小さなダイヤは愛の為に 作:あぐらら
お詫びを。
今話にてルビーとアクアの名前を間違っている箇所がありました。すみませんでした…
数日が経ち、何事もないとは言い難い日々が過ぎる。
転生者であるダイヤやアクアにとっては久々となる高校生活だ。その高校生活と言っても、もう両手の指でも数え切れないほど昔のことだ。懐かしさよりも新鮮な気分が頭を占める。
概ね順調だ。元より知人の多かったダイヤは兎も角として、ルビーは寿みなみや不知火フリルと友人となった。アクアに関してはダイヤの把握するところではないが、会話から読み取るに話し相手はいるらしい。
平和な時間だが、大きな変化と言うべきか――
――有馬かなが苺プロに所属した。
先日立ち上げた新規アイドルグループに加入したのだ。その実、端的に言えば
アクアの頼みであれば可能な限り答えるのもまた、献身的な彼女の在り方なのだろう。無論、
察するに、彼女はアイドルデビューに――否、星野ルビーに可能性を見出したのだ。
ルビーにはアイドルの才能がある。単に顔が良いとか、性格が向いているとか、ダンスが上手いとか。そんな話ではなく、要するに瞳だ。瞳で魅せ、皆を惑わせる。
有馬かなはルビーに
故に多少無理のあるアクアの頼みも受け入れたのだろう。この世界で誰よりも早く、
一方のダイヤは比較的平和に過ごしていた。
初日以降、寿みなみと関わる事もなかった。逃げている訳でもないのだから、妙な不気味さを感じる。然し彼女の思考を読めないダイヤにも、予想程度はつく。
数日後に控えた仕事が関係しているのだろう。寿みなみやダイヤ、その他にも同年代数名が集められた番組。それに出演する事になっている。辟易とするが、仕事を仕事だと割り切るのは前世より得意だ。
溜息を噛み殺し演じる程度、ダイヤにも出来る。
―――――――――――――――――
――『今からガチ恋♡始めます』
ネット配信される恋愛リアリティショーのタイトルだ。コンセプトは芸能活動している若者の恋愛的リアリティであり、台本も存在しない。
スタッフからの
出演するのは
ファッションモデルの鷲見ゆき、女優の黒川あかね、ダンサーの熊野ノブユキ、バンドマンの森本ケンゴ、動画配信者のMEMちょ、演者の星野アクア、斉藤ダイヤ――そして、グラビアアイドルの寿みなみ。
鏑木の選出なのだろうか。各方面の高校生を集めた割には、アクアとダイヤの"演者"が被っている。どちらかを無理矢理組み込んだというのは説明する訳でもなく察せられる。
それよりもダイヤが問題視するのは
オファーはあったが、本人の意思で断っていた。然し
恋愛リアリティショーの歴史も二十年程となり、その間に出来上がったノウハウがある。恋愛リアリティショーは必ずしも"リアリティ"を求められている訳でもない。リアルだけを求めるのであれば一般人を採用する。
言ってしまえば、リアルと演技の入り交じる
最初から仲が良ければ良いという話ではない。然し不仲で気まずい雰囲気は配信出来ないし、だが演出しなければいけないのは友情を超えた関係性だ。
詰まるところ、恋愛リアリティショーはリアルではない。
ならば、
明るく気配りの出来るキャラか、控えめで思い遣りのあるキャラか、無愛想だが定期的にデレるキャラか、計算高く掴み所のないキャラか。
「……ども。ヨロシク……です」
――ダイヤが演じるのは
そも、ダイヤが鏑木より求められていたのは"目立ちすぎる端役"だ。これまでの出演した映像では、全て
だが、今回は話が違う。メインとして出演するのであれば、敢えて目立つ理由もない。
そんな選択をしたダイヤとは一転、アクアは――
「めっちゃ緊張するわ〜。みんなよろしくね!」
