ようこそ不良品だらけの教室へ 作:きよぽん
「それでは、SHRを始める・・・」
我が担任は、朝から虚無感を漂わせていた。まぁ、無理もないだろう。すでに4名もの退学者を出しているのだから。まだその衝撃覚めやらぬクラスメートたちも、さすがにおとなしい。初めからこの態度だったなら、もう少し違う未来もあっただろうに。まさしく後悔先に立たず、だな。
沈黙するオレたちを前に、淡々と朝の連絡事項を伝達する茶柱先生。もともと、あまりやる気があるようには見えなかったが、完全に目が死んでいる。ホワイトルームでも、あのような目になった子供は数日以内に姿を消していったが、果たして彼女は大丈夫なんだろうか?
「・・・以上だ。では諸君、引き続き実りあるスクールライフを送ってくれたまえ・・・」
力なく立ち去る背中を見送ると、隣人が言った。
「むしろ良かったじゃない。早めに問題児たちを切り捨てることが出来たのだから。どうせこの先、クラスの足を引っ張るのは目に見えていたのだし」
確かにな・・・だがお前は、自分が切り捨てられる立場になったとしても同じことが言えるのか?堀北。
しかしオレの呟きが、澄まし顔の彼女に届くことはなかった・・・
~ side 茶柱佐枝 ~
「ふぅ・・・」
職員室に戻ると、私は椅子にへたり込んだ。半ば予想していたとは言え、今年度のDクラスは桁違いのハズレ籤だった。僅か半月で1割の生徒が退学処分。圧倒的じゃないか、
図らずも綾小路と同じネタで自嘲する私に、早速面倒な同期が絡んできた。
「あれれ?まだ4月なのに、もう年度末みたいな顔しちゃって~♪どうしたのかな~?」
私の顔を下から覗き込みながら、あざとく微笑む星之宮。腕を後ろで組み、上目遣いで胸元を強調する姿勢。器用なものだ。その口調と振る舞いだけを見れば、まるでまだ女子高生のようである。
「お前のようなJKが居るかっ!!」
取り敢えず口にしてから、深いため息をつく。私はもう、ダメかも知れない。
「あはは!こりゃ重症だね。ま、しょうがないか~ 下剋上狙うつもりが、早くも本丸が落城寸前なんだから!!ヽ(゚д゚ヽ)(ノ゚д゚)ノ!! コリャタイヘン」
「チエ、貴様・・・」
精一杯凄むも、明らかに目力が足りない。心労はピークに達しているのだ。
「ところで、そんなサエちゃんに相談なんだけど」
と、にわかに表情を改める星之宮。それなりに付き合いの長い私は、思わず身構えた。
「単刀直入に言うね。綾小路君を私に頂戴♥️どうせこのままじゃ宝の持ち腐れなんだし、早晩Dクラスは解体再編でしょ?だから、教員特別推薦枠でBクラスにトレードしたいの」
そう来たか・・・一見おちゃらけた元同級生の慧眼に、内心戦慄する。やつのプロフィールは、ある程度教職員にも公開されているが、まさかこんなにも早く目を付けてくるとは・・・
確かに、いまのDクラスは風前の灯火だ。この退学ペースで行けば、2学期を迎える頃にはもはや、クラスとして存在していない可能性すらある。だがもしそうなれば、担任の肩書きを失った私は、ケヤキモールでインチキ占い師をやらされることになるだろう。(理事長命令)それだけは、何としても避けたい・・・
「いきなりどうした?若い燕にでもするつもりか?」
そんな私の反撃をさらりと躱し、満面の悪い笑みを浮かべる星之宮。本当にこいつ、外見だけは良いな、外見だけは。それ以外は最悪だから2回言ってみたぞ。(錯乱(ノ゚д゚)ノ)
「それもあるかな。(大爆発)て言うか彼、なかなか底が見えないね。世間慣れしてない
「チエ・・・貴様いったい何をしているんだ?」
同期の暴走に、思わず頭を抱える。殴りたいその笑顔。
「はぁ・・・やけにご執心みたいだが、もしかするとお前の見込み違いかも知れんぞ?」
私の
「ううん、それはないよ。プールで見た彼の身体、普通じゃなかったし」ゴクリ
一方、何を思い出したのか、喉を鳴らすチエ。完全に変態である。
「そこまでにしておけ。そもそも、いまのDクラスは窮地なのか?」
「はぁ・・・分かってないね、サエちゃん・・・無駄な足掻きは止めたら?Dクラスはもう終わりだよ。このままじゃ、彼が可哀想」
痛々しいものを見るような目を向けてくるチエ。
「分かってないのはお前の方だ。最終回の逆転サヨナラ勝ちは、WBCでも見ただろう?大谷の激走から吉田の四球に村上の一撃、そして周東の俊足を。胸が熱いな」
「でも、いまのDクラスには
「くっ・・・?!と、とにかく綾小路はやらん!早く授業に行け!」
