FGO二次 衛宮士郎みたいな藤丸立香 作:龍川芥/タツガワアクタ
そこは、燃え盛る街だった。
家が、道が、ビルが、視界に写る尽くが燃える、瓦礫と残骸と炎の街。
だがそれは目に見える現象の全てであって、この街の全てでは無い。
この街は、どうしようもなく汚染されていた──人の魂があれば否が応でも感じ取る、明確な汚濁と忌避感を与える”なにか”。それを風景の全てが孕んでいる。
そう、ここは星の上であってそうでなく。幻想でありながら未だ現実に居座る、異常なるセカイ。
間違いでありながら、続いてしまった歴史の末路。
正しく人理の特異点。
そう、炎に巻かれ汚れきったこの街の名は──
──特異点F・炎上汚染都市 冬木──
藤丸立香の旅が、この街で始まろうとしていた。
◆◇◇◆
走る、走る。
息も絶え絶え、足をもつれさせながら必死に走る。
藤丸立香は逃げていた。
「なんなんだよ、これっ⋯⋯!」
目の前に広がるのは、まるで冗談のような世界。
炎に包まれた、漆黒の街。
そして背後を追ってくるのは──ボロ布と壊れかけの剣で武装した、
「いったい何処から何処までが夢なんだ⋯⋯っ」
必死に足を動かしながら、藤丸立香は考える。
着慣れないカルデアの制服を着ているということは、人理救済を掲げる機関を訪れたことは間違い無い。
武装骸骨の剣が掠った頬の傷の痛みは、これが現実だと教えてくれる。
ならば──あの
「──ッ、マシュ!」
そこまで思い至った時、藤丸立香の足は止まる。
靴底越しの土の感触。頬の汗を炙る炎の熱。肺に満ちる煤混じりの空気と、背後から迫ってくる不快なガチャガチャという音。
この世界は現実だ。そしてあの、凄惨なる事故も。彼女に乞われ手を握っていた己の手のひらに、僅かな熱が残っているのを感じるから。
ならば、自分は救わねばならない。あの色彩無き少女を。
意を決して振り返ると、そこには未だ変わらず三体のスケルトン。
対しこちらは丸腰、魔術なんて知らないど素人、戦闘面の知識は0。
だが──藤丸立香には戦う理由が出来てしまった。
もしも、マシュ・キリエライトが「この街」に居るなら。
死にかけていた彼女を⋯⋯それ以前に何の戦闘力も無さそうな彼女を、自分が守ってやらなければならない。
もしかしたら目が覚めた場所で気絶しているかも。
今まさにスケルトンに殺されそうになっているかも。
そう思うと、体が勝手に動いていた。
「改めて向き合うと、めっちゃ怖いなッ⋯⋯。でも、そこを退いてもらうぞ!」
スケルトン達に人生初の啖呵を切る。足が震える、声が上擦る。
だが、戦わないという選択肢は、最早無い。
どの道いつまでも逃げては居られないのだ──そう無理矢理納得して不格好なファイティングポーズを取ると、スケルトン達も”獲物”が”敵”に変わったのを理解したのか追走の足骨を止めた。
が、均衡はそこまで。
なだれ込むように、剣を振り上げながら迫る三体のスケルトンに、ただの一般人である藤丸立香が敵う道理はない。
最初の1秒で理解した。自分がここで死ぬことを。
だから、そうならなかったのは──正に「運命」としか呼ぶべくも無い、不思議な力の思し召しだろう。
「──先輩!」
その声は、恐怖に思わず閉じてしまった立香の目を開けるには十分なものだった。
それは今まさに助けようとした少女のもので⋯⋯でも現実は逆だった。
マシュ・キリエライトは、黒い鎧を身にまとい、その身の丈を超える大盾でスケルトン達の攻撃を受け止めていた。
疑問が脳を埋めつくし、あっという間にキャパオーバーする。
だからやっと絞り出せた言葉は、あまりにも情けなく。
「マシュ⋯⋯無事、だったんだ」
よかった。ただそれだけが、再会最初の言葉だった。
しかし、そんな空気は直ぐに霧散する。スケルトン達は未だ健在。命の危機は未だ去っていない。
咄嗟に身構えようとして⋯⋯またしても、現実は想像を超えてくる。
