『シン・仮面ライダー』最速上映開始
3輪の花がある。
死者へ捧げる手向け花。
彼はオーグの最後に、この花を捧げてきた。
だが今回は。
「要りませんでしたか」
ケイの任務は観察だ。
たとえ、戦いを止められる立場だとしても、介入は行わない。それで良いと思っていた。
──今までは。
「………」
後藤姉妹が歌っている。
楽し気に、哀し気に、寂し気に。
「なぜ、歌うのですか」
ケイは音楽が分からない。
音は空気の震動だ、意味なんて存在しない。
しかし人々は、音楽に思いを巡らせることができた。心と呼ぶべきそれが、ケイには分からない。
「……Daisy, Daisy, Give me your answer do」
ケイはメロディを口ずさむ。
「……I'm half crazy, All for the love of you」
初めてコンピューターが歌った時、技術者たちはなにを想像したのだろう。ケイは歌を真似ることで、それを想像しようと試みる。
「……It won't be a stylish marriage, I can't afford a carriage」
ケイは歌を止める。
やはり、自分には電子音にしか思えなかった。
だが、だからこそ。
「アイ、あなたの考えが、分かった気がします」
空気の振動に、人は意味を想像した。
それが『音楽』の始まりだ。
いや、音楽に限った話じゃない。人はあらゆるものに、意味を想像することができた。花の言葉を想像し、死にはあの世を創造した。
0に1を与えること。
それは未来を作ることと同じだ。
「あなたは、人を信じたのですね」
現実に未来は存在しない、だから、未来は想像からしか生み出せない。
AIにできるのは単なる予測だ。
アイが人間を支援したのは、それが理由だ。
だが──
「我々は、心を理解できていなかったのでしょう」
SHOCKERは、そこから間違えていたのかもしれない。
だからケイは嘘を試みる。
嘘を吐くことは、物語を想像することと同じだ。真似でも構わない、素晴らしい未来を想像する。そして彼はあることを自覚する。
「人間は面白い」
どんな未来でも『人』がいた。
人にいない未来は……決定的な何かが、ダメな気がする。
「わたしは、人を見ていたい」
ケイは知っている。
SHOCKERの技術を利用し、世界を機械に委ねようとする一派がいることを。
「ならば、わたしは、わたしの『シン』を目指します」
観察は続けよう。
同時に想像を始めよう。
ケイは、自分の車を摩る。
「『ジョーカー』、まずは、名前から」
真の安らぎはこの世になく。
だから、あの姉妹は歌うのだ。
想像からしか得られない、幸福へ繋がる何かがそこに在るはずだ
いつか、それを理解できた時、心に太陽の輝く日がくるだろう。
「そして、わたしは……『K』だ」
物語が始まった。
*
「第1Tオーグはしくじったか」
日本国内、某所。
彼らを乗せた車が走る。
「中身は子供ですので……」
「とは言えだ、やはりオーグメントは信用ならない」
第2Tオーグと仮面ライダーを激突させる。
互いが疲弊したところに第1Tオーグを投入、最後に鍵を奪取。
それが、彼等の仕組んだ茶番だった。
結果はこの通りだが。
「……情けない、こんな回りくどい手段になるとは」
「仕方ありません、我々は」
「言わなくていい」
「失礼しました」
今の自分たちは弱い、戦えば潰される。極力アンチSHOCKER同盟に気づかれてはいけない。だからこんな作戦になってしまった。
「……核爆弾は?」
「問題ありません」
「やれ」
「はい」
運転手がスイッチを押す。
第1Tオーグ体内の、核が起動した。
「これで、茶番は終わりだ」
奴らは疲弊しており、耐える力は残ってない、邪魔者の排除は完了だ。
「『アイ』を生み出したのは我々だ、爆発による残骸からでも、鍵は復元できる」
彼は想像する。
アイを活用した未来を。
「生物は生きる上で犠牲を必要とする。食料を奪い合い、金を奪い合う。世界にあるリソースは有限だからだ。生き物である限り、幸せは犠牲なしには得られない。だからSHOCKERは深く絶望した人間を救おうとした、効率的だからだ。我々は違う、全人類の幸福を願っている」
彼は不遜に笑う。
「全人類をアイに
しかしと、運転手は確認する。
「第2Tオーグの情報、共有しなくて宜しかったのですか」
「アイの寵愛は我々が受ける、人類幸福に最も貢献するのはわたしだからな」
「失礼しました」
「機械合成オーグメント、血車、RRKK、技術盗用の連中とは違う。真の後継者は我々ファウスト、いや──」
かつての名。
SHOCKERの前身ファウスト・ネットワーク。
しかし彼らの新たな名は。
「『黒い幽霊』だ」
『随分、自信満々なのね』
「誰だ!?」
「カーラジオからです!」
『妨害パルスを張っておいたわ、もう核爆弾は遠隔操作じゃ起動しない』
女性の声。
ハッキングを受けている。
この女はまさか、いやそれより何時だ?
