FGO二次 衛宮士郎みたいな藤丸立香 作:龍川芥/タツガワアクタ
「――僕の宝具『
宴から少し日が開いて。
『ガリア奪還』を掲げたネロがローマ軍を引き連れ進軍している昼の空の下。ガリアへ向かう道が終盤に差し掛かった頃、ブルータスはそう唐突に立香へと明かした。
「ブルータス、急にどうしたの?」
ネロ率いるローマ軍の集団から少し離れた所で歩く立香は、マシュと共に己を呼び出したブルータスにそう問いかける。
すると彼は、少し真剣な表情で答えた。
「斥候からの情報が入った。ガリアに陣取っている軍の将は恐らくサーヴァントだ」
「! それって……」
とある名前が喉から出かけた立香らをブルータスは手で制し、続ける。
「
「分かった。でも、ブルータスって頭良いよね? マシュはともかく、俺を呼んだ意味ってあるの?」
「……買い被りだよ。僕は政務官としてはともかく、将としては無能もいい所だ。生前も何度か兵を率いたこともあるが……まあ、碌な結果を出していない。剣なんて根本から向いてないんだよ、僕には」
少し寂しそうに笑ってから、ブルータスは「それに」と続ける。
「マスター、あなたの戦術的思考は素晴らしい。まるで歴戦の将か、あるいは数多の戦場を駆けた英雄その人のようだ。そんなあなたなら、きっと僕を僕以上に上手く『使える』と確信している」
「はい。私もブルータスさんに同意です。先輩はその勇気もそうですが、戦闘中の機転が鮮やかというか……とにかく、先輩は素晴らしいマスターです」
マシュとブルータス、両者からの信頼を受け……しかし立香は内心で渋面した。彼は己に憑依した英霊の戦術記憶や戦闘思考の一部を借り受けている。故に今貰った評価は、己自身の力では無く借り物の力を褒められているのと同じな訳で……。
「……とりあえず、宝具について訊かせて」
極力表情に出さないようにしながら、立香はブルータスに続きを促した。
ブルータスは首肯して続ける。
「先ず知っているとは思うが……『英霊の宝具』とは、その英霊が生前為した偉業・所有していた装備によって決定される。例えばカリギュラの宝具は『月の女神に愛された』という伝説から獲得したものだし、ブーディカの戦車は『実際に彼女が乗っていた戦車』と『それにより国や自軍を守護して来た逸話』が融合して宝具になったものだな。ネロ陛下なら……聖杯によると後年に
彼は少し離れた場所で軍を引いているブーディカやネロを示しながら語る。その教師のような少し遠回しな説明に、立香は彼が言わんとするところを理解する。
「てことは、ブルータスの宝具も……」
「ああ。そして僕の生涯で『宝具に昇華される』程の強度を持つ逸話など、たったひとつしか存在しない」
ブルータスの声が明らかに硬くなる。それに対し立香らがその顔を覗き込むと、目が合った彼は自嘲するように笑った。そのまま少し遠くに目をやって続ける。
「大した偉業も為せなかった僕が皮肉にも英霊と成る資格を得た、生涯ただ一度の殺人劇……カエサル暗殺の逸話は知っているか?」
マルクス・ユニウス・ブルトゥス。またの名をブルータス。
彼は偉大な王でも、常勝無敗の名将でもない。ただの古代ローマのいち元老院議員に過ぎない男で……本来なら歴史の奥底に埋まる程度の小さな存在。
だがその名は、たった一つの殺人によって後世に語り継がれることになった。その過ちであり偉業でもある出来事の記憶を、彼は血を吐くように語る。
「あの日。僕は
「ブルータス、辛いなら……」
「いや、言わせてくれ……僕は言わなければならない」
立香の心配を押し切り、彼は漸く本題に入る。
「つまり、『自分よりも強大な被害者に深く信頼され、それを裏切ったが故に格上に一刀を浴びせることが出来た』……これが僕の英霊としての方向性・特異性。
つまり僕の宝具は、その『裏切りの一撃』を再現するという特性を得た。もっと言えば、『防御も回避も出来ないほど予想外の刃を浴びる』という
「つまり……
「簡単に言えばそんな所だ。そうだな……すまない、先に謝っておく」
「?」
そういうと、彼はおもむろに短剣を取り出し――次の言葉で時間が止まる。
「発動、『
