FGO二次 衛宮士郎みたいな藤丸立香 作:龍川芥/タツガワアクタ
藤丸立香に憑依した英霊・■■■の魔術。それは「無限の剣を内包した世界を創る」というもの。
己の心象風景を具現化するそれは「固有結界」という大魔術であり、本来藤丸立香に使いこなすことなど到底できない。
しかし幾つかの要素が不可能を可能にした。
令呪によるブースト。憑依という魔術の特異性。
そして、己の心を侵食されると分かっていてなお、他人の心象風景を受け入れた藤丸立香の覚悟。
それらが「窓」を開いた。内なる世界と外なる世界を繋ぐ窓を。
そう。これは敵を引きずり込む固有結界に
現実と己の内にしかない固有結界、ふたつの異なる空間を繋げる荒業。
それは偶然か必然か──■■■の宿敵の1人であったサーヴァントの宝具、「
「擬似宝具、再現展開──『
ぎちぎちと、音が聴こえる。
それは空間を開く音なのか。それとも体の奥で剣が軋む音なのか。藤丸立香にも分からない。
ただ、その音を疑問を掻き消すように、頭の中で声が聴こえる。
──前を見ろ。敵を見据えろ。
鉄が擦れるようなその声は、立香に進むべき道を示す。
──敵は強い。今のおまえじゃ勝てない。だからせめて想像しろ。空想の中で勝つ手段を、勝つための武器を。それを創り出せるのが……いや、今は貸し出せるのが■の力だ。
不思議と、やり方は分かっていた。
心象風景、同調。
疑似霊基、再現。
魔術回路、複製。
「──
空間の歪みの向こう側、そこから見える剣の世界で動きが起こる。無限に続く墓標のように突き立てられていた剣たち、ゆうに100本は超えるだろう宝具の偽物たちが浮かび上がり、赤茶けた地面に隠していた刀身を露わにする。
「
そしてその切っ先は、一斉に外の世界を、そこに立つセイバーに向いた。それはまるで、引き絞られた矢のように。
「……! 私の道を阻むか、アーチャー!」
「──
剣が、舞った。
否、それは最早洪水だ。魔獣殺し、悪人殺し、鬼殺し、竜殺し──数多の「伝説の剣」、その贋作の贋作が、黒き騎士王目掛けて殺到する。
刃の先の敵を突き刺し、斬り裂き、討ち滅ぼさん、と鈍い輝きを放ちながら。
「くっ──『
贋作の剣の群れを迎え撃つは、正真正銘本物であるエクスカリバー、そこから放たれる漆黒の波動。全てを破壊せんとする魔力の砲撃が剣の掃射と激突、正面から迎え撃つ。
「おおおおおおお!」
セイバーの覇気を纏った声と共に威力を増した黒い怒涛が全てを飲み込む。剣の矢は敵に届くことなく、そのことごとくが砕けてゆく。
「マスターっ!」
その光景に悲鳴を上げるマシュ。
しかし、その軌道上に立香は居なかった。
「いや……上だ」
キャスターには見えていた。
彼の体が遥か上空、洞窟の天井近くの空中にあることが。
「──戦闘記憶、共有……よし、これだっ」
落下の風圧でボロボロの赤い外套をはためかせながら、立香は意識を集中する。
「
思い描くは巨大なる剣。地に海に例えられるほどの威容を誇る神造兵器、その構造はおろか存在を藤丸立香が知るハズはない。しかし憑依した英霊の記憶を辿り、立香はその剣の全てを把握した。
「
魔術回路が熱を持つ。流石に神造兵器、完璧な再現は無理だろう。
だがそれでいい。
ハリボテでいい。
何故なら、この剣は。
「──
その
かくして、藤丸立香の背後に広がる空間の歪みから、ふたつの剣が現れた。
切っ先を見たとき、誰もそれを剣とは思わなかった。
刀身が半ばまで現れても、それは変わらない。
そして柄まで全てが露わになった時……遠くから見ていた者のみが、ようやくそれを「剣」と認識した。
それはまるで、御伽噺の巨人が持つようなサイズの剣。山を斬り裂き海を砕く、その形容に偽り無しの破壊兵器。
それが、セイバー目掛けて落下する。
──ズゥン! と大地が揺れた。
塔のように突き立った二振りの巨剣。濛々と立ち込める土煙。
その中で。
「……これは」
セイバーは健在だった。しかし彼女の顔色は優れない。
「(粉塵の煙幕──最初から視界を封じるつもりで……!)」
