終わり良ければ総て良しなんて間違っているだろうか 作:できてな
「ーーー」
私の右眼を狙うように向けられた彼女の剣先に自然と意識が向いてしまう、互いに動かずに数分が経過していた。
向けられた刀の緊張感から精神が加速度的にすり減っていく・・・
額に浮かぶ汗は流れていき、顎を伝って落ちていく。先ほどから一歩も動いていないのだが息は少し上がり始め、いつもなら感じない身体の重みすらも覚え始めていた。
対して私に刀を向けている本人は対峙し始めた時と変わらないように見える。
現に私の構えているデスぺレートは小刻みに揺れてしまっているが、突きつけられた剣先は揺れる事なく、まるで絵のようにそこに静止し続けている。
全く動かないそれは、より緊張を与えてくる。
・・・私の戦闘スタイルはスピードを重視しての斬撃である。
ならば直ぐにでも彼女に向かって斬り込めば良いのでは、と思ってしまうだろうが・・・
この状態でもし動こうものなら私は・・・斬られる。
そう確信してしまうほどに、対峙する彼女から隙が無い。
そんな彼女に勝つ方法は可能性は薄いのだが・・・例えば息を吸ったその瞬間だろうか?人というのはその瞬間は反応が遅れる為である。
しかし、狙えても一度だけだろう。彼女のその瞬間を何度も狙えるほどに体力は集中力は残っていないからだ。
そんな作戦が構築された為、意識を彼女の呼吸に集中させる・・・
駄目だ・・・全く視えない。感じ取れない。ここまでわからないと、呼吸しているのかと思えてしまうほどだ。
またもや八方塞がりとなってしまい、思考を広げていた時であった・・・
彼女が構えを変えた・・・
右眼に向けられていた剣先は、一度中心に戻った後、上に弧を描くように彼女の元へと流れていく・・・
次に彼女の取った構えは刀を頭の上へ置くようなものであった。腕を上げると同時に後ろにあった左足を前へと送った。そして先ほどまで私に向けられていた剣先は天に斜めに向けられていた。
構えを変えて少しの間があった・・・
スゥーーと彼女の左足が私に向かって無音のままに進んでくる・・・
私は彼女が仕掛けて来た!と思い、警戒のため身体に力を入れた。
彼女はゆっくりと左足のみを進ませていただけだった為、刀を当てる距離には間合いが遠すぎるものであった。
それに、斬り込んでくれば返すことが出来ずとも余裕を持って回避できる距離であった。
そう考慮して彼女の動きを見ていた。
「!? ーーっ!!」
いきなり目の前に彼女が現れた。
同時に刀が振り下ろされる。寸前にデスぺレートで受けたが、勢いを殺すことができずに右方向後ろへと飛ばされる。
飛ばされるも体勢を立て直して、脚での着地に成功する。
・・・いきなり目の前に出現した。
彼女は瞬間で指定の位置に移動できるスキルや魔法など持っていない・・・そう見えただけなのだ。
普通、人が動くときには必ず身体の一部が動いてしまう。それが相手に見られてしまい、防がれる。これが普通なのだ。
目視出来ないほどに動けばと思うだろうが、それは加速が済んでいればの話である。停止状態では不可能に近い。
確かに、先程の彼女は完全な停止状態では無かった。それでも、私に見えた彼女の姿は頭、肩、胸、腰、視界に捉えていた殆どが一切動かずに向かって来た。そして、動いていないと脳に錯覚を起こさせて・・・一瞬で目の前に現れる。
といった仕組みであろう。
それでも動いてしまう箇所があり、それでは脳に錯覚を起こすことができない。
それは・・・脚だ。
脚を使わなければ動くことは出来ない。
しかし、それを彼女は解決させた・・・
斬り込む前に動かしていた左足によって・・・
左足は最後までゆっくりと進んでいた。その動きに注意を向けさせる事で、右脚の蹴りを認識させないようにする。
これらによって・・・目の前に瞬間的に現れた。といった事だろう。
その絶大な技術に驚愕してしまうが、防ぐことは出来た。
再び構えられてしまえば、次はないかもしれない。そう考え、彼女の方向へと低い姿勢で駆ける。
視線の先には剣先を下に向けた彼女がいる。その彼女の脚と刀ごと斬り抜こうと横薙ぎで剣を振るう。しかし私の剣は、彼女の刀によって下から擦り上げられてしまう。同時に彼女の美しい白い脚が私の顎を狙って蹴り上げる。それを左手で防ぐも頭への衝撃は抑えきれずに揺らされ、天を仰ぐように飛ばされる。
頭を揺らされてしまった為、視界が歪んでしまっていた。
少しよろけるようにしてしまった私を逃す彼女ではなく、間合いを瞬時に詰めてくる。
流れる様に次々と襲いかかる斬撃を後退しながらも凌ぎ続ける。右から斬り払ったのならば刃の方向を180度回転させて左から斬り払うなど、攻撃の合間が全く無い。
そんな反撃を与えない斬撃により私の心は焦りに埋め尽くされる。
そんな時であった・・・
