ライブチケット皆さん当たりましたか?
わたしは落ちたので次の一般で頑張ります。チクショー!
あぁぁ生ライブ行きてぇ……
一般販売はどれほどの地獄になるのやら。
ではスタートです。
果たして結束バンドは、ぼっちちゃんを加入させられるのか!ライダーはいつになったら出てくるのか!
捕縛された後藤ひとりは、光の速さで店内へ。
暗い店内の雰囲気と合わさり、彼女は正に取調室気分。
なんか幻覚まで見えてきた。目の前にいるのは喜多さんたち? それとも警察官?
「飲み物置いとくねー」
飲み物が置かれる音。
しかしひとりは尋問開始の合図と認識!
迫りくる過酷な尋問。『お前がやったんだろう!』『吐かないなら拷問に処す!』『カツ丼を食わせる!』『カツ丼!』『カツ丼を食え!』『カツ丼!』なんと恐ろしい拷問か!
「後藤さん、それじゃいいかしら?」
「ワタシダケカツドン」
「いいそうです!」
「どうすればそう聞こえるの?」
哀しいかな。一週間で喜多は慣れきっていた。
「まあいっか。喜多ちゃんから、後藤ひとりちゃんって聞いてるけど、あたしのこと覚えてる?」
「お、覚えてます……」
「あたしドラム担当の伊地知虹夏。そっちがベースの山田リョウ」
「どっどうも」
「無理やり連れ込んじゃってごめんね、どうしても言いたいことがあって」
なんだろう。サポート断ったことの報復かな。謝った方がよさそうだ。
「この前のライブ、ダンボールに入ってたのって、ひとりちゃんでしょ?」
「誠に申し訳ありませ……え゛っ!?」
古来よりダンボールは神聖なるスパイ道具として扱われる。古今東西あらゆる諜報員が命を救われた。これは裏社会における常識である──しかしバレれば一転、迫りくる生命の危機。
ひとりは誤魔化そうと決意。わたしはできる!
SHOW TIMEだ!
「わ、訳が分かりません 完熟マンゴーってなんの話?」
「完熟マンゴーは一言も言ってない」
「(突然の仮死薬)」
「死んじゃった!?」
「証拠はこれ」
「はっ(蘇生薬)」
何故彼女と分かったのか。
説明のためリョウが『それ』を出す。
ひとりは固まった。
「ゴ、ゴム手袋……」
「ダンボールに引っかかってた。あの日のサポートが嵌めてた物。でもこんなのは普通つけない。僅かだけど音が鈍るから。初心者が指のダメージ軽減で嵌めることはあるけど、せいぜいそれぐらい」
ひとりはこんな致命的証拠を残してしまったことを悔やんだ。
「更にもう一つ。その人は凄い腕力の持ち主。ライブの最後に異音が鳴った。全然知らない音だった。調べてみたけど……全ての弦を弾き千切った時に出る音だって推測した。ただ凄いパワーがないとムリな芸当……例えば
なんでそのことを?
あっ、きっと喜多ちゃんから聞いたんだ。
どうやってわたしが、背中を押したのか……それが証拠になっちゃったんだ。
「そ、その」
「わたしは感動した」
「えっ」
「行かなきゃお前の頭もこうなるって意味でしょ? 凄いロックな説得だ」
「あっ、ど、どうも」
「けどメンバーを脅されて黙っちゃいられない」
瞬間ひとりは理解した!
彼女達の目的が報復だったと!
