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「ピギィッ!!」
みんなそんなにぼざろロスなんでしょうか……作者もですけど。ともあれ第三話です。クラエー!
『君は我が研究グループが開発した人外合成型オーグメンテーションプロジェクトの最高、いや最終傑作だ。君に最後の命令を刻む。速やかにここから脱出したまえ。誰にも見つからないよう一人でだ。それと、そこのマスクを忘れるな。後の命令は既に──』
20XX年3月下旬。
横浜市金沢区にある海洋研究施設は襲撃を受けていた。
騒乱を呼ぶ警報音。照明が割れ暗闇が落ちる。それを割くライト。バイクが唸り破壊音が鳴る。
それを止めようと、警備員が立ち塞がる──アクセル、加速、血飛沫が飛び散る。
バイクは止まらない。マフラーからジェットが噴出。煙で染まる廊下。真っ直ぐに走り抜けるライダー。
だからだろうか? 煙か、意識の問題か、ライダーは『彼女』とすれ違ったことに気づかなかった。
しかしムリもない。
それが『能力』の一端なのだから。
「……だ、大丈夫、ですか……?」
さっき轢かれた警備員たちが動かない。崩れたバリケードから顔を出し声をかける。反応がない。怯えながらも近寄って胸に手を当てる。心音はまだある。
けど、なにもできない。
内臓が破裂して散乱してる。そんな人を助ける方法なんて、15歳の少女は知らない。
「う……っ、ぁ、ぁ……っ」
初めて見た。人が殺される瞬間を。
「ごめん……なさい、ごめんなさい……」
嗚咽の中、再び響く爆音。
粉塵の先にバイクの背中が見えた。
早く逃げないとわたしも殺される。『今すぐ逃げろ』って頭に刻まれている。
しかし、少女は踏み留まる。
恐いと泣き叫ぶ身体を抑え、間もなく死ぬ警備員に近づく。
彼らの腕を胸元で組ませた。なぜかつけてた『仮面』の上に、自分の患者服を千切った白布を被せた。
「ごめんなさい……こ、こんなことしか……できなくて」
せめて、死ぬならそれらしく。
打ち捨てられた、使い捨てのゴミじゃなく、人として終わった方が、まだ良いような、そんな気がした。
それぐらいしかできることがなかった。
「やだ……なんで、どうして、こんなことに……」
少女はヘルメットを抱えて走る。
幸いと言うべきか、更に死体を見ることはなかった。SHOCKERの構成員は死ぬと泡になって消えるから。
間もなくして基地は消滅。
少女に看取られた二人の
騒乱の中から、改造人間後藤ひとりは始まった。
*
どうして、身体の中から風の音が聞こえるの?
なんで、わたしはこんなに走って息切れしてないの?
基地を抜け、深夜の金沢を走り、逃げ込んだ先は、海浜公園の女子トイレ。
手洗い場の鏡を前にひとりは慟哭する。
「はーっ、はーっ……!」
鏡に映ってるこれは誰?
こんな、鱗や傷塗れの顔は、わたしの顔じゃない。
けど、鏡のわたしは変わらない。
「なんなの、これ」
わたしになにがあったの?
膝を抱えて蹲った。
殺人を見た心の傷。鏡に映る自分。信じたくない光景ばかり。なにも受け入れられない。
どうしてこんなことに?
確か中学の卒業式のあと、押し入れに籠りながら、動画サイト用にギターを弾いて──そこで記憶が途切れる。
それで、気づいたら、手術台の上だった。
なにも分からないまま、頭に響く『声』に従って逃げ出した。
あれは、あのライダーから逃げろって意味だったのかな?
ただ一つ、察せられること。
わたしはあの手術室で『改造』されたのだ。
「オーグメント……? 分からないよ、誰か……教えてよ……」
そうして泣いて、どれぐらい経ったのか。トイレの入り口から朝日が差し込む。ずっとここで泣いてもいられない、家に帰らなきゃいけない……けど、この顔を誰かに見られたらお終いだ。
そうだヘルメット。これを被れば顔を隠せる。ライダーのフリをしてれば、被りっぱなしでも違和感ないし。
たけどそれ以前の問題が。
「……ここ、どこだろ」
わたし家に帰れるのかな……あ、ダメだ、また涙出てきた。
顔洗ったら考えよう。
べそをかきながら蛇口を回す。
ぐしゃり、と音がした。
「……え?」
手の中に何かがある。
震えながら手を開く。
蛇口のハンドルが、プレスされたみたいに潰れていた。
「あ、あぁ……!?」
ひとりはヘルメットを被って走り出す。
逃げ出さずにはいられなかったのだ。
*
ライブを台無しにした夜。
わたしは、一か月ぐらい前のことを思い出していた。
あの日公園を出たあと、素顔を見られないかって、ビクビクしながらだったし、道が分からなかったせいで何度も迷子になった。
ようやく家に帰れた頃には、4月は一週間終わっていた。
入学式も終わってた。
その後、買い物から帰ってきたお父さんやお母さん、〇〇〇やジミヘンは、とても心配してくれてたけど……この顔は見せられない。だから家でもヘルメットは被りっぱなし。
あの事件を調べてみたけど、テレビにもネットにも書いてなかった……わたしはやっと、とんでもないことに巻き込まれたって気づいた。
学校行ってる場合じゃない……どうせ入学式間に合わなかったし。
けど、今もわたしは学校へ通ってる。
色んな意味で危険だって自覚はある。
顔バレもそうだけど、それ以上にこの怪力で誰かをケガさせるかもしれない。
それでも学校に行くのはなんでだろう?
