FGO二次 衛宮士郎みたいな藤丸立香 作:龍川芥/タツガワアクタ
「……来ましたか、聖女の"私"。愚かなままのジャンヌ・ダルク」
ジャンヌ・オルタは、燎原の荒野に立つジャンヌ・ダルクを見下しながら呟く。
決戦の地、オルレアンにて。
聖女と魔女は対峙した。
片や黒き鎧を纏い、漆黒の邪竜に乗る竜の魔女。その横には側近であるジル・ド・レェと3騎の竜化サーヴァント、そしてワイバーンの大軍が控える。
片や白き鎧を纏い、御旗を掲げ地に立つ救国の聖女。彼女の隣には人類最後のマスターと、そのサーヴァント6騎。
白き聖女ジャンヌは、旗を揺らしながら竜の上の魔女に宣言する。
「竜の魔女──我が祖国を焼く邪竜の王よ。私はあなたに挑みます。これ以上、私が愛するこの国を好きにはさせない!」
その瞳は強烈な信念の光を宿していて。
そのことにジャンヌ・オルタは目を細め、渋面を作る。
「愛? よりにもよってそれですか」
轟、と彼女の周囲が燃え上がる。それは呪いの炎、黒きジャンヌの身を焦がす、文字通り燃え上がるような憤怒の顕現。
それを纏いながら、彼女は衝動のままに叫ぶ。
「私が叫ぶべきなのは怒り! 私を裏切った愚民、教会、国への憎悪! おまえはどうしてそれが分からない! この胸の内を焼く地獄の業火、世界を呪う炎の痛みが!」
だが。
ジャンヌ・ダルクは動じない。
「いいえ。私の胸の内にあるのは、いつだって奇跡のような愛の光。それが分からないあなたを、私は"
炎も纏わず。
竜にも乗らず。
魔術も呪いも使えない。
されどその姿は、一点の曇りのない
まるで光に包まれているように、強く気高く美しい。
それが──ジャンヌ・オルタは赦せない。
「──ッ、いいでしょう! ならば死ね、死んでその戯言諸共に消え去れ偽物! ファヴニール!!」
彼女の声に竜は応えた。その首を空へと伸ばし、地平線の彼方まで憎悪の方向を轟かせる。
それが合図だった。
邪竜の軍隊が、戦闘態勢を取る。
「そして我が邪竜たちよ!
ジル!
アサシン、そしてワイバーン全軍!
全宝具の使用を許可します、そこの小娘たちを殺しなさい!
希望を砕き、命を奪い、怒りと呪いを振り撒くのです!」
獲物を襲わんとする竜の鳴き声が共鳴し、巨大な鬨の声となって大気を揺らす。
百を千を超える群れが、竜化サーヴァントたちが、真の竜種が、1人と7騎の集団に本気の殺意を殺到させる。
それを振り払うように、白い旗が大きく振られた。
ジャンヌ・ダルクは先頭で敵数百の殺気を受け止めながら、それでも一歩も引かずに叫ぶ。
「来ます、マスター! 皆さん!
敵軍は多く、その力は強大──ですが!
我が旗がある限り希望は折れず、我が祈り尽きるともあなたたちの命は決して奪わせない!」
そして──2人の聖女/魔女は、己が真名を解放する。
「「我が真名、ジャンヌ・ダルクの名において!!」」
「全ての生命の存在を、私は認めない! 我が復讐に沈め、世界!!」
「人、国、愛──私はそれを
聖女と魔女。
真逆の両者が率いる、世界を賭けた戦争が始まった。
◆◇◇◆
先手は邪竜軍──ジャンヌ・オルタの背後に控えていた黒衣の大男、キャスターのジル・ド・レェ。
彼は手に不気味な革張りの魔導書を持ち、それを高々と掲げる。
「僭越ながら、私が一番槍を戴きましょう。ジャンヌ、あなたの望みこそ我が
瞬間。
ファヴニールの背後に、山のように巨大なナニカが現れた。
それはてらてらと光を反射する表皮を持った、巨大な軟体水生生物を思わせる謎のバケモノ――巨大海魔。
それがヒトデのような顔部分を傾けて大口を開けると、そこから幼体らしき1mほどの大きさの海魔を大量に吐き出す。絶え間なく、大量に。
血に飢えた牙、棘だらけの触手、見るものの戦意を奪う悍ましい外見──そんな怪物が、地を走り空を覆う津波となって立香たちに向かって雪崩れ込む。
「(これは、避けられない──)」
規模が大きい上に、海魔は生物。言わばこれは意志を持つ津波、回避も防御も至難の業だ。
だが。
「
「ちょっと子ジカ、
「まあイイわ、乗ってアゲル! そろそろ
エリちゃん──エリザベート・バートリーは槍をくるりと回すと、それを地面に突き立てる。瞬間、魔力が高まり彼女の服を髪を揺らした。
「ステージ召喚、ド派手に行くわよ!」
彼女の背後から地を揺らし現れるのは、デコりにデコられたチェイテ城。けばけばしくネオンが光りサディスティックかつキューティなライヴ感を演出するそれは、城ごと改造された巨大アンプ。
そしてそれと繋がったマイクは、エリザベートの槍の先に。
「ヒトデなんかには勿体ないケド、ボリュームMAXでイかせてアゲル!
