「星野アイ。私の好きなアイドルです」   作:ネオマフティー

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「”ご都合主義” 私の好きな言葉です」




「星野アイ。私の好きなアイドルです」

 

 

無限に広がる大宇宙。

無数の知的生命が生息し、数多の並行世界が存在するこの宇宙の中に、未だ未熟な生命が暮らす青い星があった。

太陽系第三惑星地球。それがこの星の名前である。

この星に宇宙の彼方から、一人の来訪者がやって来た。

 

「ここが地球ですか」

 

降り立った存在は、漆黒の姿からさっそく星の現生生命である人間の姿に擬態して胡散臭い笑みを浮かべると、早速情報収集を開始した。

男の名はメフィラス。この星にやって来た外星人である。

 

「システム異常なし。現生生物への擬態、及びコミュニケーションも問題ありませんね」

 

最低限の予習を済ませていた男は、この星の生命との最低限のコミュニケーションが取れると自負しており、堂々と現生生命の社会へと足を踏み入れた。

男はすぐに順応した。

そんな男は、現生生命の暮らす街に潜入している途中、広告として展開されている巨大なディスプレイで男にとって非常に興味深い映像を目にした。

 

「ほう、この星の生命は偶像に夢を抱くのですか」

 

『アイドルグループB小町』そう呼ばれるアイドルグループのライブ映像。

多くの人々が彼女達に魅了され、熱狂している映し出されていた光景が、男には奇妙に見えた。何故、この星の生命はこのような嘘を重ねる偶像に魅了され、夢を抱くのか。男には理解出来なかったが同時に興味が湧いた。

 

「『郷に入っては郷に従え』私の好きな言葉です」

 

そう言って、男は人間を知るためアイドルファンの世界へと身を投じた。

 

 

 

 

そして、時は流れて……

 

「「「アイー!!!」」」

 

ファン達の熱狂が轟くライブ会場。その中で一際キレッキレのオタ芸を打つダークスーツを着た男がいた。

 

「今日も来てたか、Mr.メフィラス!」

 

「当然です。我々ファンは推しの為に全てを注ぐもの。『粉骨砕身』私の好きな言葉です」

 

男はすっかり染まって沼にはまっていた。

 

男はあまりにも擬態が上手く、あまりにも人間という種に馴染みすぎてしまった。それゆえに男は、強大な上位存在である外星人としての思考と同時に、まだ、未熟で個として完結する事ができない人類の思考を獲得していた。

 

その結果はご覧の通りである。地球侵略の準備の片手間に通い始めたアイドルのライブで一際目立ち、一際『嘘』に塗り固まれた少女に男は興味を持った。

正体を偽っている男は、存在そのものが『嘘』の権化みたいなものである。それゆえに惹かれるものがあったのかもしれない。

しかし、ある日のライブでほんの一瞬彼女が見せた『輝き(心からの笑顔)』を見てすっかり脳を焼かれてしまったのだ。

それから、脳を焼かれた男の推定IQ10000の頭脳は、一周回って主目的を地球侵略から推し活へとシフトさせることを決断した。今では、すっかり筋金入りのアイドルオタクである。

 

「いよいよ次はドームだな、Mr.メフィラス!」

 

「ええ、我々の宿願がついに叶います。どうです。河岸を変えて、この後推しについて語りあいませんか?」

 

「いいねえ!もちろんMr.メフィラスの奢りだよな!」

 

「………割り勘でお願いします」

 

握手会で推しと触れ合い、推しについてラッキョウをつまみに同志達と語りあう。かつて男が仕えていたところでは味わえなかった楽園がそこにはあった。

 

最初は嘘だったその輝きは、だんだんと光を増しているように感じる。その増していく光を(推しの幸せを)見るのが、男にとって至高の喜びだ。

 

この時には、男はもう地球という星より求めるものができていた。

金輪際現れることのないであろう一番星。

決して手に入ることのないその輝きこそが、男が最も求めているものだった。

 

 

 

 

 

 

 

しかし、ドームライブ前日に事件は起きる。

 

 

 

 

 

 

 

side アクア

 

 

「ルビー、アクア、愛してる」

 

 

 

「ああ、やっと言えた」

 

 

 

「ごめんね。言うのこんなに遅くなって」

 

 

 

「あー、よかったぁ」

 

 

 

「この言葉は絶対嘘じゃない」

 

 

 

『愛してる』

 

その言葉を最期に、アイの瞳が光を失う。

刃に刺された出血は止まらない。帯びていた温もりも徐々に失われていく。

医者だった前世の記憶が手遅れだと告げる。

今世の自分には、大人の応急処置を行うための大人の身体も、前世の医療器具もない。

ただ嘆くことしかできない何も出来ない無力な子供。それが、今の僕だ。

僕には、この世界から星が失われていくのを見ている事しか出来ない。

 

 

そう、アクアが思い知らされて絶望した時だった。

 

 

「”目的のためには手段を選ばず”私の苦手な言葉です。ですが、今はそうも言っていられませんね」

 

突然、玄関から男の声が聞こえた。

 