彼女の斬撃がピタっと止まり、その刀の剣先は私の右眼に置かれていた。
罠だ・・・そう思った。
しかし、焦っていた私は「隙」だと勘違いしてしまった。
でも遅い・・・既に動いてしまっていたから。
剣を彼女に向かって右斜め上から振り下ろす。
すると・・・彼女の刀は私の剣を棟の反りで撫でるように下に流し、その動きと連動するように右足を斜め右方向に進める。
剣を逸らされた私は吸い込まれるように体勢を崩してしまう。
剣を刀の反りで流されたために、刃は私に向けられている。
彼女の腰の位置にある刀は、そのまま斬り上げられる。
刃は私の首を斬り飛ばす・・・
瞬間に止められる。
喉に冷たいものが触れたように感じるが痛みはない。その、感じた冷たさに背中が凍りついてしまい、ペタンとお尻を着いてしまった。
少しの間放心状態であった私に向けて白く冷たそうな手が差し伸べられた・・・
顔を確認しなくても、先ほど対峙していた相手・・・「紫苑」の手だろう。
彼女の手を取り立ち上がらせて貰う。その後に、
「大丈夫でしたか?少し真面目にし過ぎてしまいましたね」
「ううん、頼んだのは私だから・・・ありがとう」
彼女は反省している様に肩を落として言った。そんな彼女に大丈夫なことと、お礼を言った。
・・・完敗であった。
そもそも最初の状態で続けていれば、私の集中力が切れてその瞬間に斬り捨てれば彼女の勝ちであった。
しかし、それでは私の訓練にならないだろうと判断したのだろう。構えを変えての彼女からの攻撃、それは紙一重であったが回避することができた。
だが問題は、その後の展開だ・・・
彼女は反撃を与えないようにと攻撃し続けた。それによって私に焦りを与えるために・・・
そして彼女の策にハマり、焦り始めた私に向けてわざと隙を見せて釣られた私を斬る・・・
全て彼女の手のひらで転ばされていたに過ぎない。
与えられた慈悲すらも私にとっては高すぎる壁であった。
もちろん、彼女の策も相当に凄いものなのだ。しかし・・・それよりも心を奪われるのは、「技」である。
剣技もそうだが、視線の送り方、視線の誘導、私に認識させなかった息遣い、強靭すぎる集中力、身体の動かし方。などであろうか・・・
動作全てが一級品のように感じてしまう。
それらによって彼女の戦闘は洗練されていく・・・
私とは違った戦闘スタイルではあるが得るべきものは確実にあるだろう。
模擬戦をお願いする度にこのように負けてしまうが、課題が見えてきてとても有意義なものとなっている。
しかし、教えて貰おうとしても・・・感覚で行っているとのことで伝え方が良く分からないらしく、指導してもらったことはない。
であるから、「模擬戦」ということだ。
「紫苑・・・身体は本当に大丈夫、なの?」
「問題ないですよ?丸一日休息を取りましたから」
一昨日、町中で出現したモンスターを討伐していた紫苑だったが、体調が回復しきれていなかったようで戦闘中に危ない場面があったらしい。
いつも安定した戦闘をこなしている彼女であった為に驚いたが、大事に至らなかったようなので安堵した。
だが、彼女はロキから休息を取るように言われたらしく昨日は部屋でじっとしていたらしい・・・
私は昨日、デスペレートが帰って来たので慣らすために朝からファミリアの広場で剣を振っていた。
その時に紫苑が来た。
彼女も感覚を確かめたいらしく刀を持って来ていた。もう体調は大丈夫なのかと聞いた所、問題はないようであったため、ダメ元で模擬戦をお願いしたのだが笑顔を浮かべながら了承してくれた。
それで・・・現在、ということである。
私は模擬戦の後、素振りを始める彼女を眺めていた。
そんな彼女等の模擬戦を見ていたものが一人・・・
「紫苑さん、アイズさん・・・す、すごかったです!」
二人に向けてエルフの少女が照れと興奮染みたように賞賛の言葉を伝えて近くに寄る。
その言葉に「レフィーヤちゃん! うん、ありがと」「えっと・・・ありがとう」と彼女に答える。
暫く、彼女達は話し込んでいたのだが・・・
「レフィーヤ、本を取ってくるのにどれだけ時間がかかっているんだ?」
と、レフィーヤの後ろからリヴェリアが話しかける。
その声に驚いて跳ね上がるレフィーヤはリヴェリアに捕まり引きずられていく・・・
レフィーヤを引きずる彼女は紫苑に向かって「今日の指導は私だが一緒どうだ?朝食までだが?」と聞く・・・その彼女の問いに「分かりました!」と続いていく。
紫苑が一緒ということが嬉しいのかレフィーヤは「本当ですか!?」とテンションが上がっていた。
ー食堂ー
ティオナは一緒に朝食を取っていたアイズに声を掛ける・・・
「アイズ、今日は何かする予定あるの?」
「実は・・・」
昨日、デスペレートを取りに【ゴブニュ・ファミリア】を訪れた時に壊してしまった借りた剣を一緒に持っていったのだが弁償として4000万ヴァリスを支払いして貰うとのことであった。