──『
エリザベートはちらりと牙の覗く口を開き、目を瞑ってその美しい声を発して──
──名状しがたい騒音が、オルレアンの大地を駆け抜けた。
「~~ッ、ナニコレ超うるさい!」
「くそう、なんだこの耳が割れるような怪音波は!? どうしてあの声がこんなに不快な音階になる!? 畜生、こんなの音に対する冒涜だぞっ!」
「で、ですが効果は覿面です!」
味方に多少の被害を出しつつも、彼女の宝具は効果的だった。
前方広範囲を襲う、歌による
初撃、完封。
勝負は仕切り直しとなった。
「──っ、行きなさい
「よし、ここから作戦通りに!」
ジャンヌ・オルタの
立香とマシュが挑むのは、
「……また私の前に立つか、英霊もどき。言っておくが、今の僕を宝具を縛られていたあの時と同じと思うな」
馬に似た飛竜の背から上半身を生やした異形の剣士──竜騎兵のセイバー、シュバリエ・デオン。
「それはこっちもだよ。今はマシュが居る、2人なら負けない!」
「はい、防御は任せてくださいマスター!」
「……いいだろう。敵が増えた所で何も変わらない、刺して燃やして殺すだけだ。それが私の忠誠であり、僕の王家への礼儀」
決意と殺意の視線がぶつかる。
一方こちら、竜血公のランサー・ヴラド三世は、
「血を寄越せ娘、喉が渇いて仕方ないのだァ……ッ!」
「生憎、わたくしの体はただ一人のもの。人の恋路に割り込んで血を吸おうとする蝙蝠さんは、燃やします」
青い炎を纏った清姫が相手取る。
続いて白髪長身の女性サーヴァントである竜化アサシンは、
「……」
「アンタの相手は
その無言無反応にむきゅうと怒るエリザベートがタイマンを申し込む。
そして前方、大量のワイバーンの軍隊の前、
「「「Gyaooooooo──!」」」
「さてワイバーンたちよ、もれなく此方を向いてくれたようで何よりです。我が真名・ゲオルギウスの名に懸けて、悪竜をこれより先へは行かせません!」
スキルによって彼らの敵意を一身に受けるゲオルギウスが、ここから先は通さぬと剣を構える。
ここで視点は、ファヴニールの周辺へ。
「おお、申し訳ありませんジャンヌ……このジル・ド・レェ、我が宝具を破られたこと、敵の臓物と悲鳴で贖わせていただきたく存じます」
宝具解放と共に巨大海魔に乗り換えたジル・ド・レェを見上げるのは、
「
指揮棒を構え笑うアマデウス。
そして。
ファヴニールの正面に立つは2騎の英霊。
1人は悪竜を、1人はその上に乗る魔女を見据え、己の武器を握りしめる。
「では……行きましょうかジークフリート。私は竜の魔女を」
「俺はファヴニールを相手取る。すまないが、背中は任せたぞジャンヌ・ダルク」
「ええ、此方こそ!」
背中合わせで構え、剣と旗を突き付ける相手に。
ジャンヌ・オルタは腰の黒い剣を抜きながら憤怒を吠える。
「纏めて灰になりなさい! ファヴニールッ!!」
「Guoooooooooooooooooo──!!」
そして、竜の口から紅蓮が迸り。
死闘が、始まった。
◆◇◇◆
騎馬を模した竜が嘶く。大きな翼がばさりと揺れ、風がその長い金髪を揺らした。
その顔、中性的な美貌は既に晒されている。即ち。
「真名解放。我が名はシュバリエ・デオン、フランス王家の敵を討つ
『魔力反応増大……宝具が来るぞ!』
「いきなりかっ!」
デオンの異形から黒い魔力が立ち昇る。それと同時、翼がその上半身を隠すように覆った。
「(防御のつもり? でもっ)」
それを立香は隙と判断。
「
投影した
翼を貫通する刃。立香は有効打だと確信し──。
「──白百合は既に汚れ墜ち、
されど我が忠誠に翳り無し」
破れた翼の裏には、誰も居なかった。ただ、穴の開いた竜の背中があるだけ。
「な──!?」
それどころか、主を失った騎兵の竜が牙を剥きだして襲い掛かって来た。その背にはやはり、どれだけ目を凝らそうとデオンの姿など無い。
