「星野アイ。私の好きなアイドルです」   作:ネオマフティー

9 / 11

私が命をあげたあなたは、確かに私に『愛』をくれた。
あなたという星に出会った私は、もう過去の自分には戻れないだろう。
それでも、後悔はない。
その光の輝きであなたは私に応えてくれたから。
私の願いは総て叶えられた。



私の推しの一番星 後編

 

 

 

かつて、一人の外星人が遥か宇宙の彼方から地球へとやって来た。

紛う事なき星の侵略者。地球を容易く滅ぼし、支配する事も叶う外星人の男は、何故か一人のアイドルに興味を持った。

それは、とびっきりの嘘に騙されたのか、あるいは、嘘だと知った上で秘められた何かに惹かれたのか。

 

「応援していますよ。『アイ』さん」

 

それが、アイドル星野アイと、外星人メフィラスの最初の出会い。

 

星野アイには、目の前のメフィラスが不思議に見えた。

あまり人の顔を覚えるのが得意じゃないアイでも印象に残ってしまう。まるで人間の皮を被った真人間のフリをしている異質な存在。それがメフィラスに対する彼女の評価だった。

『愛してる』がわからなくて言いたくても言えないアイと違って、愛なんて最初から必要としていないように感じる目の前の存在が、なんでファンになったのか、彼女は不思議で仕方なかった。

 

「来てくれてありがとねー☆」

 

(覚えちゃったぞ〜。絶対心の底からファンにしてみせるからね☆)

 

だけど、もしも目の前の存在さえもファンにできたら、その時には誰かを愛せるようになっているかもしれない。そう思ったアイは更に完璧なアイドルを目指して、いつか本当のファンにしてやると誓った。

その後も、外星人はB小町のライブによく顔を出した。アイはアイドルとして更に完璧になっていった。それでも、外星人だけは、他のファンと違ってまだ虜にはなっていなかった。彼女はあくまで観察対象。外星人はそう思っていた。

 

そんなある日、アクアとルビーが産まれてしばらくしてからのライブで、アイはファンに心からの笑顔を見せた。

まだ『愛してる』って言えないけれど、それでも、アイにとって特別な存在に向けたその笑顔は、とても美しいものだった。

 

それが、転機だった。

 

その笑顔に、その愛に、その輝きにメフィラスという外星人はすっかり焼かれてしまった。

 

「素晴らしい……これが、アイドル…!」

 

その日、星野アイは、この星で初めて外星人を虜にしたアイドルになった。

 

 

それから、外星人の行動にも変化が生じた。

いずれ目覚める禍威獣の改造ではなく、CDを積むために奔走し、人類に対しての侵略のプレゼンを考えずにアンチとのネット上での戦いに明け暮れた。

顔馴染みの同士もでき、一緒にライブを盛り上げ、人気投票時は激しい戦いを繰り広げたりと満足のいく推し活を送っていた。

ある時、メフィラスはアイに聞いた。

 

「あなたが望むなら、星でも銀河でもなんでも差し上げますよ」

 

ファンとして贈り物の一つでもと考えて、メフィラスは彼女の望むものを尋ねた。

 

「なら、私が欲しいのはねー……」

 

そして、外星人は彼女の願いを聞き届けた。

 

それからも、アイはどんどん人気になった。

誰もが彼女に目を奪われた。誰もが彼女に虜になった。けれど、ファンのスタンスは人それぞれ。

彼女に恋する者。

彼女を崇拝する者。

彼女という存在そのものに感謝する者、

彼女に全てを狂わされる者。

彼女に対して抱く思いや願いはそれぞれみんな違っていた。

 

そして、ついにあるファンは願ってしまった。ファンを裏切るアイドルに裁きをと。

 

「アイドルのくせに子供なんて作りやがって!」

 

そして……

 

「輝きを汚す愚かな原生人類を生んだこの星に、最早価値などありはしない」

 

「……しかし、彼女という一番星を誕生させた事に感謝して全てを許そう」

 

あるファンは願った。星の物語の続き。アイの生きている世界を。

 

「愛を知り、その輝きは更に増すでしょう」

 

