FGO二次 衛宮士郎みたいな藤丸立香 作:龍川芥/タツガワアクタ
作者が楽しくなって暴走してしまったため、今回から今まで以上に設定捏造・独自解釈が激しくなり原作と設定等が激しく乖離する恐れがあります。
合わないなという方は申し訳ありませんが、ブラウザバック等で自衛を宜しくお願いいたします。
燃える。燃える。
憎悪が
焼ける。焼ける。
憤怒が
天におわします我らが神よ。
もしもこの声が聴こえているのなら、今すぐにこの火をお消し下さい。
今炎に身を焼かれるは救国の聖女。咎無き英雄。罪無き女。
あなたに与えられた使命を見事果たせし人間に、どうか奇跡の慈悲を!
……。
燃える。燃える。
奇跡など起こらず火は燃える。
焼ける。焼ける。
祈りも願いも灰になっていく。
金の髪が。白い肌が。
獄中で汚れたそれが、燃えていく。
肉が、骨が、内臓が。
……!
こんなことが許されていい筈が無い。
『ジャンヌ・ダルク』は滅びに瀕した
民衆も教会も王も神も、誰もその気高き聖女を救わない。
『ジャンヌ・ダルク』は戦場で幾つもの奇跡を起こして来たのに。
この不当なる火刑に限り、血涙するほど求めた奇跡は訪れない。
これでは。
『ジャンヌ・ダルク』という人間は、まるでただの『薪』ではないか。
燃やされるために
消えかけの炎を継ぐだけの生贄。
感謝ひとつもされない貧乏くじ。
『それが運命だ』と言うように、
──嗚呼、それならば。
そうして、その口は確かにそう溢す。
憎悪と、憤怒と、後悔と、無念と、掛け値なしの絶望とを
──復讐だ。
あれだけ頼った救い主を異端と蔑み、危機を脱した途端手のひらを返して排する。
こんな国、救うべきでは無かった。
降るべき奇跡が来ないということは、神はもうこの地を見放したのだ。
当たり前だ。
目の前に広がるこの光景、その何処に愛を抱ける要素がある?
愚かな民衆。腐った教会と醜い王。それらが蠢く汚らわしい
こんなものが、神の望んだ世界である筈がない。
だから……。
だから、
全て犯し。全て殺して。これを為しても天罰は降らずと、神の不在を証明し。
全て焼き。全て壊して。救国という間違いを、破国蹂躙することで自ら正す。
これが間違いだというのなら、神が手ずから罰を下す。
それが正しい行いというなら、神は私を罰しない筈だ。
つまり、
神を信じ、神を嗤い。
神を恨み、神を尊ぶ。
天罰を前提に、それが振らぬなら自らの行いは神意だと掲げる私の
先ずは復活だ。その後は
ああでも……本当に灰から蘇るのなら、ソレは正に。
神が『憐れな聖女よ復讐しろ』と囁いているようではないか。
そうだ、きっと。
だから、最後の言葉はそれだった。
──
生き死にはあなたの裁量に。
されど、もし復活の奇跡が起こったならば──
──あなたが見捨てたこの
◆◇◇◆
そこは聖堂だった。
監獄城という名を持つ城、その敷地内に立つ荘厳な聖堂。
神を象ったステンドグラスから降る光が、首のない天使の像を照らしている。並んだ長椅子が埃を被っていることから、暫く信徒が訪れることはなかったようだ……此処が監獄城の中だと考えれば当然だが。天井には蜘蛛の巣が張り、蝋燭は尽きたまま交換されておらず碌な手入れがされていない。神を崇める筈の場所が斯様に汚らしいまま放置されているのは、この場所を管理する人間の冒涜的な感情を感じ取れた。
ふと、気付く。
空気は、埃と共に鉄錆の匂いを含んでいた。聖堂内の至る所に乾いた赤い血がこびりついていて、それが乱雑に隠されているのが見て取れる。
