FGO二次 衛宮士郎みたいな藤丸立香 作:龍川芥/タツガワアクタ
金糸の御髪が揺れ、翡翠玉の如き瞳が此方を見つめる。
若干緊張気味の少年少女の眼前で、その大輪の笑顔は爛漫と咲き誇った。
「うむ! 大儀であったぞ其の方らよ! 貴様らの助力の甲斐あって、我がローマは護られた! 好きに褒美を取らせるぞ。特に望みが無いなら余の
明るい声音、気品と多少の慌ただしさが同居するエネルギッシュな仕草。赤を基調とした華美な服が右に左に舞うように揺れる。
謀略とか騙し討ちとか全く考えていなさそうな、ある種無垢なお褒めの言葉に立香とマシュの緊張が解ける。
レイシフト先、西暦60年ローマ首都付近の丘陵地帯。
人類最後のマスター・藤丸立香とその
周囲にもう敵兵は居ない。立香とマシュが加わった都市防衛軍は遥か多勢の侵攻軍相手に甚大な被害を与え、彼らを撤退させることに成功したのだ。
地にこびり付いた、未だ乾かない血の痕を出来るだけ見ないようにしながら、立香らは謎の現地人少女への対応を試みる。
「俺は藤丸立香。カルデア所属のマスターです。こっちは……」
「はい。私はマシュ・キリエライト。先輩のサー……相棒です」
それを聞いた少女は瞬きひとつして。
「ふむ、聞かぬ響きの名だな。というより貴様ら、何処の出だ? カルデアというのは国の名か? そのような国はとんと知らぬ、それに見た事の無い衣服だが……」
彼女は身を乗り出し、立香の服をじろじろと観察し始めた。視線は下から上へと登り、最終的に至近距離で顔を覗き込まれる形になる。
「(怪しまれてる!? ていうかちょっと顔が近い……!)」
少女の美を閉じ込めたかのような黄金の美貌に至近距離で見詰められ、思わず立香の頬が紅潮する。失礼に当たるかもしれないと身を引くことも選べず身動きできなくなった立香は、自分を助けようと前に出たもののどうすればいいか分からず二の足を踏むマシュの姿には気付かなかった。
そうするうち、評論が形になったのか赤金の少女が口を開く。
「漆黒の髪に白黒の服……多少露出が少ないが、なかなかどうしてお洒落ではないか。先程は白銀の鎧を纏っていたようにも見えたが……鎧は捨ててしまったのか? 今の先鋭的な服もいいが、余はあちらの格好の方が好みだぞ。む、この服は思ったより手触りが良いな……」
「す、すみません! 先輩が困っていますので……」
カルデア式制服を興味深そうにつついたり引っ張ったりする少女の無邪気な蛮行を、遂に見ていられないと止めに入るマシュ。
「良いではないか少しくらい……ん? んん?」
「あ、あの……?」
と、今度はマシュを至近距離で観察しだす少女。マシュの腕を取り、鎧から顔までを目を輝かせながら審美する。
「黒い鎧に身の丈よりも大きな盾、そして程よい露出……うむ、好い! 見れば顔立ちも美しいではないか! 少々無垢というか感情の
立香が展開に置いて行かれている間にマシュに下される高評価。
赤金の少女はそのままマシュを片手で抱き寄せ、立香の方に手のひらを掲げて高々と宣言する。
「うむ!! 気に入ったぞマシュ! そしてリツカ!貴様らを余の城に招き、盛大に宴を開くとしようではないか!」
どーん、と効果音でも付きそうなほど大袈裟な、けれどなぜか様になっている少女の言動に、もはや立香たちは完全に置いて行かれていた。というかマシュは自分より小さな少女に肩を抱かれるという未体験どころではない状況に
そんな2人の混乱に赤金の少女は気付くことなく、また周囲の兵士たちも拍手や歓声を上げるだけで助けにはならない。
と、収拾のつかなくなった状況に助け舟が入る。