STARRYとはライブハウスに偽装された処刑場! ひとりには見えた! 全身バラバラにされ人間打楽器として虹夏に叩かれ続ける未来が! 多分この虹夏はゲーミング色だ。
「ももも申し訳」
「償って貰う」
リョウは人差し指と親指で〇マークを作り、震えるひとりに向けた。
お金のジェスチャーである。
「賠償金1万円」
「幾らでも払います! 虹夏ちゃん、人間打楽器は許してください!」
「しないよ!? 人間打楽器って何!? しかもわたしが叩く前提!? リョウが変な冗談言うから!」
「わたしは本気」
「減給にするよう言っておくね」
完全な自業自得であった。
しかもここの店長は彼女の姉。妹の持つ権限は圧倒的。
だが世界のYAMADAは一味違う。
バンドマンの鏡を自認する彼女は、抜群の会話スキルを備えていた。
この危機を切り抜けて見せるのか。
「話戻すね」
「真面目な話にしても誤魔化されないからね」
しょぼくれながらリョウは話を再開した。
「……あと、店長から仮面の子が来店してたって聞いた。ヘルメット、ピンクジャージ、剛腕。これだけ揃ってれば同一人物で間違いない」
完熟マンゴーと口を滑らせた件は触れなかった。
リョウにも最低限度の優しさがあったのだ。
……こうなれば最終手段。
覚悟を決めたひとりは、流れるような連続土下座を決めた。
「この度は誠に申し訳ございませんでした!」
「キャッ!? 地震!?」
「どうか、どうか、どうか、なにとぞわたしの首一つで勘弁してください゛い゛い゛い゛!」
轟音を立て揺れるSTARRY。
改造人間にかかれば土下座さえこの通り。その迫力は
「ちょちょストップストップ! お店が崩落するから本当に止めて!!?」
「け、けど迷惑かけたお詫びを……」
「何の話?」
「え?」
犬神家状態のひとりを、スポっと山田が引っこ抜く。
穴は時間経過で埋まるだろう。多分。
「わたしたちはお礼を言いたかっただけ」
「ひとりちゃん。あの日は本当に助かったよ!」
「お、お礼?」
ひとりは『なんで?』と首を傾げた。
「あ、あの、ド下手でしたし、ダンボールだったし、むしろ台無しにしただけですし……」
「ううん。演奏頑張ってたから、気づいてないかもしれないけど、ライブ大盛り上がりだったんだよ!」
「ほっ本当ですか?」
「本当。それにお客の大半は学生。演奏の良し悪しなんて分からない」
(その発言はどうなんだろう……)
けど、お礼だったなんて。
ちょっと安堵したひとりに電流走る──これ逃げていいんじゃない? よし逃げよう。
後藤ひとりは後ろ向きに全速力な生物、こういう時の決断は早い。
「でも責任はとって」
「え?」
「犯罪は見逃せない」
え?
「ここに入るにはチケットが必要。あの時買った?」
「……あっ」
「しかも店長とスタッフを失神させてた。無銭飲食か、不法侵入か、暴行未遂か、どれかにはなる」
「え、あ、え、に、虹夏……ちゃん?」
スロットマシンの如く表情を変えながら、ひとりは虹夏に救いを求める。
彼女は天使のように微笑んだ。
ただ
「お詫びとして、一日
「……バイト?」
「うんバイト」
バイトかぁ。
皆さんさようなら。
「ピギニィヤァァァァッッッ!!!」
瞬間、後藤ひとり緊急脱出システムが作動。
脱出ポッドが緊急パージ……ヘルメットごと『生首』が発射!
「おお! ジオ〇グだ!」
「ただい……うああああ!!?」
「お姉ちゃーん!?」
見よ! 逃走ついでに敵を
まさに最強のオーグメントに相応しい。ハビタット世界でイワンも微笑んでいるだろう!
え? 人選ミスに泣いてるって?
まさか!
*
結局、ひとりはバイトの覚悟を決めた。
こうなったら活躍して、贖罪を果たすしかない!
一周回って、ひとりはやる気に溢れいた。
彼女は改造人間の圧倒的パワーを見せつけることができるのか!?
「じゃあ机運ぶね、そっち持って……机三個同時持ち!?」
「あ、力仕事なら任せてください」
「でもバランスの問題が」
「あーっ!!」
「ひとりちゃーん!」
「じゃ、じゃあ掃除するね。はいこれモップ」
「て、徹底的にキレイにします!」
「おお、頼もしい……じゃない! 摩擦熱で炎が!」
「わぁぁぁ!?」
「燃え移った」
「ひとりちゃーーん!!」
「ドリンク覚えよっか!」
「は、はい!」
「こっちがソフトドリンクのドリンクサーバーね。ビールはこっちから。カクテルは後ろの棚で、右からテキーラ、ウォッカ、ラム」
「ピーーーーッ」
「頭から煙!?」
「情報過多でオーバーロードしたんだわ!」
「おお、溶けだした」
「ひとりちゃーーーん!!!」
改造人間の圧倒的パワーを見せつけた後藤ひとり。はい大失敗です。
「ミトコンドリア未満の珍生物です……」
「げ、元気出してひとりちゃん、最初は誰だって失敗するって。それじゃカクテルの練習してみよっか」
「えっ、わ、分からないです」
「大丈夫、作り方はメモに書いてあるから」
なら平気かな。カルピスぐらいなら作れるし。
その時、受付の方から喜多さんの声が聞こえた。
「こんばんわ! 今日はどのバンドを見に来たんですか?」
声だけでも、何もかもが違うって分かる。
人間としての格の違いを見せられてるみたいだ……
「喜多ちゃん凄いよねー。ドリンクも受付もできるなんて。バイト始めたの昨日なのに」
「きのう?」
「うん、昨日」
ひとりの精神に亀裂が入った。
しかし、今回は笑い話にできなかった。そのショックで彼女は
「あっ……!」
不意に、
割れたガラスがゴム手袋を貫通。手から血が流れる──顔が青ざめる。
「大丈夫ひとりちゃん!?」
「だっ大丈夫です! け、軽傷、なので」
「血が出てたじゃん! 早く手当を!」
幸いゴム手袋は破れてないけど、隙間から見えている。隠そうとするが──間に合わなかった。
虹夏は見てしまった。
ひとりの手に
「……え」
その間に出血も止まった。
終わった。もうダメだ──しかし、虹夏の反応は予想と違っていた。
「あービックリした!」
「え?」
「本当に大した怪我じゃなかったんだね、安心した」
「え、え?」
どうして動揺してないの? だって鱗だよ?