「マスター、私が防御します!」
「うん、でもデオンは何処に!?」
マシュが大盾で狂犬のような竜の猛攻を防ぐが、
「御覧に入れるは死の舞踊。
さあ、炎に見惚れて死ぬがいい──」
詠唱は、魔力反応は途切れていない。
先に気付いたのは、周囲を見渡した立香。
「……アレはっ!」
竜が居た位置の少し後ろ辺りに、1人の騎士が立っていた。
血みどろで長い金髪を汚した、華奢で可憐な性別なき騎士。手足の先を赤黒い竜の甲殻に包み、顔の前で細剣を構えるその英霊は。
「まさか……騎竜と分離したのっ!?」
騎竜から降りたシュバリエ・デオンそのひとで。
人型となったその背から、肉を服を裂いて翼が生え──
「宝具解放、『
デオンは空中に飛び上がった。その背後に黒百合が降臨する。
「先輩、私の後ろに!」
「──、分かった!」
立香たちは止められないと判断し防御を選択。マシュの大盾に2人で身を隠す。
そして──
それは剣舞だった。
空中にて舞われる、優雅で力強い──それでいてどこか物悲しく儚い、細剣を手に繰り出される騎士の舞い。
魔力によって生み出された黒百合を背景に、指揮棒のように剣が振られる。するとその華麗な動きに合わせて、竜を象った炎が幾体も現れ攻撃を始めた。
まるでデオンと共に踊るように炎が地を舐め。
または共に演じるかのように炎が空を舞う。
無差別に周囲を燃やすようにも見えるそれは、ついに灼熱の
「……っ!」
マシュの盾が炎の竜の突進を受け止め、何とかその軌道を歪める。しかし炎竜の行動範囲は広く、デオンの剣舞に合わせて止まることなく炎を振り撒く。
「きゃ!? この、炎の竜とはわたくしへの当てつけですか!」
「うおっと! 演奏中だぞあっついなぁ!」
炎は比較的近くにいた清姫とアマデウスを攻撃し、
「せあぁっ! 大丈夫か、マスター!」
ジークフリートの剣圧でようやく空中へと追い払われた。
「ごめん皆!」
「いや、無事ならそれでいいっ」
全員辛うじて回避できたものの、デオンの攻撃を抑えられなかったことに立香は唇を噛む。
立香たちが取っている『1人が1人を抑える』という作戦には、大別してふたつの意味がある。1つは『協力して1対1を複数作り、1対多の不利状況を作らないため』。2つ目は『誰かが己の担当した敵を倒し次第、順次味方の加勢に行くことで各個撃破を狙うため』だ。
立香は、最初からマシュと2人で挑める自分こそがその"誰か"にならなければと思っていた。だが結果は真逆、加勢どころか敵の攻撃を素通りさせてしまった。
「(今のままじゃダメだ。少なくとも、これ以上皆に攻撃させない──)」
決意した瞬間。
「がっ……!?」
ジークフリートの体が、突如として炎に包まれた。
「な、ジークフリート!?」
それだけではない。
「先輩、清姫さんとアマデウスさんもです!」
見ればその二人も原因不明の炎に体を焼かれている。特にアマデウスは症状が重く、清姫やジークフリートが体の一部分を燃やされるに留まっているのに対し、彼は全身を焼かれながら膝を付いていた。
「ぐ……まずいねコレは、炎はともかく体が動かないっ……!」
炎と行動阻害の呪い。だが、何故。
「(どうして私たちは無事なのっ? 私もマシュも宝具の効果範囲だった、距離が条件なら私たちが一番重い症状なハズ……何か別の条件が……!?)」
立香とマシュは、宝具を使ったデオンと最も近い位置に居たのにも関わらず炎の呪いを受けてはいない。ジークフリートの隣にいたジャンヌもだ。また同じくらいの距離にいた清姫とアマデウスの症状は大きく異なる。つまり呪いを受けるには、距離以外の特別な条件がある。
と、ジークフリートが炎に焼かれながらも叫んだ。
「ぐ、マスター、これは恐らく"剣舞を見た者"に作用する呪いだ! 俺は炎を躱すために騎士の剣舞を見た、それは清姫とアマデウスも同じだ!」
