わーい。だけど捜索内容が『かわいい子には地獄を見せろ』だったんですよね。酷くないですか? ギターが取りえの女の子からギターと人の身体奪っただけなのに。
( | )<心外ですよね。
申し訳ないのですが、今回はギャグ無し回です。展開の都合上、完全な真面目回です。次回以降は頑張ってお笑いを捻じ込んでいきたいので、今回だけはご容赦ください。
おかしい。
おかしい。
おかしくないのがおかしい。
わたしは駅へ走る。
多分だけど、虹夏ちゃんたちが、追ってきてくれている。
それを振り切って、恐怖に背中を押され、STARRYから逃げ出した。
あれ以上あそこにいたら、頭がおかしくなりそうだった。
いや、おかしいのはわたしかもしれない。
ちょうど列車がやって来る。
息を荒げて、金沢行きへ転がり込む。
『間もなく扉が閉まります。ご注意ください──』
出発のベルが鳴る。
乗客はわたしだけ。
椅子に座って、目を閉じる。
オーディションの光景を思い出す。
暗闇に刺す、わたしたちを照らす光。
思いの丈を込めてギターを弾いた。
そしてオーディションに受かった。最高の時間だった。
なのに今は、自分の音しか聞きたくない。
「……どうなっちゃったの」
答えてくれる人は誰もいなかった。
そう、
*
オーディションまでの一週間。結束バンドの面々は、限られたその時間を個人練習・セッションを含め、可能な限り練習へ費やした。
必死の頑張りの成果か、それなりに安定した演奏になってきた。
急ごしらえなので、流石に粗は目立つ。
だけど一週間でこれなら、むしろ上出来だ。
特に喜多ちゃんの成長は凄かった。自分のパートだけなら、ほとんどミスせず弾ける。虹夏と山田は言うまでもない。個人でも併せでも安定している。
だが、ぼっちは違った。
「あっ……!」
ギターが止まる。
演奏全体も止まる。
力み過ぎたせいで、弦が切れた。
幸いそれ以外のダメージはない。
「どう?」
「こ、故障はしてないです」
「分かった、はいこれ弦」
「す、すみません……」
謝っても解決しない。
分かってるのに、そんな言葉しか出てこない。
申し訳なくて、情けなくて、とことん自分が嫌になる。
──ぼっちは下手なままだった。
成長しなかった──とは言わない。
努力しなかった──だなんて、口が裂けても誰も言えない。
リハビリを兼ねたバイトも、慣れないセッション練習も、一度も休まず必死で続けたのを、結束バンドは知っている。
「……も、もう一度お願いします」
だが、その努力が実るには、時間が足りなかった。
改造人間は容易く人を殺傷できる。そんな力を、よりにもよって繊細な演奏で制御する。それ自体が半ば無茶、不器用なぼっちでは、もはや不可能と言ってよかった。
しかしぼっちは諦めない。
「もう一度、お願いします」
弦が千切れる。
残った弦でカバーを試みる。
逆に残りも千切れる。
「もう一度、すいません」
慎重になりすぎた。
テンポが乱れる。
ギターは壊さなかった。でも演奏がガタガタだ。
「もう一度──」
「ぼっちちゃんストップ!」
「す、すぐ直します!」
「違う、喜多ちゃんが限界!」
「えっ」
「ご、ごめんなさい、後藤さん……」
ぼっちに体力切れの概念はない。
問題は喜多ちゃんの方。
慣れてきたとはいえギタボは相応の体力が必要。真っ先ににダウンするのは必然。
「わたしたちも不味い。これ以上は明日に響く」
「そ、そうですか……」
「……しょうがないけど、今日は解散だね」
「は、はい……」
「全員、明日のオーディションに備えて早く寝ること!」
もうオーディションは明日。
セッション練習はもうできない。
だけど個人練習ならまだできる。
こんなレベルじゃダメだ。努力が足りていないんだ。もっと頑張らなきゃ──そう考え込んでいたからか。
「…………」
虹夏の目線に気づかなかった。
*
時間は0時。
日付変更線は超えた。
しかしぼっちは起きていた。寝ていられなかった。自宅の押入れの防音室でギターを鳴らし続けていた。
血走った瞳。
弾きすぎで血塗れの指。
その血で濡れた弦を弾き続ける。
(足りない、足りない、まだ足りない)
楽しくない、安心もできない、苦しいだけ。
全部自業自得だ。
今までを皆に甘えていた自分のせいだ。
そう考え、彼女は拷問のような練習を止めようとしなかった。
そうやって死ぬまで頑張るつもりだった。
電話のコール音が鳴るまでは。
「!?」
困惑するぼっち。
スマホの画面には、『虹夏ちゃん』と表示されていたからだ。
家族と間違い電話以外を受けたことがない彼女にとって、人生初となる友達からの電話。普段なら飛び上がって喜んだ。
だけど今は、なにも感じない。
(こんな時間になんの電話かな。いや、明日のオーディションだよね)
碌な話じゃないのは明らか。
けど出ないわけにもいかず、スマホの画面をスワイプする。
『ぼっちちゃん? 聞こえてる?』
「あっはい」
『今、練習してたでしょ』
「え!?」
『なんなら徹夜する気でしょ』
なんで気づかれた!?
