FGO二次 衛宮士郎みたいな藤丸立香   作:龍川芥/タツガワアクタ

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3.理想を抱いて

 

 

「どれだけちっぽけでも、俺は進む! 理想(ユメ)の方へ!!」

 

 その啖呵を聴いた時、クーフーリンは思わず口角を釣り上げた。

 この燃える街で出会った、カルデアのマスター・藤丸立香。

 魔術師とは呼べない、一般人に毛が生えた程度のマスター。善良で凡庸(ふつう)。それは英雄であるクーフーリンにとって、十分に「守るべき存在」としての条件を満たしている。けれど己と肩を並べて戦う指揮官(マスター)としては、些か物足りないのも事実だった。

 人並みに優しく人並みに強く、けれど人並みに臆病で人並みに弱い。

 だからイマイチ信用出来るか不安だったのだが──そこにあの啖呵だ。そんなもの、まともな英霊なら誰だってやる気が出てしまう。

 無謀にも思えるその1歩はしかし、確かな勇気が故の歩み。それはなんの力も無い藤丸立香が、善良で真面目が故に臆病な一般人が、連れ出された死地で「それでも」と足掻くから胸を打つ。

 くく、と己の犬歯の隙間から笑みが漏れるのをクーフーリンは自覚した。嗚呼、こんな眩しいものが見れたなら、こんな薄汚れた街にも呼ばれた甲斐があったというもの。

 さあ光の御子よ。いや今は森の賢者よ。仮とはいえ己の主人(マスター)が胸を張って吠えたのだ。ならばそれに応えるのが英雄(サーヴァント)というものだろう。

 槍の代わりに杖を握り締め、巨大な藁人形のような宝具の肩に立ち、その英霊は大きく笑った。

 

「よく吠えた坊主! ならば星の勇者よ、我がマスターよ、森の賢者が力を貸そう!」

 

 その宣誓に応えるように、緑の巨人(ほうぐ)はその燃え盛る腕を大きく振りかぶる。大地を砕く質量が、渦巻く膨大な魔力が、敵を喰らう高熱の炎が狙いを定める。

 標的は勿論、此方を見上げる黒いシャドウサーヴァント──アーチャー。

 

「仕留め損ねていたかッ」

「そら、お返しだ弓兵!」

 

 杖が振るわれ、隕石の如き拳が降った。

 ズゥン! と地面を揺るがす一撃が炸裂する。飛び散る爆炎にガラス化したアスファルト。

 しかし捉えたハズのアーチャーは夜闇の只中に身を躍らせていた。その体は無傷。10m(メートル)規模の跳躍により攻撃を回避したのだ。

 

「フン、当たらなければどうということはない。そして──」

 

 アーチャーが着地を待たず構えると、彼の周囲に複数の剣が出現する。それは透明な弓に番えられた矢のように、真っ直ぐ巨人(ウィッカーマン)を狙っていた。

 

「それだけ的が大きければ、今度は外さない」

 

 剣の矢が、緑の巨人に炸裂する。宣言通りの全弾命中。ほくそ笑むアーチャー……しかしその表情は、すぐに崩される。

 

「ハ、森の賢者を舐めんじゃねぇよ」

 

 巨人、健在。

 驚愕に目を見開いたアーチャーの体を、今度こそ燃え盛る(かいな)は捉えた。その大きな手のひらで、アーチャーの体を握り締めたのだ。

 

「ぐッ……!」

 

 骨を軋ませる衝撃と圧迫感に苦痛の声を上げるアーチャー。しかし彼にはもう、己を焼く焔の檻から逃れる術は無く。

 

「そら、コレで終いだ!!」

 

 獲物を握り締めた巨腕(きょわん)(あか)く輝く。そしてそのまま闇を煌々と照らす炎が放たれ、固く(とざ)された手のひらの中で暴れ尽くした。

 紅蓮が。憎悪を、恩讐を、泥の霊基(たましい)を飲み込んでいく。

 

「──」

 

 ただ、最期に誰かの名前を呟いて。

 黒いアーチャーはそれ以上の断末魔の声を上げることも許されず、灰となって消えた。

 シャドウ・サーヴァントを構成していた魔力の塊、金色の光が夜闇にとける。

 

『敵性サーヴァント、消滅反応……か、勝った。良かったぁ……』

 

 ロマニの声と共に、戦闘は終わった。

 

「よう坊主(マスター)。怪我ねぇか?」

 

 崩れるように消えた宝具(ウィッカーマン)の肩から立香の目の前に飛び降りたクーフーリンは、片手を上げてニッと笑った。

 

「良い啖呵だったぜ」

「……?」

 

 憔悴というのか、煤けた頬に伝う汗を拭いもせずに(ほう)ける頼りないマスターに、キャスターは上げた腕をひらひらと揺らす。

 

「ハイタッチだよ。やんねぇのか?」

 

 そう言うと、立香は少しの間百面相をして……その後、諦めたような、悔しがるような変な笑顔をしながら、ゆるゆると手を出した。

 

「ありがとう、キャスター」

(オウ)!」

 

