リムルとフォルテがルミナス達と和解の宴で盛り上がっている頃、シルトロッゾ王国ではグランベル
「……貴方もお人が悪いですなグランベル
「笑止。巻き込まれる前にさっさと逃げ出したそうではないか。相変わらず鼻が利きよる。流石は
「仕方ありますまい。報告は受けておられるのでしょう?…あの悪魔は化け物でしたよ。私の、そして貴方の想像以上のね。」
ダムラダの判断は正しかった。その悪魔は
「…化け物の作戦を阻めなかった以上、大国ファルムスは地に堕ち新たな王国の誕生はもはや確実だ。」
「私ばかり責められるのは納得いきませんね。そちらもどうやら……ヒナタの始末に失敗したとか?しかも魔王リムルと魔王フォルテとの結びつきを強固なものとさせてしまったご様子。」
「そうだな。それは認めねばなるまい。今や全て……魔王リムルと魔王フォルテの思惑通りだ。奴らはジュラの大森林を経済の中心として成長させるつもりだ。そんな事をされては西側諸国におけるロッゾの影響力も落ちようというもの。断じて認める訳にはいかぬ。」
グランベルは力強い眼差しでダムラダを見据えながら言った。
「貴殿達にとってもそうではないか?東と西の貿易を一手に握る事で
「ふむ…。確かに…。ここで我々がいがみ合っても意味はありませんね。五大老……ロッゾの皆様方とはこれまでも良いお付き合いをさせて頂きました。それはこれからも変わらぬものと私はそう理解しております。」
「流石はダムラダ殿。話が早くて助かるぞ。(七曜の老師としての立場は失い、神ルミナスの名を利用する事は出来なくなったが
グランベルは七曜の老師達とルミナス教での立場を失ったが、まだ
「では共に協力し合って彼の地に新たな経済圏が生まれるのを阻止しようではないか。」
「おっとお待ちください。」
「あぁ?」
だがグランベルの思う通りにはならずダムラダが待ったを掛けた。
「今後も良き関係でありたいというのは本音ですが、グランベル
「貴様……。」
ダムラダが協力しないと知り睨むグランベル。
「……そうか。仕方あるまい。ではせめて邪魔だけはしてくれるなよ。」
「それは当然ですとも。商人として信用は大切ですから。」
(よく言う…。もしもヒナタが始末されていればとっくに魔王リムルと魔王フォルテに取り入っていただろうに。)
「では取引はこれまで通りに。今回の件はお互いに水に流すという事で。」
そう言ってソファから立ち上がるダムラダ。
「…お帰りかな?」
「私はヒナタに顔が割れているのでね。西側での活動は控えようと思います。」
そう言いながら部屋の扉へと歩むダムラダ。
「本国に戻り代わりの者を寄越すとしましょう。…それでは失礼いたします。」
そう言ってマリアベルの頭を撫でてからダムラダは部屋から出て行った。
「…忌々しい。ワシの足元を見るとは。」
グランベルは拳を強く握り締める。
「ことが終われば次は貴様らだ。
そして、グランベルとの話し合いを終えたダムラダは転移である人物の元へと向かった。
………その人物がいるのは自由組合本部。
「……というふうに五大老との話はまとまりました。……総帥。」
「そうか。ロッゾ一族との関係は君の狙い通りに落ち着いた様だね。」
そう言ってダムラダに背を向けていた総帥が振り返る。
「兎に角無事で何よりだよ。君まで失っていたら僕の計画が修正不可能なくらいに狂うところだったぜ。」
ダムラダが総帥と呼ぶ者…それは
彼のもう一つの肩書こそ、秘密結社
「ええ全くです。まさか
「あはは、災難だったね。でも良いタイミングで撤退出来て良かったじゃないか。」
「ええまぁ…。たとえ相対する事になっていたとしても、逃げ仰るくらいはして見せましたがね。」
「頼もしいね。でも本気を出すのは無しだぜ?力を伴わない駆け引きを楽しみたい。…今はまだね。」