『ちょっと待った。こちらは君たちが何者なのかも知らない訳だし、考えなしについていくことは出来ないね』
「……む、誰だ? 姿が見えぬが」
管制室からの通信機越しの声に戸惑う少女。
『どう説明したものかな……とりあえず僕の名は――』
「悪霊の類か? なんとなく信用できなさそうな声だな」
『ちょっとォ!? なんでイキナリ貶されたんだい僕は!?』
ロマニの声に……そして彼の雑な扱いに平静を取り戻した立香とマシュは、彼らの時間と場所を超えた会話の様子に耳と意識を傾ける。
『僕はまあ……魔術師だよ。勿論立香くんとマシュの味方のね。今は魔術で声だけを遠くから送っているんだ』
「成程。確かにそんな魔術があるとセネカが言っていた気もするな」
ひとまずロマニが退治される危機は去ったようで――実際に可能かはさておいて――話題がひとつ前に戻る。
「して、貴様は余を知らぬと申したか?」
『ああ。我々は君が誰か、何に所属していてどんな思想があるのかを知らない。出来れば自己紹介をしてくれると有難いんだけど』
ロマニの声に追従し頷く立香とマシュ。それを見た少女は信じがたいといった様子で顎をに手をやる。
「ふむ。ローマに在って余を知らぬとは中々よな。まあしかし異邦の者なら仕方ない、恩もある――良し! 心して余の名乗りを聞くがよい!」
そして――何処からか薔薇の花びらが舞った。
真紅の花吹雪が少女の背後で踊り、荘厳さ美麗さをこれでもかと演出する。
そして彼女は金の踵で堂々と立ち、胸に手を当て威厳ある声でその名乗りを諳んじる。
「我が
その堂々たる名乗りに、
「ネロ
ひとりは目を見開き、
『ネロ・クラウディウスぅ!? え、でも……えぇ!?』
ひとりは伝聞との違いに慄き、
「……?」
そしてひとりは世界史に疎いが故に置いてけぼりだった。
彼はどっちかというと、ネロの後ろで薔薇の花びらをを撒いていた兵士たちに対して驚いていた。
そんな彼をおいて話は進む。
「今は西暦60年……皇帝ネロが在任の時期と一致します」
『いやでも性別が……でも兵には慕われてるようだし、騙りの可能性は低い、のか? いや本物は本物で問題があるような……』
通信機越しに本物かどうか審議するマシュとロマニ。そんな彼らの訝し気な声をしっかりと聴いていたネロは眉を顰める。
「なんだかよく分からぬが、その反応がちょっぴり不敬なことは分かるぞ。こうなれば余がどれほど素晴らしい皇帝かを余直々に説いて――」
ネロによる『ネロ・クラウディウスが最高の皇帝である100の理由』独演会が始まろうとした正にその瞬間だった。
「――敵襲! 敵方の援軍です!」
味方の兵士、いち早く接近してくる軍勢に気付いた者が叫ぶ。
彼が指さした場所を見れば、先程よりもかなり数の少ない軍勢が此方に迫って来ていた。掲げる旗印は『真紅と黄金』……ネロの軍が掲げているのとは違う、敵の証。
警戒を以て敵軍を待ち受けたネロ軍に対し、敵軍の伝令兵らしきものが単独前に出て大声を張り上げる。
「我らが皇帝ヨリ通達! 我々は『連合ローマ帝国』也! 今代のローマ皇帝よ、真の皇帝ヲ擁する我らノ国に大人しく恭順し、その首都を明け渡すべシ!」
いかなる理由か、少し調子の外れた……まるで誰かにインプットされた言葉をそのまま吐き出しているかのような伝令兵の様子に、立香は少し違和感を覚える。
だがそれを指摘する前に、ネロが赤い剣を片手に敵軍の前へと進み出た。その表情には燃え滾るような怒りの感情が浮かんでいて。彼女はその感情を叩きつけるようにその麗しくも威厳ある声を張り上げる。
「笑止! 如何にローマ広しといえど、今代のローマ皇帝はこの世に余ただ独り!