撮影当日、緊張と照れの混じる笑みを浮かべてアクアが挨拶をする。表面上では初対面の場だ。
「ぷっ!……ゲホッ、ゲホッ…!」
「えっ、ダイヤ君どうしたの?」
「な……なんでも、ない……アクア君」
内心、腹を抱えて笑っていた。
ダイヤとアクアが
言葉足らずで恥ずかしがり屋なダイヤと、明るく現代の"陽キャラ"を体現したアクア。画面外で見ているルビーも腹を抱えて爆笑すること間違いないだろう。
「えぇ〜、カッコイイ〜!役者さんって憧れるぅ」
「MEMちょも可愛いね。めっちゃ照れる……」
「……………」
アクアに笑いかけるのは独特な付け角をした女性だ。緩やかな金髪と星を散りばめたような空色の瞳。人懐っこく、然し表面上には出ない壁も感じる。
本名は分からないが、MEMちょという名で動画活動をしているらしい。良くも悪くも現代の若者と言うべきか、そう振舞っていると認識するべきか。
ダイヤはそっとその場を離れた。
人見知りであがり症な
撮影前のダイヤを知っているからこそ、その言動に違和感こそ覚えるが、演者である前提なのだとしたら敢えて反応する理由もない。
「…………はぁ」
「溜息なんか吐いたら、幸せが逃げんよ?」
「うげっ…」
「嫌な顔せぇへんでよ。カメラ、向いてるよ?」
「…………はぁ」
いつの間にか横に並んで歩く寿みなみ。音声は届かない事を確認し、ダイヤも無表情を装うが、内心が穏やかだとは言い難い。
よりにもよって、出会してしまうのが彼女だ。カメラがある手前、また逃げる訳にもいかない。恋愛リアリティショーは当然ながらタレント同士の交流を目当てとしているので、いくら人見知りなキャラだからといって逃げ回るのは最悪だ。悪印象どころの話ではない。
叶うなら面識のある黒川あかねと過ごし残り時間を消費したかったが、そもそもダイヤを目的として参加しているみなみが見逃してくれる事はなかった。
「そーゆーキャラなん?」
「……うっさい。キャラとか……言うな、よ…」
「あはは、ダイジョーブやって。音声は届かないし、届いたとしても明らかに演技してますって発言を使ったりはせぇへんやろ?」
「………そりゃあね」
飽くまでも『リアリティ』を謳っているのだ。タレントが演者だからといって、公に演技しているだなんて放送出来ない。
それにはダイヤも肯定するしかない。彼女ほど楽観的には在れないが、紛れのない事実でもあるのだから。番組が
撮影範囲内を散歩しながら、他の面子の動向を観察する。アクアはベンチに座りながらMEMちょと会話をしている。黒川あかねと鷲見ゆき、熊野ノブユキに森本ケンゴはまだ固まって行動している。
まだ撮影開始から対して時間も経っていないので、当然、全員が孤立を避け近場にいるタレントと絡んでいる現状。
ダイヤも悪立ちをする気はないので、最初はアクアと互いにフォローし合い、今は結果的にみなみと行動を共にしている。
「ダイヤくん」
「………ん」
「ダイヤくんはどうして"ガチ恋"に出てるん?演じてるんを見るに、出逢い目的ではあらへんよね」
「気まぐれだよ」
「でも……」
「あっ、ダイヤさん!お久しぶりです」
みなみが何かを指摘しようとした刹那、会話に割り込む者がいた。黒川あかねだ。青緑がかった黒髪はダイヤの黒紫の髪と雰囲気が酷似しており、同色の瞳には緊張と安心が入り交じっている。
中性的でクールな外見とは一転、真面目で積極性に欠ける印象が先立つ。スペックは優れているのにその性格故にバラエティ映えしない少女だ。
彼女とは数年前からの付き合いだ。共に端役として映画に出演した程度の付き合いだが、不思議と、彼女から寄せられる想いは憧憬の念が強い。