「先輩はわたしの後ろに。戦闘を開始します」
そうして、マシュは敵の居る前へと飛び出す。
立香にあったのは、またしても困惑。しかしそれは、直ぐに明確な驚愕へと変わる。
重厚な大盾を持って突撃し、それを大剣のように振るう。
それだけで分かる。マシュの動きは、ヒトの可能な域を遥かに超えたそれであると。
攻撃を捌き、盾で殴りつける。それだけで立香に死を覚悟させたスケルトン達が破壊され、無力化されていく。
否、それだけと表現するのは不適切だ。
自分の身長よりも大きな盾を振り回したり、それを待ったまま身軽に動くなど、ただの人間には決して出来ないだろうから。
戦闘を勝利で終え、こちらに戻ってくるマシュに、立香は何とか言葉を絞り出す。
「マシュ⋯⋯いったい、何が⋯⋯」
無数の疑問が喉で押し合い、やっと出てきたのは不明瞭な問いだった。
「はい。どうやらわたしたちは、特異点Fにレイシフトしたみたいです」
「特異点F……そうか、ここは」
立香は周囲を見回し、マシュの説明が腑に落ちるのを感じた。
黒い空の下燃え盛る人の気配の無い街。目の前に広がる光景は、立香にとってあまりにも異様で、正しく「別の世界」。
そう認識した瞬間、背筋に怖気が走り……立香はハッとした。自分が真に聞きたいことは、それでは無い。
「そ、それよりマシュ! 大丈夫なのか!?」
突然の大声に面食らったマシュに気付かず、立香は彼女に詰め寄った。
「怪我は!? 瓦礫に挟まった足は……もう動いていいのか!? その格好は、」
「せ、先輩っ。落ち着いてください。わたしは大丈夫ですから」
必死な様子の立香を落ち着かせながら、マシュは自らの体を示しながら淡々と語る。
「わたしは先輩の、
「サーヴァントって……、確か……」
サーヴァント、英霊。少し前に受けた説明を脳内でなぞろうとして、立香は慌てて首を振った。今必要な言葉は、思考は、それでは無い。
「いや、そうじゃない……無事で良かった、マシュ。本当に、良かった」
「先輩……?」
重い安堵の籠った息を吐く立香に、マシュは不思議そうに首を傾げる。
そんな彼女との間に降りた短い沈黙から逃げるように、立香は歯切れ悪く切り出した。
「……それで。俺たちはこれから、どうするべきだと思う? 恥ずかしい話、何をすればいいか見当もつかないんだ。俺には、その、知識も経験も無い、から」
言葉がつっかえたのは恥ゆえだ。言葉を探すうちに自覚した己の無力さは、頬を染める程の羞恥となって立香を襲った。
自分は思っていたより何も知らない。レイシフトについての専門的な知識はもちろん、未だにその存在を信じきれていない「魔術」についてもそうだ。
藤丸立香はただの高校生。何の力も知恵も無い一般人。
そんな自分では
そんな己の未熟に恥じる立香の内心に気付くことなく、マシュはやや事務的とも取れる対応を取った。
「はい。ではまず現状を整理しましょう。
ここは2004年の日本・冬木市に現れた『特異点F』。特異点は人類史の存続を遮る"存在しない歴史"、つまりあってはならないモノです。
わたしたちに与えられていた任務は、この特異点を抹消すること」
それを聞き、立香は視線を上げて背筋を正した。やるべき事がある以上は、俯いてばかりも居られない。そうして彼は状況を理解しようとマシュの声に耳を澄ます。
その背中にだんだんとのしかかってきた重圧を感じながら。
「ここへのレイシフトは当初の作戦通り。わたしの予想ですが、
つまりわたしたちがするべきことは──」
俺たちに課された、使命は。
「──世界を救うため、この特異点を消滅させる」
「はい。それが正しいと判断します」
世界を、救う。
なんて重い言葉だろうか。
それは言うなれば、ありふれた文言。映画のポスター、ゲームのパッケージ、小説の煽り文……ふとした時に目に入る程度の、本来の価値と比べれば実に安くなった言葉。