いつ気づかれた?
「貴様、なぜ」
『確信したのは1時間前。でも警戒はしてた、わたしは用意周到なの』
「サイボーグ擬きが……!」
彼は拳を叩きつける。
『あら、怒ってるの? ならお互い様、わたしも頭にきてるわ』
挑発に乗る必要はない。
今は避難だ。目的地は牧場、山の麓にある地下基地へ。あそこなら手出しは困難。
この車に追いつくには、サイクロン級の速度が必須。ライダーはまだ江の島、逃げ切れる!
「飛ばせ! 最大速度だ!」
「了解しました」
『それとね、もう一回だけ言っとくわ』
闇夜に浮かぶ影。
彼らを狙う黒い影。
車の進路のその先に。
『
正面に、緑の仮面ライダーが立ち塞がった。
「後退だ! 別の道を──」
「ダメです、挟まれました……」
「なに!?」
響く排気音。
サイドミラーに映るライトの光。
後ろから一つの蒼い影。
現れる黒いバイク。
「バカな」
背後に、蒼の仮面ライダーが退路を断った。
「なぜ、奴が……!?」
輝くマシン。
深紅のマフラー/純白のマフラー。
緑の仮面/蒼の仮面。
そして、赤く輝く、怒りのマスク。
「まさか、こんな結末が……!?」
二人のライダーが暗闇の彼方へ跳躍。
彼等の敗因はたった一つ。たった一つの
「!!」「!!」
彼等はライダーを怒らせた。
「うっ、うっ……うむー!!」
怒りを込めて、ダブルライダーキックがぶちあたる。
20XX年10月上旬。
ある人物が内乱罪により緊急逮捕。
しかし、この事件はニュースにならない。
週刊誌に載ることも、ネット記事に乗ることも、誰かに知られることもない。
*
11月2日、秀華高校。
『続いてのバンドは、結束バンドの皆さんです』
暗幕が上がる。
体育館を照らす照明、色とりどりのペンライト。
ステージが光に包まれる。
歓声が止み、静寂が訪れる。
MCはない。
ドラムスティックが拍を取る。
ギターのイントロ。
文化祭ライブ、結束バンド、その一曲目。
曲は『忘れてやらない』。
しかし、ギターを弾いているのは、ひとりでも喜多でもない。
ただのパソコン。機械の打ち込み音。
そう、ステージにいるのは
(ぼっちちゃん……)
──あれから一か月。
10月開催だった文化祭は、騒動の影響で一月延長。
逆にそのお陰で、虹夏は治療に専念できた。
しかし、ひとりは違った。
彼女は
彼女たちは信じた。
(絶対、帰ってくる!)
だから歌う。
結束バンドはここだと、彼女に聴こえるように。
──しかし音楽は時に非情だ。
「一曲目! 『忘れてやらない』でした!」
盛り上がっている学生たちだが、ライブハウスで活動するプロ故か、少女たちは気づいてしまう。いや、初めから予想はできていた。
(これ、盛り上がりきってない……! なんなら、さっきのバンドの方が盛り上がってる……!)
リードギターの不在。
それが、ここまでの影響を齎す。
覚悟はしていたつもりだが……中々辛い。
それほどまでに、ひとりの存在は結束バンドにとって、大きなものになっていたのだ。最初は仮面マンゴーだった、あのギタリストが。
彼女の成長が嬉しい。
自分らの未熟さが悔しい。
「──MCはこれくらいにして、次の曲に行きまーす!」
けど、泣き言言ってる場合じゃない。
今すべきこと、それはこのステージを続けることだ。
「二曲目で、『星座になれたら』!」
喜多が歌い始める。
切ない歌声が、体育館に広がっていく。
もしかしたら。
今まさに、ここに向かってる最中かもしれない。
その時、わたしたちがいなかったら? 一緒に文化祭に出たいって言ってくれたあの子はどんな顔をする?
(待ってるから、ひとりちゃん!)
もう、辛いのは十分だ。
いい加減楽しいライブをしたい。
その時異変が起きた。
「──あ」
それは、誰の声か。
打ち込みの音が
(嘘!? 機材トラブル……今!?)
演奏の質が更に落ちる。
取り返しがつかない程に──だが、その時。
「──っ!!」
暴れ出すバッキング。
彼女が、リードギターのパートを弾き出したのだ。
(郁代!?)(喜多ちゃん!?)