そう言って不敵な笑みを浮かべる優樹だった。
「ところで私は本国へ戻ろうと思うのですが。」
「ああ、それが良いだろうね。君はもうヒナタにマークされてるし、ヴェガ…はやめた方がいいな。彼は“力”の文字通り暴力の化身だ。」
「承知しました。では私の代わりに“女”のミーシャを。」
「そうだね。そうしてくれ。」
「それで…私がこちらで進めていた奴隷売買の件ですが、どの様に後始末を致しましょう?」
「うーん…潰そうか。」
優樹はダムラダにそう言った。
「ジュラの大森林の全域があのスライムとフォルテの支配地域になったんだ。そこで魔物狩りなんてやったら間違いなく潰される。だったら先に、僕達の役に立つ様に消す方がいい。」
「ふむ。異存はありませんがミーシャの“
「いや、特定機密商品だけは今まで通りに。せっかくロッゾ一族との窓口も残っているんだし。」
「了解です。それでは後の手筈はお任せを。」
そうしてダムラダが部屋出てゆくと同時に、カザリームが紅茶を持って入ってきた。
「聞いていたんだろカザリーム。」
「ええ ボス。」
カザリームは紅茶を優樹の前に置くと、優樹はその紅茶を手に取る。
「それにしても“
「まあね。元々奴隷制度って好きじゃないし。後……。」
「あと……?」
「“彼の勇者”に手柄を立てさせておこうかと思ってね。」
優樹の言葉にカザリームは目を見開く。
「成る程。相変わらずボスは面白い事を思いつくな。」
そしてカザリームは笑みを浮かべる。
「分かったわ。そっちは
「頼んだよカザリーム。」
「……ああそうだった。
そうカザリームが言うと聞いていた優樹は寝そべっていたソファから起き上がる。
「へぇ……とうとう決心がついたのかい?」
「ああ…。クレイマンが死んで俺も心が決まった。魔王カザリームという名はレオンへの復讐が終わるまでは封印するさ。」
「わかったよ。それじゃあカガリ、早速だけどよろしく頼む。」
「お任せを、ボス。」
こうしてカザリームは自身の本当の名を封印し新たな名であるカガリを受け入れた。
『そうか。ではこれからは私もカガリと呼ばなければならない様だ。』
するとまるで見計らった様な良いタイミングで立体映像のDr.リーガルが現れた。
「やあ、久しぶりだねリーガルさん。」
『ああ、久しいな優樹。七曜を利用した嫌がらせは失敗してしまった様だな。』
「そうなんだよね。まぁ、僕の関与はバレないから大丈夫なんだけど。」
『流石だな。』
「リーガルさんも悪いね。実験中の液体兵をわざわざ用意してもらったのに全部やられちゃったみたいだよ。」
『気にする事はない。結果はどうあれ私にもメリットがあったからね。それに、七曜がヒナタに渡した
そう。実はあの
『装置に気付かれた場合は爆発する様に細工を仕込んでいたんだが、七曜の老師が剣自体を跡形もなく爆発してくれた様だ。その事に関しては七曜に感謝だよ。』
「まさかヒナタもあの剣にそんな細工が施されているとは思いもしないだろうからね。」
リーガルと優樹は互いにほくそ笑む。
『お陰でヒナタだけでなく魔王リムルの戦闘データも得られた。』
「それは嬉しい朗報だね。これであのスライムの力を少しは分かるといいんだけど…。」
『今は収集した
「期待していますよリーガルさん。」
そうして優樹達の前から立体映像のリーガルが消えると同時に通信は終了し、リーガル本人は玉座に座りながら無数に並ぶ培養槽を見据える。
「…魔王の力を得るにはまだ
リーガルの見据える培養槽の中にはリムルの姿を象る液体兵が培養液に浸かっていた。
リーガル達が水面下で暗躍する中、二日酔いで苦しんでいたリムルはフォルテとルイと共に足湯に浸かっていたのだが、そこでルイはロイが殺された事を話した。
「魔王ヴァレンタインが殺された?」
「その通り。私にとっては双子の弟の様なものだったのだがね。残念ながら