しかしそれは当事者にとってはこれ程重かったのだと、立香は今更ながら理解した。
自分の一挙手一投足が、世界の命運を握っているという事実。家族や友人の笑顔、明るい教室の景色、街を彩る沢山の声……自分にとっての「世界」が、消えるかもしれない。地球の歩んできた旅が、人類の積み上げた歴史が、次の自分の躓きによって消え去るかもしれない。
それが藤丸立香に与えられた、「世界を救う」という使命。
未だに実感は半分も出来ていないのだろうが、それですら膝を震わすほどに重い。
もし失敗したら、どうなるのか。
本当に自分にやれるのだろうか。
その疑問に、僅かに残った勇気で蓋をして、藤丸立香は口を開く。
「分かった、やろう。それでマシュ、特異点を消し去るにはどうすれば……」
そのとき、燃える街を鋭い声が切り裂いた。
「人の、悲鳴!?」
それは遠くない距離、視界の通らない街の奥から聴こえたもの。立香にはそれが「女性の悲鳴」と捉えられたが、マシュにはそれより1歩踏み込んだ答えが与えられたらしい。
「これは、オルガマリー所長のっ?」
「所長って、確か──」
立香の脳裏に気の強そうな女性の顔が浮かぶ。レイシフトの説明を行い、その途中で寝てしまった自分を叱ったのが確かオルガマリー所長という人物である。
そうして立香は、胸に灯った感情に背中を押されるように走り出す。
「行こうマシュ! とにかく助けないと!」
「っ、了解です先輩!」
立香は自分に追従するマシュの足音を聴きながら、振り返ることなく燃え盛る街を駆けた。
◆◇◇◆
そこから暫く、
オルガマリー所長との合流。
こちらの味方をしてくれる
その道中もやはり立香は、己の無力を感じていた。
「サーヴァント」の戦いに、人間が入り込む余地は無い。その事は何度も言われて、何より彼女らの戦いを見て理解している。
理解している、のに。
どうして自分は、「藤丸立香を守るマシュ・キリエライト」が傷付くのを見ているしか出来ないのか、と。
そう頭の中で声がする。
夢見た自分が、無様な自分を嘆いている。
頭では分かっている筈だ。
この弱い体の全てを投げ打ったところで、彼女に振る白刃ひとつを止めることすら出来ないと。
分かっている、筈なのだ。
だけど藤丸立香は、戦いが起こる度、その無力な拳を血が滲むまで握り続けた。
そんな彼を連れて時間は進む。
カルデア、そこに居るロマニ・アーキマンとの通信の復活。
聖杯戦争、ひいては「冬木の聖杯戦争」についての会話。
そんな会話をしていた立香たちを襲う、強力な狙撃。
そして──彼は出逢う。
己を「間違った運命」に引きずり込む、その黒い英霊に。
◆◇◇◆
「……成程。つくづく"運命"とやらは、余程私を渋面させたいらしい」
立香たちの前に立ち塞がった黒いアーチャーの
その鷹のような鋭い目は確かに、マシュの構えた盾の後ろで立ち尽くす立香を睨んでいた。
『……っ、この反応! 対象はサーヴァントだ! 立香くん、マシュ、警戒を!』
ロマニの警告を聞き身構える立香たち。それを置き去りに、キャスターは知人に話しかけるかの如く軽口を叩く。
「おうアーチャー。
「なに。いい加減、目障りな狂犬を軽く追い払おうと思ってね。然程時間がかかるものでもなかろうし」
言うじゃねえか、と犬歯を剥き出しにするキャスターとの会話を切り、アーチャーはマシュの、その後ろにいる立香の方を向く。
その手にあった漆黒の弓は既に無く、どういう原理か、代わりに片刃の双剣が握られていた。
「だが……」
──ガギィン!! と、鉄と鉄がぶつかり合う音が立香の眼前で爆発する。
それは黒いアーチャーの持つ双剣による斬撃を、マシュの大盾が防いだことにより発生した衝撃だった。
立香はもちろん、キャスターですら冷や汗を流しながら慌てて振り向く程の速度の突進。マシュが
ビリビリと震える空気の中、立香がマシュの背中越しに見たアーチャーの瞳は……暗く燃えるような殺意を宿して、真っ直ぐに此方を睨んでいた。
