FGO二次 衛宮士郎みたいな藤丸立香 作:龍川芥/タツガワアクタ
時は少し遡る。
エリザベートと清姫、カルデア側のサーヴァント2騎と戦闘を行っていた青髭のキャスターことジル・ド・レェ。
彼は己の役割を『足止め』と定義していた。敵は2騎、魔力の問題か宝具開帳こそしてこないものの両方ともそこそこの強敵で、無理に排除しようと勝負を焦れば消耗は避けられない。足元を掬われる可能性も充分にある。
故に、足止め。此方にとっての最悪を引かないための戦略的忍耐。
そして、其れを選んだ何よりの理由は……ジル・ド・レェは、ジャンヌ・オルタが敗北することを殆ど想定していなかったからだ。
ジャンヌ・オルタの体を構成している聖杯、その力を少しだけ使って世界中から怨念を呼び出し、宿主を際限なく強化できるようにする特殊な術。怨念を己の魔力に換えるジャンヌ・オルタだからこそ成立する術ではあるが……その力は無敵に等しい。
故に術のトリガーである『真の怒り』をジャンヌ・オルタが抱いたとき、聖女ジャンヌを含むカルデアとの勝負は着く。それまで邪魔をさせないのが己の役目だと、ジル・ド・レェはそう思っていた。理性は彼女の勝ちを確信し、心配性で過保護な部分だけが彼女の安否を不安に思う。実に9:1くらいの感情分布。
だが……そのほとんど否定したはずの『もしも』が起こってしまった。
「──!!?」
遠く離れた聖堂からここまでの空気を黒に染めるほどの莫大な魔力。遥か背に在って、そして味方であって尚特大の恐怖を抱かずにはいられない
それが消えた。一瞬で、何の痕跡も無く。
「ジャンヌ……!!」
一切の迷い衒い無く宝具を全解放、キャスターにとって生命線である魔力の大半を使いながらも超巨大海魔を呼び出し、質量で無理矢理敵サーヴァント2騎を押し出す。殺傷よりも遠ざけることに特化させた一撃。
悲鳴を上げながら遠くまで運ばれていった敵を顧みることなく聖堂へと戻る。そこには誰も居なかった。まるで勝負の途中で敵味方共に転移でもしたかのように──。
「これは、もしや──」
焦りに支配された頭が『固有結界』という選択肢を思いつくその瞬間、腕を負傷したジャンヌ・オルタやカルデアの者たちが聖堂に出現した。固有結界から戻って来たのだ。
その後の事は藤丸立香らも知っている通り。
人理を滅ぼす竜は果て、ジャンヌ・オルタも存在を保てず聖杯に戻った。
だが聖杯そのものは消えていない。これさえあればジル・ド・レェの望みは復活する。だが、ジャンヌ・オルタという本来存在しないサーヴァントの召喚には聖杯をもってしても時間と手間がかかる。
だから、彼は邪魔者を殺すと決めた。かつて信じた
「さあ、構えなさいカルデアの娘らよ。これが最後の戦いです。あなた方は特異点修復のために聖杯を確保したい。しかし、私はあなた方に聖杯を奪われたくない」
「……ジル・ド・レェ、あなたの願いは許容できない。例えその根幹が愛だとしても。こっちにも譲れない約束がある」
向かい合う。
お互いに魔力は殆ど空。
人数はカルデアに分があり、気力と
「それ故に──私はあなた方を殺す」
「それ故に──私はあなたの夢を壊す」
譲れないもの……心の強さは互角。少なくとも、未だ両者折れないという点においては。
残り少ない魔力をかき集めながら魔導書を手繰り。
力の入らない腕で無理やり盾を構え。
血だらけの手を、それでも握って。
正真正銘、第一特異点最期の戦いが始まった。
◆◇◇◆
──
ぼろぼろの赤い外套を纏った藤丸立香は唱え、持っている夫婦剣の片割れを投影しようとして……作り出した剣が割れた。ガラスのように刃が砕け、砂のように空気に消えていく。
「(魔力切れ……!)」
藤丸立香の魔力、その保有状況は極めて特殊な状況にある。
