小さなダイヤは愛の為に 作:あぐらら
本日二回目の投稿。
「「スカウトされた!?」」
「そう!いわゆる地下アイドルってやつだけどね」
ルビーの嬉々とした発言に声を上げるのはミヤコとアクアだった。
名刺を掲げての笑顔は羨望していたアイドルに近付ける故にだろう。知らぬは本人のみであるが、これまで彼女が応募したアイドル事務所からの合否については、全てアクアに工作され、阻止されている。
そんな自信を無くしかけていた矢先、生まれて初めてのスカウトを受けたのだ。嬉々とした声の一つや二つは誰でも上げるだろう。
彼女曰く、街中で男性に声をかけられたらしい。モデル然り、アイドル然り、スカウトされてのデビューというのはさして珍しい話でもないだろう。
要はナンパと同じだとダイヤは断言する。結局のところ、男でも女でも顔が良いというのが判断基準だ。その後については多少の無知無能でも無理やり叩き込むのだから、芸能界に煌めいた夢など存在しないに等しい。
ミヤコとアクアは驚いているが、ダイヤは寧ろその反応に驚くばかりだ。
家族としての贔屓目を抜きにしても、星野ルビーは可愛い。伝説のアイドルと言われるアイの容姿を受け継いでいるということもあるが、何よりも雰囲気が物語っているのだ。
その儚さを包む天真爛漫な性格は直接話さずとも醸し出され、他者を魅了する。人を惹き付けてしまう。
起こるべくして起こった出来事なのだろう。然し――
「ルビー、名刺見せて」
「はいはい、どーぞ」
ダイヤが受け取った名刺には会社名と当スタッフの名前、そして会社の電話番号が簡素に記されている。何処にでもある一般的な名刺であり、敢えて怪しいと口出しをする程の事もない。
寧ろ、怪しくないからこそ
端的にまとめるとしたら、短期間にメンバーの入れ替えが行われている可能性が高いのだ。それがメンバー間の問題なのか、はたまた会社側の対応問題なのか。
会社に関するブラックな情報があまり出てこない事を考えると、前者か、契約書で縛られているかの二択だ。
結論から言うと、"分からない"という事なのだが。
慣れていると感じた点についても、単に男性が優秀なだけなのかもしれない。先程の考察もネガティブな想像に過ぎないのだ。
思考を回す三人を知らぬ存ぜぬで、ルビーは続け様に燦々と声を上げる。
「これって運命だと思うの!前々から地下アイドルの募集とか眺めてたんだよねー!確か、ママもスカウトされてアイドルになったでしょ!!」
「え、そうなの?母さん」
「…あんたはもう少し、アイドルとしてのアイに興味持ちなさいよ……ええ、まぁ…それはそうだけど。ルビー、夢を見るのは自由だけど、全部の会社が
「てか普通に怪しいだろ。本当にアイドルグループなのかよ、コレ……騙されて金を毟り取られるだなんて話、腐るほどあるんだぞ」
「そんなんじゃないし!ほら、見てよ!ユーチューブにもちゃんとした動画が上がってるし!!」
アクアに反発したルビーが見せ付ける携帯端末の画面には、決して豪奢とは言えないが、問題無く"ライブ会場"と表現出来るライブ環境と観客が映されている。
タレントとファンが写真を撮る光景や、ステージ上で笑顔で手を振る姿は紛うことなき地下アイドルだ。
詐欺ではないことに安堵するが、新たな疑問点も見つかってしまった。ダイヤだけが気付ける、画面内の彼女達の抱える問題を。
「んー、
「……あのねぇ、ダイヤ。前にルビーにも言ったけど、『作りましょう、そうしましょう!』で出来る事じゃないの。昔と違ってね…」
アイやダイヤが襲われた件から暫く経ち、社長であった斉藤壱護は姿を消した。アイの復帰が絶望的だと察し、彼もまた絶望したのだろう。