(魔王ロイ・ヴァレンタイン。
フォルテはルイを見据えながらその
「何者かって…。」
「ルミナスの影武者とはいえロイは魔王を名乗るには十分な実力者だった筈だ。そのロイを始末したとなると、その刺客は只者ではないな。」
「ああ。ヒナタによればその刺客は仮面を被った道化だったらしいがね。」
「仮面の道化…。」
「…中庸道化連か。」
リムルとフォルテは仮面の道化と聞いてすぐ中庸道化連だと判断した。
(紅丸達の里を襲撃した際にいた“
フォルテはクレイマンの魂から解析した記憶に中庸道化の三人に関する情報をある程度は得ていた。
(恐らく戦場にいなかったラプラスがロイを殺した道化なのだろう。後でヒナタに確認する必要があるな。)
フォルテが道化達について考えていると、ようやく二日酔いが醒めたリムルが足湯から上がる。
「さて…そろそろ二日酔いも醒めてきたし俺はもう会議室に行くよ。」
「ああ。私も
「俺はルイにまだ聞きたい事があるから先に行ってくれ。」
そうしてリムルは先に会議室へと向かい、フォルテは牛乳を飲み終えたルイにある事を尋ねる。
「……ルイ。もしかしてお前とロイは元々1人の存在だったんじゃないか?」
フォルテの言葉にルイは目を見開いた。
「…何故そう思った?」
「双子の弟…ではなく様なものだとさっき言っただろう。それにお前の
「…流石はルミナス様が認めただけはある。」
フォルテの言葉を聞き認めるルイ。
「確かに私とロイは双子ではなく元は1人だ。嘗ては
「成る程な。(だからルイは理性的でロイが傲慢な性格だった訳か。ラプラスにロイが殺されその力がルイに戻ったのなら、今のルイはある意味で完成した存在と言えるだろうな。)」
その後、ルイとの会話を終えたフォルテも会議室へと向かった。
しばらくして全員が揃い席に座るといよいよヒナタ達との会議が始まる。
「…本日はお集まり頂きありがとうございます。これより神聖法皇国ルベリオスとジュラ・テンペスト連邦国の会議を開始致します。」
紫苑が席から立ち上がり司会進行を始める。
「本会談は両国間に起こった出来事について情報を共有し、そして和解に向けた条件等の提案 決定を目的としています。」
「手元の用紙は両国の状況をまとめたものです。その用紙を元に本日の会議を進めていきます。」
紫苑に続く様にウルティマが丁寧に説明をし、そんなウルティマの姿を見ていたルミナスは若干戸惑っている様に見えた。
(まぁウルティマの事をよく知るルミナスからしたら当然の反応だろう。)
そうして説明を終えた二人は席に戻り皆で資料に目を通してゆく。
(ルベリオスの状況認識は魔王ロイがラプラスに殺された以外は想定通りだな。魔物の殲滅を旨とするルミナス教としては
フォルテは視線をリムルに向けると、その視線に気付いたリムルは頷きヒナタに問い掛ける。
「一つ気になるんだがいいかな?」
リムルの問い掛けにヒナタは頷く。
「俺がここの盟主だと知っていたのは“密告”があったからだと言っていたよな。それは誰からの密告だ?」
ヒナタに嘘の情報を与えた者。それが何者なのか確認する必要がある。
「…東の帝国の商人よ。後になって考えれば私も利用されていたみたいだけれどもね。」
「やはり東の商人か…。」
「リムル様、フォルテ様。少しよろしいですか?」
「なんだリグルド?」
「東の帝国といえばクレイマン城での調査で膨大な量の帳簿が見つかっています。購入した商品…特に武具の大半はジスターヴと隣接する東の帝国から横流しされた品だったと。」
「
リグルドの言葉に続いて紅丸がそう口を開いた。
「ああ。間違いないだろう。」
「帳簿に取引相手の名前は載っていたか?」
「いえ。朱菜様とエヴァ殿が丁寧に調べておられたのですが、帝国製のものに限って記載はなかったと。」
