転生したら宇宙世紀悪役グラサンの部下だった件   作:紅乃 晴@小説アカ

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プロローグ

 

 

 

 

「人は今、戸口に立っている。いつか肉体を持ったまま、そこをくぐれる時が来るのかもしれない。この虹の彼方に、道は続いている」

 

機動戦士ガンダムUC

マリーダ・クルスのセリフより引用

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュー、シューと空気の音がする。

 

壁一枚を隔てて、外には真っ暗な宇宙がある。

 

星の大海が広がり、一筋の光が海を切り裂いてゆく。

 

なんて力強く、なんて心細いのだろう。

 

宇宙を行くこの身にとって、宇宙はあまりにも……大き過ぎた。

 

 

 

 

 

 

ラグランジュポイント、L3。

サイド7、グリーン・オアシス。

 

グリーン・ノア1……近辺宙域。

 

 

「各機、聞こえているな?」

 

 

ノーマルスーツのヘルメット越しに、ミノフスキー粒子が散布されていない宇宙。そこにいる部下に声をかける。

 

RMS-108X、プロト・マラサイは第二世代型MSの試作機のひとつだ。

 

先行試作されたガンダムMk-Ⅱのムーバブルフレームと、全天周囲型モニターを採用。

そして量産化に向けたポテンシャルの限界値を見極めるために搭載されたパワーモーターに……高性能ジェネレータの調子も悪くない。

 

試作型ゆえか、本来ならモノアイのところ、デュアルセンサーアイになっている頭部と、本家のマラサイと違いはあるものの、その汎用性と操縦性は申し分ないものに仕上がっていた。

 

グリーンノア近域で試験的に宙域飛行をする3機の「ガンダムMk-Ⅱ」の調子を見ながら、俺は脚部に施されたサブスラスターを吹かして姿勢を整える。

 

 

【ミノフスキー粒子が散布されてないんだ。聞こえてますよ、隊長殿】

 

「Mk-Ⅱの調子はどうだ、ジェリド」

 

【各部応答よし、子猫ちゃんのようにしなやかに動きますよ。こいつぁ】

 

【ジェリド!すいません、隊長】

 

「構わないさ、カクリコン。エマも追従してるな?」

 

【はい、問題ありません】

 

 

先日、ジェリドが調子に乗ってMk-Ⅱをコロニーの外壁に擦った事件があり、便宜上、上官であるジャマイカン・ダニンガンから小言を言われてしまったので、「じゃあグリーンノア1の宙域でテストするよ」って言って今に至る。ジェリドは若いし、一年戦争を「民間人」としてしか知らないから何だろうが、少々増長しているきらいがある。

 

出る杭は打たれるという格言もあるが、ジャマイカンのやつ、もう少しオブラートな言い方をできんかね。そんなんだから前髪が後退するんだぞって言ったらローキックされた。

 

 

「よし、宙域飛行はここまで。宙域での機動テストは概ね問題ないな?次は模擬戦闘となるぞ。カクリコンとエマでロッテを組め。ジェリド、お前は俺とだ」

 

 

ちぇーっと、ぶー垂れるジェリド。カクリコンとエマからは先日のMk-Ⅱ接触事件があったのだから自業自得、よくMk-Ⅱのテストパイロットから外されなかったな、少しは反省しろと散々言われて撃沈していた。

 

 

「配置についたな?では2対2の模擬戦をするぞ。先日も言ったがMk-Ⅱはこの機体と同じ第二世代MSだ。従来の価値観のまま乗れば性能を活かしきれないことを頭に叩き込んでおけよ!」

 

 

そういう俺の言葉に全員が「了解」と返答。よし、ではテスト開始と行こう。俺の合図とともにカクリコンとエマのMk-Ⅱが華麗に散開する。今回はカクリコンがヘイト役か。あからさまに誘ってくるMk-Ⅱに食いついたのはジェリドだ。

 

 

【カクリコン!今回も俺の勝ちだな】

 

【アメリアへの指輪もある。そう負けてやるわけにはいかんな】

 

【もう、男ってこれだから】

 

 

途端、模擬戦用ビームライフルの撃ち合いともつれ込むカクリコンとジェリドを見て、呆れるエマだが、股ぐらに立派なものがついてるんだから、これくらい元気な方がいいってものさ。

