FGO二次 衛宮士郎みたいな藤丸立香 作:龍川芥/タツガワアクタ
今話から注意点追加です
・オリ鯖
・かなりのストーリー改変
・作者は歴史エアプ
自衛お願いします
1.異聞の皇帝は斯くの如く
――嗤う。
手には黄金に輝く
ちゃぷり。弄ばれた杯が揺れ、その中の酒が愉快に踊る。紅い波紋が映すのは、金の髪を湛えた妙齢の女の美貌。
「ふ、ふ」
――笑う。哂う。
可笑しくて堪えきれないというように。嬉しくて仕方がないと示すように。
真紅の酒に彩られた艶めかしい口唇が、美しくも邪悪に弧を描く。
其処は玉座の間だった。
部屋の中心、城内で最も豪華な椅子に腰かけた『彼女』は杯を揺らしながら、手持無沙汰な片手を動かす。傍に傅く召使いが持つ籠から果実をひとつ摘まむと、それをひと齧りして床に放った。熟れた果肉が落下の衝撃でぐじゅりと音を立てて潰れ、室内を甘い香りが満たす。
「ふふ、ふふふ」
――嗤う。嗤う。
女は嗤う。玉座にて長く細い足を組み、世界を見下ろし、傍若無人なる振る舞いをしながらとてもとても愉しそうに。まるで子供のように、女の魅惑全てを有した美しい体にはとても似合わぬ無邪気な笑みで嗤う。
それを咎める者は此処には居なかった。居ないという事が女の脊髄を嬲る快楽だった。
腐りかけの甘い権力の匂いだけが、その玉座の間を昏く満たしていた。
女の趣味故か薄暗い玉座の間。その弱い光の中に在るのは、女と数人の召使い、そして遠くから聞こえる兵たちの聲のみ。影になった部分は見通せない。
不意に、影の中から足音が響く。
「随分ご機嫌だな、『皇帝』」
扉が開いた気配は無く。しかし部屋の隅、光の届かない闇の中から湧き出てくるように、一人の男が姿を現した。女の笑い声を遮る、男の呆れたような声。軽蔑さえ含むだろうその声に対し女はすうと目を細める。
「……貴様か、魔術師」
甘い甘い、滴る蜜のような声。しかしてそれは彼女の肚の内、悪魔の如き猛毒の心を覆い隠すための偽装。淫蕩に濡れているようなその声を濡らしているのは、毒牙から零れる雫に他ならない。
声音が隠した毒蛇の牙、甘美なる毒の匂いが、剣呑な表情と共に惜しげも無く玉座の間に晒される。
「二度と余の前に顔を出すなと命じた筈だが。皇帝たる余の玉言を無碍にした理由を疾く述べよ。場合によっては、そうさな。尊厳ある自死を許してもよいぞ?」
空気が数度冷え込んだかのような錯覚。
その本性を、毒蛇が首元に巻き付いてくるような威圧を受けて尚、現れた男は動じなかった。彼は
「……私だって、あまり会いたくは無かったんだがな、人間。だがそうも言ってられなくなってきた」
男――レフ・ライノールは平然とした様子で続ける。その最低限繕った表情は、まるで聞き分けの無い子供を見るかの如き侮蔑が透けて見える。
彼は一瞬遠くを見るように虚空に視点を移し、そして忌々し気に口元を歪めながら玉座に座る女に問う。
「そろそろカルデアの者らがこの第二特異点にやってくる時期だ。しかしおまえは何をしている? 他の皇帝がローマ侵略の為に尽力する中、与えられた兵を自らの欲の為のみに使うなど……度し難いにも程がある」
外から聴こえる兵の聲――それは都を建設する作業の音だった。玉座の間の外では、屈強な兵士たちが剣を捨て槍を捨て、城を街をより絢爛なものにしようと作業に殉じている。全ては、玉座にて杯を弄ぶ『皇帝』の望みを叶える為に。
「チィ……」
レフは舌打ちをしながら女を、彼女が弄ぶ杯を見る。それは黄金の杯にして、願いを叶える願望機――即ち、聖杯。
「ともかく、おまえにはこれ以上遊ぶ時間など無い。おまえの役目はカルデアのマスターとそのサーヴァントの殺害であり、
そう、激しい怒りと共に言い含められた玉座の女は……優雅に足を組み替え、杯をゆっくりと傾け一口酒を飲み。
そして、底冷えのするような眼で眼下の
「
「……は?」
余りに予想外の言葉に、レフの理解が遅れる。
謝罪も説明もしなかった女は、表情を変えず淡々と、しかしどこまでも尊大に頬杖をつき。籠から果実をもう1つ手に取り、それをひと齧りして言い放つ。
「申したいことはそれだけか? ならば皇帝たる余の言葉に逆らった罪を適用する。
女はそう言い、一口だけ齧った果実をレフに向けて緩く放って――。
ぐちゃり。
骨肉が潰れ血が飛び散る。己の足元の床で弾けた真紅の血を女は無表情に一瞥し、そしてそれが飛んで来た方向に目をやった。
それは、まるで隕石が衝突したかのような光景だった。放射状に広がる血肉と衝撃痕。その中心に居るのは、隆起した筋肉質な体を赤金の装束で包んだ、紺の短髪の男。そしてその下には……血と骨と臓物がぐちゃぐちゃになった、レフ・ライノール
そんな圧壊した死体の上に立ち、鉄錆の匂いを放つ血霧を纏いながら、紺色の髪の男は残心の息を吐く。