やっぱり忘れ去られるのが恐いのかな? 基本嫌なことしかないけど、数日行かなかった結果、存在を忘れられて『あれ、こんな人クラスにいたっけ?』は普通に死にたくなる。
それともバンド組みたいから?
夢を諦め切れないから? ああ、そう燻ぶってたのが爆発して、昨日のライブ台無しにしたのかな。
なら、決意した通りにしなきゃ。
……昨日はホントに、夢みたいだったな。
翌日、陰鬱な顔で廊下を歩く影。
ガラリと開く教室の扉。
女怪人ギターメット──つまり
……あれぇ?
数行上を見返そう。えーっと、『もうギターは持っていかない』……うん書いてある。
けど背中にはギグバ。
アイェェェ!?
ギター!?
ギターナンデ!?
ここで昨晩からのひとりを見て見よう。
弦の張り替え作業後、少しでも演奏をマシにするため練習に没頭。気づけば次の日の朝。遅刻寸前の重大インシデント。ダッシュで家を飛び出すひとり。ウカツ! 背中に手癖で背負ったギターバッグが!
ただの自爆!
後悔しても遅い。
今日一日はギターと一緒。
『え!? 後藤さんギター引けるの!?』
『すごーい! ブラックビューティーが日本一似合ってるわー!』
『一曲引いてー!』
『あっ弦がまた切れた』
『なんて下手な演奏なのかしら! モテたいからギター背負ってただけなのね! 後藤さんって最低!』
『ギター警察だ! 楽器侮辱罪で焼却処分!』
「ホギャァァア!?」
ひとりはしめやかに爆発四散! サヨナラー!
「先生、後藤さんがヘルメットを残して蒸発しましたー」
「おー、後藤の水蒸気を吸うなよー」
「はーい」
おお見よ!
このふわふわ(水蒸気)したアトモスフィア!
まさに典型的日常きらら空間と言えるであろう。
その後の授業中。ヘルメットから
なんとか迎えた昼休憩。ひとりは教室からの逃亡を図る。
今のわたしにはギターがある。誰か話しかけてくるに違いない。一刻も早く逃げなければ!
……話しかけてくるのが前提なあたり、彼女は結構いい性格している。
ところがどっこい。運命の神はなんか変な気を利かせた模様。
「後藤さん、ギター弾くの?」
「えっ」
今のは幻聴? ひとりは耳を疑った。
「……あれ、後藤さん?」
まさか現実!?
話しかけてくれた! しかもギターについて!
天使のファンファーレが響き君に光が差し込む。歓喜のあまり身体が輝いた(物理的に)だろう──前までの彼女なら。
「あっ……」
「?」
しかし今のひとりはド下手ギタリスト。
弾いて=死の呪文。下手演奏を聞かせたら……いや冷静に、慌てたらビームや怪力で惨劇が起きる、冷静さを維持しろ。会話をするだけでいいんだ。素数を数えれば……2、4、16、256、よし行ける!
「い゛っ(爆音)」
「い?」
「……いっ一応、
ヨシ! 音量調整ミスったけどいけた。
それに、これなら下手演奏でも言い訳が通る!
「へー、そうなんだ。いやでも凄いね、喜多ちゃんも弾けるし、ボーカルできるって聞いたけど……」
「あぐ」
あ、アイデンティティの砕ける音。
「でも後藤さんも凄いかな、わたしからしたら、やろうと思うだけで凄いって思うよ」
「へ、へへ、そうですぁ? ほ、褒めてもなにもでませんよ……」
あ、復活した……調子のいい女である。
「せっかくだから、なにか弾いて貰っても?」
「へへ……ヘァ゛ッ!?」
しまった調子に乗ってたら最悪の展開に! でも予防線引いたからギター警察出動は回避できる。
しかし、なんたることか。
学校の教室でギターを構えようものなら、注目を集めるは必然。
「なんだなんだ?」
「ギター?」
「後藤さんが弾くの?」
弾くぞ、ひ、弾くぞ……ひ、び、ビビ……
「後藤さん?」
ムリ! この注目で下手演奏できないよ! 羞恥心が圧倒的に勝つ!