イガリマとシュルシャガナは、ほとんど狙いをつけていなかった。それをセイバーの直感は感じていた。
だが、風の無い洞窟内で滞留する土煙と、地面に突き立った
「(奴は何処に──)」
ふと、土煙の向こう側から声がした。
「
声の方角にセイバーは突進する。
「
「(何をするかは知らんが、詠唱が仇となったなっ)」
そして僅かに見えたものに剣を振りぬいて──ギャリ、と明らかに人体のものでは無い感触が彼女の手に伝わった。
「これは……っ」
エクスカリバーが斬り裂いたのは、イガリマの刀身。そしてそれを両断したことにより、その裏に身を隠していた藤丸立香の姿が露わになる。
彼はひと振りの剣を持っていた。巨大な岩塊にも見える、人の身が扱うにはいささか大振りすぎると言わざるを得ない棍棒のような斧剣。
それはギリシャのとある大英雄が有する武器。
それを高々と掲げ、かの
「
人体の急所九つを的確に打ち抜き「九度殺す」技の再現。それが齎す衝撃が世界を揺らす。
何重にも重なった、何かが砕けるような破壊音が響いた。
「が……っ!」
セイバーの顔を覆っていたバイザーと、血のような線が入っていた鎧の一部が砕け散る。戦闘が始まってから初めて、セイバーは痛手と呼べるほどのダメージを受けていた。
しかし。
「(剣が、砕けた!?)」
立香が握っていた斧剣、それが鎧と共に砕け散っていた。自らが生み出す衝撃に、模造品である剣が耐えられなかったのだ。
それにより、セイバーが受けた
「(投影が完璧じゃなかったのかッ)」
歯噛みする立香。更に問題はそれだけではない。彼の背後で陽炎のように揺らめいていた「無限の剣を内包した世界」……それが無くなっていたのだ。
「(固有結界はもう閉じたッ! 残り魔力はそう多くない、宝具レベルの投影は使えて数回……いや、臆すな! ここで畳みかけるんだ!)」
立香は体勢を大きく崩したセイバーに向けて追撃せんと、白黒の夫婦剣を投影する。
「
しかし。
「……っ、はああッ!」
黒色の剣が立香を襲い、咄嗟に交差させた双剣を破壊する。魔力放出によりありえない体勢から無理やり放たれたその攻撃は立香にとって完全に予想外のもので、技の発動をキャンセルされると共に肩に浅い太刀傷が刻まれた。
「ぐっ」
続く剛腕の突きによって立香は大きく弾き飛ばされる。握っていた双剣は跡形もなく砕け散り、即座の反撃は不可能。
「卑王鉄槌──」
魔力が渦巻く。セイバーの四度目の宝具発動。
だが、もう立香の手に令呪は無い。
「マスター、私の後ろへ!」
しばらく高速戦闘に参加できていなかったマシュが、盾を構えて立香の前に立つ。
だが宝具は展開されない。彼女にそんな魔力は残っていない。
「(──駄目だ! 盾だけじゃ防ぎきれないッ)」
立香は見た。盾の骨子・材質では、セイバーの宝具は止められない。
だがマシュは下がらないだろう。彼女の背中が、そこに秘められた覚悟が、一目見ただけで分かるほどにそのことを語っている。
「(頼むっ。もう令呪は無いけれど──俺に、守り抜く力を!)」
立香の右手、既に令呪を使い切った手が熱を持つ。
そして彼は、盾を持つマシュの手に、自らの右手を重ねた。
「先輩──?」
驚いて振り向いたその顔に、立香は真剣な表情で言う。
「マシュ、頼む。俺を信じて」
ぎゅう、と彼女の華奢な手を握る。痛くないように、壊さないように……でも、絶対に手放さないように、強く。
「約束しただろ──絶対に、助けてみせるから」
「……! はい、マスター!」
そして、絶望は放たれる。
「──『
暗き破滅が、絶無の殺意が、膨大な魔力が2人を襲う。呑み込み引き裂き打ち砕かんと牙を剥く。
だが、彼らの目が映すのは眼前に迫った絶望の闇ではなく。
隣に立つ者の顔と、夜闇に輝く一番星の如き希望の未来──
「
花弁が開くように、光の盾が現れた。
激突、衝撃。
「ぐぅッ!!」
「……っ!」
立香とマシュを衝撃が襲った。盾が地面を削りながら後退し、光の盾が一枚、薄氷が割れるような音を立てて砕け散る。