「どうかその輝きをもっと見せてほしい」

 

「星の輝きをもう一度」

 

外星人は初めて、生命を滅ぼす(誰かを傷つける)道ではなく、生命を救う(誰かを助ける)道を選んだ。

その選択によって、一人のアイドルの命は繋ぎ止められた。

 

それが、推しの彼女が引退する最後の日までサイリウムを振り続けた一人の外星人の地球での物語。

 

 

 

 

 

 

 

 

時は流れてかつてファンと推しのアイドルの関係だった二人は、推しの子の星野ルビーのライブを二人で並んで見ていた。

 

「ずっと向こう側にいたから、なんだか新鮮だよね〜」

 

そう言って、ステージアイドルとして推される側だった頃を思い出しながら、アイドルとして輝いているルビーの姿を見て楽しんでいた。

 

「メフィラスさんは知ってるんだよね。ルビーが私の子供だって」

 

「ええ、星野アクアと星野ルビー。あなたの子供の二人は、とても素晴らしい輝きを秘めていますね」

 

「そうでしょー!二人とも私の自慢の家族だよ!」

 

そう言って、アイは一瞬瞳を輝かせた。

 

「……でも、正直私に幻滅したでしょ」

 

「いいえ。私が望むのはステージの上で輝いてくれること。それ以外は気にしませんよ」

 

メフィラスにとって、アクアとルビーの二人の子供は彼女からの心からの笑顔を引き出してくれた存在。むしろ感謝しかなかった。

 

「『嘘』……じゃないね。おっかし〜なぁ。普通、ファンってアイドルに男ができたらキレるもんだよ」

 

「そんな事で私のファンとしての思いは揺らぎませんよ。もちろん、ガチ恋勢の『愛』にも私の思いの強さは負けませんよ」

 

「そっかー……やっぱり、変わってるよねメフィラスさん」

 

アイは完全に確信していた。

メフィラスさんは、絶対人間じゃないね。悪魔かな、宇宙人かな、それとも神様かな?

そして、少し聞いてみたくなった。

 

「人間じゃないあなたには、私はどんな風に見えていたのかな?」

 

アイの瞳の星がほんの少し黒く染まる。

嘘も何もかも全部バレているなら聞いちゃおう!という暴露欲求が沸いた結果だった。

 

「この宇宙で最も輝いていたアイドル。それが私の答えです」

 

「本当に?」

 

「はい」

 

「なら、もしも私が思っているよりもずっと汚くて、やなところとかいっぱいあって、そんなどうしようもない『嘘吐き』な人間だったら……どうかな」

 

まるで小悪魔のように、されど少しだけ怯えるようにアイは問いかけた。

 

「それでもあなたは、私を好きでいてくれたかな」

 

「無論ですよ。私が初めて好きになったアイドルは、この宇宙でただ一人だけですから」

 

もっとも、それは筋金入りの焼かれた外星人にとっては即答できるものだった。

この宇宙を見渡せば、合理性を追求し、他者の事など理解しようともせず星系ごと知的生命を殲滅する光の星の連中をはじめ、ロクでもない存在などいくらでもいる。

何よりメフィラスという外星人だって似たようなものだ。

悪質な手口で星を奪おうとした、人間の皮を被った侵略者。それが外星人メフィラスという存在だ。

それに比べて人を愛する事ができないからと、そこで止まらず愛する為に必死に努力を重ねたアイのことを嫌いになる要素などあるはずがなかった。

 

「これは、長い間あなたを見ていた一人のファンとしての言葉です」

 

「あなたは、ステージの上で輝いていてくれた。我々ファンの期待に応えて、完璧で究極のアイドルであり続けてくれた」

 

「何より、我々の(ファンの)『愛』にあなたは笑顔で応えてくれた。例えあなたがそれを『嘘』だと思っていたとしても、我々ファンにとって、それは紛れもなく『本物』だった」

 

「あなたの『愛』は間違いなく、我々ファンに届いていましたよ」

 

宇宙へと進出してどれほどの時が経っただろう。もうとっくに『愛』等という概念等は消失してしまった筈の外星人であるメフィラスにも、彼女が必死に何かを伝えようとしていた事はわかっていた。