斉藤壱護は良くも悪くも欲深い。強欲故に、アイの所属するB小町を大きく躍進させられたのだ。腕もツテもあり、メンバー間の悪口やイジメには誰よりも徹底的に向き合い、切り捨ててきた。
彼は誰よりもアイに魅せられ、いつの間にか人生を賭していた。だからこそアイが再起不能であると判断し、失踪するほど取り乱していたのだ。
それでも、未だにアイの入院費や手術費を払っているのは
閑話休題。
現社長であるミヤコはダイヤの言葉に苦言を呈する。やりたいからやる、と言える程の余裕はもうないのだから。
だが、アクアの思案にも引っ掛かりがあるのか、ダイヤの言葉に興味を示す。
「……ダイヤ、何か思う事でもあるんだろ」
「お、分かるんだ?」
「信頼してるからな。何も考え無しで無理を言う奴じゃないって事だけは分かるつもりだ」
「ありがとね。…母さん、少しだけ話聞いてくれる?ルビーも」
小さく頷く二人を見て、ダイヤは少しだけ微笑む。それだけの信頼が築けたという事に安堵し、上手く演じられているのだと実感出来る。
ルビーは兎も角として、ミヤコは息子を盲目的な信頼はしていない。今話題に限ってはビジネス的な意味で、彼の才能が誰よりも信用出来るのだ。
そも、人の内面を覗く才能は誰もが欲し、心理学を用いてでも習得しようと奮起するものだ。それを先天的に身に付け、生きた年数=熟練度となるのだから、ミヤコとて彼の底は見えない。
「とりあえずだけど、さっきルビーが見せてくれた動画あるでしょ?アレね、嘘と虚像に塗れていたよ。タレントが仲良しな友達みたいな関係性を演じて、ファンの興奮を誘う仕草……中途半端だから、僕には歪にしか見えないかな。嘘に振り切ってくれれば綺麗にも思えるのに」
「…こんな事は言いたくないけどね、グループ内の不仲なんか有り触れているわ。それを飲み込むのが――」
「飲み込めてない人だっている。アイみたいな絶対的なエースで、誰も適わないし、その子が勝つのが当たり前。そんな絶対的一番星がいれば無意識に受け入れるだろうけど、この人達は違うよ。
「……つまり、メンバーを大切な存在だと思ってないって事か。悪口上等で不満タラタラ。なら、当然だけどルビーをこんな事務所に所属させれる訳がないよな」
「むっ…!ふ、不仲くらい私が何とかするし!」
「馬鹿言わないの。貴方が目立つって事は、次の標的になるって事に等しいの。私はルビーを実の娘のように思ってるから、そんな危険には晒せない」
「で、でも…っ!」
「そーこーで!!」
「「っ!?」」
ミヤコの言葉に対して、泣きそうになりながら返すルビー。親子喧嘩でも起きそうな雰囲気を感じ取ったダイヤが場をほぐす様に、場違いな明るい声質で注目を集めた。
アクアはその様子に呆れながら、然し素直に賞賛の念を送る。多少雑ではあるが、蒔いた種を回収しようとしているのだ。
そう思うことすら彼に操作されていそうな気がして、内心、寒気がする。彼の才能を身近で眺めてきたアクアだからこそ、その恐ろしい一面も知っている。
可愛らしい顔の奥に隠された彼の本質は、聡いアクアとて容易くは測れない。
「母さん、ちょっとだけ
「……おい、ダイヤ…」
「アクアも
「…………」
暗に『苺プロで新規アイドルグループを立ち上げろ』と言っているに等しい。ルビーの安全を盾にして、無事解決を図っているのだ。
彼女の善意に語りかける交渉は、傍から見れば卑怯と言われるような方法だ。金と娘の安全、どちらを選ぶのかと問い掛けているのだから。
当然、斉藤ミヤコの中に最初から新規で立ち上げるという選択肢がある故に成り立つ交渉でもあるのだが。
「……あー、もう!この我儘息子め!!良いわ、やってやるわよ!」
「えっ?」