聖なる場所での蛮行。神をも恐れぬ行いを為した犯人は──恐らく、聖堂の奥に立つ2人組だろう。
竜の魔女、ジャンヌ・ダルク──ジャンヌ・オルタ。
青髭の大男、ジル・ド・レェ。
「追ってきましたか、勢い付いた聖女サマ」
「ジャンヌ、まだ新たな竜の召喚が……」
「必要ないわ、ジル。ファヴニールが殺されて流石に私も動揺しましたが……ええ。もう落ち着きました。考えてみれば、万全を期さなくてもまだ此方が有利。あの忌々しい
それに……相手も数が減ったようです。私たちにとって、此処が正念場でしょう」
ジャンヌ・オルタは聖堂の入り口に視線をやる。
そこに立つのは己と同じ顔かたちをした別人、もう1人のジャンヌ・ダルク。そしてその仲間であるサーヴァント(もどき)たち。
「……追い付きましたよ、竜の魔女」
「ジャンヌ、私は暫く礼装を使った援護に専念する。前衛、任せていい?」
「勿論ですマスター。私に彼女との決着を託して下さり、感謝します」
「……まあ、うん。マシュも、行ける?」
「はい! マシュ・キリエライト、ジャンヌさんを援護します!」
「……ねえ
「わたくしを一緒にしないでください
救国の聖女、ジャンヌ・ダルク。
マスターにして偽物の英霊、藤丸立香。
立香の
サーヴァント、エリザベート・バートリーと清姫。
他の英霊──ゲオルギウスとアマデウスは戦場に残った。竜化英霊全騎とファヴニールを撃破したとはいえ、
立香たちが油断なく構えていると、視線の先のジャンヌ・オルタがふと口を開いた。警戒する立香らを一笑に付し、彼女は傍らの大男に命じる。
「ジル。あの五月蠅い2匹は任せたわ。『ジャンヌ・ダルク』とカルデアの英霊もどき共は私が殺す」
「承知。御武運を、ジャンヌ」
ジル・ド・レェが懐から魔導書を取り出し、開き──瞬間、海魔が床から現れ、エリザベートと清姫を部屋の外へと押し出した。
「うきゃあああ!? イヤ、
「この、気安く乙女の体に──!」
「エリちゃん、清姫!」
抵抗むなしく聖堂の外へと押し流されていく2人。気付けばジル・ド・レェも消えていた。何らかの魔術で移動したか、それとも裏道があるのか。
「(2人ならきっと大丈夫……どっちかというと、こっちの方がヤバいかも)」
ともかく、これで場は2人のジャンヌ、そして藤丸立香とマシュだけとなった。
聖堂入り口側の3人は、奥に立つひとりの魔女を見据える。炎のような、呪いのような殺意が室内を満たしていた。肌が、髪が、骨がざわつく。生物としての本能が、殺意を振り撒く目の前の存在に対して無条件で恐怖を抱く。
竜化サーヴァントを斃し、ファヴニールを討ち……それでも尚、彼女が残っている限り戦いは終わらない。寧ろ始まってさえいないのかもしれない。
だって、ジャンヌ・オルタとはまだ一撃も剣を交わしていないのだから。
「──燃えている」
声が響いた。
聖堂に、その言葉が
「頭の中が燃えている。脳を、胸を、骨の内を。体中を焼く音がする。視界を
それは、燃えるような声だった。
激しい火を思わせる憎悪が、その声の下で燃えている。
否。
「私は未だに燃えている。薪のように、一時も休まらず燃え続けている──恩讐の憤怒が、我が身を焦がし追い立てる!!」
炎が。
黒い炎が、聖堂に炎の壁を作った。
獲物を逃がさぬ囲いのように、聖堂の中を円を描くように破壊しながら立香たちの退路を覆ってしまう。
「
故に、私は──『ジャンヌ・ダルク』は此処に火刑を宣告する!
