FGO二次 衛宮士郎みたいな藤丸立香 作:龍川芥/タツガワアクタ
朝日が昇る。
闇に閉ざされた空は去り、世界を暖かな光が満たす。
「──時間だ」
藤丸立香はぎゅっと手を握った。僅かな震えは、武者震いゆえではない。
「先輩」
相棒でありデミ・サーヴァント、マシュ・キリエライトの心配に……立香は振り返って笑った。
「大丈夫。ありがとう、マシュ」
そしてそのまま背後を見渡す。
彼女の元に集いしは、共に戦う英霊たち。
竜殺しの大英雄、ジークフリート。
稀代の音楽家、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト。
竜退治の逸話を持つ聖人、ゲオルギウス。
おてんば竜娘、エリザベート・バートリー。
炎の蛇娘、清姫。
そして、救国の聖女ジャンヌ・ダルク。
「みんな、行こう」
これより我らカルデアは、人理救済のため邪悪なる魔女を討ち倒す。
「私たちは、
夜明けとともに、最後の作戦は始まった。
◆◇◇◆
「道を開けろ、ワイバーン共! 開けぬというなら、その悉くを撃ち落とし突破する!」
「汝は竜、罪ありき! 人を喰らったものたちよ、我が剣で裁いて差し上げます!」
立香たちはワイバーンの群れを正面突破していた。
竜の巣となったオルレアン、その中心へと力技で駆けていく。
「ねえ子ジカ、これって作戦とは呼ばないんじゃないの!?」
「あら赤トカゲ、
「ああもう、やってやるわよこのくらい!」
総力で襲い来るワイバーンの群れを撃破しながら走るうち、気付けば視界は開けていた。
草原の向こう、道の先にそびえるは街を覆う壁。
「見えた、オルレアンの城塞!」
「ワイバーンも蹴散らしました! 魔力も十分温存できています。このまま城塞の中に──」
瞬間。
城塞の上で何かが光った。
「ッ、伏せろマスター!」
咄嗟にジークフリートが立香の体を抑えて地に伏せさせる。
──鮮血が、舞った。
「──な」
地面に倒れこんだ立香は目を見開く。
彼女を庇ったジークフリートの腕に、一本の矢が突き刺さっていた。
彼はそれを素早く引き抜くと、矢を放り捨てながら叫ぶ。
「全員、遮蔽のある場所へ走れ! 狙撃だ!」
その声に、全員が近くの森へと走る。
再び、城塞の上が光った。
「はぁッ!」
裂帛の気合と共に、ジークフリートが飛来した矢を
だが、彼は己の剣先が僅かに震えていることに気が付いた。
「これは──」
と、彼を呼ぶ声。
「ジークフリート、あなたも早く!」
「──ああ、了解した!」
そして全員が森の中へと逃げ込むことに成功した。
追撃は、来ない。
森の中、木の陰に隠れた立香は大きく息を吐いた。
ジークフリートが庇ってくれなかったら、矢は自分の心臓を貫いただろう。
だが、今すべきは自責ではなく対策だ。
「……アレはっ」
「大方、敵のアーチャーだろうね。音の反響からして、城塞からここまで約3km。そんな距離を狙撃できるのは英霊だけだ」
「そして、おそらく竜化しているでしょう。ここがオルレアンに一番近い森、遮蔽に成り得る場所はもうない。まともなアーチャーならもう少し引きつけてから撃つハズ──つまり、敵に冷静な判断力は無く、反射的に射程内の者を撃つだけの固定砲台になっていると推測できます」
立香の言葉に状況説明や推測を返すアマデウスとジャンヌ。
と、そんな会話に割って入る者が居た。
「すまない、俺も少しいいだろうか」
「ジークフリート、どうしたの?」
彼は己の腕を見せる。返しのついた矢を無理やり引き抜いたそこは、肉が抉れ血を吹き出していた。だがそれは、ジークフリートという英霊からすれば異常事態。
「受けた傷の治りが遅い。少しだけ痺れや痛みもある。恐らく、敵の矢には毒が塗られている」
「毒──!」
矢と毒。これから決戦だという時に戦うには、考えただけで最悪の組み合わせだ。遠距離からの攻撃は防ぎづらく反撃は容易ではない。そのうえ毒のせいで掠り傷でも致命傷になる可能性がある。
「オルレアンへの本当の鬼門は、ワイバーンの群れじゃなくてあのアーチャーか……!」
立香は呻いた。なんて厄介な難敵が、作戦外から浮上したのか──!
