終わり良ければ総て良しなんて間違っているだろうか 作:できてな
「・・・それで、今日は【へファイストス・ファミリア】で新しい装備でも買うんですか?」
「はい、この前の戦闘で刀の刃が歪んでしまって・・・」
私と紫苑さんは【へファイストス・ファミリア】の本拠地へ向かって歩いている。行き先から考慮すれば目的は簡単に予想はつく。
紫苑さんは私の質問に対して、左側の腰に刺してある剣を撫でながら落ちた声色で答える。
彼女はその剣を大切に扱っていた。私が【ロキ・ファミリア】に入団した時から同じものを使用していたし、彼女曰く父親から貰った剣らしく今までも全てその剣で戦闘を行っていたらしい。
そんな背景もあって今の彼女は気落ちしているのだろう。あんなにも大切にしていた剣が使えなくなってしまったのだから・・・
そこで世界クラスのブランドである【へファイストス・ファミリア】に行って直して貰うといった所だろう。
「・・・直ると良いですね!」
「うん、そうですね」
少し悪くなってしまった雰囲気を立て直す。
私の言葉に彼女は笑みを浮かべながそう伝えてくれる・・・
その間を遮るのは薄い桃色の布・・・
私に向けていた顔を前に戻し、少し前を歩き出す彼女を見て・・・
(今日は着けてるんですね・・・)
ホームの門の近くで彼女を待っていた時からなんとなくそんな気はしていた・・・
案の定、待っていた私に対して「ごめんなさい、お待たせしてしまいましたか?」と、急いだ様子で私に向かって走ってくる彼女の格好は・・・笠を被った、いつもの外出時の姿であった。
そんな彼女の姿を見てどこか気持ちが重くなったのを感じた・・・特段おかしい事もないはずなのだ、笠を被る理由も十分に理解はできている。だが・・・そう言うことではないのだ。
『
・・・そう言われている気がしてしまった。
確かに今まではそうだったかもしれない・・・だけど、
今はまだまだ。だけど、いつかは私と隣にいる時に笠を被らずにいて欲しい・・・そして、彼女を忌避する人がいなくなれば嬉しい。
・・・そう、改めて決心がついた気がする。
揺れる美しい黒髪を見つめながらそう思った・・・
ーーー
日も完全に落ちていて、雨が酷く数メートル先は見えない・・・まるで暗闇に閉じ込められている様であった。
「・・・」
進んでいる方向も分からずに、ただ勝手に引かれる方向に足が動いていく・・・地面は雨によってぬかるんでいる。歩くたびにグジュグジュと沈み、足の指の間に泥が纏わりつく。どうやら裸足で出てきてしまったらしい。
「・・・ぁ」
暫く歩いていたが、そこでピタッと足が止まった・・・目の前にあったのは『ナニカ』と地面に突き刺さった刀であった。良い刀かどうかは分からない、ただ、武器はこれから生きていく為に必要だと思った。
刀を手に取ろうと柄を握った時、付いた液体に少しの温もりを感じた気がした。
「・・・? えいっ!」
そのまま引き抜こうとする。突き刺さるそれは長く、身体を精一杯上に伸ばして抜いた。
「っと、と、と、」
引き抜いた勢いで体勢が崩れてしまう。今の私が扱うには大きすぎる気がするが問題はないと思う。
刀身だけ持っていても不便なので地面に伏せている『ナニカ』の腰に差してある鞘を引き抜き、納める。
それと、もう一つの刀が差してあったのでそれも使わせて貰う事にした。
その時に『ナニカ』が呟いた気がするが・・・どうでも良い。
私はまた暗闇を歩き出した・・・・・・・
(・・・あれ? これ私の記憶?)
