小さなダイヤは愛の為に   作:あぐらら

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※今話はかなりの自己解釈が含まれます。もしかすれば、皆様の解釈とは異なる可能性が御座います。


よし、忠告はしましたよ?




アイの愛

 

アクアとルビーが産まれてから三年が経った。

 

あの映画を撮ったのも、もう二年前の事だ。『これが始まり』というタイトルであったが、奇しくも、それは星野アイにとっての()()()となった。

有馬かなの演技力も、アクアの素で臨んだ演技も、ダイヤのメソッド演技法も。果てには主人公すらも――全て()()()()()()()()()()

 

カメラを通して惜しみない嘘と才能が発揮されたのだ。褒められるべきは、主人公ではない一番星(アイ)を添えながらも主人公主体の物語(ストーリー)を破綻させずに完成させた五反田泰志の腕だ。

賞にノミネートされたのだから、監督としての彼の才覚も確かなものなのだろう。

 

それがきっかけが否か。

 

アイの仕事は徐々に波に乗っていた。ファッション雑誌のモデルや、クイズ番組やドッキリ等のバラエティ番組。パーソナル食洗機のCMにも出演していた。

絶賛売り出し中のアイドル、という立ち位置で在りながらも全く衰えない"目立つ"才能。アイドル(嘘吐き)の彼女は間違いなく、日本中を鮮やかに欺いているのだ。

 

 

 

 

――アイが明確な成功を叩き出す最中、ダイヤ達は幼稚園に入園した。

 

そろそろ、毎回のように斉藤ミヤコが彼ら三人を現場に連れて行くのにも無理が生じる時期だ。五反田は勝手に『働き方改革』であると解釈したが、全ての人間が彼ほど寛大ではない。

結果、前記の通り三人が三歳になったということもあり、幼稚園に通わせる事となったのだ。

 

「ん〜、今日も可愛いー!三人とも可愛いよ〜っ!!」

 

「まぁ、トータルではママの方が可愛いけどね」

 

「なんの対抗意識だよ…」

 

小さくアクアのボヤキが漏れた。

 

幼稚園デビューしたことにより、アクア達は今世では初めての制服を身に纏う。紺色のベレー帽に、同色の簡易なコートだ。複数個のボタンからは多少の堅苦しい雰囲気もあるが、園児達が自分でボタンを止めれるようになる為の訓練的な意味も込められているのだろう。

紺色の羽織の中には空色の緩やかな園服が着せられており、所謂室内用と言うやつだ。

 

ルビーは平然としているが、ダイヤとアクアは園児服に対して複雑な気分だ。彼らの精神年齢を考慮すれば、其の形容し難い感情も想像に難くないだろう。

 

「それにしても、ダイヤの顔は女の子っぽいね。アクアほど中性的でもないし、将来はルビーと姉妹っぽくなるかもね」

 

「………これからもっと成長して、ハードボイルドになる予定だから。身長だってゴリゴリ伸びて、二メートルくらいにはなるから…ッ!」

 

「いや、無理でしょ」

 

ルビーの辛辣な言葉を受け、ダイヤはほんの少しだけ泣いた。

 

彼は"女顔"という単語には多少のトラウマがあるのだ。それは前世での体験談であり、就職して最初の年越しを迎える時期だった。

前世は今と別種の女顔であり、貧弱で華奢だった彼は悪い意味で上司の目に止まってしまった。年越しであり、忘年会ということもあって上司達も普段以上に枷が外れていたのだろう。

 

あろう事か、一発芸で女装を命じてきた。女顔だから女装しろよ、とパワーハラスメントとパーソナルハラスメントの合わせ技でぶん殴られたのだ。

上司の言葉に逆らえる訳もなく、泣きながら女装をしたのだが――

 

「…違う……今世は女顔なんかじゃないぞ……将来的に北○の拳作画の顔面になる予定だし、髭だってボーボーに生える予定だ。体型も自然に花○薫になる予定なんだ……」

 

「おまえ…予定ばっかりで忙しそうな人生だな」

 

「"自然に"ってトコロが叶わなそうなフラグっぽいよね。別に可愛いんだし、いいと思うけどなー」

 

「このっ、ルビーには僕の気持ちが分からないんだ…ッ!…………ぐすん」

 

結局のところ、あのトラウマを誰に打ち明けるでもなく。故に意味の解らない屈辱を味わう彼を他人事で眺め、ルビーはポツリと本音を零した。

結果、程々の精神年齢を誇る彼でも泣いてしまう始末。本当に、誰が悪いという話でもないのだ。敢えて挙げるなら前世の上司なのだろうが、今にして思えば、あの上司も酒を飲み酒に飲まれていただけだったのかもしれない。

