転生したら宇宙世紀悪役グラサンの部下だった件   作:紅乃 晴@小説アカ

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副官の思い、新人の苦難

 

 

 

グリーン・ノアに到着して、ジャマイカンから「あ、そういえば今回から新人を2人、隊に加えるから面倒よろしく」と無重力では飲めなかった紅茶片手に世間話するような感覚で辞令を言い渡された。

 

予想していたとはいえ、そういうことはもう少し早く言ってくれませんかね?

 

仕返しに彼の好物のチョコチップスコーンを一個奪うと、すごい文句言われた。茶請けに目覚めさせたの、俺がアナハイムの技術者にもらったやつを分けてあげてからだろうが。

 

さっさと行けと副長室を追い出された俺は、月からずっと乗っていたアレキサンドリアを降りる。艦船ドックに停泊する船にかけられるフォーディングブリッジの前には、俺よりも先に到着したカクリコンが待ってくれていた。

 

 

「長旅だったな、ジン。月のアナハイムでのバカンスはそんなに楽しかったのか?」

 

「バカ言うなよ、カクリコン。新素材の研究とかで大変だったんだから……」

 

「そう言って、また変な機体を受領したり……」

 

 

そう言うカクリコンと俺の横を、アレキサンドリアから荷卸された青と黒のカラーリングをしたプロト・マラサイが運ばれてゆく。俺のハイザック?アレキサンドリアのパイロットに渡されましたが。

 

 

「ジン、ハイザックがいつの間に新型に進化したんだ?」

 

「いや、これには深いわけが……」

 

 

こりゃあサポート戦術も練り直しだなとやや後退気味の額をかくカクリコン。マジですまんやで……。恨むんだったらショッピング感覚で新型機を仕入れてくるバスク大佐を恨んでくれ……。

 

カクリコンと俺は一年戦争からの仲だ。本来なら、彼もこれから会う新人と同じ立ち位置になっていたのだろうが、GMのテストパイロットをやってた段階で俺と縁ができちまったんでかなり原作改編されてる人物でもある。

 

文句言いながらデラーズ紛争でも僚機を務めてくれたし、死闘と言っても過言でもないソーラー・システムの防衛戦でライラと共に生き残っているのだ。階級は大尉に昇進していて、受け持つMS小隊の副隊長というポジションを獲得している。

 

ちなみに、地球にいるアメリアとは会ったことがある。どえらい別嬪さんだった。そんな彼女を残して死ぬことは俺が許さんから覚悟しとけ。

 

歴戦の戦友ということもあって誰も見てないところでは砕けた態度でお互い接しているが、カクリコンが気を取り直して俺へ敬礼を行った。

 

 

「ジン・シェイクハンド少佐。MS隊着任、よろしくお願い致します」

 

「カクリコン・カクーラー大尉、今後もよろしく頼む」

 

 

それがある意味、俺たちのスイッチだ。職業軍人のスイッチが入ってから俺とカクリコンは艦船ドックから通路を通ってパイロットがいる区画へと向かってゆく。移動途中でカクリコンからタブレットを渡される。そこには今日から配属される新人パイロットの名が記されていた。

 

 

「1人は生意気な女パイロットで、もう1人は俺とは幼い頃から友人関係ですが、実戦には出ず、ずっと地球の士官学校にいまして……」

 

「いわゆる学校でエリートって呼ばれていたやつ?」

 

「……まぁ、天狗にはなってますな」

 

 

新人パイロット、エマ・シーン中尉と、ジェリド・メサ中尉。

 

エマ・シーン中尉は、軍人家庭に生まれ、ティターンズ配属までは地球で暮らしていて、基本的に柔和ながら実直な性格。典型的な軍人気質で、規律重視で杓子定規に判断する傾向が強いと言われている。

 

カクリコンが複雑そうな顔をするのはもう1人の方だ。

 

ジェリド・メサ中尉は、0086年8月に士官学校入学時の適性テストで好成績を修めたことでティターンズに指名。

 

その後の半年に及ぶ訓練のあと、グリーン・ノアで行われるガンダムMk-IIのパイロット候補に抜擢された、と。

 

彼の概要の後に教官や、上司からの内申評価も添付されていたが、まぁ書かれてることが良くないことばかりで……自尊心が高く、プライドもある。根は真面目であるが、人を見下す傾向がある。パイロットとしては腕は確かだが随所に詰めの甘さがある……と。

 

あーかなり天狗になってるな……こりゃ。

 

彼のように自信を持つことは大いに大事だが、それで足元をすくわれた奴から死んでいく。

 

それで俺も多くの戦友を失った。

 

一年戦争の宇宙での戦いは、それほどまでに苛烈で、命なんてものを簡単に飲み込んでしまうものだった。

 

カクリコンに案内され、区画に到着すると、すでにそこには2人のパイロットが待っていた。

 

カクリコンと2人で2人の前に立ち止まって敬礼を行うと、エマ・シーンはピシリとした敬礼を。ジェリドはどこか気の抜けた気配を醸し出していた。

 

 

「今日から君たちの隊長を務めるジン・シェイクハンド少佐だ。よろしく頼む」

 