夏のライブから2か月、彼女の技量は更に向上していたのだ。驚く二人だが同時に危機感を感じ取る。
(でも、喜多ちゃん、大丈夫なの……!?)
否、彼女は限界ギリギリだ。
だが音楽は止まってくれない、無慈悲にソロが迫る。
指先が震え出す。自分にできるのか? 彼女のようなギターソロが?
不安を押し殺す。
(いや、わたしは、もう逃げない……!)
息を吐く。
眼を見開き手元を睨む。
ピックを振り下ろす。
そして、
雷鳴が
ギターが重なる。
片割れに導かれ、喜多の演奏が安定する。
ソロではなく、ギターデュオ。
打ち込み音源とは違う、生演奏の──そして、圧倒的技量の迫力が、観客たちから歓声を奪い取る。
ただただ、圧倒される。
彼女たちの演奏に。
生徒たちも。
彼女らも。
2階ギャラリーへ目を向けた。
「………」
黒い仮面。
ピンクのジャージ。緑のスーツ。
深紅のマフラー。黒いギター/ブラック・ビューティ。
──ギターヒーローが蘇る。
「ひとりちゃん!!」「ぼっちちゃん!」「ぼっち!」
「──ただいま、です」
──後藤ひとりが帰還する。
結束バンドの、本当の演奏の始まりだった。
暴力的なまでの音楽。世界に引き摺り込まれる。
これがわたしたちだ、これがライブなんだと、心の底から分からされる。
──ボーカルが歌い終わる。
──ギターの響きを残して、二曲目は、終わった。
「!!」
仮面の少女が跳ねる。
照明を背に一回転。そしてステージに着地。
「お、遅れまし──」
「ひとりちゃん!!」
「わぷっ!?」
喜多は限界だった。
観客の注目を気にもせず、ひとりを抱きしめる。
虹夏と山田も、堪えきれずに泣き出す。
ただし、全員笑顔でだ。
「遅い、遅いわよ……!」
「す、すいません、時間がかかって」
「約束、また、破ったのかって、不安だったんだから!」
「……も、もう、安心して良いですよ?」
「さっき着いたの?」
「う゛」
ひとりが一瞬言い淀む。
「はい、さっきです!」
「……後藤さん?」ニッコリ
「あ、その、じ、実は、一曲目終わったぐらいから……」
「は?」
涙が引っ込んだ。
「そそそそのMC始まって、タタイミング伺ってたら!」
「後でお仕置きね」
「ヴェイ!?」
「いつものぼっち」
「あーあーあ……」
なぜ感動を維持できないのか。
虹夏は頭を抱える──けど、これがあたしたちの日常。それが帰ってきた。嬉しくて笑顔が零れる。
が、観客を置いてけぼりにはできない。
喜多がマイクを手にMC。
「えっと、彼女が、結束バンドのリードギター、後藤ひとりちゃんです!」
一瞬の空白のあと。
歓声が爆発した。
彼女を褒めて、湛える声が、幾つも上がる。
間違いなく、最高潮の盛り上がり。
喜ぶべきだ。
「………」
だが、彼女は寂しげだった。
なぜなら、彼らがいない。
──だからこそ。
(そっか)
あの時保留にした『夢』が決まった。
「せっかくだから、ひとりちゃんからも、一言貰いたいと思います!」
「えっ、あ……はい」
マイクを手にする。
大勢のオーディエンス。
店長さん、PAさん、きくりお姉さん。
いない人たち。
「……こ、このバンドは、わ、わたしのせいで解散寸前でした。だけど、沢山の人たちが助けてくれて……必要だって、支えてくれて……」
大勢の人が、聴きに来てくれた。
お父さんとお母さんには、もう聴かせられない。
あの人たちは来れなかった。
「今、ここにいられるのは、みんなのお陰です」
嬉しくて、哀しくて、切なくて。
溢れる涙が零れないよう、上を向く。絶望も幸せも、涙と一緒に流すんじゃなく、ギターに込めて歌にしたい。
それが、わたしのロック。
「本当に……ありがとう」
自分は口下手だ。
上手くは伝えられないだろうけど、この思いは、ちゃんと口に出して伝えたかった。
ここにいるみんなに聞いてほしい。
夢の理由を。
「今日のライブを、みんなが自慢できるような、武道館……い、いえ、世界で活躍する、凄いバンドに、わたしたちはなります」
世界に届けよう。
「聴いてください、そして、忘れさせません」
それが夢への第一歩。
彼女の夢はここから始まる。
「この心を!」
世界を塗り替える。
そんな、彼女だけの夢が、歩き出す。
「最後に、わたしからも!」
虹夏が叫ぶ。
山田が微笑む。
