FGO二次 衛宮士郎みたいな藤丸立香 作:龍川芥/タツガワアクタ
1.壊れた歴史の欠片より
そこは荘厳な聖堂だった。
天使の像に見守られるそこで、蝋燭の明かりが揺れる室内に声が響く。
「──告げる。
汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。
聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」
それは女性の声だった。美しく、艶のある声。
だが、もしもこの場にそれを聴くものが居たならば震えあがっただろう。
何故ならその声は、地獄の底から沸き立つ様な憤怒と憎悪に塗れていたのだから。
「誓いを此処に。
我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者」
床が輝き、暗かった部屋を照らす。
室内に立つはふたつの影。
ひとつは異貌の男。不気味な革張りの本を持ち、高い背丈を黒い法衣で包んでいる。その血色は悪く、顔はやつれて大きな目が殆ど飛び出していた。だが何よりも恐ろしいのは、儀式を見守るその表情にはありありと狂気が浮かんでいること。
そしてもうひとつは、黒い鎧を身に纏った女性。
その髪は灰のような色をしていて、その肌は死蝋のように色がない。
ただその口元は獰猛な笑みの形に歪められ、瞳はありありと妄執の色を映していた。
そんな彼女は、獣のような笑みでその不気味なる美貌を汚しながら唱える。
「
部屋を満たす光、聖光を表すように黄金色だったそれがやにわに黒に染まる。
まるで闇が輝いているかのようなその光に呑まれながら、彼女は高々と言い放った。
「汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ──!」
そして、召喚は成立する。
暗き光を放っていた床、そこに描かれた魔法陣から複数の人型が現れ出でた。
そこで、女性が嗜虐的に笑い。
異常は、訪れた。
獣の雄たけびにも似た悲鳴が、拷問を受けているかのような絶叫が、聖堂内にこだまする。
肉が弾け血が飛び散る音が連続して響く。
それは禁忌と冒涜に満ちた饗宴。強制的に英霊の在り方を歪め、主の望み通りに生まれ変わらせる最悪の秘術。
この世のものとは思えない耳を塞ぎたくなる怪音の羅列と、女の狂ったような笑い声が聖堂を満たした。
そして、変貌は完了する。
「クク、アハハ──良く来ました、
そう言って彼女が眺めるのは……異形たる5体の怪物。
元・セイバー。フランスの白百合の騎士。
元・アーチャー。ギリシャ神話の女狩人。
元・ランサー。吸血鬼と呼ばれたワラキア公主。
元・ライダー。竜を手懐けたとされる聖書の聖女。
元・アサシン。美貌の為に生き血を啜ったチェイテ城の女貴族。
それら
それらには共通点があった。それは。
「いえ、こう呼ぶべきでしょうね。我が忠実で残忍なる下僕──
5体の怪物、それは「
竜と人を行き来する者。
その半身を竜と化した者。
辛うじて人型を保つ者。
完全に竜の姿に成った者。
それら多様なる異形の竜、それこそが彼女とその側近が求めし下僕であり。
「命令をあげましょう、私の可愛い邪竜たち。
──塵殺なさい。蹂躙なさい。それが、私が下す唯一の
邪悪は嗤う。手を広げ、旗を掲げながら。
「笑う人が居たならば喰らいなさい。
泣く者を見つけたなら引き裂きなさい。
抗う兵士は灰にして、その妻子も探し出し縊り殺して。
村を焼き、街を破壊し、国を滅ぼし──あらゆる邪悪を為すのです」
それはまるで、民を導く聖女のように。
「神は全てを許すでしょう。今までのように、これからのように。
神罰が下るなら、それは僥倖。だって、それは神の存在の証明ですから」
ただ、その貌に燃え盛るような悪意を滾らせて。
「貴方たちのマスター、ジャンヌ・ダルクが
この世は主の御名の元、等しく有罪。等しく無価値。等しく全てが、ひとかけらも残さず灰と成るべき
だって、それが神意なのですから。違うのなら神は罰を下す筈ですから!
さあ、往きましょうジル、我が復讐の聖戦へ!
まずは懐かしきオルレアン、次にフランスという国そのものを、果てはこの地平の全てを滅ぼします……ああ、ああ! 想像しただけで愉しくって仕方がないわ!」
──あは、あはは、あはははははははは!!!
狂ったように嗤うその声を聞きながら。
傍らに立つ大男は、司祭のように静かに呟く。
「ええ、それがよろしい、我が聖女ジャンヌ。貴女の正当なる怒り、当然たる憎悪、ジル・ド・レェめは大いに肯定致します。なれば私も見届けましょう。貴女が心の底から望んだ、貴女の為の復讐劇を──」
◆◇◇◆
そうして、舞台の幕は上がる。
元一般人、今は抑止力との契約を果たした
彼女は己の
そこに在るは新たなる出会い。救国の聖処女を始めとする、悪に抗う英霊たち。
待ち受けるは過酷なる運命。竜の魔女ジャンヌ・ダルクと、その傀儡たる竜の軍。
御旗は直ぐにぶつかるだろう。
救済と滅亡、守護と殺戮、献身と復讐。真逆の信念を掲げる者たちに、闘争以外の道はない。
訪れるは希望を繋げる勝利か、はたまた絶望に囚われた敗北か──。
「さあ、戦いを始めましょう──」
オルレアンの地にて、