「理不尽な要請であることは、こちらも理解している。だが、どうかそちらにも理解してもらいたい。トッププレイヤーがこのように二分されてしまった今我々は二つのギルドの友好関係を恒久的に維持し、ゲーム攻略に当たらねばならないのだと言うことを」
攻略会議の会場に急拵の演壇上で重々しく告げたのは
時間は少し遡る。オレ達は朝九時頃に部屋に入ってからお互いの熱を感じていた。正直なことを言うならもっとミトに触れていたかったが時間的にそうも行かない。仕方なく十三時頃に部屋を出る。多分その時のオレ達は物足りないという表情だっただろう。何とか、階段を降りてる最中に切り替えることは出来た。宿のロビーでは、既に食料とポーション類を買い込んでいたキリトとアスナがベンチに並んで待っていた。オレ達の姿を見ると2人は意味深な顔で笑っている。
「あらあら、随分遅かったわね」
「あの、それは・・・」
アスナの揶揄いにミトは恥ずかしくなったのか顔を手で覆い隠す。だが、耳が真っ赤なので恥ずかしがっているのを隠しきれていなかった。
「あんまり虐めてやるな。それより集合時間まで時間があるが、やるべき事はやっておこうぜ」
「話題逸らしたな・・・」
「なんか言ったか?」
「イヤナニモ!」
キリトが何かぼそりと呟いた気がしたが気のせいか。そんな一幕が有りながら、フィールドに出てクエストを受けつつモンスターを狩っていった。気づけばオレとキリトはレベル15にミトとアスナはレベル14になっていた。そうして、時間を潰した後なんとか五時前に攻略集団の会議会場に滑り込めた。既に攻略集団の大多数がブルーとモスグリーンの二色のチームカラーをそれぞれ纏っている集団がひしめいていた。オレ達が着いて数分後に五時の鐘が鳴り響く。隅っこの方に移動すると壇上では、リンドとキバオウが登場したので一緒に拍手。会議の内容は既に分かっていたことだが、お互い青と緑で分かれていた集団が正式なギルドになったとの報告が行われる。ギルド結成のクエストはエルフクエストに比べれば短いがそれでも長い。それを1日で攻略したとなると二大ギルドは寝る間も惜しんでクエストを進めていたと分かるので素直に感心してしまう。ギルドの正式名称や略称、プレイヤーの紹介やメンバー募集の呼びかけが続くが・・・オレ達はギルドに全く入る気はないので特に意味はなかった。だが、ある一言でオレ達の意識は否が応でも壇上に向けられる。
「この会議に参加していて、どちらのギルドにも入っていない人たちはギルドに入る条件を満たしているはずだ。だから、参加するというなら喜んで迎え入れよう。ただ・・・一つだけ特定の人たちに条件を付け加えさせてもらおう。これは、キバオウさんとも話し合ったことだ」
リンドはまっすぐオレ達・・・正確に言うならば、キリトに向けられていた。キリトはというとまさか自分に視線を向けられると思っていなかったのか間抜けな顔をさらしていた。
「・・・・キリトさん」
だがリンドはついでアスナ、ミト、オレの順で視線を向ける。どうやらオレ達のパーティー全員がその条件に見合うらしい。
「そして、アスナさん、ミトさん、タキさん」
アスナとミトは目を丸くし、オレは肩を竦める。名前を呼ばれた時点で既に嫌な予感がヒシヒシと感じられた。
「君たち4人のギルド加入を認めるにはレベルだけでなく、もう一つ条件がある。それは、DKBとALSに二人ずつ加入してもらうということだ」
この時点でオレはこの先のリンドが言いたいことがわかってしまった。その意図を理解した上でこんな感想が出てくる。
「帰りてぇ」
そう一言呟く。周囲には聞こえてねえのは幸いだ。ギルドに入ることはオレ達は特に考えていない。二層でリンドに伝えていたはずだ。だが、その言葉を言ったときDKBとALSのメンバーのうち何人かを除いて厳しい目線を向けられていた。おそらく勧誘の時や二層のフィールドボスの対策会議のときにブツブツ言っていた輩だろう。ミトとアスナは顔を俯いていた。二人の表情は見えない。
「これまでのボス戦で君たち4人の力が突出しているのは誰の目から見ても明白だ。ギルドに入る際に全員が同じギルドに入ると一応拮抗しているギルドのパワーバランスが崩壊してしまう」
一応という言葉にキバオウとALSの面々は眉間に皺を寄せる。だが、それを無視してリンドは続ける。
「理不尽な要請であることは、こちらも理解している。だが、どうかそちらにも理解してもらいたい。トッププレイヤーがこのように二分されてしまった今、我々は二つのギルドの友好関係を恒久的に維持し、ゲーム攻略に当たらねばならないのだいうことを」