 

 

【それ……セクハラですよ、隊長?】

 

「おっと失礼。じゃあ各機、熱くなるなよ?Mk-Ⅱの正式受領はまだなんだからな」

 

 

だから昼のランチのメニューを何にするか言い合いながら模擬戦をするんじゃねぇよ男子2人!それでもお構いなしに戦闘を続けるジェリドたちに見習って、エマ機も俺のマラサイに挑んでくる。

エマの操縦は性格と似てるのか実直。故に読みやすく、綺麗な戦いをするので混戦や巴戦にはなれていない。斜め横前へスライドするプロト・マラサイは思い描いたイメージで飛んでくれる。

宙域ならではの平衡感覚の喪失、3次元空間の把握と星との位置関係とのギャップからくるイメージのしずらさ。宇宙で戦い始めてから嫌というほど味わっているそれは、時として大きな味方ともなってくれる。

今はMSのモニターが勝手にそのギャップを補正してくれるが、その手厚さを逆手に取ればいい。ビームのポインターがイメージと違うところに当たることに「またズレてる……!」と唸り声のような文句を呟くエマ。

 

 

「補正されたデータはあくまでデータだ。枠組みにはめられたデータほど盲点を突きやすい……!」

 

 

コロニーという巨大な建造物によって生み出される複雑な重力の揺らぎ。それは宇宙を漂うMSに少なくない影響を及ぼしている。物体によって流れは変わり、湾曲し、引かれて、弾き合う。エマの錯覚も、そうやって生まれたものだ。気がつけば眼前に俺のマラサイの銃口があった。

 

 

【う……】

 

「モニターに頼るな……とは言わないが、全幅の信頼を置くには心許ないと言えるな」

 

 

撃墜判定を受けたエマ。早い、早いぞ!と焦るカクリコンに、昼飯はもらったと襲いかかるジェリド……結局、カクリコンもそのまま落とされ、その日の昼はカクリコンとエマの奢りとなった。……代わりにデザートは俺が奢ることになったけど。

 

 

 

 

 

 

 

機動戦士Zガンダムを、みんなは知っているだろうか?

 

1985年に放送が開始された作品であり、1980年に放送された機動戦士ガンダムの続編に当たる作品だ。

 

一年戦争から7年。

 

宇宙世紀0087年に起きたグリプス戦役を主軸に、「スペースノイドとアースノイドの対立」と「ティターンズとエゥーゴ」と、地球連邦軍から発生した二つの勢力による抗争を中心に物語は動いていき、中盤からはジオン残党最大勢力であるアクシズが介入。

 

三勢力による同盟や決裂、指導者の暗殺と……権謀術数が相まみえ、後の宇宙世紀に大いなる遺恨を残すことになる戦いへと発展していった。

 

その戦いの中、運命ごと巻き込まれてゆくカミーユ・ビダン。

 

結局戦うことから逃れられなかったクワトロ・バジーナことシャア・アズナブル。

 

地球というゆりかごに囚われるアムロ・レイ。

 

様々な人物が複雑に絡み合ったグリプス戦役は、個人的にみて宇宙世紀でもっとも苛烈な戦いに発展したと思う。

 

……失うものが、あまりにも多過ぎたのだ。

 

確かに、グリプス戦役以降も戦いは起こった。目を覆いたくなる惨状も。

 

けれど、グリプスの戦いは……どの戦いとも毛色が違う。もっとドロドロとしたものが絡んでいて……死者が手招いているような戦いだった。

 

Zガンダムは個人的に好きな作品だ。その手招いてくる死の感覚と独特な世界観。出てくるMSは多彩で、MSの技術が新たな局面を迎える時期でもあった。その技術は後世に大きな影響を及ぼすと同時に、数々の傑作機も生んだ。

 

さて、俺はそんなガンダムシリーズでΖガンダムが好きだ。もちろん、他の作品も。先日、配信動画サイトでガンダムUCの一挙放送を見たわけだが……。

 

 

「まさかこんな夢を見せられるとは思わなかったぜ」

 

 

