FGO二次 衛宮士郎みたいな藤丸立香 作:龍川芥/タツガワアクタ
「どれだけちっぽけでも、俺は進む!
その啖呵を聴いた時、クーフーリンは思わず口角を釣り上げた。
この燃える街で出会った、カルデアのマスター・藤丸立香。
魔術師とは呼べない、一般人に毛が生えた程度のマスター。善良で
人並みに優しく人並みに強く、けれど人並みに臆病で人並みに弱い。
だからイマイチ信用出来るか不安だったのだが──そこにあの啖呵だ。そんなもの、まともな英霊なら誰だってやる気が出てしまう。
無謀にも思えるその1歩はしかし、確かな勇気が故の歩み。それはなんの力も無い藤丸立香が、善良で真面目が故に臆病な一般人が、連れ出された死地で「それでも」と足掻くから胸を打つ。
くく、と己の犬歯の隙間から笑みが漏れるのをクーフーリンは自覚した。嗚呼、こんな眩しいものが見れたなら、こんな薄汚れた街にも呼ばれた甲斐があったというもの。
さあ光の御子よ。いや今は森の賢者よ。仮とはいえ己の
槍の代わりに杖を握り締め、巨大な藁人形のような宝具の肩に立ち、その英霊は大きく笑った。
「よく吠えた坊主! ならば星の勇者よ、我がマスターよ、森の賢者が力を貸そう!」
その宣誓に応えるように、
標的は勿論、此方を見上げる黒いシャドウサーヴァント──アーチャー。
「仕留め損ねていたかッ」
「そら、お返しだ弓兵!」
杖が振るわれ、隕石の如き拳が降った。
ズゥン! と地面を揺るがす一撃が炸裂する。飛び散る爆炎にガラス化したアスファルト。
しかし捉えたハズのアーチャーは夜闇の只中に身を躍らせていた。その体は無傷。10
「フン、当たらなければどうということはない。そして──」
アーチャーが着地を待たず構えると、彼の周囲に複数の剣が出現する。それは透明な弓に番えられた矢のように、真っ直ぐ
「それだけ的が大きければ、今度は外さない」
剣の矢が、緑の巨人に炸裂する。宣言通りの全弾命中。ほくそ笑むアーチャー……しかしその表情は、すぐに崩される。
「ハ、森の賢者を舐めんじゃねぇよ」
巨人、健在。
驚愕に目を見開いたアーチャーの体を、今度こそ燃え盛る
「ぐッ……!」
骨を軋ませる衝撃と圧迫感に苦痛の声を上げるアーチャー。しかし彼にはもう、己を焼く焔の檻から逃れる術は無く。
「そら、コレで終いだ!!」
獲物を握り締めた
紅蓮が。憎悪を、恩讐を、泥の
「──」
ただ、最期に誰かの名前を呟いて。
黒いアーチャーはそれ以上の断末魔の声を上げることも許されず、灰となって消えた。
シャドウ・サーヴァントを構成していた魔力の塊、金色の光が夜闇にとける。
『敵性サーヴァント、消滅反応……か、勝った。良かったぁ……』
ロマニの声と共に、戦闘は終わった。
「よう
崩れるように消えた
「良い啖呵だったぜ」
「……?」
憔悴というのか、煤けた頬に伝う汗を拭いもせずに
「ハイタッチだよ。やんねぇのか?」
そう言うと、立香は少しの間百面相をして……その後、諦めたような、悔しがるような変な笑顔をしながら、ゆるゆると手を出した。
「ありがとう、キャスター」
「
ぱん、と2人の手がぶつかる子気味の良い音が、壊れた街に溌剌と響いた。
「先輩っ」
キャスターとハイタッチをした立香は、背後から呼びかける声に振り向いた。
「マシュ!」
駆け寄ってきたマシュの姿を見、そこに大きな怪我が無いのを確認して、立香は大きく息をつく。
「良かった、無事で……」
「はい、それより先輩は大丈夫ですかっ?」
「え? ああ、うん。俺は別に……」
そう答えるとマシュはほ、と息を吐いて、そして頭を下げた。
「すみません先輩。私が不甲斐ないばかりに危険に晒してしまって……」
「な、なんだよそれ」
「私に宝具が使えればあんなことには──」
違う、という叫びを立香はかろうじて飲み込んだ。
マシュ、違うんだ。君のせいじゃない。全滅の危機に瀕したのは、自分がマスターとして不甲斐ないからなのに。
「マシュ。そんなこと言わないでくれ」
「先輩……?」
慰めの言葉を言う立香、しかしその表情がまるで血を吐くように苦しげだったのを、至近距離のマシュだけが気付いていた。
と、キャスターが暗い空気を解消しようとあえて空気を読まない声を出す。
「しかし実際、よく逃げなかったな坊主。オレが
その問いに、立香は頭を掻きながら答える。
「あー、ええと……なんか漠然と魔力?の繋がりが"絶たれた"って感じがしなかったし、サーヴァントが消滅する時の光も見えなかったから、もしかしたら無事かもな、とは思ってた。その場合時間を稼げば宝具展開の隙が作れるかな、みたいなことも漠然とは考えてはいたんだ。自分の中では成功率1割というか、そんくらいの賭けだったんだけど……どうせ逃げたって状況は好転しないって分かってたから、あの時はそれに縋るしか無かったし……」
上手く纏まらず、どんどんとしどろもどろになる言葉。しかしあの黒いアーチャーと対峙した時のことを、あの鉄《くろがね》のような瞳を思い出したとき、胸に宿った譲れない意思の残り火が微かに煙る。
「でも1番は……
あのとき、あの瞬間。藤丸立香の足を前へと進めたのは、間違いなく
「兎に角必死だったんだ。恥ずかしいけど、それだけだよ」