と、驚く声が向こうに聞こえる。
虹夏は『やっぱり』と溜息を吐いた。
『なんだか最近、追い詰められた様子だったから、もしかしてって思ったんだけど……最近ずっと寝れてないの?』
「は、はい。ずっと練習してて……先週から」
『そっか、先し……先週ぅっ!?』
せいぜい寝不足だと思っていた虹夏。
しかし、想定外どころではない事実に言葉が一瞬出なかった。
『オーディション言われた日から、六日間ずっと?』
「は、はい」
『し、死んじゃうよ。身体が平気でも心が壊れちゃうよ……』
「そ、そうですかね?」
いくら改造人間でもある程度の睡眠は必要。
ぼっちだってそれは本能的に分かってる。
だが、その生存本能を凌駕してしまうほど、彼女の精神は追い込まれていた──自分で自分を追い込んでいた。
『…………』
「に、虹夏ちゃん?」
『ごめんね、ぼっちちゃん』
「え?」
突然謝られて困惑するぼっち。
『いや、ほら、わたしたちさ、ぼっちちゃんをかなり強引な方法で勧誘したじゃん。それで入ってくれたけど、かなり無理をさせちゃってたんだなーって』
「む、無理だなんて」
『実際、わたしたちの力になろうとして、こんな無茶までさせちゃってるし。申し訳ないなって思ったり……』
「ち、違います!」
虹夏の言葉を遮る。
嫌だった。そんな謝罪はして欲しくない。
「た、確かに無理はしてます……けど違うんです! だから、その……!」
『ゆっくりで大丈夫。ちゃんと聞くよ』
ぼっちは息を整える。
そして、たどたどしくも話し出す。
結束バンドへの思いを。
「わ、わたしはずっと薄暗いところにいました。それでも、そこは人の場所で、改ぞ……病気になってからは、もうどこにも居場所はないんだって、心のどこかで諦めてました。
だけど、虹夏ちゃんがそこから引っ張り出してくれた……皆が居場所を作ってくれた……なのに、わたしは、何も返せてない。
今だって、貰ってばかりで……だ、だからオーディション落ちたくない。これ以上足手纏いは嫌で……わたしだって、皆の力になりたくて……!」
しかし現実は残酷だった。
クソみたいなプライドは捨てて、明日全部アテフリにすべきかな。それとも抜けた方が……でも今抜けたら喜多ちゃん逃走事件の二の舞だ。
どうしよう、いっそ死ぬべきかな。
「ぼっちちゃん、夢ってある?」
「へ?」
いきなり話が変わり、間の抜けた返事をしてしまう。
「結束バンドを通じて、なにをしたいのかなって」
「そ、それは……」
「あ、言い難いなら大丈夫だよ」
この空気で『チヤホヤされたい』なんて、口が裂けてもいえなかった。
──しかし、言えなかった理由はそれだけじゃない。
『私、夢があるんだ。昔からの大事な夢が』
「そ、そうですか」
『けどそこには、皆で一緒に行かなきゃダメなんだ。誰かが犠牲になったら、もうそれはわたしの夢って言えない……そう思ってるんだ』
その言葉が胸に刺さる。
『だから無理しないで。力になろって頑張ってくれてるのは嬉しいよ。だけどそれで、自分の夢を犠牲に……蔑ろにしてほしくない』
死んでも練習しようとしていた。
夢どころか命も蔑ろにしていた。
焦りや劣等感のあまり、とんでもないことをしていた。罪悪感のままぼっちは謝罪の言葉を絞り出す。
「ご、ごめんなさい……」
『あ、うん、いやこっちこそごめん。元気づけたかったのに、変な空気にしちゃって』
「い、いえ、自業自得なので……」
『ヨシ! この話はこれでお終い! 今日はもう早く寝れるよね?』
「は、はい」
元気一杯の返事──は無理だ。
普段の奇行に隠れがちだが、彼女の『絶望』は──その奥底に潜む分も含めて──生半可なものではない。
それでも、『幸福』を得るには進むしかない。
結束バンドと得たいのなら、止まれない。
『あと、何も返せてないって言うけど、それはわたしも同じだよ』
「えっ?」
『ライブの時、もっと安定してサポートできればーって、ずっと思ってるんだ。だから、みんなお互い様……だって思うんだ』
「そ、そうですかね……?」
『うん、そう!』
だけど、もしかしたら。
『わたしだって、ぼっちちゃんの大切な夢、手伝いたいんだ!』
進む道にこそ、『幸福』があるのかもしれない。
明日待ち受けるオーディションさえも、楽しむことができたのなら。
それでもまだ、焦燥感は残ってる。
ただそれ以上に、みんなと一緒に、どこかへ行きたい。