「予定変更だ。先ず其処のマスターの首を貰う」
そう言い放った彼の姿を、側面から炎の弾丸が──キャスターの放ったルーン魔術が襲う。
炸裂音と爆煙が立香たちの目の前で舞い、それが切れた後の視界では距離を取ったアーチャーとキャスターの激しい戦闘が繰り広げられていた。
「おいおい、初っ端から無茶な大将狙いとは、らしくないんじゃねェか弓兵!」
「は、無茶とは過剰な自信だな。貴様といえどキャスタークラスでは守りも足るまい」
「
「フン、魔術師風情が槍兵の真似事か?」
言葉が、魔術が、剣が、そして杖の
そんな戦場から此方へ、キャスターの間隙を縫って数発の弓矢が放たれる。明らかに立香狙いのそれを高い金属音を響かせながら盾で防ぎつつ、マシュは1歩前へ出た。
「マスターは私の後ろへ! 敵性サーヴァント・仮称アーチャーとの戦闘を開始します!」
その背中を見ながら、立香は自らも1歩踏み出そうとして……震える足が、土を擦った。
目が、合ったのだ。あの時、マシュの盾越しに。明確に「
それだけで、たったそれだけの事で、立香の体は我知らず震え、足を踏み出すことすら出来なくなっていた。
英霊二騎を間に挟んで尚、
まるで他人のものになってしまったのかと錯覚するほど体は重くなり、心も凍りついている。戦う意思どころか戦いを見守る覚悟すら、今は曖昧なものに感じた。
「(俺は──)」
戦場の音が、酷く遠い。
剣と盾がぶつかる音。矢と魔術が交錯する光。目と鼻の先にある戦いが、遠い。
「(俺にはいったい、何が出来る──?)」
食い縛った歯が臍を切り、口内に血の味が広がった。それすら今の立香には痛みにはならなかった。
痛いのは、魂だ。
己の弱さを突きつけられる度、立香の心は激しく傷んだ。それはきっと、理想から現実へと叩き落とされるときに奔る痛みだった。
「──
いっそう激しい爆発の光と音。
「ぐゥっ!」
「ぁッ」
仲間たちの苦悶の声が、立香を現実に引き戻す。
「マシュ! キャスター!」
動揺し背筋を凍らせる立香を尻目に、2人は素早く立ち上がってその背を見せた。
「──損傷軽微、戦闘を続行します!」
再び盾を構え突進するマシュの姿に、再び立香は鋭い痛みを感じる。そんな彼に向けて、キャスターは呪を紡ぎながら振り返って檄を飛ばす。
「大将が
ざり、と再度足が地面を擦った。それがどういう感情故なのか、やはり立香には分からない。
ただ、悔しい。ただ、苦しい。
踏み出せない自分が、何も言えない自分が、ひたすらに苦痛だった。
歯を食いしばり俯く立香。その横から鋭い声が飛ぶ。
「でも実際問題押され気味じゃない! 何か手は無いの、例えば宝具とか!」
それはオルガマリーの叫びだった。彼女が口を挟んだのは恐怖故だったが、冷静でない立香は顔を青くする。
それは自分が言うべきでは無かったのか。
自分は指示もせずに何をしているのか。
ぐるぐると自責に心を苛まれる彼を置き去りに、状況は目まぐるしく変わっていく。
「そりゃ使いたいのは山々だが、
「敵の眼前で作戦会議とは、舐められたものだな」
漆黒のアーチャーは返答の隙を見逃さ無かった。伸ばした浅黒い手、その周囲に浮かぶ剣の切っ先は、寸分違わずキャスターへと向いていて。
「不味ッ──」
衝撃。立ち上る土煙はまるで爆発。キャスターの姿は簡単に飲み込まれてしまう。
その爆煙の余韻から此方に歩みを進めて来るのは、敵であるアーチャーの姿。
彼の背後、土煙が消えた後に残ったのは、割れた
「……!」
今此処に、状況はハッキリと
怯えたオルガマリーが足をもつれさせて尻餅を着く。
気丈に盾を構えたマシュの肩は、ここからでも分かるほど震えている。
そして、藤丸立香は……。
「──う、あ」
吐く息が重い。
思わず胸を抑えたのは、心臓が破裂でもしたのかと思うほどにうるさかったから。