「初めまして。私は、この星に福音をもたらしにやって来た、アイさんのファンです」

 

この日二度目の悪質な家凸厄介ファンの乱入だった。

空間を文字通り飛んで来たかのように現れたのは、全身黒ずくめの異質で胡散臭そうなアイのファンを名乗る男。

人の姿をしているのに、まるで人ではないような異質な存在感を持つ男が、ゆっくりとこちらにやって来る。

 

「…!アイに何をするつもりだ!?」

 

「安心してください。私が、彼女を救ってみせますよ」

 

異質な男がアイへと手を伸ばす。何とか阻止しようとした時、男の語りかけてくる言葉が聞こえた。

『アイを救える』

相変わらず胡散臭い男だ。それでもアイを救えるなら。

例え男が悪魔でも構わない。どうかアイを助けてくれ。

何かの物語みたいに、ご都合主義の奇跡でも起きたら……そんな叶うはずのない夢を願わずにはいられなかった。

伸ばされた男の手が、人ならざる異形の形へと姿を変えてアイに触れる。

 

「愛を知り、その輝きは更に増すでしょう」

 

「どうかその輝きをもっと見せてほしい」

 

「星の輝きをもう一度」

 

この地球上に、瀕死のアイを救う術は存在しない。しかし、宇宙の彼方の星に存在する超高度文明の技術をもってすれば、死者蘇生にも等しい奇跡。今にも消えそうな命を蘇らせることも可能だった。

 

不思議な光景だった。まるで時が巻き戻るかのように傷が癒えていき、アイの瞳に星の輝きが再び宿っていく。

 

「◼️◼️◼️◼️……そうでした。この星ではまだ言語化することも叶わない技術でした。これでは、説明のしようがありませんね」

 

「本来なら、このような処置を施す事は星間協定に違反します。ですが、後悔はありません」

 

「私は、この星で色々と学びました。『バレなきゃ犯罪じゃない』私の好きな言葉です。なので、全力で隠蔽させて頂きます」

 

「それに、例え罰するために光の星の裁定者がやって来ても、私は絶対に抗いますよ」

 

「例え一兆度の焔に焼かれようと、推しへの情熱は決して揺らぐ事はないと誓えますから」

 

それを聞いて、アクアはやっと理解した。ああ、この得体の知れない存在もまた、アイの輝きに焼かれたどうしようもない奴隷(ファン)なのだと。

 

「これで問題ないでしょう。いずれ目を覚まします。とはいえ、人間の身体で無理は禁物です。貴方も今はお休みなさい」

 

男がこちらに手をかざす。すると、眠くなったのか、僕の意識が遠のいていく。

 

「さらば、推しの子よ。ですが、いつかまた出会えたなら、その時は、推し(アイ)について語り合いましょう」

 

そう言って、男は姿を消した。

 

「あれ……私…生きてる……?」

 

アイの声が微かに聞こえた気がした。けれど、限界を迎えた僕はついに意識を失った。

 

 

 

 

「あれ、僕は……」

 

慌てて起き上がって辺りを見渡す。

そこには、(アクア)とルビーを抱くアイの姿があった。

 

「どうしたのアクア。あまえんぼさんだね」

 

「傷は!出血は!?」

 

「大丈夫。私はこんなんじゃ死なないよ」

 

そう言って、アイは僕を抱き寄せる。

アイの温もりを感じる。アイの心臓の鼓動が聞こえる。もう二度と聞く事が出来ないと思ったアイの声が聞こえる。

アイは無事だった。生きている。それが確認できただけで、溢れる涙が止まらなかった。

僕の夢見た世界が、確かにそこにはあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから、アイは何事もないようにドームで舞台(ステージ)に立ち伝説となった。

アイの殺人未遂は、世界からその痕跡一つ残らず消されており、まるで夢だったかのように忘れられた。後日、新聞の端にアイを刺したと思われる男が自殺したとひっそりと記事がのっていた。その後、アイに危害が加えられる事は一度もなかった。

 

「『備えあれば憂いなし』私の好きな言葉です」

 

……きっと、今でもあの得体の知れない男がアイの事を守っているのだろう。とはいえ、あの男の正体は気になる。あの時、アイの状態は間違いなくどうしようもなかった。そのアイを助ける事が出来たあの男の力は、とんでもない異能か、あるいは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

これでも、前世は医者の身だ。興味がないと言えば嘘になる。

この世界には、確かに奇跡があると知ったのだから。

 

それと同時に、俺には一つの懸念があった。あの時、アイを刺したストーカーと俺を殺した男は同一人物だった。だが、アイが入院していた病院も、引っ越したばかりの新居の住所も、大学生だった犯人の男に突き止める事が出来るとは到底思えない。

情報提供者がいる。それも、アイの相当近くに。考えられるのは、俺達の父親だ。

そして、俺達の父親が居る所として最も考えられる場所は、芸能界だ。

 

また、芸能界には得体の知れない男の手がかりもあるはずだ。

 

『お邪魔するよ…斉藤リピア』

 

『ようこそ、山本メフィラス……」

 