味方である立香すら思わず謝ってしまいそうになるほどの覇気と剣幕。だがそれを受けても敵兵に揺らぎは見られなかった。その様子に立香は、まるで感情の無い操り人形のようだという感覚を抱く。
と、その敵兵たちが左右に分かれて道を作った。その奥からひとりの男が歩み出てくる。
『これは、サーヴァント反応……!』
そして姿を現した男の顔を見て――ネロははっきりと「信じられない」という顔をした。
「まさか……」
それは濃紺の短髪に屈強な肉体を持った男。その精悍な顔つきは、人ならざる真紅に染まった瞳によって獰猛な獣のような印象を抱かせる。赤と金とを基調にした衣服、そこから晒された四肢は丸太のように太く、また
そんな男はネロを見ると、無表情のまま肉食獣の如き口を開いた。その牙の間から獅子の唸り声の如き声が眼前の少女へと放たれる。
「ネ、ロぉぉ……我が、愛しき、妹の子よォ……」
その声に……ネロの構えていた剣の切っ先が地へと落ちた。
「――叔父、上……?」
ネロの声は、先の啖呵を放った皇帝と同一人物とは思えないほどにか細く。
そしてその内容に、管制室のロマニが舌を巻く。
『
それが言葉になる前にネロが復活した。ぎり、と噛み締めた口を開き、男に剣を突き付けて激情のまま問う。
「否! 否である! 例え亡霊だろうが本人だろうがそんなことは構わぬ、今重要なのは其処ではない!
何故ローマの敵に与した……先代皇帝カリギュラよ!!」
その言葉に、男――カリギュラは返答の代わりとして、身の内の狂気を殺気と共に爆発させた。
「オオ、おおおおおオオオおオオオ!!」
カリギュラの荒々しい踏み込みが地を砕く。半径3メートルほどの蜘蛛の巣状の罅を大地に作った剛脚、それが生み出すエネルギーがそのまま突進の勢いを決定した。
80キロの肉の砲弾が、目にも留まらぬ速さでネロに向かって突撃する。
「く――」
迎撃するはネロの赤い剣。
両皇帝、激突。
衝突点を中心として、野草を軒並み薙ぎ倒す衝撃波がローマの地を駆け抜ける。
「ぐぅ……!」
「ネロオオオおオオオおオオオ……ッ!!」
ぎちぎちと
「
その様を目の当たりにし、身構えていなかったが故に反応出来なかった立香とマシュは少し遅れて戦闘態勢を取る。
「先輩、私たちでネロさんのサポートを!」
「分かった!」
マシュが盾を構えて飛び出し立香が魔術を発動する瞬間、均衡は崩れた。カリギュラの剛腕が剣の上からネロを後方へと吹き飛ばしたのだ。華奢な体が地を滑る。
「ぐ、余に土を……!」
ネロの言葉は続かない。地面に倒れた己に追撃せんと飛び上がったカリギュラの姿を正面から目にしたからだ。
そしてそれを見たのは立香らも同じ。引き伸ばされた意識、停止した時間の中で立香は魔術回路に魔力を流す。
「
鎧と聖旗がエーテルを編むことで即座に顕現、次いで英霊の速度を己が身に宿す。
「
その速さを以てネロとカリギュラの間へと滑り込んだ立香は、旗を構えて全身に力を込める。
「(ビビるな、よく見ろ俺! ジャンヌの防御力なら防げるハズだ!)」
眼前に迫るは獣の如き形相のカリギュラ。その太い腕が獅子の鉤爪に勝る恐怖を纏って立香へと振り下ろされる。
その恐怖を振り払い、立香は両手で掴んだ旗をその腕撃に完璧に合わせ防御を――。
「――ッ」
気付けば立香は空を見ていた。
全身に衝撃が、旗を握った腕に痛みが走り抜ける。
「――んぱい、先輩!」
悲鳴にも似たマシュの声。
一瞬遅れて理解した。カリギュラの一撃は、防御の上から立香の体を吹き飛ばしたのだ。
「(く……なんて力だ!!)」
慌てて上体を起こす。軽く己の体を精査するが、骨折など重症の気配はない。
ただ接地の衝撃で鼻の奥を切ったのか少量の鼻血を流しながら戦慄する立香に、管制室からロマニの声が飛ぶ。
『立香くん気を付けろ! 敵サーヴァント――カリギュラは恐らく「
「……了解!」
立香は鼻血を荒く拭いながらカリギュラを睨む。腕の一撃を放った姿勢のまま此方を見る彼の瞳に理性は無く、ただ暴力への衝動と嵐のような殺意だけが燃え滾っていた。
「(……確かに接近戦は得策じゃないな……なら!)」
けれど藤丸立香は怯まない。
今しがた己を吹き飛ばしたサーヴァントに勝つ手段を冷静に分析し手札を探る。
「
そして彼は魔術回路を励起させた。
流す魔力のイメージは炎。錬鉄の火が心臓に宿り、血液を通して全身に火が広がるのを想像する。
疑似霊基、変更。
ありがとうジャンヌ――/――征くぞエミヤ!
