小さなダイヤは愛の為に 作:あぐらら
感想と評価、感謝です!
――拾われてから一年と数ヶ月が経ち。
ダイヤを含む転生者三人は、立ったり喋ったり等をしても怪しまれない程度には成長した。その間、実に平和な日々が続いた。星野アイはモデルにラジオアシスタント等、着実に仕事も増え、世間に認知されている。
二人の子持ちでありながら目覚しい活躍をするのだから、彼女は何処までも
アイが成功を示している最中、裏でも事が動いていた。
双子が斉藤ミヤコを
世話を続けていた子供が流暢に喋りだし、演技とはいえ威厳のある物言いで口撃してきたのだ。彼女でなくとも信じてしまうのは仕方がない。
一方のダイヤは未だに普通の子供として振舞ってはいたかったが、ルビーに名指しで巻き込まれた。彼女なりの気遣いではあったのだろうが、ダイヤは辟易とした。その結果、一応は母親である斉藤ミヤコへの
それ以上の我儘を重ねる双子が近くにいるのだから、ダイヤは比較的謙虚には見えたのだろう。
そして現在――
「ママぁ、ママぁ〜!よしよししてぇ〜!」
「よーしよし、ルビーは甘えん坊さんだね」
「ッッ〜〜!あぁ…極楽浄土〜♡」
「ん?極楽浄土なんて難しい言葉…どこで覚えたの…?」
「あ……」
傍から見ていたアクアが何とか誤魔化そうと思考を回転させるが、その必要はなかった。アイが怪訝な表情を浮かべたのも束の間であり、次の瞬間には結論を出して納得顔をした。
「……うちの子達、ヤバい位の天才っぽいな……遺伝だね!」
(…ホント、この阿呆さ加減は確かに遺伝だね)
離れた位置に寝転び天井をボーッと眺めるダイヤは、心の中で小さく呟いた。ルビーとアクアは、言葉を解禁されてからは稀に自重を忘れてしまう。その最たるは
「あの阿呆、いつか絶対にやらかすぞ」
「…アレでも演技は上手いんだけどな。将来は役者にでもなるんじゃないか?」
「はいはい、お兄ちゃんは
「まぁ、やらかしたらやらかしたでフォローするさ。俺とダイヤで」
「僕まで当然のように巻き込むなよ」
信頼と呼べるほど大層な感情ではないが、アクアにも彼への仲間意識はある。兄弟のように育てられはしたが、中身が両方とも成人男性なのだ。
無償の信頼は向けれないし、でも敵だと判断するほど冷酷にもなれない。結果、仲間意識が生まれたのだ。
そして、その信頼に近しい期待は彼の人柄ではなく、
「使える手を放置して置くってのは嫌いな考えなんだよ。この世界、お前みたいな嘘吐きの方が賢い奴よりも上手く生きれるんだからな」
「誰が嘘吐きか。"嘘吐き"はアイのロールプレイだし、その気になればルビーみたいな……いや、ルビーと同じ"天真爛漫"
短くない時間を共に過ごし。アクアには斉藤大弥という人間には
言うなれば
これは生前にはなかった才能だ。
ならば必然的に『斉藤大弥』の体に宿る才能の一片であり、星野アイとは別の形で開花された天才性だ。
「ふーん。アレだな、ノンフィクションの映画とかに向いてそうだよな。監督の方針がリアリティ重視だった場合はだけど」
「猿真似にそこまで期待しないでよ?僕だって万能じゃないんだし」
「期待するさ、器用貧乏め」
「不名誉だなぁ」
アクアの赤子の顔に似合わないニヒルな笑みは、また
――――――――――――――――――
数日後。
今日は星野アイの初ドラマの撮影日だ。役としてはセリフが無いに等しい脇役であり、背景にほんの少しだけ映る程度だ。
然し、それで何かを残せたのであれば星野アイの今後に大きく影響するのも確かだ。何が要因で人々を魅せれるのか、其れを彼女は知り、その術を会得している。
「いいですか、二人共。どーしてもって言うから連れて行きますけど……現場ではアイさんをママって呼ばないでくださいよ。私の子供という
自動車の中で斉藤ミヤコは口煩く、然し至極当然の事を繰り返し伝える。
アイを含めた三人は空返事で返すが、ミヤコも大して気にする様子もない。これまで、幾度とアクアやルビーに『現場に連れてけ』と言われた。
端的に言えば慣れてしまったのだ。彼らは見た目に反し、中身は十分に育っている。初歩的なミスなど万が一にも無いし、多少の粗も赤子だからで言い訳がつく。