きっかけは、とある空調システムのテレビCMだ。

そこには確かに、あの得体の知れない男が出演していた。

()()()()()()()。それが男の名前だった。人とは思えないどこか異質で凄みのある演技が近年話題の俳優らしい。

それが芸名なのか、本名なのかはわからないが、確かめなければならない。俺達の父親と俳優、山本メフィラスの正体を。

そのためにも、俺は芸能界に足を踏み入れることを決意した。

 

「ねえ、監督。俺を育てる気はない?」

 

 

 

 

かくして、幼年期(プロローグ)は終わり……新たな幕が上がる。

 

「おい、まだかかるのかルビー」

 

「もーっ!ちょっと待ってってばお兄ちゃん!この制服カワイイけどフクザツなんだもん……」

 

「初日から遅刻は勘弁してくれよ」

 

「でも、ほんとかわいいーっ♡」

 

「……スカート短すぎじゃないか?」

 

「お兄ちゃん昔からおっさんくさいよね」

 

「それじゃあ、ママ!行って来ます!」

 

「いってらっしゃい!アクア!ルビー!」

 

それでも、今はただ、アイの子供としていられるこの幸せを噛み締めよう。

 

「…行って来ます。母さん」

 

その瞳に母から受け継いだ輝く星を宿して、二人は次のステージへと歩みを進める。

ルビーは伝説になった(アイ)と同じ舞台に立つために。

アクアは全ての真実を知る為に。

未だ復讐の闇の星を抱くことなく、兄妹はついに芸能界へと足を踏み入れる。

 

 

 

「芸能界で待っていますよ。私の推しの子供達」

 

 

 

これは、伝説のアイドルとその子供達。そして、輝きに脳を焼かれた外星人の奴隷(ファン)の物語。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

「はーい撮影お疲れ様でした」

 

「ありがとうございます。では、私はこれで」

 

そう言って男は足早に撮影現場を後にした。

男の名前は山本メフィラス。地球侵略に来たのにアイドルオタクに転身した残念な外星人である。

今日は推しのライブの日。男はどこからか取り出したサイリウムを手に会場へと向かう。

 

「待て、メフィラス」

 

そんな男を背後から呼び止める存在がいた。

先程撮影で共演した俳優、斉藤リピアだった。

 

「何かな、斉藤リピア(ウルトラマン)。私は用事があるので急ぎたいのだが」

 

その正体は光の星の裁定者である。悪質な宇宙人メフィラス。その中でも最も光の星に目をつけられている個体を追って、この地球へと降り立ったのがリピアだった。

 

「何が目的だ。君ほどの存在が何故この星の現生人類、それも特定の個人に干渉している?」

 

「おや、証拠はあるのかな?」

 

「…………」

 

「どうやら証拠はないようだ。では、私はこれで」

 

そう言って男、メフィラスは足早にこの場を去ろうとする。別に裁定者(ウルトラマン)を恐れている訳ではない。ただ、ライブ会場に1秒でも早く向かいたいのだ。

 

「……一つ聞きたい。君の目的はこの星か?」

 

どうせはぐらかされるだろうと思い問いかける。

すると、意外なことにメフィラスは真摯に答えた。

 

「………否定はしないとも。確かに私は、美しいこの星が欲しい。現生人類も好ましく思っている。何より彼等に秘められている力は魅力的だ」

 

好ましいとは愛玩的な意味であり、魅力的とは生物兵器の資源として。どこまでも悪質で傲慢な上位存在としての見解だ。しかし、メフィラスは尚も言葉を続けた。

 

「しかし、私は出会ってしまったのだリピア。決して手に入る事のない光に。それは、かつて闇に身を置いていた私にはあまりにも眩し過ぎた」

 

「だからこそ、私はその輝きをもっと見たいと思った。もっと感じたいと願った。これだけは誓って本心だとも」

 

意外だった。あのメフィラスが、かつては闇に仕え、光の星に攻め込んだ存在がこうも変わるのかと驚愕した。

 

「そんなに推し(アイドル)が好きになったのか、メフィラス」

 

「愚問だな。リピア」

 

「わかった。とはいえ、君がこの星を諦めていない以上、私は君を監視し続ける」

 

「そうか。なら、一緒に来るといい。今から私は推しのライブに行くのだよ」

 

そう言って、メフィラスはリピアにサイリウムと推しのタオルを手渡した。

 

「どうだね、リピア。私と一緒にアイを推してみないか?」

 

 

【完】

 

 

 





メフィラス(別個体)…… 宇宙のとある暗黒企業の上からのパワハラと、我の強すぎる同僚達に嫌気がさして癒しを求めて地球を訪れた外星人。
アイの輝きに焼かれて光堕ち(ファン堕ち)した。
芸能界に入ったのは地球掌握のための布石か、それとも、ただ推しと共演したかっただけなのか。その真意は不明である。

もしもアクアが恋愛相談するとしたら、誰が一番ベストだと思いますか?

  • 姫川(異母兄)
  • メルトくん(ある意味先輩)
  • 不知火フリル(妹の友達)
  • ???(頭外星人枠)
  • ???(頭日本神話枠)
  • その他
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