刀の柄に触れていたところ、いつの間にか思い出に浸っていた。
その中の一つに身に覚えのない記憶?が浮かんでいた。いや、身に覚えはある・・・だけど異なる点が多くあった。
(私は・・・お父さんを探しに慌てて走って・・・)
・・・そうなのだ、確かにあの雨の日の記憶はある。しかし、さっき浮かんだ記憶とは雰囲気が全く違う。
夜中にふと目が覚めたら横で寝ていたはずの父親がいなくなっていた。胸騒ぎがして外を駆けて探していた所・・・血まみれで倒れた父親を見つけた。
(・・・お父さんは、「愛してる」って伝えてくれて・・・)
最後の言葉と共にこの刀をくれた・・・はずだ。
記憶が混在する様で気持ちが悪くなってしまう・・・頭では浮かんだ記憶は偽りであると思っているのだが、心が腑に落ちていない気がする。
(・・・まぁ、取り敢えずは良いですか)
考えていても答えは出ない気がするので、ひとまずは先延ばしにしておく事にした。
・・・そんな事を考えていた所、いつの間にか【へファイストス・ファミリア】の本拠地に着いていた。
ーーー
「椿さん、入りますよ」
返事はない。しかし工房の扉の向こうから聞こえてくるのは金属を叩く音・・・強く、重く、激しい、そんな音・・・彼女がそこにいるのはこの音が聞こえてくるだけで分かる。
返事がないのはいつもの事だし、彼女にも勝手に入ってくれば良いと言われている為、扉を開ける・・・同時に熱気が顔がかかる。その熱に目を瞑る。
目を開けると、こちらに気付いていない様で熱心に小槌で打ち続けている彼女がいた。
突然の訪問であったし、彼女の邪魔はしたくは無かったのでひと段落つくまで待っている事にした。
部屋に入ってから少し時が時間が経過した頃であった・・・彼女が私たちの気配に気づいたらしく、打つ手を止めた。
「紫苑! 居るなら居ると言えば良いものを!」
「ごめんなさい。 邪魔はしたくなかったので」
「それで? エルフの少女を連れて何の様なのだ? まぁ、どうせまた刀の修繕なのだろう?」
「・・・えぇ、でも! 今日は
私は彼女に毎度のこと刀の修繕を頼んでいる。当然、彼女は【へファイストス・ファミリア】の団長であり最高の鍛治士であることは理解している。そんな彼女に修繕のみを頼んでいたことはどうかと思ってしまうが、専属契約を結んでしまっている以上、彼女に頼むしかないのであった。
当然の如く彼女の修繕は完璧であり、今もまだ使用出来ているのは間違いなく彼女の腕があってこそだと分かっている。
今までの注文内容から私が今回も頼むのは修繕だけだと予想していた彼女は私の発言に驚きの表情を示した。その表情は段々と歓喜に変化していった・・・
「本当か!? あぁ! 良いぞ、作ろう!!」
「はい、よろしくお願いします♪」
椿さんの嬉しそうな様子を見ていると私の方まで何故か良い気分になってしまった。そこまで私の
それからは作成武器について話し合う事になった。
「・・・よし、まずは得物の種類についてだが、刀で良いな?」
「えぇ、大小両方でお願いします。 それと大刀なんですが、今までの刀よりも刀身と柄をそれぞれ三センチ伸ばして欲しいです」
「あぁ、了解した。 素材はどうする?」
「特にこれといったものはないんですが、六億ヴァリス程であればすぐに用意出来るのでその金額で使える最高の素材を使って貰えれば良いですね」
「え!? ろ、六億ですか!?」
私が伝えた金額に対して驚いているレフィーヤ・・・今回頼むのは2本であるし、製作者は椿さんなのだからそこまで驚く事もないと思うのだけど・・・
私は今まで同じ武器を使用していた事もあって素材に関しての知識は余り持ち合わせていない。ならば一流の彼女に一任して貰うのが妥当だろう。
「それ程の資金であれば問題なくお主に見合った最高の刀が作れる。 それと
「はい、楽しみにしていますよ」
「あぁ、任せておけ。 ・・・それと、修繕もだったな」
彼女は渡した私の刀を抜く。
長年使用しているにも関わらず刀身の美しいものである・・・が、刃の物打の部分が曲線美を歪めていた。彼女はそれを見て・・・少し考える様に黙っている。
「・・・何を斬った? お主が技術でなく力任せで斬る事などそう無いはずだ」
「・・・ごめんなさい、言えません。ですが、刀を乱雑に扱ってしまった事は反省してします」
「・・・そうか、まぁ、この刀はお主が使うには無理があったからな。あ、そうか・・・次、またそ奴と戦うかもしれんから手前に作らせるといったところか?」
「ぇ・・・あ、はいそんなところです。次戦ったら本当に壊れてしまうかも知れないですし」
「なら手前はそ奴に感謝しなくてはな! お主の刀を作る機会をくれたのでな!!」
特に昨日戦った女との再戦の為だとかそんなつもりはなかった。しかし、あの戦闘で父親から貰った刀では性能として私に見合っていない事は理解できた。もしも椿が作った刀であればあの女の腕は容易く斬り落とせただろう・・・
それでも本当はあの刀をいつまでも使っていたかった・・・しかし、私が全力で斬れば刀は耐え切れずに砕けてしまう。そうなってしまうよりも美しい状態で手にしていたいと思ったからと言うのが本当の理由といったところか・・・
一通り取引が済んだところで、完成するまでの間に使用してくれと代替品として大小の刀を貸してもらった。
流石は彼女の打ったものでそれぞれの刀はとても美しく、一目見ただけで一級品であることが理解できる。
この様な素晴らしい刀を使わせて貰うのは気が引けてしまうが彼女に使ってくれと押されてしまって、ありがたく使わせて貰う事にした。
ーーー
「ごめんね、レフィーヤちゃん。 退屈だったでしょ?」
「いえいえ、そんな事ないですよ? 紫苑さんの装備には興味ありましたから」
「そっか、それなら良かったんですけど・・・お昼にはまだ早いから今日は食べ歩きでもしますか?」
「はい! そうしましょう!!」
【へファイストス・ファミリア】に思っていたよりも長く滞在してしまったが、それなりに早い時間帯からホームを出ていたので現在は正午前であった。空腹感は無くもないが料理店などで食事する程ではない。
私は以前から町へ来た時には屋台での食事をよく取っている。食べ歩きは読書に次いで私の趣味といったところだろうか?