その憧れが生まれていた。
*
あれから一晩。
オーディション当日、ぼっちは無事STARRYへ現れた。
あの後すぐ横になったのだが、すぐに熟睡してしまった。虹夏の言った通り精神的疲労は相当溜っていた。
正直まだ眠い。
六日間徹夜した疲労は、一日寝た程度じゃ全快しない。
それでも、心はだいぶスッキリしていた。
「みなさーん、準備できましたかー?」
やがてリハーサルが終わり、時間が訪れる。店長とPAさんが見守る中、彼女たちはステージに立つ。リーダーの虹夏が審査員へ告げる。
「け、結束バンドです!」
彼女の声は少し震えている。山田も喜多も緊張している。だがぼっちは、別のことを考えていた。
(結局、わたしの夢は分からなかった)
朝起きてからずっと考えていた。
しかし答えは出なかった。
そりゃそうだ。
だってもう、叶っちゃってるから。
人ですらないわたしが、皆とこうしてバンドをしている。それだけで奇跡みたいで、絵空事のようで──今が正に、夢の中だから。
この時間が終わるのは嫌だ。
居場所をくれた皆に応えたい、その気持ちだって嘘じゃない──だけど、とぼっちは思う。
この夢は、わたしのやりたいことなの?
ただチヤホヤされたいなら、ステージに立つ必要なんてない。今時ネットでもなんでも、手段は幾らでもある。
「わたしたちの、初めてのオリジナル曲を演奏します!」
まだ答えは見つからない。
それでも、わたしは、皆でなにかをしたい。
もっと大きな何かを……目指してみたい。だから、こんなオーディションなんかで、止まりたくない!
やるんだ。
今のわたしにできることを。
思いの丈をギターに乗せる。
この『歌』は、それを込めた『唄』だから。
「曲名は、『光の中へ』です!」
結束バンドに掛けた思い。
そこから得た楽しさ。新しい世界を見た輝き。
ギターから伝わる、彼女自身の『素』の感情。
ギターを壊すのが怖かった。
周りとズレるのが嫌だった。
だけど今は、一番大切な、この気持ちを伝えたい!
迷いが消え、余計なものが削ぎ落された。
後藤ひとりのギターが──少しだけ『元』に戻った。
(これ、ぼっちちゃん……!?)
演奏は走り気味。しかし、気を遣い過ぎて不安定だった頃より、遥かに安定した旋律。虹夏たちは初めて知った。これが彼女の音なんだと。
虹夏と山田が目を合わせる。リズム隊が後藤へ旋律を寄せる。喜多ちゃんがギターそれに追従し、更にボーカルでステージを彩っていく。
──生まれたよ一つ 新しい世界が
──この時間 この場所 まるで絵空事
──毎分毎秒が奇跡 刹那の煌めき 日々の隙間に意味を落とせ
店長の口角はいつの間にか上がっていた。
彼女が見たかったのは、正にこの光景。こうでなければ、ステージに出しても、彼女たちの成長にならない。
けど、これならば。
──上手くいかなくても 前を向けなくても
──このフレーズ この歌 本当に好きな音
──頑張ったって爪弾き それでも爪弾き
ステージに立っていたのは、ただの仲良し学生バンドではない。
そこにいたのは、紛れもなく、結束バンドという一つの『音楽』だった。
──届けてみよう 不器用でも
──束ねていこう 何処までも──
オーディションの結果はどうなったのか。
そんな答え、わざわざ言うまでもないだろう?
*
気づけば暗闇の中にいた。
(あれ?)
ここはどこ?
オーディションはどうなったの?
あと頭がズキズキするのはなんで?
「う、うーん?」
「あ! ぼっちちゃん起きた!」
ぼっちは椅子を合わせた簡易ベッドで横になっていた。
周りには、心配そうに覗き込むみんなの姿。
「大丈夫? 身体変なところはない?」
「あ、あの、どういう状況で……?」
「ビックリしたわ、後藤さんオーディションの後、いきなり気絶しちゃって、しかも頭を地面にぶつけたのよ」
「姿勢を崩した勢いでね。ズゴーンって音がした」
ぼんやりと思い出してくる。
店長の合格宣言を聞いて、緊張の糸が切れて、卒倒したのだ。
ただし原因はもう一つ。
徹夜続きの無茶で、肉体が疲弊しきっていたからだ。それと極限緊張のダブルパンチの結果失神。あげく頭を地面に打ちつけた。下手すりゃ大怪我の大失態。
当然、虹夏からお怒りの言葉が飛んで来る。
「だから寝ないとダメって言ったじゃん!」
「ご、ごめんなさい……」
「もう……でも、怪我とかなさそうで良かったよ」
「うん、見た感じ
──え?