灼熱の怒りが聖堂を包む。復讐の黒炎が爆発する。
喉を焼くようなその熱さに、立香とマシュは苦痛の声を上げ──。
その直前に。
聖堂内に、旗が舞った。
「いいえ、竜の魔女。あなたは間違えています」
見れば、白い鎧を纏った背中が、立香たちを炎から庇うように立っていた。
金の髪が爆炎に揺れ、夕日のように
旗の石突が床を叩き、その音が聖堂内に大きく響いた。まるで炎を退けるように。
「なにを──」
「あなたは憶えていますか。私が鎧を纏い、旗を持つ前の生活を」
その声は厳かで、揺るぎなく。
「子守歌を歌う母の声、その安心する柔らかさ。
小麦畑を包む夕日の色、心に突き立つ様な感動の味。
人が笑う賑やかな街、沢山の暮らしを支える国への愛おしさ。
穏やかで、満ち足りていて、あたたかな日々。
あなたはそのどれかを、今も忘れず憶えていますか」
炎の前で、聖堂の中で、問いは深く静かに響く。
「あるいは、旗を持ち戦場を駆けた記憶。
私の言葉を信じ、命を預けてくれた戦友らの信頼と感謝。
そしてあるいは──運命の日。
あの日授かった主の声を。あなたは思い出せますか」
その言葉に、竜の魔女──ジャンヌ・オルタは。
「……ッ」
歯を食いしばり渋面を作って頭を押さえた。その表情にあるのはは怒り、というよりも……戸惑い、だろうか。剣を抜こうとした手が空を切ったときのような、『あるはず』だと当たり前に思っていたものが見つからないことに対する焦りと惑い。
そんな当惑に眉間を寄せるジャンヌ・オルタに対し、聖女ジャンヌは旗を突き付けながら言い放つ。
「それを、その光を知らぬなら……竜の魔女。あなたは使う名前を間違えている。
ジャンヌ・ダルクが問いましょう──
問いが。
言葉が、ジャンヌ・オルタを直撃した。
「私、は」
ふらり、とその上体が動揺を表すように揺れた。灰の如き白髪が影を作り、その表情を隠す。
竜を
「私、が。私が『ジャンヌ・ダルク』だ……ッ! それ以外の何者でもない!
そうでなければ……この
あくまで己こそ本物だと、内で燃える
だがそれは、彼女がジャンヌ・ダルクが持つ筈の
それを悟り、聖女ジャンヌは突き付けていた旗を回し、己の横に抱き寄せる。
「……そうですか。ならばこれ以上の問答は不要。自分の名すら知らぬあなたに問える事は、今の私にはありません」
そして。
「だから、これより語るは友のために」
ジャンヌは再び旗を掲げた。弾劾のために突き付けるのではなく、背に立つ仲間を鼓舞するために。
そう。彼女は救国の聖女。戦場の旗持ち。先陣を切り、矢面に立ち、
即ち──扇動演説・戦前鼓舞の名手である。
「聞け! 我が同胞、我が使命を支えてくれたかけがえなき友らよ!
これよりは死闘、我らが挑むはフランスを焼く竜の魔女!
されど恐れることはない、我らには主の恩寵が──いいえ!
──あなたたちには『ジャンヌ・ダルク』が付いている!! 遥か未来、東洋の島国にも名前の届かせる奇跡の
この身この御旗がある限り、その体に火の粉ひとつとして降りかからぬと知れ!
我こそはジャンヌ・ダルク、主の声を聴きその意を叶えるもの! 愛を以て国を救うもの! そして今は、友の旅路を拓くもの!
故に──主の
それは。
とある王妃の
とある剣が放った
それは──並び立つ者へ勇気を与える、戦場にて輝く英雄の光!
それに励まされるように、立香とマシュの体には力が入り。
それに目を眩まされるように、ジャンヌ・オルタは歯軋りしながら顔を覆う。
「──ッッ、この期に及んでまだ聖女気取りかッ! いいでしょう、来なさい偽物! その無力、その過ちを教えてあげるわッ!」
「参ります、マスター!」
聖堂の中で旗が振られ。
運命の
◆◇◇◆
決戦、一手目。
ジャンヌが聖堂の奥へと一歩踏み出した瞬間に、事は起こった。
「──呪え、呪え。肉を焦がし骨を焼き、その魂を燃やして冒せ!」
炎の呪い。狙ったものを爆炎で焼くジャンヌ・オルタ
「炎よっ!」
