転生したら宇宙世紀悪役グラサンの部下だった件   作:紅乃 晴@小説アカ

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エリートと引き金の重さ

 

 

 

「ふざけやがって!!」

 

 

グリーン・ノアにあるティターンズの訓練施設は軍事コロニーとして作り直そうとする組織の思惑に応じるように設備はかなり充実していた。1Gの環境下で筋肉トレーニングをするための部屋や、ランニングコース、徒手格闘技をする訓練所、射撃訓練所と……MSを生産するためのコロニー区画と言うが、その充実性は下手な訓練施設をもつ基地よりも高い物になっている。

 

そんな訓練所の通路で、ジェリド・メサはグリーン・ノアに来て、生まれて初めての屈辱を味わっていた。怒りのあまり通路にある自販機に八つ当たりをするジェリドに、隣にいる疲れ切ったエマも小さく声を上げた。

 

 

「ちょっと……物に当たるのはやめなさいよ……子供じゃあるまいし」

 

 

その言い方にジェリドは更に苛立ちを覚えたが言い返す元気はなかった。さっきまで新しく作られたMSのテスト場を延々延々ぐるぐるぐるぐると走らされたのだ。

 

エマもジェリドもかなり持った方だが、最後は2人ともズタボロで、エマは立てないほどの疲労からその場でうずくまり、ジェリドはフラフラと近くの茂みに歩いて行き、植えられた草木の合間に顔を突っ込む。結果、隊長着任前に食べた昼飯は全て外に出て行くことになった。

 

ジェリドは疲れ切ったエマの顔を少し睨んでから、「チッ」と舌打ちをしてフラフラと男性用更衣室へと歩いていく。

 

 

「まぁ……気持ちはわからないことないけど」

 

 

エマ自身、ジェリドという共に走る相手がいなければもっと酷かったと自覚していた。ヘタをすると隊長相手にヒステリーを起こしていたかもしれない。自分よりも子供っぽく不満を抱くジェリドがいるから、冷静になれている……という風にも感じられる。

 

 

「わからないことない、か」

 

「副隊長……」

 

 

ビクッととエマは後ろから歩いてきていたカクリコンの言葉に肩を振るわせた。おっと、とカクリコンは気まずそうに顔を顰めてから、気まずそうな顔をするエマに微笑む。

 

 

「階級はまぁ大尉だが……年齢は同じだ。別に畏まらなくていい」

 

 

まぁ他の隊なら多分修正!ってぶん殴られてたかもしれんが……あの人はそう言うタイプじゃないからな、とカクリコンは内心でつぶやいた。ティターンズは良くも悪くも地球軍のエリート組織という認識が強い。

 

別段、スペースノイド……俗に言うジオン残党により引き起こされたデラーズ紛争が大きく影響していて、ジオンの栄光と綺麗事を言ってテロを起こす相手を取り締まる特殊な組織であるという以上、ある程度のエリート思考というのが生まれることも当然の結果だった。

 

カクリコン自身、自分の同期や他のティターンズの士官を見ると、割とプライドやエリート意識が高い者も多いと感じる。それは悪いこととは思わないが……。

 

そう考えていると、目の前のエマが少し言いづらそうな口調でカクリコンに問いかけた。

 

 

「隊長……ジン・シェイクハンド少佐は、いつもああなんです?」

 

「いつもって?」

 

「私たちの体力が空っぽになるまで走らせるところです」

 

 

その言葉、どこか棘があるな。今頃くしゃみでもしてる隊長こと、戦友のことを思いながら、カクリコンはふむと腕を組む。

 

 

「あれはまぁ、2人の限界値を見るのがいちばんの理由だろうな」

 

 

「限界値?」とエマはさらに顔を顰める。そんなもの士官訓練学校時代に嫌と言うほどデータとして取られている。わざわざ本人たちを走らせなくてもそのデータからある程度の実力を見極めることは簡単にできるはずだ。エマの不満に対して、カクリコンはピシャリと口を出した。

 

 

「今、それくらい訓練学校などのデータから算出すればいいだろうって考えたな?」

 

「え、あ、いや……」

 

「そのやり方をして、配属されたパイロットの技量にある程度のレベルを割り振る部隊もある。だが、他所は他所、ウチはウチだ。今のポテンシャルでどこまで耐えられるか。過去の訓練データは宇宙に出たお前たちのものとは違う。宇宙ってのはそれほど劇的に変わる環境なんだよ。……パイロットに必要な素質は自分を知ることだって隊長はよく言ってるのさ」

 

「自分を知ること……」

 

「何ができて、何が得意なのか。何が苦手で出来ないのか。地上の訓練学校で学んだことを忘れろとは言わんが、それが全てだとは決して思わないことだ。……過信やプライドはそう言った自分の限界値すら見えなくしてしまうものだからな」

 

 

想定された訓練と実戦は全く異なる。そのギャップに対応できずに、訓練でやったことがあるという曖昧な知識だけの対応をした新人が多く死んでいったのを、カクリコンは一年戦争の宇宙戦で多く見てきた。訓練は訓練。実戦は実戦。生き残るのはリアリティを持つものだけだ。ロマンチストは早々に死ぬか、ろくでもない結果にしかならない。

 

他の隊のようにレベルを割り振って、パイロットを煽てて使うところもあるだろうが、それこそ宇宙での戦い……学生パイロットたちのような結末しかならないだろう。生き残れるのは才能を持った奴と、運がいいやつ。他の奴らはみんな死ぬ。

 

……それをジンが良しとしないからこそ、うちの部隊の生存率は高かったのだろうなとカクリコンは改めて思った。

 