発想を変えろ! 演奏なしで切り抜けろ! 使える物は……はっ〇〇〇の見てた番組から天啓が!
「モノボケやります! ビートアンドブーストッ! レディファイッ!!」
ギターを斧みたいに振り下ろした。
ひとりの机が両断された。
「あ」
幸いギターはプラーナに護られ無傷。
だが、クラスメイト全員がフリーズ。
ひとりは動かない。どうやら死後硬直を起こした模様。
「後藤さん?」
「ごめんなさぁぃぃぃいいいい!」
ひとりはギグバを回収し、クラスから脱兎の如く逃げ出した。
「……あれって、ギター?」
*
「聞いてください。ダブル黒歴史ひとり弾き語りversion」ジャーン
階段下にある椅子とか机とか積まれた謎スペースから、悲壮感極まる曲が流れ出す。
モノボケは滑った。机は両断した。ダブル黒歴史というか器物破損では……不味い考えるな!
と、余計なこと考えていたからだ。
「あっ」
バチン──と弦が切れる。
力を入れ過ぎた。
これで何回目なんだ。
「嫌になる……」
改造人間にされて嫌なことばかりだけど……一番恨めしいのは、この超パワーだ。
有り余るパワーが全部破壊する。力をちょっとでも込めれば弦が千切れる。指先でピックが粉砕される。ペグを回せば捩じ切れる。
壊さないよう慎重になると、音はブレるしテンポは乱れる。
中学から積み重ねた努力が全部パア。下手どころじゃない。まともな演奏もできない。現に、昨日の乱入ライブでも、最後のシメで弦を全部引き千切ってしまった。
完全に壊れてないのが奇跡に思える。
元々お父さんの物だし……尚更壊したくない。
「早く張り替えよう」
エリクサーを張り替える作業もなんとなくでできる。弾くより修理に慣れたかも。なんだか笑いが込み上げてくる。
「……まだ時間あるか」
それでも身体は止まらない。
身体を突き動かすなにかがある。
お気に入りの曲を弾き始める。
指先を震わせ、必死でパワーを加減しながら弦を鳴らす。酷いスローだ──歯がゆさを堪え慎重に。いっそボーカルに転向しよっかな……マスクのままじゃムリか。
代わりに歌詞を脳裏に並べる。
優しい歌詞、だから好きになった。
もう、どこにも行けないわたしだけど……止まりたくはなかった。可能性に縋ってるだけでも、転がり続けていれば、いつかは──
一曲、どうにか弾き終わる。
ギターを破壊しなかったことに安堵した。
「ふぅ……」
「すごーい! 後藤さんギター弾けるのね!」
「!!?」
誰!? いつの間に!?
「2組の後藤さんよね?」
「え、あ、はい」
「やっぱり、有名だから名前は知ってたけど、ギター弾けるなんて知らなかったわ! あ、わたし五組の喜多っていうの」
なんだこの情報量!? これが陽キャなのか。しかも陽キャカーストの中でも最上位に君臨するウェイ・オブ・ウェイと見た。
「他にはなにか弾けるの? ねぇ、弾いてみてくれない?」
「う゛っ!」
緊急事態発生! 相手は陽キャだ、下手な演奏をしたら『まあなんて酷い雑音なの! 皆に教えなきゃ!』って学校中に拡散される!
なら上手い演奏をすれば……ダメだ『凄い演奏ね! 皆に教えなきゃ!』って拡散されてイソスタイイネホイホイとして一生扱き使われる! 逃げられるのはブームが終わった頃……ブーム後のアライグマみたいに捨てられるんだぁ! 野生化してもわたしじゃ死ぬしかないっ!
やはり断るしかない。生き残るにはそれしかないっ!
「ご、ごめんなs」
キターン!
「はぐぁっ!」
何の光!?
どうして輝いてるの、人間って光るの!?(おま言う)
はっまさか彼女も改造人間!?(違います)
「見たいわ! 後藤さんのギター!」
「あっはい……」
ムリでした。陽キャのお願い断れないです。というか断れないのが陰キャの性なんです。
「じゃ、じゃあ……一曲だけ」
なにがいいかな……そうだアレにしよう。
流行りの曲だから知ってるだろうし、一応昨日弾いたばかりだから、マシな演奏ができる。
スローテンポになっちゃうけど……分かるはずだ。
そして、ひとりはピックを振り下ろす。
その曲は、まさに昨日ライブハウスでやった楽曲だった。
「……っ」
押し寄せる後悔を堪える。今はこの演奏に集中だ。合わせる必要はないから、昨日ほど酷い演奏にはならないだろう。
「……この曲って」
──間もなくして演奏が終わる。
どうだったかな、呆れたかな……と顔を上げる。
喜多は泣いていた。
「え゛!?」
「あっ……ありがとう後藤さん! 凄い演奏だったわ!」
いや泣いてるよこの人!? 不快指数が高すぎたからか! ギター警察が焼却処分が!