「やはりそう簡単に尻尾は掴ませてくれないか…。」
「東の商人…代表者はダームと名乗っていたわ。」
ヒナタは自分に嘘の情報を渡した東の商人の名を口にした。
「でも、どうせ偽名よ。この名で探っても意味はない。」
「だろうな。」
「ヒナタはそのダームからの密告を受けたんだっけ?」
「そうよ。私は彼から貴方達がシズ先生を殺したと聞かされたわ。そして丁度イングラシア王国に滞在していると。だからあの時この手で仇を討とうと動いたのよ。」
「…確かにあれは最悪のタイミングだったな。」
「ああ。…今思い出しても腹が立つ。」
その瞬間、リムルは無意識に魔王覇気が滲み出ていた。
「ッ⁉︎」
「ひょ〜〜‼︎」
リムルから放たれる魔王覇気にヒナタは怯みフリッツは怯えて声を上げアルノー達は目を逸らす。
「リムル!」
「威圧をするのを止めよ未熟者め。」
無意識に魔王覇気を放つリムルに対しフォルテは声を上げルミナスが言い放つとリムルは我に返った。
「あっ!あぁ〜すまん…。」
「はぁ…。」
「ふぅ…。」
リムルが我に返った事で魔王覇気が消えフリッツとリティスは安堵した。
その後、リムルは軽く咳払いをしてから話しを続けた。
「まぁその東の商人とやらが黒幕で間違いないだろう。」
「ああ、エドマリスをけしかけてきたのものその東の商人だな。エドマリスに
「間違いないわね。レイヒムからの事情聴取でその点はハッキリしているわ。」
「ヒナタの強襲とファルムスの襲撃は出来過ぎなくらいにタイミングが一致していた。俺達の間では一連の絵を描いた存在がいると結論に至っている。」
「全てはクレイマンが東の商人を使って目論んだ事だと?」
「いや、奴は表に出ていただけだ。」
「ああ。クレイマンは真なる魔王へと覚醒しようとしていた。ファルムス王国はこの
「“あの方”か…。
「…?なんの話なの?」
フォルテとルミナスの言葉に
「ああ。
「小物のあやつにしては天晴れな事に最後までその正体を口にせなんだがな。」
最後まで口を割らなかったクレイマンに対しルミナスは少しだけ賛頌した。
「う〜ん…。もしかして七曜が黒幕だったのでは?」
「「「「「‼︎」」」」」
「なんじゃと?」
リムルの言葉に皆が反応する。
「た…確かに。東の商人達を我等に引き合わせたのは七曜の老師でした。伝説的な英雄の紹介だからこそ、我等は疑う事もなく……。」
「受け入れた訳だな。」
「じゃあやっぱり…。」
「貴様、妾に内緒で七曜が勝手に動いていたと申すのか?」
リムルがやはり七曜が黒幕ではと言いそうになったその時、ルミナスが圧の籠った声でリムルの言葉を遮りながら言い放つ。
自らの手で粛清したとはいえ七曜はルミナスの元配下。
嘗ての配下が疑われるのはルミナスとしても気分が良いものではない。
リムルはすぐさま謝罪しようとしたのだが、それよりも先にルイが口を開いた。
「いや、成る程。その可能性は否定出来ないね。」
「ルイ!貴様までそんな戯言を!」
「ルミナス様お聞きください。あの者達はルミナス様の寵愛を欲しておりました。御自覚はおありでしょう?」
「何の話じゃ?」
「寵愛……つまり
「ラブエナジー⁉︎何だそりゃ⁉︎」
ルイの
「ルミナス様がその儀式を前回彼らに行ったのは百年以上も前でした。最初は週に一度の儀式だったのに徐々にその間隔が延びていったのです。お気付きではありませんでしたか?」
そうルイに言われたルミナスは、今思い出した様な表情を浮かべていた。
「……なるほどな。我等は不老不死故に忘れがちだがあの者共は元々人間。妾が
「ええ。……ですのであの者共はルミナス様がこれ以上お気に入りを作らない様にと必死だったのです。」
「では嘘の情報で私にリムルを殺させようとしたのも…?」