一挙放送を見て寝て、目が覚めるとそこは戦場だった。宇宙?いいえ、地上です。荒野の中でもビルが立ち並ぶ街……あー、ここはダカールか?たぶん。そんな街の基地で地球連邦の兵士をやってるのが俺の夢だった。

 

いや、こんなの夢じゃねぇーんですけど。そして街から見える荒野で暴れてるのはMS-06FのザクⅡである。遠目から見てもかなり巨体のそれが、ズンズンと音を響かせて地球連邦の戦車隊を足蹴にしているのが見えた。

 

ははーん、さては一年戦争初期の夢設定だな?そう1人で納得していると、爆発炎上してる戦車部隊を背中に数台のジープが基地に戻ってきた。武装でも取りにきたかと思えば、すぐに基地の輸送機で脱出すると言ってきた。

 

 

「ジオンの野郎ども……しかし、あんなのじゃ太刀打ちできねぇ!戦車がまるでおもちゃだ」

 

 

そう文句を言う軍曹だが、ふと存在しないはずの記憶から肝心なことが口から発せられた。

 

 

「モレブ軍曹、少佐の姿が確認できませんが……」

 

「あぁ、少佐か。散々俺たちに無茶振りをしてきたんだ……あれで死んでくれればいいものさ」

 

 

そう言って指を指すのはザクが暴れている戦場。なんとこの軍曹や隊員たち、無茶振りをしてくる上官が気に入らないからという理由から、その上官を見捨てて逃げてきたと。げぇ、マジか。しかしそれバレたら銃殺刑待った無しなんじゃない?

 

そんなことを考えながら……俺は軍曹が降りて無人となったジープに乗り込んだ。

 

 

「お、おい!なにやってる!」

 

「1人くらい、上官を見捨てない部下も必要でしょ?」

 

「馬鹿野郎!あれが見えないのか!死にに行くようなものだぞ!」

 

「もとより、兵の命なんて軽いものですよ。……とくに俺のは」

 

 

だってこれ、夢だし。止めようとする軍曹を無視して俺はジープを走らせる。基地を勢いよく飛び出して向かうはザクの足元。ひょー!実寸大のザクだ……とテンションが上がっていたのはほんの僅かな瞬間だけだった。

 

ブォオーーンという回転音とともにこちらに放たれるザクマシンガン。まだ遠いことやザクマシンガンの収束率が悪いからか、弾は俺の遥か後ろや、遠くに着弾したが……その衝撃は夢というには無理がありすぎた。振動と土煙り。

 

そして、すぐそこにある明確な死がはっきりと自覚できた。あの弾の一つにあたれば死ぬ……そんな直感めいた何かを感じた途端、俺の口の中はガチガチと音を立て始めた。

 

明確な死。確かな死。避けられぬ死。

 

死、死、死、死。

 

人の頭ほどある弾頭。そんなものが当たれば人はどうなる?吹っ飛べばいい方だ。おそらくミンチになって原型もわからなくなってしまう。それは……人間の死に方じゃない。

 

今にもブレーキを踏んで、引き返したくなった。でも、もう遅い。ここから引き返そうものなら格好の的だ。Uターンしてる間に狙撃されればジ・エンドだ。

 

それに、俺はなぜかアクセルを抜かなかった。不思議な感覚だ。まるで足だけ自分のものとは思えない感覚に包まれているようだ。意識ははっきりとしている。でも、アクセルを踏む足はどけられない。

 

俺は迫るザクに恐怖した。鋼鉄の巨人のモノアイがジッと俺を見ている。

 

やられる……!そう思ってから行動は早かった。俺の体は勝手に動き、後部座席にあった長細い筒を掴んで肩に乗せる。え、待って?これっていわゆるロケットラン……。

 

思考よりも先に手が動いた。俺の肩に大ダメージを与えながら飛翔したバズーカの弾頭は、サーモバリック弾。燃料気化爆弾……といえば、あたりの空気を全て気化させて爆発力と殺傷能力を高める爆弾だと思うだろうが、今回使用したのはロケットランチャーに搭載できるサイズまでダウングレードしたものだ。威力はそれほど高くはない。

 

しかし、重要なのはそこではない。この弾頭がサーモバリック弾であると言うことだ。放たれた弾頭は防ごうとしたザクの手をすり抜けてモノアイへと直撃する。

 