世界から音が消える。兵士の行軍の足音、風のそよぎ、己の息遣いすら世界から消失し、ついには色すら消え失せた。
そんな異常な光景の中、気付けばブルータスは立香の懐にて短剣を構えて居た。灰色になり全てが動きを止めた時の中、引き伸ばされた意識で立香はブルータスの腕だけが動くのを見る。
「(これは――)」
咄嗟に体を動かそうと試してみるが、腕も足も動かない。まるで思考と体が切り離されたようで……正に、回避も防御も不能。
そんな立香の無防備な腹部に、ブルータスの短剣が近付き――。
刃を寝かせた短剣の腹がゆっくりと礼装越しの立香の腹に触れ、ぺち、と可愛い音が鳴り。
それで時間は動き出した。
音の戻った世界の中、ブルータスが短剣を軽く振りながら言う。
「つまりこういう宝具だ。百聞は一見に如かず……少々乱暴だったが、分かってもらえただろうか」
少し遅れて再起動した立香とマシュが反応。
「先輩!? 今のは……」
「ブルータスの宝具……今のは俺に使ったんだね。ホントに防御も回避も出来なかった」
『こちらの計器だとブルータスくんが瞬間移動したとしか……というか性急だな君は! 事前にやると言ってくれないと立香くんも僕たちも混乱するだろう!?』
「そうです! 先輩、これは怒っても良い案件だと判断します!」
「……それに関しては申し訳ない。だが、事前に言った場合止められると思ってな……なにせその、僕は生前の経歴が経歴ゆえ……」
管制室のロマニも巻き込んで説教が始まった横で、立香は殆どそれを意に介さず短剣で触れられた腹を触る。刃の無い部分で優しく触れられただけのそこには傷どころか僅かな痛みも無いが、もしブルータスが『その気』だったら……考えるだけで恐ろしい。だが、それは逆に言えば。
腹を摩りながら己の方を見る立香に、ブルータスは短剣を指で示しながら言う。
「とにかく。今見てもらった通り、『攻撃対象に刃を当てる』と僕の宝具は強制終了する。例えダメージを与えられなくても、ね」
「凄い……これ、事前に説明を聞いてなかったら絶対混乱してる」
素直に感心する立香と、彼に本当に外傷がないか確認しだしたマシュに対し、ブルータスは詳しい説明を始めた。
「宝具の発動条件は相手が
聞けば聞くほど強力な宝具。だが、立香はその説明に対して少し前の事を思い出した。カリギュラとの戦いの時……ブルータスはその宝具によって立香の窮地を救った。しかし、確かその宝具の威力は……。
思考を先読みするように、ブルータスは続ける。
「だが僕はあくまで弱小英霊……つまり、この宝具には弱点も多い。
ひとつ、同じ相手に二度使えない。
ふたつ、威力が低い。
みっつ、盾や武器による防御は無視できるが、鎧などの防具を無視できない。
他にも
つまるところ、僕の宝具は『必中』ではあるが『必殺』ではないんだ。スキルや宝具で防御力を高めている相手には無力だし、そうでなくとも即死させるのはほぼ不可能……どちらかというと『相手を不意打ちで倒す宝具』というより、『不意打ちで相手を動揺させ、多少の手傷と共に隙を作り出す宝具』と考えてもらっていい」
確かに、カリギュラ戦で見せたブルータスの宝具は容易く命中こそしたものの、与えた手傷は撤退すらさせられない程度のものだった。実際カリギュラはそのダメージに殆ど影響されず攻めてきた訳で……。
立香は今までの情報を噛み砕き、そして彼なりの結論を出した。
「うーん……つまりゲームで例えると、『HPが低いけど素早くて攻撃を当てづらい』みたいな敵には強いけど、『回避性能が低い代わりにHPと防御力が高い』みたいな敵に使っても威力が低いからただ驚かすだけ、みたいな宝具ってことか」
「先輩、その例えは流石に伝わらないのでは……」
「いや、素晴らしい例えだ。心配は無用だキリエライト嬢。ゲームが何なのかは聖杯からの知識で知っている。なんでも最近の流行りはスマートフォンなる高機能な石板で行うソーシャルゲームだとか」
『最近の聖杯はそんなことまで教えてくれるのかい!? ソシャゲに詳しい英霊ってなんだかちょっぴり嫌だなぁ……』
「
『立香くん!? 今僕を刺す必要はあったかい!?』
談笑で少し緩んでしまった空気。