混乱するひとりに、彼女はそっと耳打ちする。
「喜多ちゃんから聞いてる。仮面や手袋をしてるのも、力加減が利かないのも、病気の事情だって。鱗っぽいのも、皮膚病的な感じなんだよね?」
ひとりは咄嗟に頷いた。
本当は違う。しかし真実は言えなかった。
「あの、オレンジジュースお願いします」
「はーい……お手洗いに別の手袋あるから、それに替えてきていいよ」
気にならないの? 出血まで止まったんだよ? 気持ち悪くないの?
それでも、手を隠す方が最優先。
気遣いに感謝しつつ、ひとりはお手洗いに走った。
*
数時間後。ひとりは無事バイトを終えることができた。少しづつだが力加減を覚え、物品破壊はほぼなくなった。それでもビールサーバーやお客さんを破壊しないか怯えながらだが──まあ怪我人が出なかっただけ及第点だ。
「お疲れ様ひとりちゃん!」
「あっ、じゃあ、これでわたしは……お、応援してますね」
ひとりはすぐ立ち去ろうとした。
元々、全部から逃げ出すつもりだったのだ。
もうここには近づかないつもりだ。
「待って」
しかし、その手を喜多が掴んだ。
「き、喜多さん?」
「……ギター、辞める気でしょ」
「!?」
「病気が治る見込みないから、諦めるつもりでしょ」
「な、なんで……」
「リョウ先輩が気づいてくれたの。後藤さんのギター、何回も直した痕があったって」
それは改造されて以降の話。力加減ができず、何度も壊して、その度に必死で直した。大切な物だったから。
「それだけ愛着のあるギターを、簡単に渡すなんて……ひょっとして、渡しちゃえばギターを諦められるって思ったんじゃないの?」
そこまで見破られていたことに、ひとりは驚きつつも、同時に嫌われる『チャンス』だと思った。
「そ、そうです。諦めたかったんです。喜多さんがギター持ってないの、丁度良かったと思いました。先生もどこかで辞めるつもりでした」
ほら、わたしは最低な人間だ。
早くここから追い出して、二度と関わらないで。
「ズルい」
「え?」
「人に、手遅れになるって言っておいて、後藤さんは逃げるの?」
「たっ託せるって思ったんです。喜多さんならわたしの分までバンドしてくれるって……き、気持ち悪い勝手な期待ですけど」
「…………」
「き、喜多さん?」
「なら……もう少し諦めないで」
手を握る力が強くなった。
「一人じゃ逃げちゃうことでも二人なら頑張れる。後藤さんがそう教えてくれた。だから今度はわたしの番。支えるから……もうちょっとだけ頑張って欲しいの!」
「わたしも同じ意見」
リョウさんも話しかけてくる。
「前のライブで、手袋外して演奏してたよね」
「そ、それが?」
「あれは、わたしたちの為に、少しでも良い演奏をしようって思ったからでしょ」
わたしは頷いた。
念願のバンドだった。
大迷惑な乱入だったとしても、ずっと望んでたことだった──その切っ掛けをくれた虹夏ちゃんを、助けたかった。
「だからだよ。病気の肌を見られるよりも、助けてくれようと頑張ってくれた。その熱意に応えたいって思う。あとは……うん、色々あるけど、わたしもひとりとバンド組んでみたい」
ダメだ。流されるな。自分がどういう生き物か分かってるだろ? 簡単に人を殺しかねない危険な奴だって。
「バ、バイトで見た通りです。力加減が全然できない。だ、誰かに怪我をさせるかも。下手をすれば、人死にだって……」
「ひとりちゃん」
虹夏ちゃんまで出てきた。
でもダメ。わたしの意思は変わらない。
──だからお願い。足動いて。ここから逃げて。
「分かってる。加減ができないから危ないのも、ギターも下手なのも。病気のことだから口出しできることじゃないし、本当に嫌なら大丈夫」
「そ、そうですよね?」
「でも、伝えたいことがあるの」
彼女はが顔を上げる。
それは、これ以上ないってぐらいの笑顔だった。
「あのね、ひとりちゃんはすっごいライブ楽しんでたんだよ!」
「……え?」
「だからバンド組みたいの、本当はギターもライブも大好きで、苦しい中でも頑張っていたひとりちゃんだからこそ、一緒に頑張りたいって思うの! それにバンドなら……あ、あれ? ひとりちゃん?」