爆発。閃光と熱波が聖堂内を駆け巡り、調度品を悉く破壊する。立香もマシュも反応すらできていない一瞬のこと。つまり、その中心に居たジャンヌを助ける手段など無く──。
「──」
炎が幻のように消えたそこには、変わらず五体満足でジャンヌ・オルタの方へと走るジャンヌの姿があった。その鎧や頬には煤が付いているものの、目立った
「ちィ、対魔力か!」
ジャンヌ・ダルクという英霊は、鋼の信仰心から
故に、ジャンヌはジャンヌ・オルタの元へと辿り着き──その姿を間合いの中に捉えた。
「覚悟!」
「はッ、誰が!」
ガギィン! と聖堂内に衝突音が響く。旗と旗、白黒異なるそれが激しく鍔迫り合っていた。
「……っ!」
「バカな、互角だと……!」
ギリギリと旗を手に拮抗するジャンヌとジャンヌ・オルタ。擦れる棒から火花が散る。お互いに全力で押しつつもどちらかに天秤が傾かないのは、まるで本当に自分自身と戦っているかのようで。
「──いいえ! 死ね聖女!」
ジャンヌ・オルタは旗から左手を放し、腰に下げている剣を抜いた。
居合の形になった斬撃が、黒炎を纏いながら不意打ちでジャンヌの首元を襲う。
「(
呪術ではない、対魔力の干渉できない直接攻撃。速度もタイミングも十二分、己の方が優れていると証明する剣の一撃。ジャンヌ・ダルクは反応すら出来ず──。
「礼装起動、『緊急回避』!」
その体が
気付いたときには、ジャンヌはジャンヌ・オルタの間合いの外に居て。黒炎纏った剣は掠りもせずに空を斬っていた。
「ッ、今度はマスターの
絶好の一撃を邪魔され、歯を鳴らして苛立つジャンヌ・オルタ。
その姿を油断なく見つつも、今しがた援護の魔術を貰ったジャンヌは首筋を撫でながら礼を言う。
「感謝します、マスター。
「大丈夫! でも独りで突っ込み過ぎないようにね!」
ジャンヌとその後ろで令呪1画残った右手を構えるカルデアのマスター・藤丸立香。その様子にジャンヌ・オルタは旗を握る手に力を込めた。鎧の籠手と鉄棒が擦れ音が鳴る。
彼女は剣を指揮棒のように振りながら、高ぶる感情を魔力に換える。
「喰らえ──簡易展開、邪竜召喚!」
単純な魔術呪術が効かないのなら、という意図で選択された召喚術。ジャンヌ・オルタの足元に魔法陣が展開され、炎と共に二匹のワイバーンが現れた。
「■■■■■■■■──!!」
飛竜は対となって、炎を纏う牙を剥きだしてジャンヌを襲う。
「これなら対魔力は関係ない! さあどうだ!」
だが、その突進を盾が遮る。
「っ、耐えます!」
「マシュさん!」
竜牙を防いだのはマシュの大盾。またしてもジャンヌ・オルタの攻撃は届かない。
「ッ──ああ、もう!」
怒りに任せて
「これはっ──」
「遅い! 汝の道は、既に途絶えた!」
槍が降る。それは反転した異端狩りの槍、憎悪を以て秩序を裁く断罪の茨。
「マシュさん!」
ジャンヌは咄嗟にマシュの背を押し、落下してくる槍から彼女を庇う。それが対魔力という名の加護を信じてのことなのか、それとも無意識の自己犠牲なのか──分からぬままに槍は降り。
何かを貫く鋭い音が、連続して炸裂した。
「ジャンヌさん!」
ぼたぼた、と血が床を汚す。
足、肩、脇腹。刃に鎧ごと肉を抉られたジャンヌが、檻のように突き立った槍に半ば閉じ込められるように立っていた。
「……っ」
「クク、アハハ! やっと当たった! 随分手間をかけさせられましたが……ええ、その無様な姿に免じて赦しましょう!」
ジャンヌは顔を歪める。それは痛み故ではなく、自分が陥った状況への焦り。肩の傷で力が入らない手では槍の囲いを破壊できず、穿たれた足では一息に距離を詰め反撃するのも難しい。そして、そのことをジャンヌ・オルタも見抜いている。
「フフ。あなた、接近戦しか出来ないんでしょう? 呪いも知らない、旗を振り回すだけの聖女サマ。ならば最早、我が偽物と言えど襲るるに足らず……さあ、
ジャンヌを囲う槍が炎を纏う。
己を炙る炎の中で……けれどジャンヌは笑っていた。
「……ふふ」
「? 何が可笑しいのですか」