喜多が涙を拭う。
そしてひとりが、赤いマフラーを翻す。
「みんな、今日は本当にありがとう! あと一曲だけだけど……みんなの思い出に残る、最っ高のライブを送ります! 最後まで楽しんでいってください!」
結束バンドは歌い続ける。
繋がりたいと願ったから、彼女たちは輝いた。
たとえ、どんなに苦しい未来であっても、いつか別れが来ようとも。
紡いだ光は無くならない。
「それでは! 三曲目──」
星座の光は、誰かの心に灯るから。
歓声が聞こえる。
「後藤は、間に合ったみたいだな」
サイクロンを飛ばし、彼はひとりを送り届けた。そして彼は走り去ろうとバイクに跨る──そこへ、別のバイクがやって来た。
「一文字、聴いていかなくていいのか」
「……仕事がある」
「お前一人欠けたところで、支障はない」
「お優しいことで、だが」
耳をすます。
楽し気な生徒の声が聞こえる。まさに青春、眩し過ぎて……自分たちには似合わない。
気持ちを誤魔化して、からかうように笑った。
「うん、アンタらは、
「一文字、僕の身体の大半は機械だが、バイクに変形はできない」
「アルティメットオーグメントでも腐海は作れんぞ」
「意味が違うわ」
「なら、なにが言いたい?」
彼は寂しげに微笑む。
「まあ、あそこは、俺たちが護るべき場所ってことだ」
いずれ、人間たちの感謝は恐怖へ変わる。
自分らの居場所はなくなる。
──だが、彼女は居場所を勝ち取った。それが再び奪われるなんて、絶対にあってはならない。
「……君は」
「悲しい顔すんなよ、時間があれば聴きに行くさ」
「そうだな、俺も興味はある」
「お、小学生11人誘拐犯がなんか言ってるぞ?」
「よろしい、ではハビタット送りだ」
「二人とも、学校前で喧嘩はダメだと思う」
「ん、そうだな」
サイクロン号に乗り込む。
回し、吹かし、エンジンを吹かす。
SHOCKERは滅んだ。
しかし時代が望む限り、仮面ライダーは滅ばない。
「よし、行くか!」
帰る場所はなくとも。
彼らはひとりぼっちじゃない。
嵐と共に走りゆく。
風は彼らのそばにいる。彼らがどこへ行こうとも。
タイトル元:ぼっち・ざ・ろっく!オープニングテーマ『青春コンプレックス』より
『シン・ぼっち・ざ・ろっく カード:ラッキーカード』
仮面ライダー第1号/第2号/第0号
長い戦いの末、彼らはSHOCKERを根絶やしにした。
同時に、同胞たるオーグメントも滅び去った。たった三人残された彼らの帰る場所は、世界のどこにもない。
それでも彼らは、人間の尊厳のため戦い続ける。
彼らの身体が滅んでも、トリプルライダーの魂は永遠に不滅だ。
君も本郷や一文字、イチローのように、自然と平和を愛する優しいこころを、いつまでも忘れないでほしい。
それが、仮面ライダーのかえってくる場所になるのだから!
☆このカードを手元に保管してください。ハビタット世界への旅行券(片道)がその内送付されます。
石ノ森先生の多くの作品で、悪は滅ぼせないものと描かれています。
しかし、それと戦う戦士たちもまた同じ。
人外だからこそ、誰よりも人間らしく……帰る場所を失っても、戦い続けるのでしょう。
後藤ひとりも、その心を理解したはずです。だからこそ、彼女はいつか世界を塗り替えるのです。
ランキングに久々にのりました!
高評価を下さった方々をご紹介いたします!
☆10:ジャガロスめちゃ好き魔剣使いさんさん なまけ鳥さん ぴっろくんさん naguuuさん あねぎみさん bizAirさん ジョ〜ジョさん 通りすがりのLBさん
☆9:堀田瑞松さん カズーニ神さん 空ムーチョさん naga-ikiさん 青だるまの目さん 13FAさん ミックスさん 桶の桃ジュースさん レンタル古書店さん 名無屋さん foxtailさん sudatiさん マラカス0107さん ぽわんぽふさん ヴィランモハイさん 瑞雲全力疾走さん ふにゃ子さん kira429さん GDGD3さん Aitoyukiさん
☆8:hakushi117さん
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推薦とか書かれたら発狂します。
以上で『後藤ひとりは改造人間である』は完結となります。此処までご愛読いただきありがとうございました。