「呆けるなよ、ルビー。苺プロでアイドルグループを立ち上げるって言ってるんだ。最高に信用出来る事務所でな」
「……ほ、本当に…?だって、二人とも…私がアイドルを目指す事に否定的だったのに…」
「別に否定的ではないっての。単に、アイドルってのを軽く考えてるなら止めた方が良いって考えてただけだ。メリットと、それに伴うデメリット。軽視したヤツがどうなるのか、分かってないだろ」
「うぐっ…」
ルビーはアイドルに夢を見ている節がある。アクアが彼女の芸能界デビューを邪魔していたのも、アイと同じ目に遭わせないようにするためだった。
だが、彼女の気持ちをずっと抑えることは不可能だと心の何処かで察していた。
その揺らぎをダイヤは察知して、
「でも母さんがしっかりと叩き込んでくれるんでしょ?ねっ、優しい母なる社長さん?」
「変な呼び方しないで。苺プロはタレントを大切にする方針だから、所属するなら違反を起こすまでは支えるつもりよ。まぁ、なんかやったら告訴するけど」
「わー、怖っ…でも、うんっ!私、頑張る!!」
「頑張ってね、ルビー」
きっと、アイならばこんな風に飄々と応援するだろう。ダイヤの頭に再現したアイはそうしたのだから。
感涙で喜ぶ彼女は誰よりもアイドルに向いている。いつか見た、彼女のアイドル像がもう一度頭に浮かび、アクアは不機嫌に溜息を零した。
――――――――――――――――――
「アクア、良かったの?」
「……何が?」
「ルビーの件。誘導した僕が言うのもアレだけど…アクアは納得してないでしょ?」
ルビーがミヤコに指導されながら契約書にサインをしている最中、別室に移ったダイヤとアクアは落ち着いた口調で話す。
「やっぱり誘導してたんだな」
「最悪を避けたいなら、こうするのが
「最善はルビーが芸能界に触れない事だった。でも、実質的に不可能だったのも事実だ。俺はあいつの憧憬を甘く見てたし、お前の言った通り、無理を通すのは今じゃない」
アクアの目的は飽くまでも"復讐"だ。
アイとダイヤを傷付けた真犯人を
もしも何方かが殺されていれば、アクアも同様に相手を殺そうとしていただろう。
きっとアクアが無理を通そうとするのは、其の犯人が見つかった時なのだろう。
「ルビーのこと、ちゃんと責任取れよ」
「え、なに?結婚しろって?」
「冗談はその腐った脳ミソだけにしろ」
「この人怖っ……過保護なシスコンめ。冗談くらい爽やかに笑って受け流そうよ。……うん、安心して。ルビーの事は護るから。その為にコネクションを作ってきたんだし」
アイが眠った後も、ダイヤは五反田泰志のツテで芸能界に関わり続けてきた。そのツテも映画やドラマの脇役として登場する程度の役ではあったが、当目的は共演者と
コネクションにも多々種類があり、ダイヤが紡ぐのは感情に訴える友人関係にも似たコネクションだ。
言うなれば受動的なコネクション。此方が困っているから、周りが助けてくれる。そんな方向性を追求しているのだ。
「…時々、怖くなるな。俺もお前にとってはコネクションの一つに過ぎないんじゃないかって、思えるんだよ」
「馬鹿だなぁ、アクアは。僕はアクアとルビーを助けたいからコネクションを築いているんだよ。アクアは家族だしね」
「分かってる。ダイヤは実際、身を犠牲にしてアイを護ろうとした。アレは偽りなんかない斉藤大弥だったさ。だから俺もルビーもダイヤを誰よりも信頼出来るんだ」
「………重っ。軽くなれとは言わないけど、明るく振る舞わないと友達も出来ないよ?そろそろ高校なんだし、友達のいない青春って寂しいよ」
「余計なお世話だ……ッ」
怒りを露わにするアクアをケタケタと笑いながら、ダイヤは揶揄うようにアクアの頬をつついた。
ダイヤの初期からの口調変化は