「……母さん、僕は別に留守番で良かったんだけど…」
「何言ってんの。二人が来るんだから、ダイヤを置いて行く訳がないじゃない」
「頼むからコイツらと同義にしないで欲しい…」
親子と言うには拙い会話を終え、車を下りる。飽くまでも今日はアイの仕事で来ているのであって、マネージャーであるミヤコと見学に来た三人は数歩下がる。
会場内に入ってからも同様だ。アイが出演者や監督に挨拶をして回るのを離れた位置で見守り、視線が合えば軽く礼をする程度だ。
「苺プロのアイです。本日はよろしくお願いします」
「…………」
「…あの、監督…どうかしましたか?」
「…いや、別に」
様式美に則った典型的な挨拶をするが、監督である男はジッとアイの顔を覗き見る。アイだけでなく後ろで見守る彼らも頭に疑問符を浮かべるが、結局、監督が独特な感性の持ち主であると自己納得するしかなかった。
敢えて理由を挙げるなら、彼女を見定めていたのだろうとダイヤは推測する。
役者にも種類があり、その一つが『看板役者』だ。つまり顔の善し悪しということでもある。ある程度の演技力を持つ二人の人間が居たとして、片方は見栄えのない普通の顔。もう片方は絶世の美女。
選ぶならどちらか、と言われれば後者であることは考えるまでもない。無論、人の内面にこそ美を求める者も一定数はいるだろうが、芸能界とは
運は大前提として、実力のあるものが生き残り、次に顔の良い者が残る。出生すらステータスにされて、真面目なだけではズルズルと落ちて行く。
故に過酷だと言われるのだ。
監督はアイの美顔を一目で認め、次に内面を覗こうとしたのだろう。然し覗いても底が見えないのが星野アイという
怪訝な表情のアイに何かを思ったのか、次に監督――五反田泰志はアクア達とミヤコに視線を向ける。
「……そこの子供達は?」
「あっ、私の子です」
「……へぇ、マネージャーが子連れで現場にねぇ」
「「「っ!」」」
鋭い瞳がミヤコと子供を貫いた。普段は冷静に努めているアクアも慄いているのだから、五反田泰志の目つきの悪さが伺える。
然し内面を覗くことに長けて非凡なダイヤには解る。五反田という人間は強面ではあるものの他人に対して牙を剥くような人物ではない。
何方かと言えば、アクアよりもルビーに近い性格なのだろう。無論、彼女ほどのお茶目と言えるほど可愛らしくはないが。
「なるほど…働き方改革ってやつか!てか子沢山だな…」
「僕は養子です。路頭に迷ってたところを母に拾われて、実子の二人と同様に扱ってくれて…仕事場にも連れて来てくれる優しい母なんです」
「言葉達者な子供だな!……でも、へぇ。マネージャーさん、良い人なんだな」
「あっ、はい。ありがとうございます」
五反田は俗に言う
騙され易いという訳でもない。寧ろ、相手が子供であり無警戒で、しかも其の子供は無垢にも"両目の星"を大きく
似合わない態度に隣でアクアとルビーがドン引きしているが、ダイヤとて使える物は使う所存だ。社蓄時代にも学んだ事だが、今の内からコネクションを確保しておけば今後の助けになる可能性が高い。
その為に斉藤ミヤコを利用しているのだが、五反田もミヤコも気が付いていないのだから実質無害だ。
「……こいつマジかよ。堂々とコネクションを作り始めやがった」
「ダイヤは絶対、悪い大人になるよ…詐欺師とか怪盗二十面相とか」
「喧しいわ。平和に生きるには多少の心象操作も仕方ないだろ」
「だからって初対面の監督さんまで対象にするの?」
「ルビー、覚えときなさい。人間は初対面で今後に関する四割が決まる。あと四割はその後の対応で変化して、残りの二割はその人の勝手な想像妄想で左右されるんだ。社畜時代に学んだ」
「「うわぁ……」」
小声でのやり取りも、大人から見れば子供同士の内緒話にしか見えないのだろう。事実その通りではあるのだが、内容が生々しい。
彼は"平穏"に固執しており、その手段には拘らない。嘘を大々的に吐く事もする。事実を大袈裟に
自分の為だけならばここまで見境無しではないが、恩人である星野アイは芸能界に身を置く者だ。息子娘である二人もいずれは同様の立場になると考えたら、今の内から
アイが仕事の準備に取り掛かってる間、ダイヤ達は楽屋で待機する事になっている。