まるで娘の彼氏を怒鳴る父親のように言い放つが、なおも星之宮は諦めない。
「えぇ~(´ 3`) お願い!頂戴、頂戴よぉ~♥️」
私の腕にしがみつき、ことさらに胸を押し付けながら身体をくねくねさせるBクラスの担任。生徒たちには絶対見せられない姿である。
「ええい!やめろ、暑苦しい」
嫌悪感もあらわに身を捩りながら、私は考えていた。こいつは彼氏にも、こんな感じで
~ side茶柱佐枝 out~
なお、ふたりの絡みを見ていた真嶋先生が、なぜか前屈みで足早に職員室を出て行ったのはご愛嬌である。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
その日の夜。お気に入りの缶コーヒーを買いに出たはずのオレは、なぜか学生寮の裏手で植え込みの中に潜んでいた。構えたスマホの先には、なにやら怪しげな変態男女の影。だが、こうして書くと変態はむしろこっちだな・・・
「こんなところまで追って来るとはな、鈴音」
怪しく眼鏡を光らせる知的なイケメン。あれは・・・例のパントマイム生徒会長。
「私はもう、以前の私とは違います」
縋るように答える堀北。いつもの調子はどこへやら。完全に乙女プラグインが発動して、健気な美少女になっている。いつもあれならば、大天使櫛田ともいい勝負ができるだろうに・・・
「いや、お前は何も変わっていない。早晩、恥を晒すことになるだけだ。今すぐこの学校から去れ・・・尤も、それより先に1年Dクラスが無くなっているかも知れんが」
「い、嫌です兄さん!私は必ずAクラスに・・・!」
「まだそんなことを・・・また痛い目に遇いたいのか?」
なるほど・・・これはこのあと、さらに手厳しく拒絶された堀北がヤンデレ化するパターンだな。
ラノベのテンプレ的な展開を予想していると、知的なイケメンメガネ改め堀北兄が、妹の両手首を掴んで彼女の身体の自由を奪った。すわ、R―18か?!と身構えるオレの視線の先で、そのまま堀北を持ち上げ、地面へ叩きつけようとするイケメン兄さん。仕方あるまい。動画モードのスマホを片手に飛び出すと、オレは彼の右手首を掴んだ。
「なっ?!お前は・・・!」
「あ、綾小路君?!」
ふたりの間に流れていた甘ったるい空気が、瞬時に霧散する。バカ兄貴の行き過ぎたお仕置きかと思いきや、実はバカ兄妹の単なるじゃれ合いだったとは。(目が点)オレはいま、なにを見せられていたんだ?
と、とにもかくにも、一度飛び出したからには、もう後には退けない。状況は継続中なのだ。
「あんた、いま堀北に投げ技をかけようとしたな。しかも、受け身がとれない状態で。生徒会長だったら暴力行為も揉み消せるのか?」
堀北兄の利き腕をロックしたまま圧力をかけるも、ヤツはさらに斜め上の反応を見せた。
「部外者が、身内の
おい、ルビがおかしいだろ。
「・・・やめて、綾小路君。私は兄さんに
コイツら、もうダメかも知れない・・・
「シスコンも度を過ぎると嫌われるぞ?」
オレの
「あっぶな・・・?!」
鼻先を掠める裏拳。バックステップしながら続く上段蹴りを躱し、伸びてきた左手も払い除ける。さらに襲いかかる本気の前蹴り。だが、当たらなければどうということはない・・・
「ほぅ・・・今のを躱すとは、何かやっていたのか」
ふっと戦闘態勢を解いた生徒会長が、感心したように声を漏らす。
「オルガンと戦車道を少々・・・戦車道全国中学生大会で優勝したこともあるぞ」
「・・・それはあり得んな。戦車道は乙女の嗜みだ」
・・・やはりコイツも
「は?に、兄さん・・・?」
まあ、生真面目な彼女には、いまの会話は
「しかし、お前にこんな友人が居たとはな、鈴音」
強引に話題を逸らすシスコン兄さんに、即答するデレデレブラコン妹。
「彼は友達なんかじゃありません。ただのクラスメートです」
どこか既視感のあるやり取りだ・・・
「なるほど・・・で、お前があの綾小路か」
どの綾小路かは知らないが、生徒会長に目をつけられるような覚えはない。
「入試では全教科満点を取り、学年首席で合格したにも関わらずDクラスに配属されたイレギュラー・・・」
「なっ?!あ、あなたが?」
余計なことを・・・驚きに目を見開いた堀北が、きつい眼差しで睨み付けてくる。本当は目立たぬよう、全部50点あたりで揃えるつもりだったんだけどな・・・てか、生徒会長が個人情報をペラペラと・・・この学校のコンプライアンスはどうなっているんだ?