だが、折れない。
「消え去れ、偽物共!」
またひとつ盾が砕ける。腕に体にかかる圧力が増す。
それでも、折れない。
途切れない魔力、終わりの無い忍耐。
永劫とも思える一瞬の連続、コンマ1秒だって全身全霊をやめられない宝具を受けながら、立香とマシュは。
その心は、意思は、決して折れない。
遂に三つ目の盾が砕かれ、残すはマシュの大盾のみ。
さらに増した圧力を盾一枚隔てた裏で受け止めながら、2人は叫んだ。
諦めに膝を屈する為ではなく。
死を前に絶叫する為でもなく。
ただ、運命に抗うために。
死んでいたハズの次の一瞬、たとえ一瞬だけだとしても、その未来を生き抜く力を絞り出すために。
なぜならば。
藤丸立香はマシュ・キリエライトを守り抜くと誓い。
マシュ・キリエライトはそんな藤丸立香を信じたのだから。
その、ほんの数秒だけ敗北を遠ざけた抵抗によって……その命運は繋がった。
「悪ぃなマスター、ちょいと遅れた!」
魔力が渦巻く。それは黒く染まってセイバーの元に収束するのではなく、炎のカタチを取りながら男が握る杖の先に宿る。
「ま、その分しっかり働くぜ。火傷しないように気を付けな!」
男の名はクーフーリン。アイルランド伝説の槍使いにして、今はルーン魔術を操る
「さあ、焼き尽くせ木々の巨人──『
煌々と輝く朱い炎が、夜明けのように闇を裂く。
現れしは燃え盛る藁の巨人──それはセイバーの背後に。
「な」
その大木の如き両腕が、セイバーを捕えようと動く。
「くっ──」
紅蓮の檻に閉じ込められるのをすんでの所で回避したセイバーだったが、それにより彼女の宝具は中断された。
立香たちを襲っていた黒い怒涛は供給口を失い霧散していく。
後には煤けたマシュの盾と……その後ろで荒い息を吐く2人の男女。
立香とマシュは、遂にセイバーの宝具を耐えきった。
膝を付き、疲労困憊といった様子で動けないマシュ。彼女の無事を確認すると、自身も滝のように汗を流す立香は、震える膝に鞭打って盾の影から飛び出すように駆け出した。
その双眸は、真っすぐにウィッカーマンと格闘しているセイバーを捉えている。そして彼は駆けながら叫んだ。
「キャスター! シュルシャガナを!」
「! 成程、そりゃあ良い!」
立香の言葉を一息で介したキャスターはウィッカーマンを操り、地面に突き刺さったままのシュルシャガナを握らせる。
そのまま巨剣を引き抜いた炎の巨人。
その腕を伝い、揺らめく紅蓮が刃身を包む。
身の丈にあった武器を掴んだ巨兵は、その燃え盛る剣をセイバー目掛けて振りぬいた。
「そら、これでも喰らいな!」
地形をも変える一撃が、大洞窟を大きく揺らす。
岩を焼く灼熱と大地を割る剛斬、それが連撃となってセイバーを襲った。
辛くもそれを避けるセイバーだが、そこに余裕はない。
「く、調子に……っ」
「まだまだぁ!」
シュルシャガナによる、地を薙ぎ払う一撃。
それをセイバーは飛び上がって回避し、空中でその剣に魔力を集める。宝具の構えだ。
「消えろ! 『
だが。
「ほぉら、捕まえた!」
紅蓮の
シュルシャガナを放したウィッカーマンが、その巨大な両手でセイバーを掴んだのだ。空中、しかも
「ぐ、うっ!」
灼炎がセイバーの全身を嬲り、巨腕の握力が骨を軋ませる。
流石の対魔力と筋力で対抗しているものの、剣を手放していないのが奇跡の苦境だ。
毎秒炙られる肌と、鎧ごと押しつぶされそうな体。
それは更に悪化する。
「流石に頑丈だなセイバー。なら、コイツでどうだ!」
がぱり、と。
藁の巨人の胸が割れ、炎の檻が口を開いた。
そこは正に焼却炉。塵も灰も残らず焼き尽くす、生贄の処刑場。
ウィッカーマンは、そこにセイバーを押し込める。
苦痛に歪んだ悲鳴が響いた。
燃え盛る檻の中で放たれたそれはくぐもっており、内部で繰り広げられている惨状を何よりも雄弁に語っている。
「オラ、灰となって土に還りな──」
勝負はついた、かに思えた。
だが。
ウィッカーマンの中より、黒い閃光が煌めく。
「オイオイ、マジか!?」