「リムル殿が君を返り討ちにしてくれれば…くらいには思っていただろうね。どちらに転んでも彼らには損がない訳だし。もしも奴らが東の商人と手を組んでクレイマンを籠絡したのなら目的は一つだろう。彼を覚醒させヒナタを討たせるつもりだった。…結果的にクレイマンは死に魔王リムルと魔王フォルテが誕生した訳だが、最初の襲撃で君達の間には軋轢が生じている。彼らにとっては望ましい展開だ。」
「…確かに筋は通るな。」
ロイの話を聞いたフォルテは動機的にも筋が通っている事には納得したが、リーガルの関わる相手としては七曜は黒幕ではなく利用されていた駒だと理解している。
「ん?そういえば俺達の前に現れルミナスに粛清されたのは三人。ディアブロとウルティマの排除したのも三人だったな。……後1人はどうなった?」
七曜の老師は七人。後1人残っている事に気付いたフォルテがヒナタに問い掛ける。
「それなら心配ないわ。さっき本国の枢機卿から連絡があったのよ。最後の1人、日曜師グランを“
「ほう…。」
七曜を始末出来るほどの枢機卿がいる事にフォルテは感心した。
「枢機卿…。あぁ、お主に惚れ込んでいるニコラウスじゃな?あのグランベルを倒すとは、一体どういう手を使ったのじゃ?」
「あまり褒められた事ではないのでしょうけど、
(事前に準備しておいたか。七曜対策としては良い判断だ。)
ヒナタの話を聞いたフォルテは納得した。
「なるほどのぅ…。グランベルも老いたものよ。その様な罠に嵌まるとは……。」
「…ルミナス様。そのグランベルというのは日曜師グランの事なのですか?」
「
「…そうですか。」
「けどまぁ、ウチとしてはこれで一安心だ。魔王クレイマン、ファルムス王国、七曜の老師。俺達にチョッカイ出していた者達は全員滅んだ訳だし。」
(いやリムル。…まだDr.リーガルやその仲間がいるだろう。)
リムルの言葉を聞きながらフォルテは心の中でそう呟いた。
「情報共有が出来て良かったよ。でないと優樹が黒幕かと疑うところだったよ。」
「!」
リムルの言葉にヒナタが反応すると同時にレナードが口を開いた。
「ユウキ?
「ああ。」
「俺達やシズさんの事を知る者は限られているからな。」
現状で一番怪しいのは優樹であり、フォルテはウルティマからフォス達と共にいる分身体が優樹と遭遇し、優樹から腹黒い感情が満ちている事を知らされていた。
この事に関しては、フォルテはまだリムルとシズさんには話していない。
「優樹が黒幕ね。絶対に違うとはいいきれないわね。」
すると話を聞いていたヒナタがそう言った。
「おいおい。今更同郷者を疑うのか?」
「あら、私はあらゆる可能性を考慮しているだけよ。シズ先生には酷でしょうけど。」
そう言いながら少し申し訳なさそうにシズさんを見ると、シズさんは気にしないでと笑顔をヒナタに見せた。
「それに黒幕が滅んだと考えるのは早計だと思うわよ。だってロイを殺した中庸道化連とやらも残っているし、肝心の東の商人達は未だ西側諸国に根を張っているのだから。」
「そうか…そうだったな。楽観視は駄目だな。七曜が“あの方”の事だってのも辻褄が合うってだけで証拠もないしな。」
「それにクレイマンを操っていた者もまだ判明していないからな。」
フォルテの言葉にヒナタ達は目を見開いた。
「クレイマンが操られていた⁉︎」
「ああ。
フォルテそう言いながら掌からクレイマンの魂を封じたチップを取り出しヒナタ達に見せる。
「奴の記憶から例のあの方の正体を暴こうとしたんだが、記憶にノイズが多くてな。その原因を調べた結果、クレイマンは何者かに精神操作されていた事が分かった。」
「ほう。小物とはいえあのクレイマンに気付かれず操る者がのう。」
「一体何者が。」
「クレイマンに関して情報を徹底的に集めた結果、数十年前…クレイマンが東の帝国と頻繁に取引する様になってからだと判明した。」