『力を持ちながらそれを使わないのは、愚か者のすることだ』
入試当日。解答用紙を前にして、不意に脳裏を掠めたあの言葉。結局、故意に手を抜くことが出来ず、全部正解で埋めてしまった・・・つまるところ、オレはまだ、あの男の呪縛から抜け出せていないのだろう。
「50万PPで手を打とう」
「は?」
生徒会長の言葉で、意識が現実に引き戻される。
「お前がここで見聞きした、俺と鈴音の
いや、だからルビが・・・とか言ってる場合じゃないぞ、これ・・・
「ほぅ・・・この額では不満か?」
オレの反応が鈍いのを勘違いしたのか、ヤツが再び殺気を纏う。はぁ・・・やっぱりコイツら、似た者兄妹だな。色々と面倒になってきたので、スマホを差し出した。
「賢明な判断だ」
そして、目にも止まらぬ早さでオレのスマホを操作する堀北兄。JKかっ?!
「ところで綾小路、生徒会に興味はないか?いまなら入会特典として、遅刻200回見逃し券と学食1年間無料券が付いてくるのだが」
スマホを受け取ったオレへ、話を振る堀北兄。なんだそれは?ガルパンか?て言うか、ここの生徒会はそんな権限まで・・・
「ないな。幸い、朝には強いんだ。それに自炊も得意でな」
面倒事は避けるに限る。やはりオレは、事なかれ主義なのだ。
「・・・即答か。特典が物足りないというのなら、おまけに妹も付けてやるぞ?」
「なっ?!に、兄さん?!」
またも激しく動揺する堀北。別にお前が驚く場面じゃないだろ、ここ。
「明らかに特典の質が下がってないか?それ」
「なっ?!あ、綾小路君?!」
いちいち騒がしいやつだ。
「ふっ・・・実は今日、1年Cクラスが1年Bクラスを暴力行為で訴えてな。その裁定を生徒会が行うことになった」
すると突然、脈絡のない話を始める堀北兄。なるほど、この手のタイプか。
「なんでも龍園、山田、石崎という屈強なCクラスの男子3人が、白波千尋という小柄なBクラスの女子から暴力を受けて負傷、失神したそうだ。どう思う?」
Cクラスの生徒はあまりよく知らないが・・・
「そいつらは、深夜アニメの見すぎなんじゃないのか?」
「・・・やはりお前とは話が合いそうだ。副会長の席を用意するが、どうだ?」
「なっ?!に、兄さん?」
いい加減、お前の妹を黙らせてくれ、兄さん。
「さっき返事はしたはずだが?」
「ふっ・・・まあいい。気が変わったらいつでも連絡してくれ。生徒会はお前を歓迎する」
そう言われても、あんたの連絡先なんて・・・
「ちなみに俺の連絡先は、さっき入れておいた。確かめて見ろ」
なぜか、オレの思考を先読みする堀北兄。てか、勝手に登録するなよ・・・スマホのアドレス帳を開けば、そこには『兄さん』の文字。まさか、これなのか・・・?
「えっと・・・オレに兄弟は居ないのだが?」
「なっ・・・?!にゅ、入力を間違えたようだ。(汗)あ、あとで『堀北学』とでも打ち直しておいてくれ。それから俺のことは、学と呼んでくれて構わないぞ。妹と区別するためにもな」
「なっ?!に、兄さん?」(語彙力喪失)
堀北お前、さっきから他に言うことはないのか?
「5月1日」
と、またも唐突に、学が言葉を発する。おそらく、こちらの理解度を試しているのだろう。ホワイトルームにも居たな、こういうタイプの教官。
「その日、全てが白日の下に晒される。そしておそらく、お前は生徒会に入ることになるだろう。震えて待て」
やつの姿が暗闇に消えると、堀北はため息をついて立ち上がった。少し乱れた長い髪を耳に掛けながら、口を開く。
「なんだか、おかしなところを見られてしまったわね・・・」
やけにしおらしい態度が、却って不自然に感じられる。狙いはなんだ?