「いえ。確かに私は魔術も知らないし矢も銃も使えない。けれど。『旗を振る』以外のことも、少しだけ知っているのです」
己1人では脱せない、黒槍の処刑檻。
機動力を大きく削ぐ足の負傷。
されど、聖女の瞳から希望は消えない。何故ならば。
ジャンヌ・ダルクは1人で国を救ったわけではない。
その背後にはジル・ド・レェ元帥を含む数々の仲間が居て、その助力のおかげで彼女は偉業を成し得た。
それを可能とした、ジャンヌの持つ力とは。
「それは……私を信じてくれた仲間を、信じること」
人は弱い。1人で出来ることには限界がある。だから信じ合い助け合うのだ。
どうしようもないような嵐の中の航海も、1人でなければ希望が繋がる。自分1人では見つけられなかった導の星を、友の誰かがきっと示してくれる。
つまり──この場合、藤丸立香とマシュ・キリエライトが。
「はぁぁっ!」
マシュが放った横薙ぎの一撃が槍を砕き。
「礼装起動、『応急手当』!」
立香の回復魔術がジャンヌの傷を瞬時に塞ぐ。
「行け、ジャンヌ!」
「ジャンヌさん!」
2人の声に背中を押され、ジャンヌ・ダルクは床を蹴った。
サーヴァントとしての凄まじい身体能力が、体を瞬時に敵の所まで──まさかの反撃に反応が遅れたジャンヌ・オルタの懐まで運ぶ。
「クソ、『
「遅い!」
ガギン! とぶつかる旗と剣。両手で旗と剣を交差させて迫ってくる白い旗を防いだジャンヌ・オルタだったが、それにより宝具発動は中断された。
「はあああああっ!」
「ぐ、く……っ!」
踏み込みが完璧だったジャンヌに対し、中途半端な体制で防御せざるを得なかったジャンヌ・オルタ。どちらが押しているかは一目瞭然だった。
だが。
「舐め、るなあっ! これは憎悪によって磨かれた我が魂の咆哮──」
「!?」
ジャンヌ・オルタの宝具、その正体は炎と槍を呼び出せる呪いの旗。本来は旗を振り狙いをつける必要があるが、それを自身の苛烈な憎悪により無理矢理解放する。
火刑の炎、磔刑の槍。己を殺した刑具による復讐の処刑。
その種別は『対軍宝具』。即ち今から行うのは──狙いを付けない、聖堂内全てを巻き込む無差別攻撃。
「全解放、『
地面から炎が吹き上がり、無数の槍が天を
その判断は、限りなく正解に等しかった。厄介な後衛諸共ジャンヌを殺す必殺宝具。ジャンヌは己との鍔迫り合いで防げず、後衛2人は地面からの攻撃の対処でジャンヌへの援護が遅れる完璧な計算。
炎が足を焼き。
槍が胴に迫る。
ジャンヌ・オルタは勝利を確信してニヤリと嗤い。
ただ、誤算だったのは──窮地にてたたらを踏むのではなく、逆に一歩踏み込むような精神の持ち主がこの場に
「ジャンヌ、宝具を中断させて! 礼装起動──『瞬間強化』!」
「了解です、マスターっ!」
瞬間。
ジャンヌは流れ込んでくる力のままに旗を振り下ろし。
拮抗は崩れ、交叉した剣と旗の防御は弾かれて。
強化されたジャンヌの旗が、ジャンヌ・オルタの肩を痛烈に強打した。
「がっ──」
痛みと衝撃で脳が揺れ、ジャンヌ・オルタの思考が一瞬だけ空白になる。時間にしてコンマ1秒にも満たない刹那の一瞬。その一瞬が明暗を分けた。
憎悪という供給を失った槍と炎が空気に解けるように消え。
それと相反するように、ジャンヌは追撃の二撃目を構える。
穂先を胴から後ろに回し、力を蓄え。
両の手で固く握った旗を、全霊を持って前へと送る。
「はああああああああああああっ!」
裂帛の気合と共に狙うは、黒い鎧に包まれた鳩尾。
鎧ごと骨を砕く勢いで、野球打者のように横薙ぎに旗を振るう。
──剛撃、炸裂。
旗によって生み出されたとは到底思えない、自動車事故かそれとも爆発事故かという轟音が響いた。それは鉄鎧を砕く破壊音。その人知を超えた一撃を腹に受けたジャンヌ・オルタの口から空気と血とが吐き出され。
「せああ──っ!」
そのままフルスイングされた旗により、ジャンヌ・オルタの体はトラックに追突されたみたいに猛スピードで聖堂奥へと吹き飛んだ。