燃料気化による高温と衝撃は、ザクの生命線とも言えるモノアイを傷つけるには充分機能を発揮した。爆発の熱と衝撃で俺を見失ったザクを尻目に、ジープをザクの足元への滑り込ませる。

 

一目で分かった。怪我をしているがこの人が全員に嫌われていた少佐だと言うことを。

 

 

「少佐!ご無事ですか!!」

 

 

近くには横転したジープがある。運転手や他は……ダメか。おそらく少佐は粉砕されたジープから運良く投げ出されたのだろう。うぅっ、とうめき声しか返さない少佐を問答無用で担いでジープに乗せる。

 

さて問題は……。

 

グオオっと音を上げてこちらを睨むようにモノアイを向けてくるザクからどう逃げるかだ。

 

弾薬にはまだ予備はあるが、ロケットランチャーに装填している暇はない。このまま逃げれば簡単に捕捉されてザクマシンガンの餌食に……ん?捕捉?

 

その時、俺に天啓が降りる。

 

 

「少佐!すいませんがしっかり捕まってください!大丈夫です!死ぬ時はお供させていただきますので!!」

 

 

聞こえてるからどうかもわからない相手にそれだけいうと、俺は後部座席にある弾頭を一つ取り出し、そして手動で信管部を露出させる。

 

 

「こうなれば、やぶれかぶれだ……!」

 

 

夢か現実かわからない。けれどしっかりとした死への恐怖もプレッシャーもあった。しかし、今は隣で血まみれになっている少佐を生きて基地に連れ戻すことしか考えない!

 

ジープのアクセルを一気に踏み込み、俺は運転席から信管部を露出させた弾頭を後ろへと投げる。ジープが走り始めてたと同時に、ザクマシンガンの銃口がこちらに。南無三!!

 

その瞬間、地面に接触したサーモバリック弾がジープの背後で爆ぜた。衝撃でハンドルが取られ、高温がチリチリと背中を焼こうとしてくるが、ジープが熱を振り切って、地を蹴って、走る。走る。走る。

 

ザクのモニターは俺のすぐ後ろで爆発したサーモバリック弾の気過熱と閃光で正常な動きはできていないはずだ。その隙に逃げさせてもらうぜ〜!あばよ〜とっつぁん!!

 

と思っていたら他のザクからもマシンガァンッ!が飛んできました。ふぁっく。俺はすぐに次の弾頭の信管を露出させて後ろへと放る。一個、二個、三個。そのどれもが気過熱と化し爆発。膨れ上がった熱はザクのコクピットに多大な影響を及ぼしたが、それでもザクはバララッとマシンガンを連射して……あぶねっ!ミラー掠めた!

 

俺は追加で二個の爆弾を落とすと同時に、車に備え付けられている救援用の発煙等を全て点火。爆発の気過熱による画面焼けと同時に、煙を上げる発煙等を順に投擲。

 

気過熱の熱と発煙等の煙は俺の操るジープを完全に覆い隠して、俺と少佐を乗せたジープは命からがら戦線を離脱することに成功したのだった。

 

そして、基地に帰った俺を出迎えたのは……。

 

 

「上官の救出任務ご苦労」

 

 

なんと、俺以外逃げ出そうとした兵を捕らえて、怪しげな笑みを浮かべるジャミトフ・ハイマン閣下でした。アイエエエ、ジャミトフ!?ジャミトフ・ナンデ!?

 

1人混乱していると、MSを撹乱して凄まじいカーチェイスを繰り広げた助手席から、ジャミトフの部下からもらった手拭いを血塗れた額に当てて降りてくる少佐。

 

 

「彼を助けてくれて礼を言おう。バスク・オム少佐は、私にとって必要な人材なのでな」

 

 

……え?

 

 

 

 

 

捕えられて、尋問されて、目の視覚障害を負うバスク・オムを単身助けに向かい、ザク二機が暴れる戦場から無傷で帰還した男。

 

ジン・シェイクハンド。

 

それが、俺の「ガンダム世界」における、最初の第一歩だった。

 

 

 

 

 

 





気が向いなら続けます。
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