本来の魔力──サーヴァントに魔力を供給するそれとは別に、彼女は抑止力との契約に相まって『外付けの魔力』を手に入れていた。己の魔術行使・疑似英霊状態での戦闘に
「……っ、なら
もう英雄のようには動かない体を、それでも動かす。
ほぼ死に体の彼女が挑むは……魔導書を開いたキャスター・ジル・ド・レェ。
「
彼もなけなしの魔力を振り絞り、数匹の海魔を召喚し、
「そして飛竜よ!」
さらにワイバーンも追加で召喚。聖堂内を己の味方で埋める。
「ジャンヌに竜召喚の術を授けたのは
「くっ──!」
マシュが大盾で敵を弾くも、反撃する隙も無い。立香はもう海魔一匹相手するので手一杯、全力で振るった剣はその硬い表皮を僅かに切り裂くだけで、そのかりそめの命まで届きもしない。
世界を滅ぼすべくもない、10匹ほどの使い魔たち。それが手強い。倒せない。海魔をなんとか一体斃したと思ったら、ジル・ド・レェが新たな海魔を2体生み出している。
「人理を、それを救う者を生贄に捧げ! 我が
狂気、妄執、それゆえの覚悟。自己回復分を上回る量の魔力――かりそめの命を削って行われる召喚術。既にその指先は魔力不足によりカタチを保てず崩壊を始めている。
増え続ける海魔と飛竜。じわじわと不利に陥る状況。
「──ッ」
藤丸立香は歯噛みする。それはこの厳しい状況に
「(……まだ、まだ迷うのか、私は!!)」
敵と同じく、命を削らない己の弱さに対しての怒り。
1秒後に迫る死から逃れるためならば、己の全てを懸けられたのに。
今は違う。怯えている。『もうどうしようもない』と思えるまで、まだ自分は命を懸けることを躊躇っている。
それは卑怯だ、と
そんなことはない、と
「(──覚悟を決めろ)」
自分がもしも『英雄』ならば──世界を救える器ならば、こんなことで悩む筈がない。
強大な英雄の力を借りておいて。
人の域を超えた英雄として振舞っておいて。
『約束』を護れる力に、憧れておいて。
「(ここまで来て、躊躇するのは卑怯だろ──!!)」
強く左手を握りしめ。
魔力回路を、励起させる。
遠くの次元と繋がっている外付けの魔力炉ではなく、己の内の
無くなれば命の保証はない魔力……それでも、使う。
「──
海魔の群れが吹き飛ぶ。体液と肉が床に散らばる。
飛竜が投擲された双剣で墜ちる。断末魔の声が聖堂に響く。
「……先輩!?」
「なんと! 貴様、殉教者の類か!?」
マシュの驚いたような声も、ジル・ド・レェの叫びも、藤丸立香には上手く聴こえない。
ぎちぎちと、剣が鳴る。
血が落ちる。
意識が遠のく。
それでも、前へ。
一歩でも、前へ。
「私は、進む。
心の中で、燃えているんだ。
この火に焼き尽くされるとしても。
照らされた道を征かないという選択肢は、もう焼き切れた──。
「──宝具、展開」
「ダメです先輩、それ以上は──!!」
魔力が急激に減少し、生命力が著しく低下。
しかし残った薄氷の如き意識は、もうその行動を変更することなど出来ず。
「『
血を吐くように、否、それと同義の言葉が吐き出される。
固有結界を発動した瞬間、魔力切れにより藤丸立香は死ぬだろう。けれどそんなこと、魔術師でなければ魔術使いでもない『一般人』の少女には分からない。
ただ熱に浮かされて、前へ。火に惹かれる虫のように、前へ。
だから。
『──そこまでだ』
彼女が止まれたのは、その中に宿った『誰か』のおかげだった。
剣の丘、独りぼっちの筈の心象風景の中。
背後から肩を押さえられ、藤丸立香は炎に背を向けて振り返る。
「あなた、は……」
その人影は瞬きのたびに姿を変える不思議な英雄。赤い外套を纏って居たり、普通の学生のような背格好になったり。髪も白だったりブラウンだったり、肌も浅黒かったりそうではなかったり。それが混在したような姿、真っ黒な肌と刈り上げられた髪という姿もあった。