黒い鎧を纏った体が天使の像にぶつかり、それでも勢いは止まらず石像を砕いて壁に激突。瓦礫と粉塵を撒き散らしながらその体は床へと沈む。
己が引き起こしたその光景を見たジャンヌ・ダルクは、凶器の旗を立たせて一言。
「ふうっ。どうですか、竜の魔女!」
その様子に、後ろで見ていた立香らは。
「……マシュ、ジャンヌ・ダルクに怪力の逸話って」
「い、いえ先輩。戦において奇跡のような勝利を重ねたことは存じていますが、そんな話は無かったと思います。つまり残された可能性としては、生前のジャンヌさんがとてつもない膂力の持ち主だったということに……」
そんなことを顔を寄せてひそひそと言い合っていた。
「お二方!? これはサーヴァントの、ルーラーとしての力ですからね!?」
流石に振り向いて
されど、まだ戦いは終わっていない。
「が、ごは……っ」
瓦礫と粉塵の中、ジャンヌ・オルタは血を吐いた。体に力は入らず、足は前方向に投げ出されたまま。上体は旗に
ぼたぼたと、口と頭から血が零れ肌を床を汚す。がしゃ、と腹の鎧が砕けて破片が落ちる。
かろうじて生きている。誰が見てもそう思うだろう有様のジャンヌ・オルタは、我知らず口を動かしていた。
「……ふ」
舞っていた粉塵が消え、倒れた自分を注意深く観察する立香たちの様子が見て取れるようになる。
そしてジャンヌ・オルタは理解した。
彼女らは二本の足で立ち、己は地を吐いて地に伏していることを。
そんな状況に、彼女は。
「……クク、アハハハハハハ! アハハハハハハハハハハハハハ!!」
ジャンヌ・オルタの口から出たのは哄笑だった。狂ったような調子の笑いが、聖堂内に絶え間なく響く。
「……気でも狂いましたか、竜の魔女」
ジャンヌの言葉はしかし真逆だった。
ジャンヌ・オルタは笑うことで吐き出していた。憤死してしまうほどの怒りを、憎しみを、無理矢理笑うことでなんとか臨界点の一歩手前で抑えていたのだ。
「いいえ! 今嬉しいの、どうしようもなく悔しいの! 歓喜で狂気でおかしくなってしまいそう! だって……私、こんなに怒れたの初めてだもの!!」
空気が。
燃えているように揺らめく。焦げているように煤けていく。
ジャンヌ・オルタの憤怒が。憎悪が。空間を侵食するように、怨念が世界を汚していく。
「ええ、ええ! 感謝しますよ人間共、こんなにあなた方を恨ませてくれて!
ああ苛立つ! 怒りで
故に──
ピシリ、と。
何かが壊れる音がした。
欺瞞、燃焼。
外装、融解。
それは形のないもの。それはサーヴァントが当て嵌められるクラス。
ルーラーであるジャンヌだけが、ジャンヌ・オルタの身に起こっている異常を辛うじて察知していた。
裁定、棄却。
真理、露出。
ジャンヌ・オルタ。彼女はクラス『
否……クラス『
何故ならば。其は秩序を定める善でなく。その否定、混沌を齎す悪である。
燃えるような激情が、その嘘を溶かし燃やしていく。
真名、解凍。
竜の魔女ジャンヌ・ダルク──真のクラス、『
その灰のような白髪が急激に膨らみ、膝裏辺りまで伸びていく。
鎧に入った罅が全体に伝播し、砕けたそれらが足と手をより強固に覆っていく。
黒い兜が頭と融合、その額から2本の黒い角が生える。
そして……顔を汚していた血が逆流するように上に流れ、全てが目の中に入り込み。その白目を
「怯えろ。灰の上に立つ己の罪に。
崇めろ。その罪を裁く竜の炎を。
私は必罰を
私は──全てが有罪であるこの世界を、神に代わって滅ぼすものだ。
我が名はジャンヌ・ダルク。罰せられた屍の山、燃え尽きた大地の上に立ち、ただひとり世界の終わりを見届ける『最後の竜』!」
竜の魔女──竜を操る魔女でなく、竜となって世界を焼く魔女。
そんな怪物へと変じたジャンヌ・オルタに、果敢に攻め込む者が居た。
「っ、クラスが変わろうと、立ち上がるならもう一度倒すまで!」
そう叫んだのは聖女のジャンヌ・ダルク。強靭な意思を有する英雄。
彼女は金の髪を揺らしながら飛び、ジャンヌ・オルタの脳天目掛けて全体重を掛けた旗を振り下ろす。