人を覚えるのは苦手でも、真剣に向き合って精一杯ファンの名前を覚えてくれた。

一方通行のファンの愛であろうと、『アイ』というアイドルは確かに受け止めて応えてくれた。

ならば、それ以上を望むのは、野暮というものだ。

 

「あなたはあなたのままでいていいのです。そうしてくれているだけで、少なくとも、私というファンにとっては、それが至上の喜びなのだから」

 

私があなたを救った理由はただ一つ。

この青く美しい星よりも、生物兵器として価値のある他の80億の人類よりも、遥かに価値のあるもののため。

 

一番星のように輝いていた、あなたの笑顔をもっと見ていたかったから。

 

「……私は、ファンのみんなに愛してるって言えたのかな?」

 

「あなたは間違いなく、この宇宙で最も輝いていた『我々を愛してくれたアイドル』でしたよ」

 

『愛』なんてものを最初は理解出来なかった。必要性も何もかもわからなかった。けれど、星野アイというアイドルに出会えたおかげで、私は確かに『愛』を知る事ができた。

 

「ドームの時に言ってくれた『愛してる』という言葉からは、確かに今までにない思いを感じましたから」

 

「そっか……あなたからもらったこの命に、私は応えることができたんだ」

 

気がつくと、ライブはフィナーレを迎えていた。

 

「今日一緒にライブを見てくれたこと、そして、あなたというアイドルに出会えたお礼です。あなたが望むなら、私は星だろうと銀河だろうと……この宇宙だろうとあなたに差し上げますよ」

 

「あはは〜☆相変わらず、プレゼントが壮大だよね!」

 

「でも、私が欲しいものは昔も今も変わってないよ☆」

 

「ファンのあなたがこれからもずーっと私を推して(愛して)ほしい!それだけで充分だよ!」

 

私はアイドル。どんな人でも愛してみせる。

でも、私は欲張りだから特別なファンのあなたにはずっと私を愛していてほしい。

それがアイの願いだった。

 

「そうですか…宇宙なら流石にあなたの輝きに釣り合うと思ったのですが……」

 

それを聞いて、アイは少し考えてみた。

宇宙かー……。

『愛してる』って言えたから、もうアイドルはいいかなーって思っていた。

だけど、ルビーの姿を見ているとやっぱりもう一回、今度はルビーと一緒にあのステージに立ってみたいなぁってついつい思ってしまう。

 

「なら、もしも全部やり終えたら、次は宇宙進出とかしてみるのもありかもね☆」

 

もう年だけどねー。と思いながらも、アイには何か予感がしていた。きっと、この宇宙の彼方から来てくれた目の前のファンなら、何かまだ私が見た事のない景色を見せてくれるんじゃないかって。

 

「…!その時は、私も手伝いますよ。あなたの輝きを必ずやマルチバース全てに届けてみせます」

 

「まるちばーす?は、よくわかんないけど、もし、本当にできたらその時は宇宙一のアイドルだね☆」

 

「あなたと、そして彼女がいれば間違いなくなれますよ」

 

そう言って、メフィラスは、ステージに立つまだ生まれたての星のような原石へと目を向けた。

いずれ、彼女もきっと……

その時は、意外と早く訪れるかもしれない。そう思った。

 

そして、幸福な時間にも終わりが訪れた。

 

「ライブももう終わりです。名残り惜しいですが、あなたとも一旦お別れですね」

 

そう言って愛する娘のいるステージの方へと向かって行くアイを見送った。

 

「メフィラスさん!これからも、星野アイを応援してね☆」

 

「ええ、これからも応援していますよ」

 

手を振って最後までアイの姿を見送ったメフィラスは、その後微笑んだまま昇天した。

 

「我が人生に一片の悔いなし。私の実感した言葉です」

 

今日という日は、メフィラスにとって外星人生最大の幸福を味わった一日だった。

 

 

 

 

 

一方、空気を読んでその場を離れたリピアは、星の瞳を持つ一人の青年と出会っていた。メフィラスから叩き込まれたオタ芸スキル。それを上回る熟練のファンとしての技を見せた青年は、隣にいたリピアに気づいて問いかけた。