時は冒頭に辿り着く。言ってしまえば、オレ達は暴れすぎたらしい。だが、この話はこんな公の場で聞かずとも会議前にオレ達にギルドに入るか聞けば終わっていたはなしだろう・・・待てよ、もしかしたら・・・キリトの方を見ると同じことを考えていたのか目が合う。その上でキリトはどうぞとジェスチャーをする。オレは頷き一歩前に出る。
「了解した。ギルドには今のところは入る予定はないがご厚意は受け取らせてもらおう」
オレは一旦そう返すと・・・両ギルドの面々は少しざわつく。
「ちっ、入らないのかよ・・・」「ビーターと傷野郎は要らないだろ」「そういうこと言うならここに来るんじゃねえよ・・・」
どうやら、キリトだけでなくオレも嫌われているらしい。本人達は小さい声でヒソヒソしているつもりなのだろうが、バッチリ聞こえている。それを聞いたミトは一歩前に出ようとする。
「ちょ「ストップだ・・・」っ!?」
ミトを手で制して止める。多分止めなければオレやキリトに対して何か言ったのだろう。だが、ここで明確に敵対行動を取るわけには行かない。
「気持ちは分かるが、落ち着け。ここで敵対心を見せれば最悪攻略集団から追い出されるぞ」
ミトも頭では理解しているのか唇を噛み締めながら頷いた。幸いギルドメンバー達は今の光景を見ていなかった。リンドは苦笑いしながらも続ける。
「了解した・・・因みに、この状況で敢えてギルドに入らないという決断をした理由はあるのか?」
「決断をした理由はねえな。性に合わないだけだ」
「もう一つ聞いておこう。俺達のギルドに入らないと言うことだが、君達が新たなギルドを設立するってことはないと取ってもいいか?」
やっぱりか・・・この質問が来たことでこの2人の狙いが読めた。オレはそれがわかってため息を吐きそうになるが我慢して答える。
「ないな。オレ達はリーダーって柄でもないしギルドを率いていける自信もない」
それを聞いたリンドとキバオウは納得─────若干、口角が上がっている───────した表情で壇上に置いてある椅子に座り込んだ。オレはそれに苦笑しながら続ける。
「オレ達は今のところギルドに関わる気はない。ただボス戦には参加させてもらうつもりだがいいか?」
「了解した。君達の実力は攻略集団の中でもトップクラスだ。手助けしてくれることはありがたい」
リンドはその後エギル達にも同じ質問をするが彼等もギルドに入るつもりはなく断っていた。それを終えるとキバオウに進行を移して椅子に腰をかけた。その間ミトとアスナは終始不機嫌そうな顔である人物を見つめていた。
「なあ、タキ。あの2人って・・・」
「まあ、怒るだろうよ。オレ達は第三勢力になり得るだろうからってこともあるだろうがな・・・」
リンドの手は遠回しではあったもののオレ達の戦力を削ぐ。もしくは、自分達の陣営に引き込めるかと考えた結果だろう。
「ええか!第三層の突破期間の目標は一週間や!後四日で迷宮区を突破して残りの二日でボスの攻略や!現状ワイらに流れは来とる!このクソゲームをクリア出来る可能性を後からくる奴ら示して見せるんや!気張っていくぞ!」
「「「「オオオ!!!」」」
キバオウのその宣言に集団は右拳を高々と突き上げる。隣のリンドも渋々といった様子で、拳を突き上げていることからキバオウと同意見であることが何となく分かる。そう考えているとアスナが一歩足を踏み出しているのが見えた。
「待てって・・・」
キリトが何とかアスナの左手首を掴みを動きを止める。アスナは振り返らない。しかし、その背中からは怒りのオーラが漂っていた。
「・・・止めないで」
「いや、止める。アスナ、一回落ち着こうぜ」
「今更あの人・・・ギルドの人たちに嫌われてもわたしは構わないわ。ギルドに入りたいわけじゃないし、あんなこと言われて黙ってられないわよ。ここで黙るくらいならわたしは始まりの街に引き返してもかまわない」
アスナの双眸は夕焼けの日の光を反射してギラギラ輝いていた。怒りを宿して燃えている瞳は素直に美しいと思える。そんな彼女にオレ達は何も言えない。だが、キリトが思いもよらない言葉を口にする。
「もし、俺やミト、タキが死んだら君はどうするんだ?」
キリトの声は短い付き合いの中で聞いたことがないほど低い声だった。それを聞いたアスナは思わずといった拍子で振り返る。
「・・・走れるところまで走る。そのつもりよ。あなただったらどうするの?」
二人の間には剣呑な空気が漂っている。オレとミトは迂闊にこの二人の中に入れなかった。キリトは唇を震わせる。その時、キリトは自身の背後を見る。まるで誰かの声を・・・よく見れば、その正体を知ることはできた。