 

誰も悪くないし、アレは仕方の無い事だった。そうであると自分に嘘を塗りこまないと、屈辱心で吐き気を催してしまう。

 

「えぇ……な、泣かれても。お兄ちゃん、これ私が悪いのかなぁ?」

 

「どーなんだろーなー」

 

「よしよーし、大丈夫だよー。ダイヤはちゃんと、美人さんになるからね」

 

「…………傷口に塩を塗りこまれたんだけど」

 

アイに頭を撫でられ、ダイヤは拗ねた。

 

(ん〜?これは…落ち込んでるんだよね?)

 

星野アイという人間は、自分他者問わず機敏な感情変化に疎いのだ。従兄弟であり息子の様でもある彼が()()()落ち込んでいるのは理解している。雰囲気で察せられる。

だが、"()()()()()()()"と言うのが解らない。(ルビー)ならば撫でるだけで上機嫌になるし、息子(アクア)は自己解決する。然し斉藤大弥はどうなのだろうか。

 

アイには彼の"本質"が見えない。

 

在り方が酷く不明瞭だ。時々、彼が()()()()()()時があるのだ。自分(アイ)のように()で構成された笑みを浮かべたり、アクアのように俯瞰して周りを観察したり、ルビーのように元気いっぱいな年相応を()()()みたり。

 

全てが演技()なのかもしれない。あの時――夜の公園に捨てられていた赤子と出会った瞬間から。十人十色を変幻自在に扱う彼は、まるで全てを知っているようにすら思えた。

アイがずっと求めている"愛"をも、童顔の裏では理解しているのだろうか。

 

 

――きっと、アイには斉藤大弥が"特別な存在"に見えるのだ。

 

――――――――――――――――――

 

その日の夜。

 

ダイヤが目を覚ますと、寝床にアイの姿がなかった。ルビーがアクアを抱き枕にして、そのアクアは魘されている。平和的な光景だ。

然し蔓延る違和感はアイが不在な事なのだろう。既に、ダイヤにとっての"平和"には星野親子が含まれているのだ。それを嬉しく思うのは、ダイヤが絆されているからに他ならない。

 

布団から出て、ぼんやりとする頭で居間に向かう。予感としか言いようがないが、そこにアイがいる気がしたから。

 

「…………」

 

音を立てずにそっとドアを開けると、僅かな光源とそれに掛る影が見えた。紫を含む明るい黒髪はダイヤと全く同色であり、決して見間違えたりはしない星野アイの後ろ姿だった。

ボーッと、暗闇の中で双眸の星をテレビ画面に向けている。その姿が何故か印象的であり、普段の彼女よりもずっと内面を曝け出しているように見えた。

 

「…アイ」

 

「っ!……あれ、ダイヤ。起きちゃったの?」

 

「うん…目、悪くなるよ。暗いところでテレビなんか観たら。……で、何観てるの?」

 

「社長から借りた映画。ハートフルコメディのやつかな?笑ったり、泣いたり出来るって勧められたんだけど……うーん、よく分からないね」

 

画面の中では一人の少女と母親らしき人物が抱き合っている。きっと、感動的な場面なのだろうと雰囲気で分かる。でも、アイの目には鈍く疑問符が浮かんでいた。

物語性(ストーリー)を理解して、見る者に与える印象も分かる。なのに、アイには何故、画面の彼女達が抱き合っているのかが解らない。

 

「ダイヤはわかる?」

 

「え、この場面だけ見せられても……でも、まぁ。母娘の再会とか、仲違いの仲直りとか。どーせそんなモンでしょ」

 

「おぉー、当たってる。あの女の子とお母さんが喧嘩してて、なんやかんやあって仲直りする物語だったよ」

 

「……それでどうして、感動できるのかって?」

 

「っ!言わなくても分かるの?」

 

「監督曰く、僕にはメソッド演技の才能があるらしいからね。他人の気持ち…というか、思考の方向性が分かるんだよ」

 

ダイヤの目に見えているのは、アイの"母親に対する失望"と"愛への疑問"だ。映画の内容に触発されたのだろう。

エンドロールの流れる画面を視界から外し、アイは真っ直ぐとダイヤの瞳を見据えた。

 

「……ねえ、ダイヤ。愛ってなに?」

 

無意識にアイの口は動いていた。

 

浮かんだ疑問がそのまま口に出ていたのだ。アイが嘘を吐く際は考えるよりも先に、場に沿った言葉が出てくる。思考は後から付いてくるに過ぎない。

だが、今は逆だ。アイの抱える長年の疑問なんて、聡くとも子供である彼に聞くべきではないのに、アイは自身の正論に反発していた。

 