だが、ここで立ち止まるという選択肢はない。
立香はメンバーを見渡す。シールダー、ルーラー、セイバー、キャスター、ライダー、ランサー、バーサーカー……それを見て、立香の心は固まった。
左手を握り、唱える。
「
ぼろぼろの赤い外套が現れ、藤丸立香の体を包む。
『立香ちゃん、君の魔力は極力温存する作戦じゃ──』
「事情が変わりましたドクター。私たちの中で弓兵の役割ができるのは私しかいない。この後のことは、ここを切り抜けてから考えます。今は全てを敵アーチャーの撃破に使わないと」
立香は強い口調で言い、木の影から少しだけ顔を出した。
「
瞬間。城塞の上の弓兵がこちらを向き、矢を放つ。
「──っ!」
全力で身を引いた立香の鼻先が一瞬前まであった場所を、超速の矢が通過した。それは木の幹に突き立つと、じゅうと音を立てて木を溶かす。ずいぶん強力な毒を塗られた
「見えた。相手は獣の耳を生やした金髪の女性。服と髪の一部は若草に似た緑色。弓は彼女の身長に届くくらい大きくて黒色、少しだけ金の装飾がある。弓を番えた状態からこちらを発見し、矢を射るまで約0.2秒、放たれた矢が届くまで0.8秒。きっかり1秒で狙撃が届く。弓を持つ手が右手だったから左利きもしくは両利きの可能性あり。あとよく確認できなかったけど、左手に何かが纏わりついていたような──」
一瞬で看破した相手の外見的特徴をつらつらと述べていた。
そのことに呆れるべきか称賛するべきかと無言になる周囲の空気に耐えかね、彼女はこほんと咳ばらいをひとつ。
「とにかく、今の情報で真名とか分からない?」
『……外見だけで真名が分かるのは相当特徴的で有名な英霊くらいだ。獣の耳、っていうのは特徴的だけど……残念だが、今回はそのレアケースではないね』
ロマニの答えに、流石にそう都合よくはないか、と呟く立香。
彼女はあらためて現状を分析、様々な情報を加味し。
「ここから3キロ。敵の視認能力を考えても、接近して戦うのはまず不可能だ。だからあいつは私が討つ」
その結論に至った。
彼女の手に黒い弓が出現する。
「マシュ、協力してほしい。それからもう1人、マシュと一緒に動ける、あのアーチャーの視線を引きつけることが出来る人が欲しいんだけど……」
「ならば俺を使えマスター。俺は先の一撃により、敵の毒で死なないことが分かっている。俺を使うのが最もリスクが低い筈だ」
「……分かった。頼んだよジークフリート」
そうして、作戦を説明している時だった。
不意にロマニが叫ぶ。
『上空に魔力反応! 大量の何かが振ってくるぞ!?』
全員が上を見る。枝葉で視認しずらいが、そこには──。
「な、矢の雨!?」
大量の矢が、空を埋め尽くしていた。否、それは矢ではない。その先端は鋭い鏃から蛇の頭へと変貌しており、その一匹一匹が毒牙を晒して迫りくる。
それは、広範囲を射る何百何千匹の毒蛇の雨。
その名を、宝具『
「先輩、私の後ろに!」
「分かった──いや、範囲が広い! マシュの盾だけじゃ──」
全員を狙う蛇の群れを前に。
「ならば。わたくしにお任せください、
青い炎が、燃え上がる。
その目が見据えるは、想い人へと降り注ぐ毒矢の雨。
それを彼女が――清姫が許す筈はない。
「毒には火、蛇には蛇。弓矢の雨が降る日には、炎の相合傘を差しましょう」
その身が青い
「それでは御覧ください、わたくしの一世一代の晴れ姿──『
「旦那様、この隙に!」
「だん──いや、分かった!」
立香は青い炎に照らされる森の中叫ぶ。
「マシュ、ジークフリート、今すぐ作戦を実行する!」
「了解です、先輩!」
「承知した」
彼らが走り出す中、立香は歯噛みした。
「(この広範囲攻撃は、私が顔を出したから使って来たんだ。私たちの居る大体の場所が分かったから……くそ、軽率だった!)」
自分への怒りをあえて燃やす。次の反撃に活かすために。