「──そうか、私とマシュは盾に遮られて剣舞は見なかった!」
視覚を通して発動する呪い。それがジークフリートたちの体を焼く炎の正体。
ただ、疑問点はもう一つある。
「なら、呪いの強さが違うのは……」
「"感動"、だろうね」
膝を付き身を焼かれながら、アマデウスは己を襲う呪いを分析する。
「僕はあの舞いを"美しい"と思った。幻惑されたと言っていい。自分の演奏を乗せたいほどだと……そしたらこのざまだ。で、あの蛇娘は狂化しているから効き目が薄く、ジークフリートは戦士だから戦場での不必要な情動を押し殺せたんだろう」
「アマデウス……っ」
何でもないように言う彼の体は炎で焼かれ、火傷がかなりの勢いで進行する肌や肉の焼ける音は嫌でも苦痛を想起させる。
それでも、アマデウスは強がり、皮肉気に笑った。
「まあ、これでもサーヴァントだ。死ぬほど痛いが、あと数分は持つだろう。マズいのは体が動かないことの方だ、あの
「──分かった!」
その言葉に、立香は決意を新たに敵を見据える。
立香は理解した。竜騎兵デオンは集団戦において、最も厄介な敵である。
宝具の攻撃範囲の広さ、そしてそれを避けようと本人の剣舞を見ると呪われるという最悪の2段構え。呪いも発火と行動阻害という戦闘を大きく不利にするものなうえ、見ただけで被害を被るという条件の緩さ。デオンが宝具を発動するたび、周囲の見方は『見ずに燃える』か『見て燃える』の二者択一を迫られ続けることとなる。
つまり──立香とマシュ、2人の戦果が、この戦場の趨勢を大きく左右するということだ。
「
弓と矢を投影し、狙いを定める。
着地したデオンは切り離していた騎竜を取り込んでいた。つまりまだ機動力を取り戻してはいない。
「
高速の三連射。細剣一本では防ぎきれないという判断だったが。
「"肉体竜化"」
デオンの左腕が膨張し、竜の甲殻で形成された盾となって矢を防いだ。剣は甲殻に突き立つも、硬いそれを貫くことは無く硝子のように砕ける。
「体を変形……!?」
「肉体竜化……"
今度は盾がその大きさの竜の口に変貌し、立香らに向けて巨大な炎弾を放つ。
「くっ……!」
炎弾はマシュの盾で防げたものの、何度も連射されるそれに立香は攻めるすべを失っていた。
「(近寄れない……! くそ、時間を稼がれるだけで呪いを受けた3人が不利になる! 早く決着を付けたいのに……!)」
隙を見て数発の矢を撃ち込むが、己の体を穿つそれをデオンは気にもせず攻撃を続ける。竜の再生能力がある限り、中途半端な反撃を恐れる必要が無いからだ。
「(攻撃力も足りない……! このままじゃ……!)」
焦りの中、ついに恐れていたことが起こった。
「きゃぁ……っ!」
「清姫!」
立香の足元、盾を構えるマシュと反対側に吹き飛ばされた清姫が転がって来た。その半身は青ではない炎——デオンの呪いに焼かれている。
「す、みません
清姫は肩に浅くない傷を負っていた。獣に引っかかれたような、4本並んだ痛々しい傷。
それを彼女に与えたのは、
「血を寄越せ……流血を見せろ、鮮血を飲ませろォ……! 喉が、喉が渇くのだ……!」
正気を失っているブラド三世。彼は血の付いた自身の指を舐めとると、そのまま幽鬼のような足取りで此方へと――手傷を与えた獲物の元へと迫る。
「(マズい……っ!)」
挟まれた。マシュはデオンの炎に対処していて背後までは守れない。
さらに悪いことに。
「血を、余に……ぐああ、がああああああああああああああああ!!」
ヴラドの肉体が変容を始めた。壮年の男性という輪郭が崩れ、内側から押されているかのようにその体が膨張する。更に体の内側から杭のようなものが生え、その異貌を更に刺々しく変形させた。
一歩進むごとに体は巨大化し。
一息吐くごとに体は異形へと変わる。
「血をおおおお、寄越せええええええええ──ッ!!」