 ぱん、と2人の手がぶつかる子気味の良い音が、壊れた街に溌剌と響いた。

 

 

 

「先輩っ」

 

 キャスターとハイタッチをした立香は、背後から呼びかける声に振り向いた。

 

「マシュ!」

 

 駆け寄ってきたマシュの姿を見、そこに大きな怪我が無いのを確認して、立香は大きく息をつく。

 

「良かった、無事で……」

「はい、それより先輩は大丈夫ですかっ?」

「え? ああ、うん。俺は別に……」

 

 そう答えるとマシュはほ、と息を吐いて、そして頭を下げた。

 

「すみません先輩。私が不甲斐ないばかりに危険に晒してしまって……」

「な、なんだよそれ」

「私に宝具が使えればあんなことには──」

 

 違う、という叫びを立香はかろうじて飲み込んだ。

 マシュ、違うんだ。君のせいじゃない。全滅の危機に瀕したのは、自分がマスターとして不甲斐ないからなのに。

 

「マシュ。そんなこと言わないでくれ」

「先輩……?」

 

 慰めの言葉を言う立香、しかしその表情がまるで血を吐くように苦しげだったのを、至近距離のマシュだけが気付いていた。

 と、キャスターが暗い空気を解消しようとあえて空気を読まない声を出す。

 

「しかし実際、よく逃げなかったな坊主。オレが()られて無いって分かってたのか?」

 

 その問いに、立香は頭を掻きながら答える。

 

「あー、ええと……なんか漠然と魔力?の繋がりが"絶たれた"って感じがしなかったし、サーヴァントが消滅する時の光も見えなかったから、もしかしたら無事かもな、とは思ってた。その場合時間を稼げば宝具展開の隙が作れるかな、みたいなことも漠然とは考えてはいたんだ。自分の中では成功率1割というか、そんくらいの賭けだったんだけど……どうせ逃げたって状況は好転しないって分かってたから、あの時はそれに縋るしか無かったし……」

 

 上手く纏まらず、どんどんとしどろもどろになる言葉。しかしあの黒いアーチャーと対峙した時のことを、あの鉄《くろがね》のような瞳を思い出したとき、胸に宿った譲れない意思の残り火が微かに煙る。

 

「でも1番は……あのサーヴァント(アーチャー)相手に1歩でも引いたら、何だか折れちゃ駄目なモノが折れる気がして」

 

 あのとき、あの瞬間。藤丸立香の足を前へと進めたのは、間違いなく理想(ユメ)を追うという意思だった。

 

「兎に角必死だったんだ。恥ずかしいけど、それだけだよ」

 

 そう締めくくる立香に、キャスターはほうと片眉を上げる。

 

「ちょっと前まで一般人だった割には魔力に対する感覚が鋭く、思考も戦闘向き。そして何より死地(あそこ)で引かない胆力……坊主、お前結構向いてるかもな。()()に」

「えい、ゆう……?」

「ま、ただの独り言だ。難しく考えんなよ」

 

 何の気なしに語られただろうその言葉は、響きは、けれど藤丸立香の胸に楔のように突き刺さって抜けなかった。

 

「(英雄、か……)」

 

 腰を抜かしたオルガマリー所長を助け起こし進む一行の中で、立香は考え続ける。

 

 もしも、何もできない「一般人あがりのマスター」じゃなくて、英雄ってヤツに成れたなら。

 

「(俺は──)」

 

 その先が形になる前に、立香たちは「大聖杯」へと辿り着いた。

 

 

 

 ◆◇◇◆

 

 

 

 漆黒の魔力が空間に渦巻く。

 

「卑王鉄槌──約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)

 

 黒い騎士王(セイバー)の破軍の宝具が、軌道上の全てを破壊せんと迫る。敵意と殺意で黒く染まった伝説の剣の一撃を迎え撃つは、人類最後のマスターとそのサーヴァント。

 

 彼らは黒き破滅を目の前に、それでもと希望の星へ手を伸ばす。

 

「令呪解放──」

「仮想宝具、疑似展開──人理の礎(ロード・カルデアス)!」

 

 ふたつの宝具がぶつかる。

 マシュが立香と共に構えた盾、そこから広がる光の守りは、黒い怒涛を辛くも押しとどめた。

 

 ──が、反撃はそこまでだった。

 

 大聖杯を背に、そこから無限の魔力供給を受ける黒い騎士王(セイバー)は強力に過ぎたのだ。

 

『つ、強すぎる……! あのサーヴァント、全てのステータスが桁違いだ! それに魔力が大聖杯から供給され続けている……これじゃ勝ち目は……っ』

 

 その剣はキャスターに深手を負わせ、マシュの気力と体力を根こそぎ奪い取っていた。

 

「クソ、(ランサー)のオレならあんな一撃……ッ」

「……っ、戦闘、続行します……っ」

 

 更に漆黒の剣(エクスカリバー)が放つ魔力が高まり、二度目の宝具が放たれようとしている。

 

『高魔力反応、検知……敵の宝具発動まで、あと5秒……』

「(勝てない、のか──?)」

 