顔もよく見えない。ただ、鉄を擦るような声だけがやけにはっきりと。
『違う。おまえが頼るべきは
彼は背後の炎を示す。その顔は、『あの先には何もない』と語っていた。
『
彼は剣の墓標をひとつ抜く。
『君は学んだはずだ。模倣者、
錬鉄の男が放った何の気なしの投擲が、高く燃え盛る炎を砕いた。
轟炎は硝子のように砕けて篝火へ。
その先には、ただ奈落があった。強い光に眩んで見えなかった、先の無い奈落が。
そして……篝火は照らす。断崖の横、奈落へ落ちることのない新しい道を。剣の丘から旅立つ出口を。
『理解したなら征くといい。己が進むべき道へ。……何のために"その一画"を残したのか、忘れた訳ではないだろう、マスター?』
気障な別れの声で、目が覚めた。
視界は現実を、ジル・ド・レェとの戦闘中の光景を捉えている。
ふらつく足。
震える体。
だが……生きている。まだ少しだけ魔力が残っている。
「……
藤丸立香は練り上げた魔力を、ぼろぼろの赤い外套を霧散させる。そして。
贋作を生み出した左手ではなく。
残った令呪一画が紅く輝く右腕を、高々と掲げた。
それは
そして、彼女は改めて唱える。
「──
藤丸立香の魔術……それは、決してエミヤシロウを憑依模倣する魔術ではない。
それは
つまり……藤丸立香が憑依させられる英霊は、エミヤシロウだけではない。
「──告げる。
汝の魂は我が内に、汝の剣は我が
冠位指定の名に従い、この意、この理に従うならば応えよ」
それは、
「誓いを此処に。
我は
我は常世最後の悪を討つ者」
それは、藤丸立香の魔術を成立させる詠唱。聖堂内に白い光が満ち、奇跡の風が運命を導く。
「契約者、我が名を藤丸立香。
この名に
彼女が
触媒は己の縁。
其は、心に輝く星をくれたひと。
夜天にて聖なる輝きを纏う、炎に消えし救国の聖女。
「汝三大の
抑止の輪より来たれ、人理の守り手よ──!」
叫ぶ。叫ぶ。
それはみっともない声だった。英雄としてあるまじき言葉だった。
それは──
英雄の言葉ではなく。泥臭く足掻く民の声。
――故にこそ。
死地にあって。悲劇に巻き込まれて。
無力な身でありながら、恐怖に支配されながら『それでも』と諦めず叫ぶからこそ……『英雄』は、その助けを求める声に応えるのだ。
叫ぶ、叫ぶ。
「
そして。
『ええ。聴こえましたよ立香。私を
藤丸立香の体を、光が包んだ。
頭を、腕を、胴を、脚を、聖女の纏った鎧が覆い。
その手の中に現れた聖旗が、炎に似た白い魔力の残光を纏って翻る。
その姿に。
否応なしに『彼女』と重なる装備と所作に、その場にいた二人は目を奪われた。
ひとりは、心配と混乱によって目を離せず。
そしてもうひとりは――。
「ま、さか」
ふたつの視線に射抜かれながら、藤丸立香は旗を構える。
その目に宿るは意志の光。常闇を照らす星にして、人を導く聖なる火。
此処に、『英雄』は『偽物』として
「往くよ、ジャンヌ」
『お任せを。今一度あなたの力になりましょう――マスター!』
◆◇◇◆
燃える。燃える。
視界の先で、ひとりの聖女が燃えている。
焼ける。焼ける。
奇跡はなく、救済はなく。美しかった聖女が
それは決して忘れられぬ光景、ジル・ド・レェという男がその在り方を変えてしまった、その人生最大にして絶対の後悔。
神を呪った。
復讐を誓った。
『主よ、この身を委ねます』。
彼女の最期の言葉がどれだけ潔く響こうとも、その男だけはそれが呪いの言葉であると信じた。
……己が『間違った歴史』に足を踏み入れたことを、彼はきっと知っていた。
『魔神』を名乗った怪物に聖杯を与えられ、望むままに竜の魔女を創り出し。
復讐に耽り。虐殺に狂い。救った国を炎と魔で弄んで。
――嗚呼。
男は溢す。内心で、どうしようもない本音を吐露する。