「俺は君には死んでほしくない。だから、今は我慢して欲しい・・・リンドやキバオウ達のギルドが俺達の命を救うことだってあるはずなんだ。だから、それを受け入れるくらいならとか、そんなことを思わないでくれ」
キリトの目は切実だった。アスナの問いの答えになっているかも怪しい。だが、アイツの目からは逃れられない何かを感じられた。
「・・・なら、我慢するわ」
アスナは渋々と言った形でため息を吐き怒りを収めた。彼女の胆力は見事なものだ。
「アスナは優しいわね。私としてはとてもじゃないけど許せないわ」
「いや、落ち着けって。せっかくアスナが我慢してるんだから」
「そのくらい、分かってるわよ。ただタキとアスナの二択を突きつける事がどういうことか・・・いずれ、思い知らせてやるわ」
ミトの背中からは黒いオーラみたいなものが見える。どうやら、リンドの今の行動はミトの逆鱗に触れてしまったらしい。
「こりゃどうしようもねえな」
攻略会議も自然な流れで解散した。もう、ここには用はないだろう。
「とりあえずここから一旦出るか」
オレの言葉に3人は頷く。まだ残っていたエギル達に軽く挨拶する。その時に何故かニヤニヤしているようにも見えたがスルーして会議場を出る。そのまま圏外へ出て森の入り口に差し掛かった所で停止した。キリトはなぜ圏外に出たのか察しているようだが、ミトとアスナは訝しげな表情でオレ達を見る。
「いるんだろ?キズメル」
「気づかれてしまったか」
背後から
「キリトには言葉をかけたことから気づかれていると思っていたが、タキも中々だな。《隠れ身のまじない》で隠れていたのだがそれを看破されるとは思っていなかったぞ」
「オレはたまたまだ。キリトが分かりやすく反応しなきゃ疑うこともしなかったさ」
キリトが振り向いたおかげで誰かいると気づくことすらなかっただろう。
「ちょ、ちょっと待って!まさか宿屋から私達の近くに隠れてたの!?」
宿屋・・・何!?もし、オレ達の部屋にいたのなら・・・
「いや、先程の集会場で見つけたのだ。そもそもこの街に来たのが夕方だぞ」
キズメルの言葉にオレとミトは密かに胸を撫で下ろす。流石に宿屋で何をしていたかは一線を超えてなかったとは言えども見られていい気分はするはずもない。
「どうして、また人族の街に?」
「司令官からの任務だ。内容は其方らの護衛だな。野営地に中々戻ってこないから様子を見よう思ってな」
「そうだったのか。だけど大丈夫か?街のあんな奥まで入って・・・もし人族に見つけられたら・・・」
キリトの言葉に内心頷く。今のキズメルはオレ達にとってはNPCだが、他のプレイヤーから見たらmobと変わらない。もし見つかればどんなことになるか分かったもんじゃねぇ。そう思っているとキズメルはマントをたなびかせながら答える。
「心配するな。この外套のまじないは夕刻と夜明け前に最大の効力を発揮する。ちょっとやそっと触れられたほどでは大抵見つけられない・・・そう大抵はな」
「なんか、済まねえ」
キズメルは
「いや、私の隠密も、まだまだだったというだけだ。次があれば気配を悟らせられぬようにしておこう」
「お手柔らかにな」
オレは苦笑しながら応じる。
「よく気づいたな。俺は声かけられてなかったら多分分からなかったぞ」.
「私は全く気づかなかったわ」
「わたしも・・・どうやって気づいたか教えて」
3人から詰め寄られるがオレとしては空気が揺らいでるのを肌で感じただけなんだがな・・・こんな技術は
「だからたまたまだって、もう一回同じことしようとしても多分出来ないぞ」
「「「本当?」」」
3人がジトーッと見つめてくる。どうやら、疑われているらしい。だが、このままじゃ話も進まない。オレはコホン、と咳払いして切り替える。
「せっかくキズメルが来てくれたんだし、このまま野営地に戻るのもありだと思うんだがどうだ?」
「それもそうだな。攻略の進み具合もアルゴやエギルから情報入るだろうし、補給面も問題はないはずだ」
オレの提案にキリトは賛同の意を示す。ミトとアスナは同様なのか笑顔で頷く。アスナはキズメルと向き合う。
「キズメル。今夜からまたしばらく天幕に止まっても大丈夫かな?」
「構わないぞ。自分の家だと思ってくれても構わない。共に暮らそう。それぞれの務めを果たすまで」
暮らすか・・・キズメルというNPCをオレは既に1人の人として見始めている自分がいる。そう考えるほど・・・彼女の表情はとても人間臭く見えていた。