視界が歪みだした。
ヘルメットの中がいきなり湿っぽくなった。
その光景のように、わたしの心はぐちゃぐちゃだった。
「もしかして泣いてる?」
「なんで、や、優しく、してくれるんですか……?」
「……なんで、かぁ」
彼女は振り返る。
目線の先にはライブハウスのステージ。
「わたしね、このライブハウスが好きなんだ。だからここに来た人全員に良いハコだったって思って貰いたい。もちろんひとりちゃんにも! だからバイトで楽しさを感じて貰おうと思ったんだけどちょっと失敗だったかも……」
「えっ」
「え、えーっと! だから伝えたかったんだ。ひとりちゃんとのライブは楽しかったから、バンド組めたらもっと楽しいかなって──わたしがバンド組みたい理由、以上!」
鮮明に思い出せる。あの日のライブは、夢みたいだった。そう思ったのは、もう二度と経験できないから──ってだけじゃなかった。『楽しかった』から、夢みたいだったんだ。
「……ですか」
「え?」
「入って……いいんですか?」
ここまできて、自分から踏み出せない臆病者。
わたしは、こんな陰キャだよ? けど彼女は、わたしの手を両手で握って笑ってくれた。
「もちろん!」
もう視界はぐっちゃぐちゃ。鼻水でヘルメットの中は無残。なにもかも台無しだ。
だけど、絶対に忘れない。
わたしはこの日を──フラッシュバックのように思い出すんだろう。
「……あ、ありがとう、ご、ざいます……よ、よろしく、お願いします……っ!」
「うん、こちらも……また明日からもよろしくね!」
改造人間に似合わない光景。
けどこの人達となら、明日を信じられるような、気がしたんだ。
「よかった。説得できて」
「後藤さんの作戦が下手で助かったわ」
「……え?」
「だって、ギター辞める計画が、ギター渡して徐々にフェードアウト……って、もの凄い中途半端よね。未練タラタラなのわたしでも分かったわ」
「……バレバレ……わ、わたしは道化……?」
「これ以上ひとりちゃんのメンタルを壊さないでー!」
*
──数か月後。
金沢八景駅近くの某所。
公園のベンチに座る男三人。彼らは異様な雰囲気を纏っていた。
「手掛かりは?」
「時間はかかったが、これだ」
コートの男に写真を渡す。
公衆トイレの蛇口の写真。
「最近交換が入った。交換理由はいたずらによって壊されたから、生憎古い方は廃棄済みで現物は見られないが、ほぼ間違いない」
もう一枚の写真を渡す。
崩落した海洋研究施設の写真。
「何人かがここを訪れた痕跡があった。24時間体制で監視していたが、気づかれず潜入を許してしまった……それも複数名だ」
「SHOCKER驚異の技術力……いつものパターンだな」
「ああ、いつものだ」
男三人は、何故だかうんざりした様子で肩を落とした。
「活動拠点は、この辺りの可能性が高い」
「俺が動いていいのか」
「リハビリついでだ。発見しても戦闘は避けてくれ」
「分かった」
コートの男がベンチを立つ。
その背中へ、眼鏡の男が声をかけた。
「オーグメントは、必ず絶望を抱えた人間から選ばれる。手駒として改造された者も同じだ、君のように。気をつけてくれ」
──いつかの明日。
彼らと彼女達は、対峙する。
指先一本動かせなくなった人たちが、数十人近く、体育館に寝かされている──壮絶極まる光景に。
それを成したのが、後藤ひとりだという現実に。
タイトル元:ASIAN KUNG-FU GENERATION シングル『ブラッドサーキュレーター』より
ぼざろタイトルだけじゃ足りないからこっちからも持ってきました。
ぼっちちゃんは原作より曇りまくってるので、生半可な説得じゃ加入できないんですよね。結束バンド三人掛かりの全力説得で、どうにかなりましたが。
……こういう描写をスラスラ書ける人って凄いと思います。
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※ 5/7 リョウ→喜多さんの呼び方を訂正しました。