質問を投げられたダイヤは数秒かけて言葉の意味を咀嚼し、最後に首を傾げた。

 

「…なんで僕に聞くの?」

 

「どうしてだろうね…?多分、ダイヤなら知ってるって思ったからじゃないかな。私は()()()()から、答えを知ってるダイヤに頼っちゃったのかもね」

 

「――嘘吐きめ」

 

「………え?」

 

責めるようでも、同情するようでもない。淡々と燦々と、平常と期待、そして呆れを孕む表情はアイを混乱させる。

それを敢えて察していない鈍感なフリをして、ダイヤは仰々しく言葉を続ける。

 

「何が"知らない"だよ、大嘘吐き。嘘に慣れ過ぎるのも大概にしないと、いつか損するよ?」

 

「…えっと…ごめんね、ちょっと言ってる意味が分からないかも」

 

「アイはもう()()()()()()って言ってるの。だって…()()()()アクアとルビーだったんでしょ?自分だけの"愛"が欲しかったから。知って、確認したかったから」

 

「…………」

 

――心の底で思っていた。母が自分を捨てたのは、何か理由があるんじゃないかな、と。あの暴力も、硝子の破片が入った白米の感触も、感情に訴えた怒声も。

何か重大で、自分には理解の届かない理由があったのだと信じたかった。

 

だから母親になった。

 

自分の子供を愛したら、其れが分かると思ったから。でも、可愛い我が子との幸せな生活は、実母との生活とは全く違った。暴力も罵詈雑言も飛び交わない。

()()()()、アイは知らない。だから余計に愛が分からなくなってしまった。

 

「まだ知らんぷりするなら、僕が(アイ)の本心を言うよ」

 

「えっ」

 

何故なのか、物凄く()()()()がした。この先の言葉を続けさせたら、アイは酷く後悔すると本能が察している。

知りたかった筈なのに、ダイヤに言わせる(代わってもらう)のは駄目だと心の中で本能が絶えず叫んでいるのだ。

 

また困惑し、自問自答を繰り返し――

 

――刹那、ダイヤの双眸が強く煌めく。アイと酷似していて、然し異なる"()()()"がアイと同様の"六角星"に変わる。

 

『――()はもう、愛を知ってるよ。愛は唯一無二で、でも言葉にするのが気恥ずかしいモノ。大切な人に…アクアとルビーに向く気持ち。もう言葉にできるよ。ずっと前から、()は二人を――』

 

「ダメ!!」

 

「……うん、正解。この言葉はアイ自身が言うべきだ。僕なんかに託したら駄目」

 

自身に困惑しながら、でもアイは自身の判断が正しかったと確信していた。ニヒルに笑むダイヤは子供の顔と言うには妙に大人びていて、だがその違和感も彼の一部なのだとアイは認識する。

 

物知り顔で微笑む彼にほんの少しだけ苛立ちを覚えて、アイはダイヤの唇を指でつついた。

 

「…ダイヤの意地悪」

 

「うん、僕は意地悪だよ。でも…やっと嘘のない本音で話せたね」

 

"嘘は愛"がアイドル(嘘吐き)の価値観だった。嘗て、数年前だった。アイが中学生の頃、斉藤壱護にスカウトされてアイドルとなった。

彼はアイの"嘘吐き"を肯定して、寧ろステータスになると口説いた。

 

――でも、アイには分からなかった。斉藤壱護の言葉は正しいのか。本当に嘘で人を愛せるのか。懐疑的にもなれず、流されるがままだった。

 

 

エンドロールの流れ終え、エピローグに突入した画面を消し、スッキリとした表情でアイは告げる。

 

「……私ね、ちょっと休もうかなって思うの。社長が楽しみにしてたドーム公演が終わったら、暫くの間は芸能界から離れるよ」

 

「どうして?」

 

「もっと、アクアとルビーと…そしてダイヤとの時間が欲しいからね。いっぱい話したり、遊んだり、外に出るのはちょっと危ないけど…社長とかに協力してもらって遠くにも行きたいなぁ」

 

「いいじゃん。二人も喜ぶよ、絶対に。二人の思考を再現出来る僕が言うんだから間違いないよ」

 

「そっかぁ……()()()()()、ダイヤ」

 

「……急に恥ずかしいよ」

 

「あははっ」

 

揶揄うように、悪戯に笑う彼女は――ダイヤには世界で一番、輝いて見えた。

 





双子「「Zzz〜」」
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