それをもう一、二往復した会話の後、考えが纏まったらしい立香が戻す。
「それで、作戦のことなんだけど……こういうのはどうかな」
そして立香は、その場にいた人間に、自分が思いついた作戦を5分ほどかけて語った。
語り終わって、数秒。地に視線を落とし思考していたブルータスが沈黙を破る。
「それは……確かに名案だが」
「何か駄目だった?」
「いや……その作戦だと、潜伏する僕を監視する者が居ない。つまり僕が裏切った時、誰もそれを認知できないということだ。それはあなた方からすると怖いのでは、と……」
歯切れ悪く言う彼に、立香は一言。
「なんで? 別に裏切らないでしょ、ブルータス」
真顔で、事も無げに。
それを向けられた男は瞠目し……努めて目を合わせないようにしながら、懐の短剣の柄を握りしめながら問う。
「……私は『ブルータス』だぞ、マスター。人類史稀に見る裏切者、信頼を裏切ったから英霊に成った、ろくでもない男だ。そんな僕を、何故……」
俯きながら言う彼の腹に、ぽす、と優しい拳が当たる。顔を上げれば、そこにあるのは立香の笑顔。
そして拳が添えられた位置は、先ほどブルータスが短剣で触った部分と同じ腹。拳と刃、種類は違えど同じく無傷のそこを示すようにしながら立香は言う。
「裏切るならさっきので俺の腹を刺してるハズだろ。それに、カリギュラから俺の事助けてくれたし」
「はい、冷静に考えれば確かにそうです。それに現代では、『ブルータス』の名前は裏切者というニュアンスと同様に、悲劇の主人公や民主主義の先導者のような意味合いも持つようになっていますから」
『うーん、僕としては正直、彼を100%信用するのは不安だけど……ま、2人が決めたのならそれを尊重すべきか。カルデアもその選択に異論なし、ということで』
立香と、彼に追従するマシュたちの言葉。そして、言葉に込められた信頼の
その色彩が己の魂に満ちるのを感じる。
そして、何か言葉を返す前に立香が拳を上にあげた。そのまま天を衝くようにしながら、彼は相手の目を見て言う。
「信じてるよブルータス。一緒に頑張ろう!」
冴え渡る蒼天の下、鳥が彼方の地平を目指すように飛ぶ。
そうしてネロ率いるローマ軍は、昼の内にガリアの地へと辿り着いた。
◆◇◇◆
ネロ率いるローマ軍が、ガリアに駐屯していた『連合』の兵団と接敵。
数度の衝突はサーヴァント級戦力5騎を有するローマ軍が圧倒的優勢で進み、遂に敵軍は前線から退き出した。だがそれは敗走では無く撤退。彼らの目的はひとつ……一般兵では歯が立たないサーヴァントたちに自軍のサーヴァントを――そしてガリア駐屯兵団の将である男をぶつけるためである。
かくして、その男は戦場に姿を現した。
古代ローマの
即ち。
「あー、待たせたな其の方ら。茶番は終わり、此処からがサーヴァント戦だ」
連合兵の中から、一人の男が歩み出てくる。
赤に金をあしらった、軍服にも似た風の装束。頭には至高を意味する月桂樹の冠を乗せ、腰には黄金の剣を差している。
その表情は不遜な笑み、灰色にも見える緑の瞳には深い英知の気配が潜み、立ち姿は大英雄の風格を感じさせる堂々たるもの。
「まったく。英霊の戦いというのは面倒臭い。私は本来指揮官なんだがな。そんな私が前線に出ざるを得んとは……まあ自軍に無駄な損害を出すよりはよいか。なにせ英霊というのは同じ英霊でないと傷ひとつ付けられないのだから、一般兵ではいくら頑張ろうと犬死にだ」
しかして呟いた男の一番の特徴は、その圧倒的な存在感であった。
そう、圧倒的。詳しく描写するならば――主にその腹部周りの肉が、実にふくよかな感じで圧倒的であった。
そんな存在感大きめの英霊を目の前に、ネロは彼が何者であるのかを悟る。
「その黄金の剣、そして伝説に勝るとも劣らぬ色男ぶり……まさか、貴様は……!」
その言葉に、男は鷹揚に頷くと名乗りを上げた。
「いかにも。私がかつてのローマ
それに対し――立香らから
「……っ」
彼女を酷い頭痛が襲う。それは死した英雄と対峙するという心因的なものか、それとも。
しかし顔を陰らせたのは一瞬だった。ネロは努めて気丈に振る舞い、赤い剣の切っ先をカエサルに突き付け声を張る。