フォルテから帝国という言葉を聞いたルミナスとヒナタはより真剣な表情へと変わった。
「…そうか。」
「じゃあクレイマンは商人ではなく東の帝国そのものと取引していたという事かしらね。」
「恐らくな。そして、精神操作された時期から頻繁に取引をしていた事からクレイマンは帝国の何者かに操られたのだろうな。」
「フォルテの話が事実なら、東の商人自体が帝国の手の者の可能性が高いわね。」
フォルテの言葉を聞き終えた皆は帝国に対してより強い警戒が必要だと判断した。
「この事は皆にも通達しておきましょう。」
「ああ。この件に関しては今後とも要注意という事でいこう。」
リムルが紅丸にそう言った後、コンコンと扉を叩く音が聞こえた。
「…失礼します。」
そして扉が開くとお盆を持った朱菜達が会議室に入って来た。
「軽食をお持ちしました。皆様少し休憩になさったはいかがでしょう?」
「お、オヤツか!我は大盛りで頼む」
「はい。心得ております。」
会議が始まってからずっと漫画を読んでいたヴェルドラだが、朱菜がお菓子を持って来たと分かるとすぐ反応し声を上げた。
その姿にアゲンストとヴェルキオンは同時に溜息を吐くのだった。
そして朱菜達が皆の前に軽食のオヤツを置いてゆく中、アルノー達は給仕の中に見知った人物がいる事に気付いた。
「あれ?……レイヒム大司教⁉︎なんで!」
「ヒナタ様。お久しぶりでございます。」
1人は七曜の老師によって殺されかけフォルテのカワリミのバトルチップによって救われたレイヒム。
「なっ⁉︎お前はクレイマン⁉︎」
「ルイを落ち着くのじゃ。彼奴はクレイマンではない。」
「皆様初めまして。私はフォルテ様の第二秘書を務める者。クレイマン・オルタと申します。」
2人目はクレイマンの複製体にしてフォルテの第二秘書であるクレイマン・オルタ。
そして……最後の1人がヒナタの前にオヤツを置いた。
「どうぞ。」
「ありがとう…え?」
ヒナタはその給仕の姿を見て目を見開き驚愕した。
何故なら、白金に輝く長髪で前髪に紫のメッシュが入ってはいるがその者はルミナスと全く同じ姿をしていたからだ。
「ルミナス様がもう1人⁉︎」
「これは一体⁉︎」
これにはヒナタやアルノー達だけでなく、ルイも驚愕した。…当然リムル達も驚いていた。
「クッフフフ。」
するとヒナタの隣に座るルミナスがクスクスと笑った。
「…ルミナス様?」
「どうやらかなり驚いている様じゃな。」
「もしかして…これはルミナス様の仕業ですか?」
「正確には妾とフォルテじゃがな。のうフォルテよ。」
「ああ。」
ルミナスがそうフォルテに声を掛けると、フォルテは素直に返事をした。
「お主も見事に気付かれずにいた“ヘテロ”よ。」
「妾なら当然の事よ。何故なら、妾はルミナスから生まれた存在なのじゃから。」
ヘテロと呼ばれるルミナスと瓜二つの者から告げられる事実にヒナタ達は困惑していた。
「皆理解が追いついておらぬ様じゃな。」
「うむ。フォルテよ、皆に分かる様に説明してくれぬか。」
「分かった。」
ルミナスに頼まれフォルテは皆に説明を始めた。
昨晩フォルテはルミナスに頼まれルミナスの鏡像を出現させ、その鏡像をルミナスはじっくりと見ていた。
「それじゃあそろそろ鏡像を消そうと思うが構わないか?」
「ふむ…。」
フォルテがルミナスにそう問い掛けると、ルミナスは顎に手を置き少し考え始めた。
「…ん?オルタか。どうした?」
「この様な時間に申し訳ありませんフォルテ様。明日の会議についてご相談したい事がございます。」
すると、フォルテの隣にクレイマン・オルタが転移で現れた。
「クレイマン?……いや、違う。外見は同じじゃが中身は別人の様じゃな。」
「これは魔王ルミナス様。私はフォルテ様の第二秘書を務めるクレイマン・オルタと申します。」