彼女の方が肉体的には年上なのだが、ダイヤの精神年齢が関係してか彼女は後輩や妹分のような印象が強い。
「あ、すみません……その、お話中でしたか?」
「いいえ〜、大丈夫ですよ〜。それじゃあウチは別の人との交流を深めて来るね」
「…………」
「その……邪魔だったかな?」
「……いや、助かった……」
「そ、そうなの?……ダイヤさん、なんだか雰囲気が違うね……まるで別人」
やはり彼女の瞳には憧憬が浮かんでいる。女優としての彼女はあまりにも未熟だ。大成を夢見て、然し上手くいかず努力を続けている現状。故にこそ彼女にはダイヤが輝いて見えてしまった。
現場荒らしと呼ばれるだけはあり、ダイヤは端役としては相応しくない。つまり主要役向きであり、それはあかねから見ても明らかだった。
それで尊敬しているのに、今回、彼が演じているのは人見知り――つまり、全く持って目立たないキャラだ。それが演技であるのは彼の知人であれば容易く見抜けるのだが、彼女が驚いたのは
それは目立つことに特化した演者ではなく、単純に優れている事の証明に等しい。
「……えっと、どうする…?後ろにカメラあるけど…」
「…どーもしない。リアリティを謳うなら、
「なるほど…」
ダイヤの答えは正解であり、然し間違いでもある。
これが正真正銘のリアリティショーだったのであれば、まず自然体が大前提となるのだろう。しかしながら、リアリティショーは"リアル"ではない。策略と演技が入り交じる舞台だ。
目立てない者は裏を読めない故だ。事実、あかねは今番組を誰よりも真面目に取り組み――だが控えめに捉えられがちだ。
芸能歴は長く、真面目な分の実力はある。足りないのは余裕と価値観なのだろう。価値観は発想力へと転換される。アクアの演出演技然り、ダイヤのメソッド演技法然り、発想力が高い足場を整えているのだ。
「ダイヤさんは凄いね……私には、ダイヤさんのように演技の幅がないから…」
「――必要なのは
「……使い所…」
「あかねの持つ"自分自身"は何か……それを把握して、何に活かせて、いつ爆発させられるのか。まずはそれじゃないかな」
「…なんだか、凄く曖昧って言うか…概念的?…答えが見当たらないね」
「そりゃあクイズじゃないからね。答えなんて千差万別、十人十色だ……って言うのはズルい?」
「意地が悪いとは思うかな。告白して、応えをはぐらかされた気分。それを好き勝手に解釈してって言われてるんだから、誰だって迷うよ…」
少し拗ねるように呟くあかね。当然だ。これはダイヤの価値観で、ダイヤの理論で、ダイヤの人間性の露見だ。彼女はダイヤではないのだから、全てを理解できる訳もないし、理解したとしても大成は叶わない。
この話であかねが唯一理解出来て共感出来はのは、『"自分自身"の使い所』――まとめると、実力を発揮できる条件を見つけろという事だ。
前記の通り、あかねには自信が足りない。十分通用する実力はあるのに、結果を出した経験が薄くが故に自身の発揮出来る実力を見誤っている。
「ややこしく考え過ぎじゃない?要するに『どう目立つ?』って事よりも『何で目立った?』って考えだよ。あかねだって、芸能活動をしてて
「……ちょっと、考えてみるね」
「真面目だなぁ」
人としては美徳だが、それを芸能界でどう活かすのか。それは何処までと彼女次第なのだ。ルビーの件と同じく、ダイヤが過干渉する気はない。
こうして初日は無事に過ぎてゆく。ダイヤにとっては何の収穫もない時間だが、意義も意味もある。無論、すべてが終わった後に付いてくるモノなのだが。
この際だから男子面子との交流もしておこうと、ダイヤは熊野ノブユキと森本ケンゴの元に歩いて向かった。