「やああああああああっ!」
だが。
「──!?」
その一撃は、ジャンヌ・オルタが無造作に突き出した左手によって防がれた。余りにも軽く、あっさりと。
「そ、んな……っ!?」
ジャンヌの目が驚愕に見開かれる。
鉄を砕き人を吹き飛ばす一撃をなんでもないように片手で受け止めたジャンヌ・オルタは、眼前の
「そういえば。オマエ、よくも私に血を吐かせてくれたわね」
復讐心が火花を散らし。激しい熱となって現実へ顕現する。
「燃えなさい」
一瞥で。
一言で。
黒い炎が、巨大な爆炎が、ジャンヌの体を呑み込んだ。
今までの炎とは格が違う。
込められた呪い、秘められた熱、そのどれもが数十倍にも及ぶ黒炎。
ジャンヌの対魔力を容易く貫通した炎は、彼女の肌を鎧を焦がし。致命的とはいかないまでも、余りにも手痛い
炎が消え、ジャンヌの体が床に落ちる。受け身も無く倒れた体は、起き上がることすら難しい。
「……う、あ……っ」
「ッ、ジャンヌ!」
立たなければ、と旗を杖にして何とか起き上がろうとするジャンヌ。彼女には分かっていた。啓示が絶望的な事実を教えていた。今の一撃が、己の対魔力を悠々と貫いた爆炎が……今のジャンヌ・オルタにとってはなんでもない、指を鳴らすのとなんら変わらぬ程度の『攻撃』未満の反応だということに。
そんな、震えながら苦悶の声を漏らしながら、なんとか立ち上がろうと焦げた体を起こすジャンヌを見て。
彼女の体を支えようとする、不安げな顔を隠し切れない立香とマシュを見て。
ジャンヌ・オルタは愉悦に嗤う。角の下の目を細め、牙の生えた口で哄笑する。
「ああ最ッ高……これぞ復讐の甘美! 堪らないわ!」
その全身は歓喜に満ちていた。打ち震えるほどの、復讐の愉楽。
根源的な本能とさえ思える快楽が、彼女の霊基を駆け巡る。
「私を傷つけた加害者が、苦悶に歪み絶望を拝す!
私を否定した無礼者が、焦げ爛れて醜態を晒す!
こんな悦びは他にないわ! ないから……まだ足りないわ。そうでしょう?」
そして。
感じた愉悦は薪にくべられ。味わった快楽は怒りに変わり。
再び、炎が燃え盛る。復讐の炎。怨念の悲願。
「こんなちっぽけな報復。こんなにも薄味の復讐。それですら脳を焼くくらい気持ちいいのですもの……この世界を焼き尽くすその瞬間を、最高最大の復讐の瞬間を想像しただけで
ああ苛立つ、ああ怒る! それをまだ見せぬ世界に苛立つ! それにまだ届かぬ運命に怒る!
怨念が、恩讐が、憎悪が憤怒が無念が妄執が! 炎が我が身を駆り立てる! 滅びを見せろと噎び高ぶる!」
ジャンヌ・オルタは旗を掲げる。
それは復讐の旗。世界に
この世は無限の間違いを孕んでいる。
死ぬ間際、世界を呪った者など無数に存在するだろう。
黙殺された怨嗟の断末魔。世界が世界であるがため、誰にも届かなかった幾億の悲劇。
『こんな世界間違っている』と。『こんな世界滅びてしまえ』と。
英霊になることもない、弱く憐れな被害者たちの
彼女は最早、己の在り方を完全に変質させていた。
復讐を。
それを望む死霊の声を率いる代弁者。
奇しくも、それは聖女のジャンヌ・ダルクが国を救う勇士を率いたように。
彼女は、世界を呪い滅ぼさんとする無数の残留思念を己のために利用する。
「我ら運命に排斥されし無念の声。我ら人理の礎と化した灰の群れ。
故に叫べ怨霊たちよ! その恨み、その呪いを我らを殺した世界へと!
いざや示さん──
亡霊という名の竜を操る恩讐の魔女。
彼女は唱える。
「憤怒によって焚き付けられた復讐の炎。
怨念が象るは塵滅の竜。
地上に轟き地獄を創れ、我らが魂の咆哮よ!」
呪いは生者を貫く刃に。
復讐心は燃え盛る炎に。
来たれ。来たれ。
其は復讐の黒き竜。
其は破滅叫ぶ呪いの集合体。
其は──世界を滅ぼすモノである。
「終末第二宝具、招来──『
そうして──ジャンヌ・ダルクは、藤丸立香らはソレを目の当たりにする。
星を焼く終焉の火。
世界を滅ぼすに足る炎、その種火が、願いを薪に顕現した。