セイバーの宝具が、内部から巨人の腹を食い破った。
黒い魔力の余波が洞窟の天井を叩き、いくつもの岩塊を降らせる。
そんな中、全身を酷い火傷で爛れさせ、その鎧の大部分を破壊されながらも五体満足を保ったセイバーが、ウィッカーマンの腹に開いた風穴から姿を現す。
剣を握りしめる彼女の目は、未だ途絶えぬ殺意と憎悪を滾らせていた。
その視線は、現状最も脅威であるキャスターを見下ろし──
「成程。こりゃ
キャスターは笑った。
それは、セイバーに向けてのものでは無い。
それは、ウィッカーマンがセイバーを飲み込んでもなお、その足を止めなかった男に向けての笑みだった。
彼は走っていた。万が一に備えて。
彼は駆けていた。その万が一のとき、勝利を取りこぼさないよう全力で。
そして、彼は今飛び上がった。
彼の名は。
「セイバーッ!!」
藤丸立香。
彼は叫ぶ。眼前へと迫る、満身創痍の強敵へと。
彼は挑む。己の内に宿った誰かの心、それが強く想う相手へと。
彼は造る。かつて一組の主従が振るった、とある伝説の剣の贋作を。
「
正真正銘、これが最後の一撃である。ロー・アイアスの再現に魔力の殆どを使い果たした立香には、投影一回分の魔力しか残されていない。
それを、絞り出し燃やし尽くして使い切る。
「(この一撃は失敗できない。もっとだ、もっとこの
偽物でいい。
贋作でいい。
だが、心の底から本物足りえんとするのなら。
真作を凌駕することを渇望するならば。
それはきっと、本物以上の偽物に成れる──。
そして、藤丸立香は唱えた。
それは。
「
セイバーは目を見開く。その黄金の輝きは。
自らの運命を決定づけたかつてのあの日あの瞬間、この手で引き抜いた王の証。
そしてそれはもしかしたら……とある少年と少女が共に振るった、絶望を振り払う希望の光。
それが今、藤丸立香の手の中に。
「おおおおおおおおおおおッ!!」
その刃は、まるで黒に染まったかつての主を否定するかのように。
静かに、死闘の決着としては実にあっさりと、セイバーの
「……」
崩れながらも燃え盛る藁の巨人の中。
剣で貫き貫かれたまま、両者は動かなかった。
ただ、藤丸立香と黒き騎士王の目が合う。
彼女は、何かを諦めるように、どこか寂し気に笑った。
「そうか。私の負けか」
体を黄金の光と変えて崩壊していく彼女は、ゆっくりとその手を持ち上げる。
そして、その剣を握っていない方の手で立香に触れる──その頬を、優しく撫でた。
立香は悟った。彼女は、今、自分を通して他の誰かのことを見ているのだと。
永遠にも思えた刹那の接触は終わり、そうしてセイバーは口を開いた。その口元から笑みは消え、その目は今度こそ、自らを打倒した立香のことを見ていた。
「ならば、往くがいい漂流者よ。我らの屍を踏み越えて。果て無き旅路、限りある地平の向こうへと──それが貴様の道ならば」
トン、とセイバーは立香の体を押す。
崩壊する巨人の炎から遠ざけ、庇うように。
そうして、崩れ去る炎の檻の中で、力なく重力に身を委ねながら。
「──」
最後に小さく誰かの名前を呟いて、黒き騎士王は消滅した。
それを見ながら落下する立香。彼にももう着地に使う力は残されていない。魔力が切れ、魔術が解除される。ボロボロの赤い外套が、空気に溶けるように消えていく。
洞窟の硬い岩盤に激突することを覚悟した時。
その背を細い腕が受け止めた。
「マスター!」
盾を捨て飛び込んできたマシュが、膝を付きながらも立香を抱きかかえていた。
「……マシュ?」
「はい! 大丈夫ですかマスター!」
マシュに抱えられながら……立香は、残ったありったけの力で笑った。それは、見るものを安心させるには余りに弱弱しい笑顔だったけど……それでも、藤丸立香は強がった。
「……俺、守れたのか」
「?」
「約束、だよ。無事で、良かった」
「! はい、先輩!」
倒れながら涙目で笑い合う2人。そこに駆け寄ってくるキャスターとオルガマリー。
大聖杯を守るセイバー、消滅。
カルデアの勝利で、戦闘は終わった。