 

年齢としたらこの三人の2歳上ぐらいなので、ほぼ年齢は同じ小隊と言っていいだろう。すると品定めするような目で俺を見てきたジェリドが、ニヤリと笑みを浮かべて口を開いた。

 

 

「ふーん、アンタが噂の疾風のパイロットってやつか」

 

 

青き疾風と呼ばれる二つ名……青と黒のカラーリングが何故か俺のイメージカラーになったことで、そんな二つ名が付くようになったが……その名前はあまり好きじゃない。あの悪夢の兵器を思い出すから。

 

 

「その二つ名はあまり好きじゃないが……まぁ、そう呼ばれているらしいな。さて、着任早々だったこともあり、2日の休暇を与えたわけだが訓練は出来そうか?」

 

 

ジェリドの話をさっさと切り上げてそう問いかける。ジェリドもエマも元気そうで何よりだ。地球からサイド7は移動するにも遠いからな。時差ボケならぬ、宇宙に適合するための時間も考えて2日の休暇にしたのだが、十分に体は馴染んだようだ。さすがはティターンズで選ばれたエリート。感心感心。

 

 

「じゃあ、そうだな。とりあえずグリーン・ノアの地形を把握するところから始めるか」

 

 

俺がにこやかにそう言う。カクリコンは頭を片手で押さえ、ジェリドとエマは何を言ってるのか理解できず、お互いの顔を見合わせた。

 

 

「何をぼさっとしてる。さっさと外に行くぞ」

 

 

そう言って俺は三人を引き連れて訓練所へと向かう。幸い、場所は大いにある。適当な場所を見つけて、管理責任者に話を通してから俺は親指でだだっ広い空間を指さして命令を下した。

 

 

「じゃあ、いいって言うまで走って」

 

 

 

 

 

 

「ペースが落ちてるぞー。士官学校で何を学んでたんだー?」

 

 

隣でそう檄を飛ばすジン・シェイクハンドの隣で、カクリコン・カクーラーは走らされる2人を見ていた。すでに2人ともバテバテで、宇宙の身軽さにすっかり慣れた体は想像の倍の速さで悲鳴を上げているのが手に取るようにわかった。

 

懐かしいものだ。カクリコンもデラーズ紛争時に月の基地でライラと一緒に走ったものだ。その時はパイロットスーツ姿という、さらに重い試練を課されていたが。

 

 

「隊長は鬼だな……」

 

「カクリコンもだいぶ慣れてきたんじゃねーの?」

 

 

事実、カクリコン自身はすでに今日のノルマを終えている。ランニング、基礎トレーニング、筋肉トレーニングは宇宙で生きていく上で必須のものだ。そこにエリートもベテランも関係ない。やらなければ身体が衰えていく。何もしなくても宇宙では命が吸われている……よくジンがカクリコンに言っていた言葉だが、今ではその通りだと思えた。

 

一年戦争のア・バオア・クーで経験した宇宙戦は、まさに命を凄まじい勢いで飲み込んでいった。さっきまで話していた僚機が、ほんの一瞬光った閃光に穿たれて落ちていく。それが平然と起こり、繰り返されるのがあの戦争だった。

 

ジャブローの経験で増長していたカクリコンは、あの戦いで心を折られた。ろうそくの火を吹き消すように散っていく命の前に、1人のパイロットはあまりにも無防備で、無力だ。

 

逃げ出したかった。安全なところはどこだと血眼になって辺りを見渡した。どこにも逃げ場なんてない。気が狂いそうになる。

 

けれど……。

 

 

〝諦めるな!カクリコン!お前ならできる!〟

 

 

ジャブローですくんでいたカクリコンを奮い立たせた言葉。それが折れた彼の心を立て直した。今思えば、GMのテストパイロット時代から彼の背中を追っていたのかもしれない。地球に残ったジンを尻目に、宇宙に上がったから奴を超えたと増長したけれど、結局はその背中を拠り所にして、生き残ったのだ。

 

一年戦争の壮絶な宇宙戦を潜り抜けたカクリコンの心はすでに決まっていた。

 

 

「……お前とは付き合いが長いからな」

 

 

そう返すと、ジンは「長いよなぁ〜ほんと」と感慨深そうに返した。背中をひたすらに追って、死にそうな思いも何度かはしたが、それでも生きてこれたのはジンのおかげ……それと自分のおかげでもある。

 

宇宙は、過酷だ。

 

地上よりも体力の消耗が激しい。

 

そりゃそうだ。地上よりも宇宙の方が人間は筋肉を使ってるんだ。

 

地上じゃ普段使わない筋肉も総動員して宇宙を生きてる。地上で体力のない奴が宇宙じゃ満足に動けん。

 

果たしてそれを、あの2人が理解してるか……。

 

 

「で、どれくらい走らせるので?」

 

「とりあえずぶっ倒れるまで」

 

 

平坦なごく当たり前の声でそう返すジン。これは本気だなと思いながら、カクリコンは旧知の仲であるジェリドと、新人のエマの2人に心の中で十字を切るのだった。

 

 

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