宝具、『
それはヴラドの身を怪物と化す暴走宝具。
ここに、彼の体は怪物と成った。3mはあろうかという巨体。体中から杭のような突起が生え、そのシルエットは凶器そのもの。全身を半人型の邪竜へと変貌させた彼だったが、その姿は何処か巨躯の人狼にも見える。
そんな邪竜ヴラドが、その杭だらけの腕を振り上げる。丸太のように太い腕は剣のような爪と無数の棘を有しており、その一撃はどんな英霊にも致命傷を与えるだろうことが容易に想像できる。
そんな凶器が、倒れた清姫とその近くの立香に向けられる。
「
空中に剣を投影し射出するも、杭だらけの体には突き刺さりもしない。
「そんな──」
マシュは防げない。彼女が防いだとしても、次の瞬間デオンの炎弾に背中を焼かれるだけだ。
「(マズい、もう間に合わないっ!)」
ロー・アイアスなどの防御ももう遅い。死の巨腕が振り下ろされる。
──死。
その直前の走馬灯か、眼前に迫った杭だらけの腕を見ながら立香は思う。
竜化サーヴァント。高い身体能力、傷をものともしない肉体再生、掛け値なしに強力な宝具。攻撃力・防御力共に普通の英霊とは一線を画す強さ。
今になって思う。こんな怪物たちを倒す手段なんて、本当にあるのかと。
そのまま、死の鉤爪が立香の身を裂く──その瞬間。
「駆けよ──『
割りこんできた赤銅色の人影が、絶死の一撃を受け止めた。
「な……っ」
彼が繰る馬の名はベイヤード。その能力は、乗り手に対するどんな致命的な攻撃も一度だけ無効化する、というもの。
その力で立香を救ったのは。
「ゲオルギウス!?」
「はいマスター。勝手ながら、危機と判断して割り込ませて頂きました」
「助かった、けど……ワイバーンは!?」
そう。ゲオルギウスの担当はワイバーンの軍勢。それらが立香たちタイマン組の邪魔をしないよう引きつけることが、もう1人竜殺しである彼に与えられた高難易度かつ重要な任務だったハズ。その彼が、何故ここに。
「ええ。状況が変わりまして、
「それは、どういう……」
「聞こえませんか? この鬨の声と、飛竜を撃つ砲撃の音が」
ゲオルギウスの言葉に、立香は耳に意識を集中させた。すると、開戦時には聞こえなかった音が何種類も耳に入って来た。
聴こえる。幾重にも重なった声が。
聴こえる。鎧や剣がぶつかる音が。
聴こえる。火薬が爆ぜ砲弾を飛ばす音が。
「まさか──!」
音の方向を振り向いた立香が見たものは。
「臆すな! 進め! 砲弾と剣にて、我らが祖国を護るのだ! 我ら──フランス軍の誇りに懸けて!」
「フランス軍──!」
「ジル!」
ワイバーンに砲撃で応戦するフランス軍と、それを率いる痩躯の男性。彼らはオルレアン攻めの鬼門だった竜化アタランテが討たれたことで、一気に兵を集めオルレアンへと進軍してきたのだ。
「彼らがワイバーンの相手をしてくれる。そのおかげで私の手が空いたのですよ」
ゲオルギウスはそう言い、騎馬の上で剣を構えた。
「故に──私はこの怪物の相手を引き受けましょう! 『
彼の放つ斬撃が、邪竜ヴラドの巨腕を斬り裂いた。切断された腕が宙を舞い、ヴラドがよたよたと後退する。
「がああああああああ!!」
「なんと、わたくしが何度炎を浴びせても霧になって避けられたのに……!」
倒れたままの清姫が驚きの声を出した。
霧化の能力を無視してダメージを与えたゲオルギウスは、何でもないように落ち着いた口調で言う。
「ふむ。竜殺しの力か神の御加護、そのどちらかが効いたのでしょう。どうやらこの敵の相手は、私が適任なようですね」
その姿に。
立香は確かに希望を見た。
死を思わせた腕を軽々と斬り裂いたその剣に、未来を切り開く可能性を見たのだ。
「──これだ」
故に。
「(その力、借りるよ──)」
心象風景、同調。
疑似霊基、再現。
魔術回路、複製。