そう締めくくる立香に、キャスターはほうと片眉を上げる。
「ちょっと前まで一般人だった割には魔力に対する感覚が鋭く、思考も戦闘向き。そして何より
「えい、ゆう……?」
「ま、ただの独り言だ。難しく考えんなよ」
何の気なしに語られただろうその言葉は、響きは、けれど藤丸立香の胸に楔のように突き刺さって抜けなかった。
「(英雄、か……)」
腰を抜かしたオルガマリー所長を助け起こし進む一行の中で、立香は考え続ける。
もしも、何もできない「一般人あがりのマスター」じゃなくて、英雄ってヤツに成れたなら。
「(俺は──)」
その先が形になる前に、立香たちは「大聖杯」へと辿り着いた。
◆◇◇◆
漆黒の魔力が空間に渦巻く。
「卑王鉄槌──『
彼らは黒き破滅を目の前に、それでもと希望の星へ手を伸ばす。
「令呪解放──」
「仮想宝具、疑似展開──『
ふたつの宝具がぶつかる。
マシュが立香と共に構えた盾、そこから広がる光の守りは、黒い怒涛を辛くも押しとどめた。
──が、反撃はそこまでだった。
大聖杯を背に、そこから無限の魔力供給を受ける
『つ、強すぎる……! あのサーヴァント、全てのステータスが桁違いだ! それに魔力が大聖杯から供給され続けている……これじゃ勝ち目は……っ』
その剣はキャスターに深手を負わせ、マシュの気力と体力を根こそぎ奪い取っていた。
「クソ、
「……っ、戦闘、続行します……っ」
更に
『高魔力反応、検知……敵の宝具発動まで、あと5秒……』
「(勝てない、のか──?)」
藤丸立香の体から力が抜けた。膝を折らなかったのは、背に乗った「人理」が余りにも重く、それを許してくれなかったから。けれど背負うものの重さは、窮地を覆してなどくれない。
今回はアーチャーの時とは違う。縋る希望が存在しない。
あと二画残った令呪を使って宝具を防ぐことは出来ても、それだけだ。セイバーを倒せるわけではない。攻撃の要であるキャスターは深手で動けないうえ、今のマシュでは宝具を展開するキャスターを守りきることはできないだろう。
絶望的に
「(俺はまた、何も出来ない……っ! こんな、こんなところで終わるのか!? 何も出来ない自分のまま、誰も救えないまま死ぬのか……!?)」
ぎゅう、と痛いほどに暴れる心臓を押さえつける。
黒く渦巻く魔力。目前の死が、刻一刻と迫ってくる。
恐怖が液体となって心臓から全身へと流れている気さえした。それほどの恐慌が、立香の全てを襲っていた。
こわい。こわいよ。
心がひび割れていく。現実の前に、粉々に叩き潰され折れていく。
膝から力が抜け、全てを諦め倒れるその瞬間──死にかけの理想の残り香が、微かに魂の内側を撫ぜた。
こわい。こわい。
どうして、こんなにこわいんだろう。
「(どうして……?)」
恐怖に支配された立香の思考は、現実逃避としてその疑問の答えを探し出す。
何故怖いか。決まっている。
命も。
夢も希望も。
友人も、家族も。
過去も未来も。
そして、それよりも大きなもの。
己の双肩に乗った全てが、俺の敗北と共に崩れ去る。
それは世界。
歴史。人理。人の歩みが、目前の敗北によって無へと帰す。
男、女、子供に老人。地球で生きる全ての命が、俺の命運と共に散る。
……だけど、それは理由の全てじゃない。
そう、「世界の危機」を深刻に考えるには、藤丸立香は凡庸に過ぎる。
だから、最も怖いのは。
──絶対に、助けてみせるから。
約束、したんだ。
誰と?
マシュと、約束をしたんだ。
あの爆発事故のとき。壊れたカルデアスの前で。
それなのに、俺はずっと守られてばかり。誰かに助けられて、導かれて、そうしていざ危機に陥っても何も出来ない。倒れた味方を救うことも、より良い選択肢を選ぶことも出来ず、こうして怯えて立ち尽くしている。
奪われるだけの弱者。
食われるだけの小物。
何も成せない一般人。
それは、俺が抱いた
嫌だ。
こんな自分のまま終わるのは、嫌だ。
そう。最も恐れたのは、このまま何も変えられず終わること。運命に抗えない木っ端として、誰も救えない敗者として、約束ひとつ守れず朽ち果てること。それが何より恐ろしい。
だから。
守れるだけの強さが欲しい。
何かを為すための力が欲しい。
世界を、仲間を、マシュを──救うことができる「英雄」に、成りたい。
──胸に宿ったその想いが、闇を退ける炎のように恐怖を祓った。
そうだ、答えは簡単だ。
奪われない方法。守るための方法。
俺に、力があればいい。
この状況を乗り切る力。
敵を、
力が──。
声が、聴こえた。
人類の集合無意識。
それは己の内側から響くような声。
それは遙か高みから告げられるような声。
汝がいつか得るかもしれない
時間の圧縮。
声は示す。進むべき道を。
声は語る。欲した力の在処を。
声は諭す。進んではいけない道を。
声は委ねる。禁忌と排律の選択を。
抑止の英霊への昇華。
滅私の貢献。
その言葉の意味は殆ど分からない。何か重大な
けれど、藤丸立香の答えは決まっていた。
彼は黙って、前を向いた。その瞳には、強い決意が光となって宿っている。
拳を握る。
敵を見据える。
2本の脚でしかと立つ。
藤丸立香は、選んだ。
「
汝の魔術。その起節。
「──