 藤丸立香の体から力が抜けた。膝を折らなかったのは、背に乗った「人理」が余りにも重く、それを許してくれなかったから。けれど背負うものの重さは、窮地を覆してなどくれない。

 

 今回はアーチャーの時とは違う。縋る希望が存在しない。

 あと二画残った令呪を使って宝具を防ぐことは出来ても、それだけだ。セイバーを倒せるわけではない。攻撃の要であるキャスターは深手で動けないうえ、今のマシュでは宝具を展開するキャスターを守りきることはできないだろう。

 

 絶望的に()()()()()()。ただ、その一手は虚空から湧いてくることなどなく、ただ立香の心を敗北感で埋めるだけだった。

 

「(俺はまた、何も出来ない……っ! こんな、こんなところで終わるのか!? 何も出来ない自分のまま、誰も救えないまま死ぬのか……!?)」

 

 ぎゅう、と痛いほどに暴れる心臓を押さえつける。

 黒く渦巻く魔力。目前の死が、刻一刻と迫ってくる。

 (こわ)い。(こわ)い。こわいコワい恐怖(こわ)い。

 恐怖が液体となって心臓から全身へと流れている気さえした。それほどの恐慌が、立香の全てを襲っていた。

 

 こわい。こわいよ。

 

 心がひび割れていく。現実の前に、粉々に叩き潰され折れていく。

 膝から力が抜け、全てを諦め倒れるその瞬間──死にかけの理想の残り香が、微かに魂の内側を撫ぜた。

 

 こわい。こわい。

 どうして、こんなにこわいんだろう。

 

「(どうして……?)」

 

 恐怖に支配された立香の思考は、現実逃避としてその疑問の答えを探し出す。

 

 何故怖いか。決まっている。()()を失うからだ。

 

 命も。

 夢も希望も。

 友人も、家族も。

 過去も未来も。

 そして、それよりも大きなもの。

 己の双肩に乗った全てが、俺の敗北と共に崩れ去る。

 

 それは世界。

 歴史。人理。人の歩みが、目前の敗北によって無へと帰す。

 男、女、子供に老人。地球で生きる全ての命が、俺の命運と共に散る。

 

 ……だけど、それは理由の全てじゃない。

 そう、「世界の危機」を深刻に考えるには、藤丸立香は凡庸に過ぎる。

 だから、最も怖いのは。

 

 ──絶対に、助けてみせるから。

 

 約束、したんだ。

 誰と?

 マシュと、約束をしたんだ。

 何時(いつ)何処(どこ)で?

 あの爆発事故のとき。壊れたカルデアスの前で。

 

 それなのに、俺はずっと守られてばかり。誰かに助けられて、導かれて、そうしていざ危機に陥っても何も出来ない。倒れた味方を救うことも、より良い選択肢を選ぶことも出来ず、こうして怯えて立ち尽くしている。

 

 奪われるだけの弱者。

 食われるだけの小物。

 何も成せない一般人。

 

 それは、俺が抱いた理想(ユメ)とは真逆の己の姿。

 

 嫌だ。

 こんな自分のまま終わるのは、嫌だ。

 

 そう。最も恐れたのは、このまま何も変えられず終わること。運命に抗えない木っ端として、誰も救えない敗者として、約束ひとつ守れず朽ち果てること。それが何より恐ろしい。

 

 だから。

 

 守れるだけの強さが欲しい。

 何かを為すための力が欲しい。

 世界を、仲間を、マシュを──救うことができる「英雄」に、成りたい。

 

 ──胸に宿ったその想いが、闇を退ける炎のように恐怖を祓った。

 

 そうだ、答えは簡単だ。

 奪われない方法。守るための方法。

 

 俺に、力があればいい。

 

 この状況を乗り切る力。

 騎士王(あいつ)の宝具を止める力。

 敵を、(たお)す力。

 

 力が──。

 

契約だ。

 

 声が、聴こえた。

 

藤丸立香。人類最後のマスター。

(わたし)は■■■。

抑止力。

人類の集合無意識。

人理の存続を望む存在。

 

 それは己の内側から響くような声。

 それは遙か高みから告げられるような声。

 

私が与えるのは汝の力。

汝がいつか得るかもしれない魔術(ちから)

才能の極地。

時間の圧縮。

修練の前借り。

 

 声は示す。進むべき道を。

 声は語る。欲した力の在処を。

 声は諭す。進んではいけない道を。

 声は委ねる。禁忌と排律の選択を。

 

(わたし)が求めるのは世界の守護。

抑止の英霊への昇華。

死後の闘争。

滅私の貢献。

未来への奉仕。

 

 その言葉の意味は殆ど分からない。何か重大な代償(リスク)を孕んでいるのかもしれない。

 けれど、藤丸立香の答えは決まっていた。

 彼は黙って、前を向いた。その瞳には、強い決意が光となって宿っている。

 

 拳を握る。

 敵を見据える。

 2本の脚でしかと立つ。

 

 藤丸立香は、選んだ。

運命(Fate)」を否定することを。

 

望むのならば、唱えろ。

汝の魔術。その起節。

その名は──。

 

「──顕現、せよ(オーダー・ワン)

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