「(次は絶対に失敗しない。だから頼んだよマシュ、ジークフリート……!)」
◆◇◇◆
オルレアン城塞の上にて。
アーチャー──竜化アタランテは弓を番えた。
彼女に与えられた力は「
アタランテは機械的に弓を引き絞る。すると、矢羽根を握る左腕が内側から暴れ出した。細く引き締まった腕の輪郭が崩れ、それは左腕を覆う九匹の蛇へと変貌する。それは一匹一匹が細くなって矢に絡みつくと、そのまま沈み込むように矢と一体化した。
「……『
生気の感じられない呟きと共に、彼女は第二射を放とうとして──。
「……」
ぴくん、とその耳が揺れた。矢の照準が素早く動く。
狙いは──3キロ先、森から飛び出して来た影。このままでは不利と見て、一か八かの突撃を仕掛けてきたか。
だが……3キロの距離は、英霊の脚力をもってしても余りに遠い。
「一転集中──『
そうして、毒蛇の矢は放たれた。それは1秒で獲物の元へ。
空中で矢の先端が九匹の毒蛇に変貌し、九対十八本の毒牙が矢の軌道の先に居る対象を噛み殺す──。
そのはず、だった。
「はああああああ!」
蛇が噛み付いたのは、黒い大盾。
マシュの渾身の防御が、追従するジークフリートと彼女自身を毒牙から守る。
「感謝する!」
ジークフリートが盾の裏から飛び出し、蛇となった矢を切り裂く。それで第二射、九頭の毒蛇の矢は絶命し、その一撃は防がれた。
「……竜、殺し」
アタランテの本能は、ジークフリートを危険と判断した。竜への特攻、圧倒的な戦闘力の高さ。何より盾持ちと連携された場合、彼一人ならここまで辿り着くかもしれない。そうなったときアーチャーである自分の勝ち目は薄い。
アタランテの本能とヒュドラーの獣性、それらが混ざり合った意識が、ジークフリートを己の生存を脅かす危険な外敵と判断する。
「殺す。『
このとき。アタランテは、マシュとジークフリートにだけ注目をしていた。だから3キロ先で行われる、その行為に気付かなかった。
「──
魔術回路が、励起する。
とある英霊の力を借りた藤丸立香が造るのは、白黒一対の夫婦剣。
「
それを延長させ、骨子を改造し、捻じり削って矢に変える。
「
それを、三対六本。設計図をなぞり、いつでも投影出来るように準備をして──そして、彼女は唱えた。
──
一本目の矢が手の中に投影される。それは少し歪曲した、矢にしては変わった形をした白い
立香は長い息を吐き、呼吸を止め。その矢をゆっくりと弓に番える。
森の中。立香は木の影から僅かに体を出し、片膝を付いて弓を構えた。狙いは勿論、3キロ先の城塞上、マシュとジークフリートに向かって弓を構えている竜化アーチャー。
魔術回路に魔力が流れる。それは稲妻のように流水のように全身を駆け巡り、人間である立香の体に超人たる
再現するは英霊の技量。完璧な照準をもって、毒矢の弓兵へと白い矢を放つ。
「
空気を切り裂き、一本目の矢が飛翔する。その軌道は決して真っすぐではなく、曲射のように上方向に逸れ曲がりながら標的へと向かう。
──
次は第二射。立香は森を飛び出し、遮蔽の無い空中で矢を構える。今度は白と黒、二本の矢が手の中に。
再現するは英霊の敏捷。超人的な素早さをもって、二本の矢を連続で発射する。
「
白黒の矢が、それぞれ右に左に曲がった軌道を描きながら標的へと向かった。
──
第三射。今度は一射目で放った剣の片割れ、黒色の矢。それを着地と同時に番え、強く強く引き絞る。
再現するは英霊の膂力。剛力をもって弓を引き絞り、第一射に追いつく速度の矢を放つ。
「
矢は下に逸れ曲がりながら標的を目指す。
そして、最終射。
「
魔術回路が、熱を持つ。それは鋼を鋳溶かす鍛冶場の炎。それが、己の内側を爆炎のように駆けていく。
再現するは英霊の全て。技量、敏捷、膂力。その全てを、この一瞬だけ己に宿す!