どうしよう。どうしよう。
頭の中がぐちゃぐちゃだ。
足が震える。ざり、と地面を擦る。
その時、思い出した。
数秒前までの悔しさと無力感。
マシュの背が見える。自分よりも小さくて、何度も自分を守ってくれた背中。
──絶対に、助けてみせるから。
それはあの事故のとき、レイシフトの直前に何とか絞り出した言葉。
思い出した。藤丸立香は、ようやく思い出した。
その言葉は約束だ。嘘偽りのない、己の願いだ。
藤丸立香は、下がりそうな足に力を込めて、何とかその場に踏みとどまった。
彼の足を止めた感情は、極々シンプルなもの。
──約束を、守りたい。
そんな、ちっぽけな一般人らしい、けれど決して消えることの無い彼の善性。
「──まだだ」
自然、声が出ていた。
喉に熱が入る。瞳に光が灯る。
藤丸立香は、人類最後のマスターは、己のサーヴァントへ指示を叫ぶ。
「マシュ、まだ諦めちゃ駄目だ、戦おう……!」
「ッ、了解ですマスター!」
その声に含まれた闘志に背中を押されるように、マシュは盾を構えて前に出た。
金属をぶつけ合う音が再び空気を揺らし、火花と土煙が闇を汚す。
「──フン」
「くうっ──」
ただ、趨勢は明らかに敵に傾いていた。苛烈に攻め立てるアーチャーに対し、マシュは防戦一方。時たま防ぎきれなかった一撃が四肢に掠り、彼女に浅いながらも確実な
「見苦しい。今更もがいて何になる」
多彩な連撃を続けていたアーチャーが、不意に口を開いた。その表情には立香達への侮蔑がありありと浮かんでおり、その鉄のような声に、鋼のような視線に、立香の心は思わず怯む。
「力は弱い。知恵も足らず、覚悟も矜持も持ち合わせない。それなのに遠すぎる
攻撃の手は止めず、双剣を振りながらアーチャーは吐き捨てるように言う。耳を突く剣戟音の隙間から聴こえる言葉が、まるで呪いのように立香を苛んでいく。
「漂流者。カルデアのマスター。名前も知らない英雄志願者。貴様の存在が、私は赦せない」
そのシャドウ・サーヴァントは、とうとうマシュを盾の防御の上から力任せに弾き飛ばした。彼女が斜めに吹き飛ばされたことで、立香とアーチャーを隔てるものが無くなる。だからなのか、その声はやけに重く臓腑に響いた。
「身の程を知り膝を折る事も、持ち合わせた幸福で満足して身を引く事も出来ないのなら」
アーチャーが持つ剣が持ち上がる。彼我の距離は10メートル程。サーヴァントにとってはゼロに等しい距離。
間合いの中の自分は1秒後に死ぬと、そう頭が理解してしまう。
「理想を抱いて、溺死しろ──」
刃が振り下ろされる、その刹那。
「──俺は」
アーチャーの片眉が上がる。彼の手が止まる。それはきっと、立香の声が焼け付くような感情で満ちていたからだった。
「弱い。足りない。何も持ってない。そんなの分かってる。分かってるよ」
吐く。吐き出す。己の内で燃える感情を、ただ純粋に外へと。だからその声には、力がある。
「でも、憧れたんだ」
そうして藤丸立香は、心臓よりも大事な何かを、その何かが選んだ己の生き方を、高く高く掲げるように叫んだ。
「絶対に諦めないその背中に、憧れたんだ──ッ!!」
だから──
その言葉は音にならず。ただ次のことのみが起こる……。
「我が魔術は炎の檻」
声が聴こえる。
雄大で荘厳な、声が聴こえる。
「茨の如き緑の巨人」
魔力が渦巻く。
膨大に鮮明に、魔力が渦巻く。
「因果応報、人事の厄を清める杜──」
それは炎の檻。
それは緑の巨人。
アイルランドの光の御子、ルーンの
「宝具展開──『
己の背後に出現した燃え盛る巨大な影、それに慌てて振り向いたアーチャーに向けて、藤丸立香は半歩踏み出す。
逃げるためでもなく、悔しがるためでもなく──ただ、挑む為に。
「どれだけちっぽけでも、俺は進む!
その言葉に、
「よく吠えた坊主! ならば星の勇者よ、我がマスターよ、森の賢者が力を貸そう!」
今此処に、状況は