ルミナスはクレイマンと瓜二つのオルタが現れた事に多少驚き、オルタはルミナスに対し礼儀正しく頭を下げて自己紹介をした。
「…フォルテよ。これはどうゆう事か説明するのじゃ。」
「…分かった。」
フォルテは素直にオルタについてルミナスに説明した。
「ふむ…。クレイマンを複製し鏡像と一体化させて配下にするとはのう。やはりお主は規格外の様じゃ。」
フォルテの説明を聞いたルミナスは、自身の鏡像を見据えた後に笑みを浮かべた。
「ならお主の力で妾の鏡像にも力を与えられるのじゃな。」
「その通りだが……まさか。」
「うむ。妾の鏡像をお主の配下とするが良い。」
まさかのルミナス本人からフォルテに自身の鏡像を配下にする事を認めたのだ。
「本当に良いのか?俺はてっきり自分用の影武者として連れ帰ると思っていたが…。」
「それも考えたが、お主になら妾の鏡像を託せると判断したまでの事…それにお主には借りがあるからのう。」
「ルミナス?」
「なんでもない。それよりも早く始めるのじゃ。」
何やらルミナスが小さな声で呟いていたがフォルテは聞き取れなかった。
そしてルミナスの言われフォルテはルミナスの鏡像に新たな力を授ける。
まずはルミナス本人から更なる
解析が完了すると、ルミナスの鏡像の隣にルミナスの複製を出現させる。
「…この力も与えるか。」
そう言ってフォルテはルミナスの鏡像の左側に薔薇の被り物を被った様な女性型
「この者は?」
「俺の知る愛と美しさを司る強き者だ。ルミナスの鏡像にも力になると思い出現させた。」
「ほう。…確かにかなりの
ルミナスはロゼモンから発せられる
「さて。後は名を与えるだけじゃが、…妾の鏡像は向こうの世界では何と名乗っておったのじゃ?」
「確かヘテロと名乗っていた筈だ。恐らくは自身の瞳の
「成る程のう。なら此奴の名はそれをフルネームとし、“ヘテロ・クロミア”にするとしよう。」
「確かに、名前として違和感もないな。流石はルミナスだ。」
ルミナスの決めた名にフォルテは納得した。
「ではフォルテよ。妾の代わりに名付けを頼む。」
「分かった。」
そしてルミナスの鏡像への名付けはルミナスの頼みによりフォルテがする事となった。
……リムルとフォルテが簡単に名付けを繰り返しているので忘れがちだが、名付けは本来危険が伴う行為。
名付けで魔素を消費し弱体化するか下手をすれば名付け側が消滅する危険がある上に、消費した魔素が回復しない場合が多いのだ。
そして名付ける者が強ければ強い程、その強さに見合った分の膨大な魔素を消費するのだ。
それ故に今回名付けをする対象はあのルミナスの鏡像。
自分と同等の存在に名付けをするのは危険過ぎる故にルミナスは名付けをフォルテに任せたのだ。
「ルミナスより与えられし名を得て目覚めよ! “ヘテロ・クロミア”‼︎」
ルミナスに代わり力強く声を上げルミナスの鏡像に名付けするフォルテ。
その瞬間、フォルテから膨大な魔素が消費されルミナスの鏡像を放出された魔素が包み込む。
「……流石はルミナスの鏡像だ。俺の魔素を八割持っていかれたな。」
名付けで魔素を消費したフォルテはいつも通り
「ほう。鏡像とはいえ妾に名付けを行って平然としておるとは、やはりお主は規格外の存在様じゃな。」
ルミナスは自身の鏡像に名付けをしても平然としているフォルテの姿を目の当たりにし、フォルテの力の一端を垣間見たのだった。
そして……ルミナスの鏡像であるヘテロはフォルテの魔素を得て進化を遂げる。
《確認しました。個体命ヘテロ・クロミアが
世界の言葉が告げると同時に、魔素の繭が弾け飛び中から真紅のドレスを着て両腕にロゼモンの様に茨の鞭を巻き付けたヘテロが姿を現した。
「……気分はどうだヘテロ。」
フォルテが声を掛けると、ヘテロはゆっくりと目を開けそれと同時に真紅のドレスが純白のドレスと変わり茨の鞭も消えた。