反転した嗜好は、悲鳴と嗚咽を甘露の如く味わって。己の偉業を悪行にて汚す度、どうしようもない愉楽と快感が背筋を奔る。何よりもう一度彼女に、復讐を喝采する魔女に仕えることは、己の何よりの望みだった。
だけど。それでも。
――私は、いったい――。
何がしたいのだろう。何が欲しかったのだろう。
ジャンヌ・オルタという強烈な炎が視界から消え失せたことにより、ジル・ド・レェの内心で『己自身』がありありと浮かび上がっていた。
本当の
魔女に託した
燃えるように猛る激情では無く。ただ縋るような、祈るようなユメ。
それは、果たして何だったのか――。
「はあああああああああああ!!」
藤丸立香が旗を振るう。
それだけで、大人よりも一回り大きい海魔が聖堂の壁に内臓をぶちまけて。
「Gyaooooooooooooooo――!!」
ワイバーンが爪を振り下ろし、その体を斬り裂いても。
斬撃は鎧を裂くことはできず、立香の身に傷ひとつつけられない。
「(すごい、これがルーラーの防御力!)」
そのまま旗で突きを放てば、穂先の槍が飛竜の喉を抉って絶命させ。
血すら旗を翻すときの風圧で防ぎつつ、立香は聖堂奥へと目を向ける。
其処に立つのはジル・ド・レェ。長身痩躯、異様な風体の魔術師。
「終わりだ、ジル!」
彼は魔導書を持ち、顔を伏せている。魔力切れだろうか、新たな使い魔を召喚しては来ない。
もう海魔や飛竜などの厄介な
故に、此処が好機と藤丸立香は床を踏み抜き。
「……
己の方へ突進する立香を、ジル・ド・レェは狂気を孕んだ気迫を以て迎え撃つ。
海魔を新たに召喚して立香を足止めしながら、彼は聖堂内で神に誓うように叫んだ。
「最早我が
彼は不意に腕を構えると……己のそれを思いっきり噛み千切る。肉が千切れ血が噴き出る。その骨すら見える傷口から溢れる大量の血を、彼は魔導書に落とした。
「『
その声に応えるように、魔導書の表紙に張り付けられた顔が悍ましく叫び出す。
「! 魔力反応上昇……宝具です、マスター!」
魔力が高まる。ジル・ド・レェの
「天にまします我らの父よ。
我は汝を崇めず、また汝の赦しを否定する者。
罪を赦すは救いに非ず、ただ悪のみが救済なり。
国と力と栄えとは、全て炎に消えるべき故」
ジル・ド・レェは唱える。
叫ぶように。祈るように。
捧ぐように。吼えるように。
「我が全て、我等の尊き
――じわり、と。世界に『闇』が滲み出る。
闇はジル・ド・レェを中心に、やがて噴水のように湧き上がり、洪水のように氾濫し。世界が黒へと飲み込まれていく。
それは海魔の、否、より悍ましき怪生物の無限連鎖召喚術。
制御すら諦めた捨て身の魔術、ただ怪物を『呼び込む』だけの災禍の顕現。
喚び出したてらてらと水気を帯びた漆黒の皮膚を持つブヨブヨの肉塊たちが、口も無いのに赤子の如き不快な声で泣き喚きながら蠢き、内包した魔力で同族を無限連鎖的に召喚する最悪の光景が世に顕現する。
肉塊はジル・ド・レェを取り込みながら加速度的に体積を増やし、その質量でもって聖堂を内側から破壊した。
ソレは膨張し、増殖し、何処までも高く広く積み重なる。火山が噴火するように、濁流が全てを圧し流すように。
伸び続ける、肉。
膨れ上がる、黒。
ソレは叫び続けながら、やがてひとつの形を得て――。
そして。
オルレアンの地に立つ者――英霊、飛竜、兵士。全てが
監獄城の壁を内側から壊し、尖塔を砕きながら天へと伸びる肉の山。
高さにして50mを超える、陽を跳ね返さぬ闇の巨獣。
それは、巨人。
既存のどの生命にも当てはまらない、個体という枠組みを捨てた『肉の群れ』、それが寄り集まって造られた、歪で不気味で不出来な上半身だけの巨大な
「……なんだ、アレは」
それは誰の声だったか。悲鳴のように喘ぐ人間たちは、その異貌にひとつの事実を信じざるを得なかった。
――あんなものの存在を、神が赦す筈がない。