しかも、元々のデスペレートの修理費もあることによりお金が必要となっていた。
「一週間はダンジョンにこもってお金稼がなきゃいけない」
「なんだ、じゃあ私もいくよ」
ティオナも主用武器の製作による費用を稼ぐ必要があるらしくアイズに同行の意思を伝えた。彼女の発言にアイズは了承する。
そんな二人にアイズの隣を陣取っていたレフィーヤも「わ、私もお邪魔でなければ!」と慌てながら参加を伝える。
「ティオネー、フィンも誘ってみようかなーって思ってるんだけど 「行くわ!」 ・・・うん」
ティオナが姉に参加を聞こうとすると被せ気味に答えた。
彼女達は朝食を済ませた後、フィンの執務室に向けて足を運ぶのであった。
「フィンー入るよー」
ノックもせずにティオナが扉を開けて室内へ入る。中に入るとフィンとリヴェリア、隣に紫苑がそこにはいた。
紫苑がいたことに「紫苑さんいたんですね!」とレフィーヤが発する。
部屋に入って来た者達に「ンー・・・少し待ってくれ今一区切りつくから」と彼女等に伝える。
「よし・・・っと、 それで僕に何の用だい?」
「実はですね、ティオナ達が暫く探索に出かけたいそうなんですけど。もし団長も良かったら・・・と」
ティオナを押し除けてティオネがフィンの問いに返す。フィンが「あぁ、いいよ」と言うとガッツポーズをしながら目を輝かせるティオネ。
そんな様子を横目に「せっかくだしリヴェリアと紫苑もどうかな?」と二人にフィンが聞く。
リヴェリアは少し考えた様子を示すもの了承した。紫苑も笑顔を含めながら参加を伝える。
参加する者が決まったところで彼等に集合時間なりを指示する。
「それじゃあ、各自準備を行って正午にバベルに集合といこうか」
「「「「おーーー!!」」」」
ー【ディアンケヒト・ファミリア】治療院ー
「いらっしゃいませ」
「・・・アミッドさん、
普段、あまり来たく無いのだが・・・リヴェリアさんに今回も世話になったのだからとお礼としても会ってくればいいのではないか?と言われると同時にお使いメモを渡されて、行かざるを得ない状況にされてしまった。
それと、いくつかポーションなどを購入する予定であったティオナとアイズと共に此処に来ていた。
アミッドさんにそれぞれ購入したい物を伝えると・・・それらが高い位置にあるのか台座を使って手を伸ばすも、届いていない。背伸びをしてギリギリであろうか・・・
そんなプルプルとした彼女を見て、(少し危ないな)と思ってしまったため彼女の隣に行き、手の先にあった箱を代わりに取る。
指先に触れていた箱が取り上げられて、「あっ」と声をあげるアミッドさん。箱の行方を目で追うと私であることに気がつき、「ぁ、ありがとうございます」と俯きながらにお礼を言われたので「いえ、大丈夫ですよ」と伝える。
未だ俯く彼女の頭がそこにあったため、無意識に撫でてしまった。そのことに(はっ!)と気付くものの、アミッドさんは嫌がった様子ではなかったので少しの間撫で回していた。
(・・・うん、かわいい)
そろそろ良いかな。と手を離すと上目遣いな彼女を見て、くるものがあったが気にしないことにする。
購入すべきものは全て揃ったため、治療院を出ようとするがその前に・・・
「アミッドさん、これからダンジョンの30階層程まで行く予定なのですが何か必要なものはありますか?」
「それでは・・・白樹の葉を数枚採取して頂けますか?」
お世話になっているお礼にと彼女のお願いを聴くことにした。
彼女はそれを伝えた後、「・・・どうかご無事で」と正に聖女のような優しさを私達に感じさせた。
ー
「・・・それじぁー!!しゅっぱーつ!!」
いかがでしたか?
楽しんでいただけましたか?
最近はシリアスなところが多かったので休憩でございます。
戦闘描写ですが、私が剣道をやっていたものですから少し凝って書いてみました。絶妙な身体の動きとか想像してもらえたら良いなと思います!
分かりにくかったら教えて下さい。
そだそだ、紫苑きゅんの一刀流の場合の構えですが、「霞の構え」でございます。アイズの右眼に剣先を向けていた物ですね〜。
「霞の構え」を検索するとセフィロスがしているような、厨二心をくすぐるような構えが出て来ますが、違いますね〜。
なんて言うんですかね、半身の状態?まぁ、とりあえず剣道の普通の構え(中段)よりも高い位置に構えて、剣先を相手の右目に向ける!です。
自分はこの構えが好きでしたね、上段の相手しか使うことはないですがね。なんと言うか・・・安全?安心?まあ、とにかく防ぎやすくて・・・良かった。でもですね、なかなか一本が取りづらいw個人戦では良いですが、団体戦で使うと大概引き分けw
でも、「霞の構え」カッコいいやん!
ちなみに結構ガチで剣道やってましたからね?
うっし! 寝よ