 

「斉藤リピア。あなたに聞きたい事がある。あなたと一緒にいた男、山本メフィラスとは何者なんだ?」

 

「彼も私も、この星の存在ではない。君達現生人類で言うところの外星人……わかりやすく言えば宇宙人という存在だ」

 

「外……星……人……!?」

 

「星野アイの息子、星野愛久愛海(アクアマリン)。この青い星を救った君の母親に感謝する」

 

「星を……救った?」

 

リピアがあっさり喋ったことで、アクアの脳はキャパオーバーした。

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

「今日という日は、実に素晴らしい1日だった」

 

ライブの後、いつもの居酒屋を訪れたリピアとメフィラスの二人は、カウンターに並んで座ってラッキョウをつまみに日本酒をしみじみと味わっていた。そして、推しと一緒に過ごした幸せな時間を思い出したメフィラスは一時的に再度昇天した。

 

「今、一瞬君の生体反応が消失していたが大丈夫なのか?」

 

「いつものことだ。問題ない。ただ、あの笑顔があまりにも眩し過ぎたのだ」

 

「……そういうものなのか」

 

「そういうものだ。君にもいつか推しができたら、きっとわかる日が来るとも。どうだ、リピア。君も同志になってこの幸福を一緒に感じてみないか?」

 

「わからない。私には、まだ現生人類の特定の個体にそのような感情を抱くことが理解できていない」

 

そう言って、メフィラスから受けとった日本酒をリピアもゆっくりと飲み干した。

 

「だが、私は、この星に住まう人類のことは好ましく思っている」

 

「そうか……だが、その様子なら、いつか君がこちら側に来る日も近いだろう。ならば、今はじっくりと待つとしようじゃないか」

 

お猪口に残る最後の一杯をじっくり堪能し、メフィラスもまた、変わりつつある光の星の裁定者に少しだけ好感を持った。

思えば、この星に来てもう十数年の時が流れた。

最初は興味本位だった推し活も、気がつけば稼いだ資金の全てを注ぎ込み、時間のほとんどを費やすものになっていた。

ある時はグッズやCDにつぎ込み、会場には常に一番乗りするように心がけ、稀にいるアンチ達とのレスバ合戦やアンチスレやアンチのアカウントを消し飛ばしたりと、色々とやっていた過去を振り返った。

私もまた、この星に来て変わったものだ。

 

「……懐かしいものだ」

 

昔の思い出に浸りながら、残ったお冷を最後の一滴まで飲み干した。

 

「大将、おあいそ」

 

そして、機嫌の良かったメフィラスは、たまには奢ってやるかと財布を取り出して中身を見て固まった。

 

「………」

 

やがて、念のために財布の中身を二度見した後、にこやかな顔でリピアの方を向いて言葉を紡いだ。

 

「割り勘でいいか?リピア」

 

「……君は充分に資金を持っていたはずだ。メフィラス。財布の中身はどうした?」

 

「もちろん、ほとんど推しに貢いだ(物販で使った)とも」

 

その言葉を聞いて、リピアはやれやれとため息を吐くと、自身の財布を取り出したのだった。

 

 

 





次回

運命の地宮崎。神を祀るその場所で相対する人ならざる存在達。
そして、運命に導かれ星の下に生まれた二人はついに再会を果たす。
『愛』を知った情炎の宝石は、秘めたる思いを覚醒させ何を思うのか……。

星野ルビー覚醒?編 お楽しみに!

2・5次元舞台編は作者の実力不足と原作の描写が至高なので書くのが難しいです。
なので、アクアにPTSDがなく、全力で異母兄弟の姫川に挑んだり、アクアがいるからかなちゃんが最初から全力だったり、あかねのテンションが結果的に3倍ぐらい高い感じのを脳内補完お願いします。

もしもアクアが恋愛相談するとしたら、誰が一番ベストだと思いますか?

  • 姫川(異母兄)
  • メルトくん(ある意味先輩)
  • 不知火フリル(妹の友達)
  • ???(頭外星人枠)
  • ???(頭日本神話枠)
  • その他
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。