見るもの全てに畏怖と不快感を感じさせる腐った巨人は、自重に耐えられず肉をぼとぼとと落としながら輪郭を歪ませ。その歪みが新たな肉によって再生され、また腐ったような音を立てながら崩れる。
地獄の輪廻。悪魔の積み木遊び。肉塊から放たれる遠雷にもにた悲鳴は耳にこびり付き、聞いたものの希望を根こそぎ奪っていく。
悍ましい。気持ち悪い。在り得ない。吐きそうだ。
冒涜的に屹立し背教を叫ぶ肉塊は、戦場にあって尚強固だった人々の信仰をいとも容易くへし折った。
「……神は、死んだのか」
太陽を追い落とすように、青空を否定するように……世界を滅ぼすという意思を示すように、漆黒の巨人は蠢き叫ぶ。
「嗚呼、是は……たとえ聖女であろうとも――」
遂に軍を指揮していた元帥さえも、絶望の声を呟いて。
――けれど。
暗く淋しい暗夜において、それでも星が瞬くように。
「いや――聴こえた」
男は。戦場でワイバーンの相手をしていた2騎のサーヴァントのうちのひとり、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトはその鋭敏な耳で確かに聴いた。
それは誰もが耳にせざるを得ない肉塊の叫び声では無く。その中に微かに混じる、小さな小さな空気の揺らぎ。
「この、狂信者の喚く讃美歌みたいな不協和音は僕の耳では耐え難いが――それでも。
アマデウスは顔をしかめながらも確かに笑う。
それは旗を振るう音だった。
それは盾で防いだ音だった。
それは、勇気と決意の
それは――藤丸立香とマシュ・キリエライトの、不倒不屈の音だった。
「はああああああああああああ!!」
一閃。
剛腕によって振るわれた聖旗が、降り注ぐ肉塊を大きく切り裂いた。そのままでは人間ふたり容易く圧し潰しただろうそれが四散し、魔力に戻って消えていく。
ジャンヌ・ダルクを憑依した藤丸立香とその相棒であるマシュ・キリエライト、彼女らは壊れた聖堂の近く、巨人の足元にて武器を振るっていた。
肉塊の表面には目のような器官が点在しており、それに一瞥されると肉の中から触手が現れ獲物を襲う。また自重で腐り落ちてくる肉塊も、単純に落下物として脅威だ。
その自己防衛的な攻撃を強固な防御力で凌ぎつつ、立香とマシュは巨人を攻撃しながら突破口を探していた。
「く、動きは鈍いし今の所ハッキリ攻撃もしてこないけど……とにかく巨大すぎてダメージを与えてる気がしない! 削っても直ぐ再生するし!」
「与えた損傷よりも敵の膨張率の方が大きいです! 先輩、このままでは撃破は不可能かと……!」
敵は、大きさだけならファヴニールやグランギニョルよりも巨大な
そんな敵の様子を見て、立香はふと気付く。
「……これ、多分『時間稼ぎ』だ。聖杯はまだジル・ド・レェが持ってる……つまり防御を固めて、その間に
巨人は『敵を倒すため』ではなく、ただ『邪魔されるのを防ぐ』ため。それを裏付けるように管制室からロマニの声が届く。
『地上から約40メートル地点に
「40メートル……! そんな場所にどうやって近付けば……!」
マシュは思わず上を見上げた。地上40メートル、再生能力を持つ分厚い肉塊に守られた堅牢なる壁の中。そこからジル・ド・レェを引っ張り出す方法など想像もつかない。
だが――それでも前を向く者が彼女の隣に。
「ありがとうドクター。後は何とかやってみる」
「先輩!? もしかして、何か作戦が……!」
「あーいやゴメン、そういうのは無いんだけど……」
彼女は申し訳なさそうに笑って……その表情を真剣なものに変える。
言外に語っていた。『まだ諦める段階ではない』と。
「でもどうにかしよう。私たちで方法を考えるんだ」
「……! はい、先輩!」
その覚悟に背中を押され、マシュ・キリエライトは盾を構える。
最期の攻防が始まろうとしていた。