「うむ。実に良い気分じゃ。この世に妾を生み出してくれた事を感謝するぞフォルテ。そして妾の
「ほう。妾達を呼び捨てにするか?」
「その方が良いであろう?」
「ふふ。まぁその通りじゃな。下手に敬称で呼ばれるよりは良い。」
「確かにな。」
ヘテロはルミナスの鏡像から生まれた存在。
そんなヘテロに敬称で呼ばれるのはルミナス自身も気味悪い故に呼び捨てが丁度良かったのだ。
リムルとフォルテも同じ様な感じで呼び捨てにする事を許している。
フォルテもルミナスの鏡像であるヘテロに様付けで呼ばれるより呼び捨てにしてもらった方がしっくりくるのだった。
「ではヘテロよ。お主にはフォルテの配下となって貰おうと考えておるのじゃが良いか?」
「無論じゃ。妾を生み出し平然と名付けを行える上に新たな力を与え進化までさせられるのじゃ。フォルテに仕える事に異論などない。」
ルミナスの問いに対しヘテロは当然と答えた。
「じゃあ、改めてこれから宜しく頼むヘテロ。」
「うむ。妾こそ宜しく頼むぞ。」
フォルテはヘテロに手を差し伸べるとヘテロは笑みを浮かべながらその手を取り固い握手を交わした。
こうしてフォルテは新たな仲間としてルミナスの鏡像であるヘテロ・クロミアを迎え入れたのだった。
「……という訳でヘテロは俺の専属メイドとなった。」
「……俺達が酔い潰れている間にそんな事があったなんてな。」
フォルテの説明を聞き終えたリムルは唖然となっていた。
「まさか…ルミナス様の鏡像を仲間にするなんて。本当に貴方は規格外ね。」
ヒナタもまさかフォルテがルミナスの鏡像さえも仲間にしてしまった事に驚愕するしかなかった。
「しかし…本当に宜しいのですかルミナス様。鏡像とはいえルミナス様を…。」
「構わん。これはフォルテだからこそ認めて事よ。…ルイよ、妾に名付けをして平然と出来る者など他にいるか?」
「……いえ。その様な者がいる事自体が今でも信じられません。」
「なら分かったであろう。フォルテがどれほどの力を持つ者か。」
「はっ。」
ルミナスに諭されルイは納得するしかなかった。
「改めて名乗ろう。妾はヘテロ・クロミア。フォルテの専属メイドとして宜しく頼むぞ。」
そしてヘテロはこの場で皆に自己紹介をした。
「へぇ〜あのルミナスの鏡像か。なんだか面白くなりそうだね。」
ウルティマはヘテロを見て悪戯っ子の様な笑みを浮かべた。
「因みに、ヘテロにはヴェルドラの躾と仕置きも任せる。」
「ちょっ!フォルテ⁉︎」
フォルテの言葉に漫画を読んでいたヴェルドラが驚き声を上げる。
「…アゲンスト達の目を掻い潜るはルミナスには迷惑を掛け正しい謝罪すら出来ていないんだ。これからはヘテロから色々学んで貰うぞ。」
「うむ。実に良い判断じゃ。流石はフォルテよのう。」
フォルテの言葉にルミナスも満足げな笑みを浮かべると、そのままヘテロへと視線を移した。
「ヘテロよ。妾に代わりその邪竜の躾を頼むぞ。」
「うむ。任せるが良い。」
ルミナスとヘテロ。二人は互いを見据えながらとても綺麗な笑みを浮かべた。
因みに、ヘテロはロゼモンの力を得た事で
「……という訳でヴェルドラ。ヘテロからしっかり学べよ。」
「それはあんまりだぞリムル!フォルテよ!」
リムルもヴェルドラに綺麗な笑顔を向けながらそう言うと、ヴェルドラの悲痛な声が会議場に響くのだった。
ヒナタ達との話し合いの中で登場したルミナスの鏡像であるヘテロ・クロミア。
ルミナスの公認でフォルテが名付けを行い専属メイドとしてこれから活躍してゆく予定です。
ルミナスの複製分身と一体化させた事により、まおりゅうのヘテロとルミナスを合わせた様な人格となっています。
そして、ルミナスに代わってヴェルドラへの躾と仕置きも任せられるので、ヴェルドラも少しはマシに……なるかもしれない。