの答え

 

 ずっと隠してた

 

 大切な言葉を 今! ほら! 

 

 伝えなきゃなんだ」

 

 

 

 あの子は多分正しい。

 改造人間とバンドをするなんて夢物語だ。たくさん辛い思いをして、最後に別れがやってくる──そんな終わりかもしれない。

 だからこそ、終わりが来るからこそ。

 止まっちゃいけない、この心に、強く刻まなきゃ。

 

 

 

「たとえば人と違う夢描くこと

 

 君と喧嘩したこと

 

 全ては最高のプレゼント

 

 大人になった僕へのプレゼント」

 

 

 

 人生のすべてに、ムダなことなんてない。

 悲しくても、辛くても、絶望だらけでも。

 最高だったって、胸を張りたい。

 

 

 

「──ねぇ そう信じてんだ なにが悪い」

 

 

 

 だから楽しもう。

 こんな状況でも笑い合おう。

 『夢』はそうやって生まれてくる。

 もっとこうしていたいって、未来を信じることができる。『夢』があれば、絶望の中でも進んでいける。

 

 

 

「おしえて

 

 僕は何処へ向かえばいい? 

 

 心は透明だ! 

 

 大切はここにある ほら!」

 

 

 

 君にも『夢』を見て欲しい。

 小さなあたしのように。

 

 

 

「心臓がうるさく僕に伝えんだ

 

 「行こうぜ ずっと先へ」 先へ

 

 惨めな夜もバカ笑いも

 

 あのね、その後が言えた日の笑顔も」

 

 

 

 だって、夢は。

 どんな辛いときも、道を照らしてくれる光になってくれるから! 

 

 

 

「鳴り止まなくてなにが悪い

 

 青春でなにが悪い──……」

 

 

 

 霞む視界の中。

 虹夏は光を目指す。

 この、キラキラした世界を、わたしたちも見せれただろうか。

 ああ、でも一つだけ。

 

 幸せってなにか、わたしたちは分かった気がした。

 

 

 *

 

 

 光が眩しい。

 瞼が重たい。

 眼を開くと一面の白。

 

「……あの世?」

「物騒なこと言わないでくれ」

「……一文字、さん?」

 

 虹夏は意識を失っていた。

 眼が覚めるまで、一文字が隣で見守っていた。

 マスクは外していた。

 

「ふたりちゃんが血清を打った。もう死ぬことはない」

「……お礼、言わないと」

「ヴィルースを撃ったのアイツだぞ?」

「正気じゃなかったんだし、気にしてないよ……」

 

 彼は呆れた。そりゃマスクのせいでの凶暴化だが、だからって納得できるのか? 

 

「全員お人好しかよ……」

「あの、ぼっちちゃんは?」

「無事だ、ふたりちゃんの方についてる、行くか?」

「ううん、邪魔しない」

 

 少し離れた場所。

 ひとりは妹へ膝枕をしていた。

 彼女たちも、マスクはつけていなかった。

 やがて、ふたりが目を開ける。

 

「………」

「あ、お、起きた?」

「殺して」

 

 ひとりは一瞬息を呑み……落ち着いて、問いかける。

 

「……どうして?」

「……分からないの、苦しんでほしいけど、幸せになってほしくて」

 

 ふたりは、自分でも分からない感情を、たどたどしく口にする。

 ボロボロと、溢れる涙を交えながら。

 

「みんな死んだのに、バンドで、ギター弾いてたの、許せなくて……」

「みんなを、わたしも苦しめたかったの?」

「……みんなのこと、忘れたのかなって……バンドしてたら、不幸になるし、でも、ギター弾くお姉ちゃんは、キラキラしてて、好きなままで……取り返して……守らなきゃって思ったの」

 

 全て本心なんだろう。

 お姉ちゃん(わたし)がいなくなるのが嫌だった。

 自分の元で守ろうとした。

 バンドも辞めさせようとした。

 連れ戻そうとする奴は『敵』だった。

 どれも、子供が持っちゃいけない感情だった。

 

 その一因は自分にある。

 

「……ごめんね」

 

 ひとりも泣いていた。

 

「なんて言われるか恐くて、全部忘れてたの。一人で楽しんでてごめん。それでも、あんな目に合わせたのに、まだ、ギターが好きで、ごめん」

「……ショッカー(SHOCKER)が悪いんだよ」

「しょ、SHOCKERには、少しだけ感謝したほうが」

「は?」

 

 途端涙が引っ込んだ。

 この姉なに言ってやがる? 