「――
立香の体を包んでいた白銀の鎧が消え、入れ替わるように赤い外套が彼の体を覆っていく。手には旗では無く特殊な形状の黒い弓。矢筒は無くまた矢も無いが――この英雄に『弾切れ』の概念は存在しない。
「
藤丸立香の手の中で投影魔術が組み上がる。
投影するは三本の剣。細身のそれを弓に番え、卓越した技術で狙いを保ったまま速射する。
「
三本の
「オおォッ!」
カリギュラの腕が矢を迎撃。大振りの一撃で三本の矢を同時に砕く。ガラスのように砕け散る剣たち。だが。
「マシュ!」
「はい!」
カリギュラの真横には、立香が
迎撃によって出来た隙、腕を振り抜いた体勢のカリギュラに、マシュの大盾による突進が炸裂する。
「やああああああっ!」
「グおぉ……ッ!」
激しい衝突音、骨の軋む一撃にカリギュラの体勢が崩れる。その隙を見逃さず、立香は二刀一対の夫婦剣を投影した。
「
剣の銘を叫びながらの近距離斬撃。二刀による素早い連撃がカリギュラを襲う。岩のように硬い肉体も、幾重にも及ぶ斬撃で流石に血を流す。
カリギュラは羽虫を払うような動作で反撃を試みる。彼の膂力ではそれすら必殺の一撃。だが。
「ガ、ああアアぁ!」
「はあっ!」
力任せの反撃はマシュの盾によって防がれ。大盾の死角から回りこんだ立香が背後から無防備な背中を斬りつけ、勢いのまま距離を取って弓を投影する。
「グぅうッ……!」
「させません!」
痛みに苛立ちそれを追おうとしたカリギュラの動きを制したのもまたマシュ。彼女はカリギュラと立香との間に立ち、盾兵としての役割を全うする。
抜群の
特に白兵戦もこなせる弓兵とバーサーカーも真っ向から受け止められる盾兵の相性は抜群だ。中近距離で立香が攻撃し、マシュが彼への反撃を封じ込める。この連携にカリギュラは苦戦し始めた……けれども彼はバーサーカー、それに対応する策を思いつくような理性は無い。
やや一方的になりだした展開に、起き上がったネロが勝機の匂いを悟る。
「やるではないかリツカ、マシュ! そのまま攻撃を続けよ、叔父上への引導は余が――」
その時だった。
晴天が陰る。天にインクをぶちまけたかのように、突如として夜が世界を覆った。
光輪の半径を超えるほどの黒い天蓋が、兵団ふたつを容易く飲み込むほどの巨大な影を地面に作る。
そして太陽は黒に隠れ、空には入れ替わるように現れた真っ青な月が出現した。
「な――」
昼間の世界を突如支配した月夜。
余りの事態にそれを目撃した全員の思考が鈍る。だが思考など慮外の外にある者――バーサーカーたるカリギュラだけが、本能で最適解を選択した。
カリギュラの体から赤い魔力が立ち昇り、月光がそれを照らして青く反転させる。
「女神よ……余を……おオオオおおお!『
月が絶叫した。
そうとしか思えないほど大量の月光が地上に降り注ぎ、ソレを浴びた人間の精神に狂気という毒が襲い掛かる。
「な、なんだ、コレ……!?」
「ぐう……っ! 頭が、割れる……!」
「先輩! ネロさん!」
頭を押さえて蹲る立香とネロ、そしてネロ側の兵士たち。尋常ではない彼らの様子に、独り無事であるマシュが振り返り叫ぶ。だがその声は立香にすら届かない。
「(敵の、宝具……!? 狂気が、俺の中に入ってくる……!)」
立香の頭の中でその声は響く。
殺せ。奪え。犯せ。壊せ。嗜虐の快楽に呑まれ、淫蕩の悦びに浸るがいい。
他人のものである感情が己のそれと重なる感覚。異物感と拒絶は次第に抗いがたい誘惑へと変わっていき、歯を食いしばらなければ本当に衝動のまま全てを投げ出してしまいたくなる。
殺したい。奪いたい。犯したい。壊したい。「違う」違わない。「そんなことしたくない」やりたい。嗜虐も、淫蕩も、味わって「俺は」みたい……!