「火炙りだけは勘弁してください!」
「何の話?」
「えっわたしの演奏がカスカスのカスだったからじゃ」
「一言もそんなこと言ってないけど……本当に凄かった、感動したの!」
そうなの? それならいいんだけど。
でもじゃあ、なんで泣いてるんだろ? オロオロするひとりに喜多が話しかける。
「……後藤さんのクラスメイトに聞いたんだけど、初心者なのよね?」
「あ、そうです」
「……本当にそうなのよね?」
曇りのない目が、わたしを射抜く。
酷い演奏だった。なのにこの人は『感動』してくれた。
今のどこにそんな、感動できるものがあったのか、わたしには分からない……けど、そこまで感じてくれた人に、まるっきりの嘘は吐けなかった。
「……すみません。初心者じゃないんです」
「やっぱり」
「え?」
「ううん。それじゃなんで初心者って?」
「ちょっと……身体的な病気のせいで、い、今上手く弾けなくなってて……そんな事情なんです。マスクもそれが理由です。ごめんなさい、それを誤魔化したくて、初心者って」
まるっきりじゃない。ちょっとの嘘。胸が痛むけど流石に真実は話せない。
「そうだったのね……」
喜多さんはそう言って動かなくなった。
あ、これヤバい。嘘吐かれたことにプッツンしてるに違いない。
「後藤さん! お願いがあるの!」
「はっはい、なんでしょうか……やっぱり火炙りでしょうか」
「一緒にギターを練習して欲しいの!」
「分かりました今からガソリンを被ってきま……練習?」
「ええ、そう」
「……なっなんでですか? 喜多さん、ギターもボーカルもできるって、クラスの人が言ってたんですが」
「それ嘘なの」
スズメ目アトリ科の?
「憧れの先輩と一緒にバンドしたくて、ギター弾けるって嘘吐いちゃったのよね。それで練習したんだけど全然ダメで逃げだしちゃったの」
「えっ」
「というか初心者には難し過ぎると思うんだけど。メジャー? コードってなに? この棒飾りじゃなかったのね」
「…………」
どういう行動力? いや、たった今嘘吐いたわたしが言えることじゃないけど……
「それで逃げちゃったんだけど……上手くなって謝りに行きたいの。でも一人じゃ練習の仕方も難しくて。後藤さんと一緒なら、とても心強いわ!」
「え、え……えっと」
「初心者じゃないってことは、練習方法も知ってると思うの!」
こ……断らなければ!
冗談抜きに本当に不味い!
わたしと関わってしまったら、色んなリスクが増えてしまう。研究機関or刑務所送りは嫌だ!
だけど。
「この通り! お願いします!」
バンドに迷惑をかけて、それを謝りたいって気持ちは、痛い程分かってしまって。
「……ド、ド下手ですけど、それで、良ければ」
そんな頼み、断れるわけがなかったんだ。
「というか、そもそもどうやってジャンジャン鳴らすの?」
「あ……こ、これベースです」
「え、ベースって弦が四本のでしょー?」
「多弦ベースって言って、六本のもあります……」
「……ハギュウ」
「き、喜多さーん!?」
ああ! またわたしのせいで犠牲者が!
タイトル元:仮面ライダー第1話『怪奇 蜘蛛男』より
喜多ちゃんエントリー。今回はほぼ原作通りです。
冒頭の展開?忘れなさい。
ぼっちちゃんは改造人間の怪力を全然制御できてません。壊さないよう弾くと音が飛び、テンポが崩れ……でド下手になっています。
あと、痛恨のニアミスをした一文字は許してください……アレはオーグメントの能力なんです。
高評価投票をしていただいた、
☆10:スパルタ人さん ビックヒップマネージャーさん 螺胸飲対さん
☆9:13FAさん もむもむさん モカフラッペさん 半ライス大盛りさん コロンヌさん 地球刑事ジバンさん マニモルさん kenmariさん すーらータンメンさん Ice coffeeさん 炙り桜餅さん けちゃっぷかみさん キサラギ・メイノさん 寝太郎@さん
☆8:地方山さん
大変ありがとうございます。まさかここまで見て貰えるとは……
……評価バーが3/5埋まってますね。
赤で埋まって欲しいなーッ!お気に入りも感想も欲しいなーッ!(あぁ~!承認欲求の満たされる音~~!)