稀に私の知らない食べ物が売られたりしていて新鮮味も味わえて楽しいし、屋台ならではの雰囲気?が好きなのだ。
私の提案にレフィーヤが賛成してくれたので良かった。
「・・・!? レフィーヤちゃん!あれ、『抹茶くれーぷ』ですって!!」
「え!? ちょっと紫苑さーん!?」
私はレフィーヤの手を引いてある屋台へと駆ける。急だった為か、彼女は驚いているみたいだが気にせず向かう。
屋台の前に立つ・・・
甘く深く吸い込まれるような香りが鼻腔をくすぐる。それは上品さを感じてしまう抹茶の香り・・・それに包まれてしまうと、自らが深くに落ちてしまいそうになる。
「あぁ・・・良い匂いですね。 レフィーヤちゃん」
「・・・はぃ・・・そうですね。 あ、結構種類があるみたいですよ」
「ホントですね。 悩みますが・・・・・・『えんまち』にします!」
「それじゃあ私は・・・『ふしみ』にします」
「店員さん、『えんまち』と『ふしみ』を一つずつお願いします♪」
「はいよ」
『くれーぷ』を作るにしては、なかなか厳つい印象を受ける店員さんであった。
彼は
鉄板の上に落とされたのは鮮やかな緑をした『くれーぷ』の生地・・・焼ける音と共に伸ばされたソレからは甘い匂いと抹茶の香りが立ってくる。
焼き上がった生地に盛り付けが行われて、最後に巻かれていく・・・
「はい、これは『えんまち』こっちは『ふしみ』だよ」
「はい! ありがとうございます♪」
「ありがとうございます」
「合わせて32ヴァリスね」
私が当然のように二人分払う。
するとレフィーヤが「良いんですか?」なんて小声で言うものだから「当然ですよ?レフィーヤちゃんは良い子ですね」と頭を撫でておく。
顔を真っ赤にする彼女を眺めながら『抹茶くれーぷ』を食べる・・・
サクッ
表面が火で焼かれていて、歯を当てると香ばしい音が鳴る。柔らかい生地に対しての固い食感が堪らない・・・
食感の後からは口に含んだことで鼻を抜けていく抹茶の香りが私を蕩けさせ、口内のほろ苦い甘さがとどめを指す・・・
「ぅ〜ん・・・最っ高!!」
レフィーヤの頭から手を離して落ちる頬を抑えるように当てる。「・・・ぁ」と声を溢す彼女の『くれーぷ』を見ると未だ手付かずであった。
「レフィーヤちゃん、とっても美味しいですよ?」
「え!? は、はい。 いただきます」
「・・・・・・ど・・・どうですか?」
「・・・ん〜〜〜っ、美味しいです!」
とても良い笑顔を向けてくれた彼女に心が温かくなった気がして私も笑みを向けた・・・
読んでくださりありがとうございますです。
どうでしたかね?
今回は緩い感じでしたね。こういう系ってなかなか難しくて・・・
本来なら一話にまとめたかったんですが、思っていた以上に長くなっちゃいました!
まぁ、今後の展開は結構定まってきたんで、しっかり完結まで持っていけそうな気がしてます!
がんばろー
うっし! 寝よ。