私は魔物だ。
産まれたばかりの時は自我も無く、ただ本能のままに獲物を屠り、喰らっていた。
ある日、私は人間を食べた。
人を初めて食べたその日、私は自身の存在を呪った。
私は
その人間の身体を骨の髄まで食べ尽くした時、私の身体が大きく拉げる様な音を立てて形を変え始めた。
痛みに鈍感な種族であった私はちょっとした鈍痛を感じながら、自身の身体が変わっていくのに戸惑っていた。
本来の肉体より倍近く縮んだ身体は、食らった人間をそのまま模倣した物だった。
金色の長髪。
白く輝く肌。
紺碧の瞳。
私の前で命乞いをし、無惨にその生命を貪られた少女に、私自身がなってしまったのだ。
そして身体の変化が止まると同時に、沢山の記憶が脳に流れ込んで来る。
それは少女の記憶だった。
とある田舎町の平凡な両親の元に生まれ、何の刺激も無く退屈した日々を過ごした幼少期。
両親の反対を押し切り、大きな街に一人移り住み、冒険者として依頼をこなしていく様になり、人生の生きがいというものを見出して来ていた彼女。
仲間と出会い、気の合う友達も出来、ようやく自分の人生が始まったのだと心躍らせていた時。
彼女は、私と出会ってしまった。
彼女はその日、街の近くにある森で、簡単な魔物討伐の任務についている所だった。
目的であるゴブリンを数体殺し、討伐証明の為の耳や牙を切り取って袋に詰めている時。
森から離れていた所にある深い谷に住んでいた筈の私が、獲物を求めて現れた。
見たことの無い魔物に彼女は焦り、袋を投げ出して逃げようとした。
しかし、私の長い腕が背を向けた彼女の足をへし折った。
痛みに叫ぶ彼女の足を掴み、自身の顔の前まで近付けた私は、大きく裂けた口を開ける。
痛みも忘れ、号泣しながら命乞いをする彼女を。
彼女を、私は躊躇い無く食べた。
────痛い! 痛い! 痛い!!
助けて、お母さん。お父さん。
私が悪い子だった。二人の言う通り、ずっと田舎に居たら良かった。
こんな最後を迎えるなら、人生なんてつまらないままで良かった。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
止めて、痛い。助けて。誰か、助け────
途切れた記憶に、自身の頭に右掌を押し付ける。
私は、人間になってしまった。
私は、魔物になってしまった。
痛みで割れそうになる頭を両手で抑えて、私はその場に崩れ落ちる。
そして、叫んだ。
心の底からの怒りを。
心の底からの懺悔を。
私と、私が反発し合い、そして。
プツッと頭の中で音がした瞬間、私は意識を失った。