スタッフからの差し入れの菓子類を貰ったり等、決して暇ではない。特にルビーに関しては出演者の女優に甘え、年相応を装う始末。ダイヤとアクアは精神年齢に見合わない行動に抵抗がある故、逃げるように廊下に出ていった。
「……ルビーのヤツ、多分大物になるよ。僕は精神が持たないな」
「都合良く
精神年齢を置いて、肉体年齢に合わせた甘えで違和感を持たれないのだから、余程の演技派なのだろう。アクアにもダイヤにも出来ない事だ。
廊下に出て数分、特にやることもない。
自宅でならばその空白時間も至高と受け取れるのだが、仕事場の雰囲気というのは幼い胃も強く圧迫するものだ。小銭でもあれば近くの自販機で缶珈琲でも買って、一服する事も出来るが、生憎とまだお小遣いを貰えるような歳でもない。
いざ探検、と言えるほど若々しい探究心など持ち合わせてはいない。大人しく楽屋の前で屯っていると――
「――ん?マネージャーのガキ共じゃねぇか」
「あ…監督さん」
無造作に大きく左右に流された茶髪に、相変わらずの人相は鋭い眼に集約される。軽く生えているだけの無精髭も雰囲気を醸し出す要因の一つだ。
「…居るのは構わねぇが、泣き出して収録を止めたら締め出すからな」
「ははっ、そんな事は――」
「あっ、いえ!我々赤ん坊ですがそのような粗相はしないように努めますので!!」
「えっ、アクア…?」
「現場の進行を妨げないのは最低限のルールと認識しております!弊社のアイを何卒ご贔屓に…ッッ!!」
「ちょっ、アクアさん?」
「めっちゃ喋るな!?そんな言葉どこで覚えた!?」
「ゆ、ユーチューブで少々…」
「スゲーなユーチューブって!現代的だなぁ!!」
「………マジか、こうなるのか…」
誰もが『子供』という存在には盲目的になりがちだが、五反田の感性は余程純粋かつ純情らしい。普通なら気味が悪いと思うところだが、それを早熟と受け取れるのだから、ある意味では器が広いとも取れる。
「そっちの子…あー、名前なんだっけ」
「ダイヤです、斉藤大弥。そっちの監督にビビり散らかしてるのがアクアです」
「おぉ、ダイヤか。お前も早熟だな…今の子って皆そうなのか?」
「いえいえ、母の教育の賜物ですよ」
「世辞まで言えるのか。マジでスゲーな、現代っ子」
取り敢えず、全てを斉藤ミヤコに放り投げる事にした。彼女が有能であるのは事実であり、後の対応も上手いことやってくれるだろう。
「……お前達、演者だったりするのか」
「あっ、いえ……俺達はそういうのは…」
「そうですね。見ての通り、ただの早熟ボーイズです」
「自称するのか!……んー、なんか勿体ないな。画面としては面白ぇのに。なんか使いたい…ほら、俺の名刺やるよ。どっかの事務所に入ったら連絡しろ」
「いえ……仕事を振るなら俺とダイヤにじゃなくて、アイの方に…」
「あー、あのアイドルか…」
言葉に困ったように、五反田は彼女を思い浮かべる。彼の監督としての感覚というべきか、既に形だけの答えなら出ているのだ。
それが彼の享受だと雰囲気で語っている。
(………このオッサン、なんか語りだしそうだな…)
一方のダイヤは、面倒臭そうな雰囲気を察してした。五反田のようなタイプは、明確な『自分の感性』を固めている為か一度語り始めると長い節にある。
ダイヤはアクアが思うほどアイドルとしてのアイに執着はしていない。ダイヤを救ったのは
ので、馬鹿正直に五反田のアイに対する印象等を聞く気は全く持ってない。
「ちょっとお手洗いに行ってきます」
「お、おぉ…場所分かるか?」
「はい、なんとなくは」
五反田に短く答え、ダイヤはその場を離れた。背に聞こえる語り口調はやはり長々しく続くのだった。
――そして後日、テレビにてアイの出演したドラマが流れたのだが。
「………出番少なっ」
離れた位置でテレビを見ながら、ダイヤは小さく呟いた。
◆◆◆おまけ◆◆◆
才能
・アクア曰く異常に
一種のロールプレイングである。
然し覗いても内面が見えないタイプもいる。最たるは星野アイであり、最高の嘘吐きは周りを欺くだけでなく自身も隠してしまうのだろうとダイヤは推測した。
オリ主の異物感を醸し出したい。