 

「ほ、ほら、拾われてなかったら、わたしたち絶対死んでたし」

「ないよ? 改造されたんだよ? 最低だよ?」

「え? あ、確かに」

「サイテー……」

「あっ、ごめん……」

 

 そりゃ事実なのだが、ここで言うことではない。

 最悪に空気の読めない――ある意味、いつのも姉らしい──失言に、ふたりはそっぽを向いた。

 

「………」

「えっと、悪いのお姉ちゃんだから、許さなくてよくて」

「………」

「な、なにをすればいいかなー……?」

「それ聞くの?」

 

 マジで分からないのである。

 なんなら、姉妹喧嘩すら人生初。

 ひとりは本気で困り果てていて──やっぱり昔と変わらない(モノ)に、妹は心底呆れ果てた。

 

「……ライブ」

「え?」

「お友だちとだけなんてズルい、ふたりともライブして」

「わかった、でも曲は?」

「アレ、発表会の」

「……うん」

 

 ふたりを膝に抱え上げる。

 ギターを構える。

 タンバリンの代わりに、両手を広げる。

 跳ねる四拍子。

 行くよ? せーの! で歌が始まる。

 

 

 

「「とぅいんくる とぅいんくる

 

 りとるすたー

 

 はうあいわんだー わっゆーあー

 

 あっぷぁばうだ わーそーはい……」」

 

 

 

 刻まれた傷はあまりに深い。

 この姉妹は、もう元通りにはなれない。

 

 

 

「「とぅいんくる とぅいんくる

 

 りとるすたー

 

 はうあいわんだー わっゆーあー……」」

 

 

 

 だがそれは、絶望だけじゃない。

 他人は分からない、だから関わり合って、互いの心へ痕を残す。それは傷と同じく無くならず、思い出として在り続ける。

 そこからは、新しいナニカが生まれるはずだ。

 音楽だって、バラバラな個性が一つに集まって、生まれてくるのだから。

 

 

 

「「とぅいんくる とぅいんくる

 

 りとるすたー

 

 はうあいわんだー わっゆーあー……」」

 

 

 

 

 音楽は、頑張る人を裏切らない。

 姉妹は歌い続ける。また一緒の思い出を、生み出していきたいから。

 

 

 *

 

 

 虹夏は再び眠った。

 その隣で、一文字は、朝日を背に立つ。

 いつのまにかそんな時間だ。

 

「俺だ」

 

 無線が入る。

 

「ああ、終わっ……体内に核爆弾ッ!?!? あ? 対応は済んで……済んでるなら、頼むから先に言え!」

 

 最悪なドッキリにキレた後、彼は確認する。

 

「奴らは? 対処済か。ありがとう、そう伝えといてくれ」

 

 無線を切る。

 江の島大橋に光が刺す。

 空は水色、雲は真っ白。

 みんな助けられた。怪我は負ったが、誰も彼も生きている。

 

 ……助けられたのだ。

 あの時と違って。

 

 勿論、過去が変わったわけじゃない。絶望は消えない。しかしこの戦いを通じて、一文字は救われたのだ。

 

 祝福のような夜明けを前に、一文字隼人は呟いた。

 

 

 

「ああ。これで心スッキリだ」

 

 

 

 ──そして、改造人間たちに、朝が来た。

 

 

 

#24 なにが悪い




タイトル元:ぼっち・ざ・ろっく!第3エンディングテーマ『なにが悪い』より

『シン・ぼっち・ざ・ろっく カード』
伊地知虹夏
 結束バンドのドラム&リーダー。
 後藤ひとりと出会い、物語の始まりとなった人。
 ふたり以外で唯一の『妹』であり、だからこそ、一番彼女の心に寄り添うことができた。虹夏がいなければ、後藤ふたりの救出は、絶対にできなかったのだ。
 ひとりにとっては、自分を暗闇から引っ張ってくれるヒーロー。虹夏にとっては、夢への道を引っ張ってくれるヒーロー。互いが、互いにとってのヒーローだった。
 そして、この戦いにより、彼女たちは二人で一つの、ダブルヒーローに成ったのだ。
 もっとも、こんな鉄火場は二度と起きないだろう。
 仮面ライダーがいる限り。



 『なにが悪い』を聴かせるのは決まっていました。
 しかし江の島にドラムは持ち込めません。 
 かと言って、虹夏ちゃんだけボーカルオンリーはちょっと寂しいです。
 なので、虹夏ちゃんにもギターを弾いて貰うことになり、#06カチカチの伏線を仕込むこととなりました。

 「人生の全てに無駄なことなんてない」……なにが悪い、の歌詞と重なるものを感じた、気がします。

 最後の一文は、#01転がる改造人間の、最後の一文と呼応させてます。「朝が来た」なのは、かえってくるライダー、の歌詞ネタです。
 


 これでシリアスは終わり!
 心がスッキリした方は、下のボタンを押すのです!!
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高評価をくださった皆さまです!

☆10:柚子乃葉さん
☆9:AO1104さん poyayanさん tubuyakiさん 味音ショユさん

投票、ありがとうございます!!
おかげさまで、ここまでどうにか書けました!
評価、お気に入り、感想、ここすき、もう完結だけど是非プリィィィィズッ!!




 喜「次回!」
 リョ「後藤ひとりは改造人間である」
 虹「最終回!」
 ぼ「『人間コンプレックス』」

 虹「せーのっ!」
 全員「是非「見「て「て」ください!」てね~!」

 虹「……もっかいやる?」
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