外傷? 頭の?
なんで分かったの?
震える手で顔に触れる。
ヘルメットの触感がなかった。
「ごめんぼっち。でも怪我してないかの確認が優先で……」
「後藤さん、はいコレ」
喜多ちゃんが、ぼっちに
バイザーに映っていたのは。
紛れもなく
ぼっちの素顔が晒されていた。
(終わった)
こんな皮膚病ある訳ない嘘だってバレた。化け物だって知られた。どういう反応をされるか想像できる。心が絶望に埋め尽くされる。
「騙しててごめんなさい」
「え?」
「さっさと消えます。新しいギターが見つかって、活躍するのを願っていま──」
「待って待って!? なんの話!?」
「だ、だって、こ、この顔ですよ……!?」
「うん、それが?」
だがぼっちは思い知る。
本当の怪奇はここからであると。
「どこもおかしくないじゃん」
「は?」
虹夏ちゃんはなにを言ってるの?
「二人もそう思うよね」
「ええ、皮膚病って聞いたけど、ごめんなさい、どの辺りが病気なの……?」
「外気に触れると、症状が出るとか。でもうん、わたしも普通の顔だと思う。いやなんなら顔で売り出せる美少女に……」
「デリケートな話! 茶化さない!!」
「いや緊張を和らげようと……」
これはなに?
どうなってるの?
気を遣ってるって様子じゃない。
「こ、この顔見て、変じゃないんですか!? 目とか、鱗とか、牙とか!!」
彼女たちは互いを見合う。
そして首を傾げる。
「え、そこは普通でしょ?」
「ええ、色白とか色黒とか、その程度の差ですよね」
「皮膚病はそれ以外のところでしょ。あ、無理に聞き出すつもりはない。重ね重ねごめん、勝手にヘルメット取っちゃって」
「──ッ」
「え!? ご、後藤さん!?」
おかしい。
おかしくないのがおかしい。
明らかな異常事態を目の当たりにして、ぼっちはSTARRYから飛び出した。優しいはずの皆が、今ばかりは怖くて仕方がなかった。
*
そうして、金沢行きの電車へ飛び込んだぼっち。
運良く席はガラガラ。車両の中には自分一人。力なく座席へ座り込む。
オーディションを通った喜びは消し飛んだ。
恐怖と、困惑だけが渦巻いていた。
「……どうなっちゃったの」
とりあえず、みんなに謝罪のロインは飛ばしておいた。
心配かけちゃったのは申し訳ないけど、今はみんなの顔を見れそうにない。
なにもかもが分からない。色々考えてみるけど、結局分からず、絶対におかしいということしか分からない。
結束バンドを止めなくていいのは良かった。だけど、この恐ろしい
「教えてよ……誰か、助けてよ……」
ヘルメットのバイザーを、涙が濡らしていく。
「その願い、受理いたしましょう」
誰もいなかったのに、隣から声がした。
驚き、横を見たぼっちは、更に驚いた。
他人がいたからではない。そこにいたのは──スーツを着てこそいたが、紛れもなくロボットだったから。
「知らないことを恐れる。それは生物として自然な反応です。故に正しく知れば、恐怖を取り払うことも可能です。わたしはそれを知っています」
「そ、それ?」
「すべては、後藤様の『能力』です」
「能力……?」
困惑極まる彼女を安心させるため、『ソレ』は優しい口調で、自らのを名乗った。
「わたしは外世界観測用自律型人工知能『ケイ』。今は亡きイワン様の遺言に従い、後藤様の幸福を支援しに参りました」
タイトル元:ぼっち・ざ・ろっく!#05『飛べない魚』より
ぼっちちゃんの初作詞は、『光の中へ』でした。
いやだって……ライブで聞いた時、改造人間ぼっちちゃんに、ドンピシャだって思っちゃったから。ギターと孤独と蒼い惑星はまた別の機会に。いやー、やっと書けました……
ちなみに、原曲と違って、喜多ちゃんしか歌ってないです。まだぼっちちゃんの経験値が足りてないので。
それはそれとして、今まで小出しにしてたけど、今回のでぼっちちゃんの能力が分かったんじゃないかと思います。詳細は次回説明。そして何オーグかも次回……え?分かり切ってるって?よしクモ先輩やっちゃってください。
では、今回高評価を入れていただいた皆様です。
☆10:もりけふさん
☆9:金城臥竜さん
誠にありがとうございます!
更に紹介してくれた猩々さん、ありがとうございます!
例の如くですが、評価、感想、お気に入りお待ちしています。良いねくれーっ!