立香はゲオルギウスが持つ剣を注視する。その全てを知るために。
基本骨子、解明。
構成材質、解明。
憑依経験、共感完了。
「──よし」
心の中で火が芽吹く。
それは鉄を打つ
「血をおおおおおおおおお!!」
「援軍も焼いて殺してやる、宝具解放──」
ヴラドとデオン、自分たちを挟む2騎の強敵を前に。
知らず、呼吸は合っていた。
「我が剣に宿りし聖なる守護よ、邪悪を滅する力へと反転せよ──」
「
ゲオルギウスの剣が輝き、立香の手のひらに紫電が絡みつく。
片や、目の前の邪竜へ必殺の宝具を放つため。
片や、竜殺しの伝説を持つ剣の贋作を投影するため。
ベイヤードの蹄が大地を蹴り。
藤丸立香は一歩踏み出す。
「汝は竜、罪ありき!」
「──
その手には、一振りの輝ける剣。
邪悪を祓い竜を討つ、込められた守りの力を攻めへと転じた聖剣。
その名こそ。
「──『
ゲオルギウスの声と同時、藤丸立香の手の中に竜殺しの剣が投影された。
そして立香は、再び空へと飛びあがったデオンに向けて駆け出す。
「マシュ!」
「──、はい!」
立香はマシュの前に出て――彼女が構える盾に飛び乗った。マシュは英霊の膂力を使い、立香が乗った盾を全力で空に押し出す。
「はあああああっ!」
それは、単純な即席
「何──ッ」
「
刹那、ゼロになる彼我の距離。
立香はその手に握りしめた剣を、それを振るう聖人の技術を──希望を見せたあの光景を、己が魔術によって
それは。
偽物でありながら、確かな希望を放つその剣の名は。
「──
十字の斬撃が炸裂し。
その交差する光が、空に咲く黒百合を斬り裂いた。
「……お見事」
竜殺しの剣は、二度の斬撃は、デオンの霊核を両断していて。
──勝負は決した。
立香の勝利だった。
消滅の間際。
自らを下した相手に対し、白百合の騎士は微笑む。
「私は負けてしまったけれど……キミたちなら勝てる。我が祖国フランスを焼く邪竜を倒してくれ。武運を、祈るよ」
そう言って、竜騎兵デオンは消滅した。その言葉の意味、デオンは己の身を蝕む竜の力に負けていたのだろう。そして、それを破った立香たちに感謝したのだ。
「先輩っ!」
マシュが落下してきた立香を慌てて受け止める。デオンの最後の言葉に呆けていた立香は、着地の体制も取っていなかったのだ。
「ごめん、ありがとうマシュ」
なんだかデジャヴを感じながら笑いかけ……立香は現在の状況を思い出す。
「そうだ、ゲオルギウスの方は──」
振り向いた先では。
「……余は」
「私が斬りました。汝は竜、ひとを喰らいしもの。その様はきっと、あなたが望んだことではないでしょうから」
「……感謝する、頑強なる聖人よ」
ゲオルギウスが消滅するヴラド三世を看取っている所だった。隣には青い炎を纏う清姫も立っている。あちらも協力して敵を倒せたようだ。
『竜化セイバー竜化ランサー、共に反応消失!』
「よし、これで2騎撃破! アマデウスたちの呪いも解けたハズ──」
立香が状況の好転を感じ取った瞬間だった。
「キャア!」
「エリちゃん!?」
こちらに吹き飛ばされてきた赤い影。それは傷ついたエリザベートだった。
「やったのはアサシンか──」
立香は双剣を構えて振り向き──固まった。
それはマシュやゲオルギウスたちも同じだった。
そこに居たのは──竜。
鉄の茨に身を包む、しなやかな輪郭を持つ白き邪竜。
「この、圧力は……!」
『なんだこの魔力反応……!?
それはワイバーン等の亜竜とも、竜化サーヴァントのような混合竜とも異なる存在。
ファヴニールより一回り小さいくらいの巨体を持つ白竜は、立香たちに向かって地を揺らす咆哮を放つ。
『立香ちゃん、その竜はファヴニールと同じ
それは──とあるアサシン、血に濡れた女城主の成れの果て。鉄と血の白邪竜。
竜化サーヴァントにして真の竜──
新たな脅威が、オルレアンの地に君臨した。