「
ついに、投影を途中で停止していた最後の矢が投影された。
それは二本の剣が合わさり、捻じれ、奇しくも二匹の蛇のように絡み合った双翼の矢。
それを弓に番え、藤丸立香は敵を見据える。
──
限界まで引き絞れ。敵を穿つ力を矢に込めろ。
英霊の力を許容しきれない腕の内部が千切れ、痛みと共に内出血を起こす。連射によって指の皮膚は剥がれ、溢れた血が弦に伝う。
だが。立香は痛みに怯まない。
そんなものを気にも出来ないほどに、心の中が燃えているから!
──
いざ放たん。
これなるは英霊■■■・■■■の奥義。
三対の同じ
それを、藤丸立香が弓術にて再現した──単純な模倣を追い越し固有技へと至った絶技である。
「いっけええええええええ──っ!!」
そして、その矢は放たれた。
双翼の矢は今度こそ真っすぐに敵へと向かう。
ここで、マシュとジークフリートを狙っていたアタランテは、初めて己への攻撃に気付いた。
「……っ!」
矢を撃ち落とそうとして……アタランテは驚愕する。
上、下。
右、左。
それらの方向から、自分に向かって同時に矢が迫って来て居ることに。
「なんだと……!?」
それは立香が軌道を曲げながら射た
そして真正面からは双翼の矢。絶大な破壊力を秘めたそれが迫る。
ここで、アタランテの道は断たれた。
矢を撃ち落として防御する──全てを撃ち落とすことはできず、不可能。
上に飛んで避ける──不可能。
右に回避する──不可能。
左に飛びのく──不可能。
城壁の下へと降りる──不可能。
後ろに身を躱す──それも、不可能。
防御、不可。
回避、不能。
その技の名こそ。
「──
三対六本の捻じれた
「がぁ──!!」
肉を裂き骨を断ち霊核を穿つ六本の矢。
その威力に、致命傷を負ったアタランテは膝を付く。
「ぐ、ぅああああ……!」
血が大量に溢れ、城塞の上を広がっていく。矢は確実に急所を射抜いており、彼女が倒れたのは必然と言えた。
だが。
その左手がうねり姿を変えだした。九つの頭を持つ蛇が、その生命力をもって壊れた霊核さえ修復しようとしているのだ。
そう。ギリシャ神話におけるヒュドラーの恐ろしさは、その強力無比な毒だけではない。傷を火で焼かねば復活するという凄まじい再生能力にもある。
アタランテは瀕死からの復活を果たそうとして──ふと、城塞の下を見た。
竜化状態で現界してから、ずっとオルレアンの警護をしていた。
与えられた命令は、「射程内に入った竜以外の生命体を射殺す」こと。
彼女はそれに従った。
斥候に来た兵士、勇気ある彼の頭を射殺した。
壊れた街の生き残り、彼らが逃げる背中を射殺した。
全て射た。全て殺した。全て、全て。
「ああ、そうだ……」
アタランテは血だらけの手で、矢を一本手に取ると──その鏃を左肩に、己を癒す蛇の頭に突き刺した。血が噴き出し、蛇がか細い悲鳴を上げる。
「よくも私に子供を殺させたな! これ以上貴様らの言いなりになるくらいなら、私はここで死を選ぶ!」
彼女が再生を拒んだことで、その体は急激に崩壊を始めた。多頭の蛇ごと金色の魔力へと変換されていく。
彼女が最後に見たのは、己を討った勇者の姿。
「……感謝する、名も知らぬ少女よ。私にしかるべき罰を与えてくれた汝に、アルテミス様の加護があらんことを──」
そして、アタランテは消滅した。
その最期の言葉を、立香は聴いた。
強化された視力により消えかけの英霊の口の動きを見切ることで、その読唇に成功したのだ。
立香はぎゅうと拳を握る。
「大丈夫、あなたの無念は私たちが晴らすから。
竜の魔女──
そうして。決戦の第一幕は、カルデアの勝利で幕を閉じた。
次に待ち受けるはオルレアン、竜の魔女の指揮の元、迎撃の体制をとる邪竜の軍勢との正面戦闘。
世界を滅ぼす戦力と相対するのは、1人のマスターと7騎の英霊。
前哨戦は終わり。
どちらかが壊滅するまで終わらない"戦争"、その本戦が始まる。
◆◇◇◆
オルレアンへの道を護るアタランテが撃破される様子を、とある男は見ていた。
彼はその事実とそれを為した少女の情報を持ち、そそくさと隠れながらその場を離れる。
状況は、大きく動こうとしていた。