「っ、余は……余こそはローマ第5代皇帝、ネロ・クラウディウスである!! いかに貴君が高名なる英雄神の
それは正しく、皇帝に相応しい気迫の乗った啖呵であった。カエサルから放たれる
その言葉を、覚悟を真正面からぶつけられ……カエサルは笑った。
「好い名乗りだ、皇帝ネロ」
そしてその威厳ある皇帝の表情が、何かを値踏みするような、観察するような男のものへと変わる。
「そして、ふぅむ、おまえがネロか。確かに
よく意図が読めない言葉と共に、カエサルは溜息をつきながら首を振った。その様は大英雄の存在感に似合わず何処か寂しげで、草臥れたような、失敗を悔やむようなものに見える。
そんな彼は、表情にその翳りを残したままネロに向けて言葉を吐いた。
「薔薇の如く見目麗しい女皇帝よ。普段なら美しきそなたに口説き文句のひとつやふたつ吐いてみるところだが……今の私は毒婦に騙されたばかりでな。どうにも食指が動かぬ。許せ」
歯の浮くような
戦場を、特に立香たちの間を生暖かい空気が流れる。しかし、
「むぅ、余は別に貴様に靡くつもりなど無いのだが……それでも、大英雄に袖にされるというのはなんたる屈辱か……! 余は傷つく!」
「ははは、愛い奴よ。安心せよ、貴様ほどの女を袖にするのは私も惜しい。だが……やはりどうにも今はな。いかに美味そうな果物であっても、猛毒の果実と同じ見た目なら食らう気も失せるという話よ」
当人であるローマの偉人二人はそうではないようで、なんか普通に会話していた。流石は情熱の国ローマの王といった所か。……それでいいのか古代ローマ。
そんな空気の中、立香はあえて一歩前に出た。己の前に進み出るその姿にネロが咎めるような声を出す。
「リツカ?」
「ごめん、ネロ。ちょっと聞きたいことがあって」
ネロも立香の真剣さを悟ったのか、それ以上の口出しはしなかった。
そんな立香にカエサルの視線が――今度は皇帝っぽい迫力と共に――必然向けられる。
「ふむ、貴様が……皇帝の会話を遮るとは中々豪胆……いや、貴様ならその資格はあるか。人類最後のマスターよ。して、私に何が訊きたい?」
その言葉と共に向けられる射すくめるような視線、体形に反して鋭いそれを正面から受け止めながら、藤丸立香は問いかける。
「……あなたは、どうして連合に味方するんですか?」
答えはすぐに帰って来た。
「聖杯だ」
「!」
聖杯。それは万能の願望機。そして特異点においては、多くの場合歴史の異常の原因にしてカルデアにとっての回収目標。
遠くを見るように視線を立香から外したカエサルは、右腕を上げ、手を開いて金色の杯を表しながら続ける。
「
「(奴……ネロと生き写しっていう人と同一人物? だとしたら、そいつはレフじゃない……レフはこの特異点にも居ない?)」
ブルータスが言っていた、連合の裏に潜む『誰か』。立香は今のカエサルの言葉から、それの影が見えたような気がした。
しかし此処は戦場。ゆっくりと思案に耽る時間など与えられるハズも無い。
カエサルは遠くを見ていた視線を戻し、腰の剣に手をかける。
「さて、問答はこれまでだ。雄弁は私の特技だが、戦場においては
すらり、抜き身になった黄金の剣が陽光を反射し眩く輝く。
剣を抜いたことで、カエサルから放たれる圧が数倍に膨れ上がった。例えどれだけふざけて見えても、容姿が想像よりふくよかでも……ガイウス・ユリウス・カエサルは押しも押されぬ大英雄。ローマで一二を争う程高名な英霊にして、死後神格化されたほどの人気と知名度を誇る偉大なる知将。
そんな男の手の中で、『
「覚悟せよ皇帝ネロと一派。既に賽は投げられた。私は確かに軍略の方が得意ではあるが……この黄金剣は些か重いぞ?」
その威圧感を、立ち昇る魔力の震えを前にして、立香らは否応なしに激戦を察した。これより先は、多対一だろうと死を覚悟しなければならない
故に藤丸立香は思う。今この場に居ない男の事を――『作戦』の鍵であり、とある場所にて姿を隠している
「(頼んだよ、ブルータス……!)」
マシュ、ネロ、ブーディカと共に並び立ち、敵将カエサルと向き合いながら、立香は心の中で呟いた。