「オオ、おオオオおオオオ……」
狂気に呑まれた呼気を吐ききると、男は肉塊の上で立ち上がった。今しがたの蛮行は、そんな彼の人ならざる腕力によって引き起こされたものだ。
彼の名はカリギュラ。聖杯より呼び出された
そんなカリギュラにレフ殺害を命じた女は、氷の眼光で肉塊を見ながら、玉座の上で酒杯を傾ける。
「余は言ったぞ。『皇帝たる余の玉言を無碍にした理由を疾く述べよ』と。それすら出来ぬ愚か者はもう、惨たらしく殺すほかあるまいて、なぁ?」
逆さになった杯からわざと溢された酒が床を流れ、レフの死体へと届き床に広がる血と混ざり合う。室内を血と葡萄酒の混ざり合った噎せ返るような匂いが満たした。
それを見る女の貌には、嗜虐の法悦がありありと映し出されていて。彼女は先ほどとは打って変わって上機嫌で、死体になったレフに嗤いかける。
「しかし、異なことを訊くものだな魔術師。兵を出さぬ理由? そんなこと決まりきっているだろうに」
背を玉座に預け、組んだ足を揺らし……頭の上の月桂樹の冠、血と同色に染まったソレを撫でながら女は続ける。
「余は『皇帝』。この世に唯一たるローマの皇帝なり。故に世界は余の意のままでなくてはならぬ。
故に我が望みを叶える為動くのが世界の必定。
即ち――もっと豪華に。もっと贅を凝らして。もっとずっと絢爛に!」
それは底無しの欲望。人類史稀に見る、邪地暴虐にして傲岸不遜なる最悪の皇帝、その具現。
酒を溢しきった聖杯に軽く口付けしながら、欲深き支配者は告げる。
「こんな小さな杯ではまるで足りぬとも。この
女は抱く。世界を滅ぼす強欲を、世界を見下す傲慢を、世界を飲み干す暴食を。
「魔術師よ。愚かなる魔術師よ。貴様は余に外なる世界を示した。ローマの外、皇帝を仰ぐことなく自由などを貪る愚物の国を。そんなものの存在を余は赦さぬ。貴様に言われるまでもなくな」
また女は握る。世界を焔く憤怒を、世界を腐らす怠惰を、世界を許さぬ嫉妬を。
「カリギュラ。汝も兵を出せ。真の皇帝たる余を認めぬ『偽りの
「……任、せよ。我が、愛しき……」
その命令に、本人も皇帝であるはずのカリギュラは恭しく傅いた。その瞳は狂気に呑まれきっており、彼が如何なる感情を抱いているかは判別できない。
そんなカリギュラの様子に――己を崇め己に従う彼の姿に、女は背筋を駆け上がるような快楽と腹を満たしたときのような満足感を憶え、どこまでも邪悪に微笑んだ。
それは最早、人の域を超えた、否、人を滅ぼす悪であった。
大罪を余さず肚に収めたその姿は正しく『獣』。もしもレフ・ライノールがまだ人のカタチを持っていたなら気付いただろう。彼女の被る月桂冠、真紅のそれは装飾物ではなく、彼女の後頭部から生えた『角』であるということに。
基盤たる世界から弾き出されたその獣は、聖杯を掲げて
「余は望む。この世全ての恭順を。
余は求める。我が足元への永遠の忠誠を。
それを拒むものは誰であろうとも
遠くで鬨の声が聴こえた。聖杯を通じて下された命令が、数多の英霊に挙兵させたのだ。
それは、権謀術数に長けた名将。力と知恵を持つも、野心が災いし裏切りによって死んだ悲運の男。
それは、狂気に呑まれた悪名高き暴君。月の女神に愛され嗜虐の道へと堕ちた第4代目ローマ皇帝。
それは、偉大なる建国王。ローマ始まりの大英雄、世界を形作り、そして神へと召し上げられた男。
歴史に名高き古代ローマの大英雄たち。それが兵を率い、現代の皇帝が治める帝国ローマ首都へとかつての武勇の牙を剥く。
その開幕たる挙兵の音を聴きながら、女は静かに玉座を離れた。艶やかな仕草で未だ部屋に留めておいたカリギュラの前へと歩み出る。そして、その口元へ己の唇を躊躇なく落とした。
カリギュラの体が強い感情で大きく揺れる。
そんな彼の首元に細い腕を回しながら、女は離した口唇でその耳元に優しく告げた。
「それと。なるべく早く帰ってくるといい、余の愛しきカリギュラよ。その躰の指先までも余の所有物であること、ゆめ忘れぬようにな……」
――そして女は、その肢体に世界を巻き込む色欲を孕み。
「おお、おオオオおおォ……!」
歓喜だろう男の呻きを聴きながら、女皇帝は口の端を吊り上げる。
「ふふ、ふ」
――嗤う。
笑う、哂う。
可笑しくて堪えきれないというように。嬉しくて仕方がないと示すように。
「くふふ、ふははははははは!」
哄笑が零れる。狂笑が咲き誇る。
薄暗闇の玉座の間で、その獣は世界を支配するという歓喜に嗤った。
かくて物語は第二幕へ。
待ち受けるは毒杯の皇帝。
流れ着くは裏切りの青年。
正史と異なる運命を乗せて、異聞の歴史は動き出す。
「この世の全て、我が手の内に――」
聖なる杯を弄びながら、その
FGO8周年おめでとう