「ぐ、あああああ……っ!」
立香の瞳が狂気の赤に染まっていく。それは月光の絶叫が終わって尚続いていた。
カリギュラの宝具『
「ネ、ロぉぉぉ……」
カリギュラが動き出す。
彼が見るのは地に倒れた二人。必死に狂気に抵抗する立香と、頭を押さえ激痛に悶えるような悲鳴を上げるネロ。
彼等を庇うように立ったマシュはしかし、大盾を握る手に迷いを見せた。
「(……どっちを狙って来る!? 先輩? ネロさん? 2人の位置が少し離れている……私は2人の丁度間、この位置ならどちらを狙った攻撃にも対応できるけど……私の敏捷では確実に護れるとは言えない。確実に護りたいなら、せめてもう一歩近づきたい……でもそれをすれば、反対側は護れなくなる)」
突如やって来た選択肢。
動かなければカリギュラのどんな行動にも対応できる。けれどその場合、立香とネロどちらを狙われても防御が間に合うかどうかは保証できない。
立香の方に一歩動けば、立香への攻撃は確実に防げるだろう。だがそれをするとネロへの攻撃はほぼ確実に防げない。ネロは立香よりも症状が酷そうで、自力で動くことに期待は出来ない。そしてネロが死ねば、確実に歴史の歯車が狂う。
だがネロの方に一歩動けば、今度は立香への攻撃に反応が出来なくなる。護ると誓った先輩を己のミスで喪うという未来は、想像するだけでマシュの手足から熱を奪っていく。だが立香は必死に狂気と対抗しているようで、彼なら自力で避ける可能性もゼロではないだろう。
「(わ、私は、どうすれば……)」
生死を司る二択。結果論でしか語れない残酷なトロッコ問題。
それを選ぶには、マシュには余りにも人としての人生が足りていなかった。空回る思考、一瞬の迷いを見抜いたのかは定かではないが、カリギュラが動く。
「ガアぁアああアアぁア――ッ!!」
獅子の叫び、魔獣の突進。轟風を纏う肉の砲弾が、固まってしまったマシュの脇を一瞬で通り過ぎる。
「あ——」
狙いは――立香。未だ地に付した彼に対し、骨を砕く渾身の剛腕が振るわれる。
「先輩っ!!」
悲鳴が上がるが、全ては遅い。
防御しようにも動けぬ立香に対し、カリギュラの一撃が襲い掛かる――。
悲壮な顔で手を伸ばすマシュ。
狂気に抗いながらも、己への攻撃に直前で気付いた立香。
獲物は回避できないと本能で悟るカリギュラ。
時計の針が動けば全ては終わる。人類最後のマスターは、一瞬の油断で肉塊へと果てる。
それが運命。
しかし――
「宝具解放――」
その声は響いた。
いや、それは幻聴だったのかもしれない。停止した時間の中で言葉は放てない。声の主である『彼』にそんな大それた力など無い。
故に……それは声でなく。音でもなく。
トーガを着た青髪の青年として、藤丸立香とカリギュラの間に立っていた。
「――『
青年が握る短剣がギラリと輝き。
時計の針が、動く。
銀色の短剣が、カリギュラの腹へと突き刺さった。どす、と鈍い音が響き、短剣の刃を傷口から零れる血が伝う。
全員が呆気に取られていた。攻撃したカリギュラも、倒れていた立香も、それを見ていたマシュも。
彼らの視点が向く先は同じ――カリギュラに短剣を突き刺している、青髪の青年。時間か空間を超越したかのように突如として現れ、カリギュラに一撃を入れた男。
運命を覆した彼は言う。
「介入が遅れたことは申し訳なく思う。何分
彼は短剣を捻ろうとして――カリギュラは素早く身を引いた。傷口を押さえつつ、未知のものを見た虎のような動きで青髪の男を警戒しながら
そんなカリギュラから豪胆にも視線を外し、青髪の青年は短剣の血を拭ってから倒れる立香に手を伸ばした。
「初めまして、人類最後のマスター。僕はアサシンのサーヴァント、この地に