「で、分かっているわよね?」
さっぱり分からん。
「・・・肝心なところで鈍いひとね!に、兄さんの連絡先を教えなさい!ついでに、あなたとも連絡先を交換してあげるわ」
「堀北・・・お前、兄貴の連絡先を知らなかったのか・・・?」
「よ、余計なお世話よ!どうせ、あなたのアドレス帳は空っぽなのでしょう?それを埋めて上げるのだから、私たち兄妹に感謝することね」
相変わらず、どこまで行っても上から目線なやつだ。
「残念だったな、堀北。オレはすでに、3人の女子と連絡先を交換済みだ」
「・・・ごめんなさい。自分がぼっちであることを認められずに、とうとう妄想と現実の区別がつかなくなってしまったのね」
待て待て待て!失礼極まりない勘違いをする堀北へ、オレはスマホを突き付けた。
「なっ?!兄さん以外に一之瀬さんと櫛田さん、それに椎名さんまで?!あり得ないわ・・・って、4人目も居るじゃない?!しかもチエ?チエって誰?どうしてこの女だけファーストネームなの?答えなさい!」
し、しまった!星之宮のアドレスを消し忘れてた。(汗)て言うか堀北、お前完全に彼氏の浮気を問い詰めるヤンデレ彼女だな・・・(ドン引き)
「そ、そうよ!ポイントで無理やり連絡先を買い取ったのでしょう?そこまでするとは、本当に哀れを通り越して呆れるわ」
ほぅ・・・そんな発想が出て来るとは・・・もともと潜在能力は高そうだし、成長を促してやれば使えそうだな・・・
「みんな、向こうからの申し出で交換したんだ。一之瀬は先日、Dクラスの教室まで来てオレを名指ししたことがあっただろう?」
星之宮のケースも含め、あながち間違ってはいないだろう。たぶん。
「あれも、あなたが一之瀬さんにポイントで猿芝居を頼んだのではなくて?」
口の減らない堀北とやり合いつつ、学生寮へと足を向ける。取り敢えず、彼女も育成リストに入れておこう。こうしてDクラスから一挙に3人の退学者が出たその日、オレは50万ポイントとふたつの連絡先、そして3人目の手駒候補を手にしたのであった。
だが、綺麗にエンディングを迎えたオレの預かり知らぬところで、事態は更に動き出していたのである。
「葛城さん!またDクラスから退学処分者が出たらしいですよ。あんなやつらが同級生だなんて、信じられませんね」
「そうだな弥彦。あそこまで酷いと、関わるだけ時間のムダだろう」
そんなクラスメートの会話を素知らぬ顔で聞きながら、ひとり呟く坂柳有栖。
「ふふふ・・・だからあなたはクラスリーダーの器ではないのですよ、葛城君。いまのDクラスを、退学処分者続出の
彼女の目はすでに、その先を見据えている。
「さすがです、綾小路君。あなたはいま、贅肉を落として戦える身体を作ろうとしているのですよね?わたくしは騙されませんよ?作られた天才を葬る役目は、生まれながらの天才であるこのわたくしこそが相応しい。でもその前に、悪い虫(♀)の駆除も必要ですね。ふふふ」ドヨーン
極めて正確に状況分析をする坂柳。しかし、なぜかその瞳は不自然に澱んでいるのであった。
「龍園さん!あいつら、また退学者を出したそうです。バカっすね」
バカ丸出しの石崎が、自分を棚に上げて嘲笑う。
「オイオイ、マジかよ・・・これじゃ、俺たちが攻撃するまでもなくDクラスは消えちまうんじゃねえか?ククク・・・まぁ、先ずはBクラスとの
応じるドラゴンも、伊吹にノックアウトされたことは棚に上げ、Dクラスを揶揄するような笑い声を漏らす。彼の長所はその打たれ強さだ。そしてその敵情分析は、意外なほどに正確なのであった。
「次は綾小路君に、この推理小説を読んで頂きたいのですが・・・おや?ヒロインの濡れ場が多いですね。私も色々と
そして、周囲の不穏な情勢など関係なしに我が道を往く椎名ひより。もしかすると、最後に勝っているのは彼女かも知れない・・・
「帆波ちゃん、聞いた?Dクラス、また退学処分者が出たんだって。半月で4人とか、ヤバいよね?」
再び、しれっと伊吹から帆波へ乗り換えた千尋が言う。当の本人は、全く悪びれる様子もない。無節操な千尋ちゃんだけどおっぱいさえ好きなら関係ないよねっ。(打ち切り確定深夜アニメ)
「綾小路君、大丈夫かな・・・彼に限って、そんなことは無いと思うけど・・・そうだ!今度はお泊まりセットを持っていかなくちゃ」ブツブツ
そして、全然話を聞いていない一之瀬帆波。頭の中は、綾小路のことで一杯なのであった。
こうして様々な思惑が絡み合い、高育の日々は過ぎてゆく。運命の5月1日まで、あとわずか・・・
おわり
最後までお読み下さり、有り難うございました。m(_ _)m