 

「限界を知ること。それがまずパイロットとしての自分と向き合うことにつながるもんなのさ。まぁ、今はそれくらいがいい。物分かりが良いのも考えものだから、少しずつ知ればいいのさ」

 

 

そう言って怪訝な顔をするエマの肩を叩いて、カクリコンも更衣室へと向かおうとしたが、その足を止めるように彼の通信端末に連絡が入ってくるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「これはまた派手にやったなぁ……?」

 

 

MP(憲兵)に呼び出されて、詰所に向かうと、そこには鼻血を出した跡や、顔にあざをつくったジェリドが不満そうに拘留室の簡素な椅子に座っていた。

 

お前何やってんの?相手は誰だって聞いたらグリーン・ノアの整備兵数名。聴取した内容からすると、整備兵数名を相手にステゴロの殴り合いを挑んで、最終的に袋叩きにされたらしい。そこをMPが発見して、全員を拘束。整備兵たちはおっかねぇ兵長がすっ飛んできて全員1人ずつぶん殴られて修正をかけられていたとか。

 

あの整備兵長、連邦時代から知り合いだけどめちゃくちゃ怖えんだよなぁ……なにが怖いって、俺のクソピーキーな機体の面倒を嬉々として見てくれる点とか。目を離すとすぐにロマンに走ろうとするから困ったもんだ。

 

さて、整備兵科はおいておいて、そんな集団に1人で喧嘩を売ったジェリドだが、所属が俺のMS小隊だったので、とりあえず隊長である俺に声が掛かったわけだ。もぉー、まだグリーン・ノアについて1日目よ?勘弁してほしいぜ。

 

まぁ俺の上司であるジャマイカンに連絡を入れなかったのはナイスゥだけど。そんなことしたらどんな目に遭っていたのかわからんからな……ジェリドが。

 

 

「で、申開きはあるかね?ジェリド・メサ中尉」

 

「ありません。相手にもお聞きになったでしょうが、それが事実です」

 

 

変なところで真面目なジェリドの言葉に、俺も拘留室の外に置かれている椅子に腰を下ろす。

 

 

「あのさ、別に大人しくしろなんて言わないんだけど、あまり情けないことで喧嘩をするのはやめてくれ」

 

「情けないことですか?俺は奴らに馬鹿にされたんですよ!!」

 

 

激昂するジェリドに、うーんと唸りながらMPから渡された報告書に目を通していく。たしかに整備兵が、バテバテだったジェリドに「あんな情けない姿をしてもエリートなのかよ」と悪態を聞こえる声で言ったっていう報告は受けてるけどさ。

 

 

「それを真に受けて喧嘩を吹っ掛けたら相手の思う壺……いや、今回は相手も馬鹿だったから良かったのかもしれんな」

 

 

そう言う俺にジェリドがポカンとした顔で「馬鹿……」と呟いていた。それは俺に向けてではなく、俺がそう言ったことに驚いている様子だった。うん、馬鹿だよ。君も整備兵も。

 

 

「喧嘩ってのは同じレベルでしか起こらないんだよ。だから、どっちが悪いとかそんなものはない。古い言葉でそう言うのを喧嘩両成敗って言うんだけどさ」

 

「アンタは俺のどこが気に食わないんだ」

 

「どこもないよ。だってさ、俺……君のこと何もしらねぇんだぞ」

 

「データとかあるだろ」

 

「データとかみんな好きだよねぇ〜〜けど、それで計れるほど、人って単純じゃないでしょ」

 

「……っ」

 

 

時代は宇宙世紀。旧世代の時代と違ってデータもかなり具体性を持ったものが多い。それだけ見ればその人の全てがわかるとか。でも、人間っていう生き物は気まぐれだから、そんなものって30分も立てば当てにならないものになるもんだ。よくあるでしょう?30分前と言ってたこと違うじゃん!!ってやつ。

 

30分前は量産機って言ってたのに、次には新型機を手配したって言ってくる人もおるんです。……バスク・オムって人なんですけど。

 

 

「焦るのもわかるけど、身内でそれじゃあダメなのはわかるよね?」

 

「じゃあ……じゃあ、どうすればいいってんだ!」

 

 

俺の言葉に、ジェリドは苛立った口調で立ち上がった。これは相当……拗らせてるなぁ。まぁ士官学校でそれほど持ち上げられていたんだろう。煽てて伸ばすってのはどの仕事でも教える上では楽なものだ。ただ、それが実戦で使えるとは限らない。

 

 

「士官学校で学ばされたことは大抵想像がつく。選ばれしエリートだとか、アースノイドのほうが偉いとか……けどさ」

 

 

それってジオン選民思想のテロリストの考え方と、どう違う?

 

その言葉にジェリドの荒んでいた声が消えた。俺が相手にしてきたのはそう言った相手だ。選民思想、優生人類、一握りのエリートが世界を裏で動かすことを盲目的に信じたバカ。そんな甘い言葉に乗せられて死をも恐れずに戦いを挑んでくる、この世界で最も愚かで、唾棄すべき敵。

 

 

「ひとつだけ、はっきりとしていることを教えるぞ、ジェリド・メサ中尉」

 

 

物音ひとつない空間の中、自分の声だけがよく響く。拘留室で突っ立て、さっきまで息巻いていたジェリドをまっすぐと見据えた。

 

 

「選民思想に染まって罪悪感も感じず、殺して当然だと思って相手に引き金を引く奴を、俺は信用しないし、信頼もしない」

 

 

その考え方は違うと真っ向から否定するつもりはない。現に上官はスペースノイド嫌いだしさ。

 

 

「……俺から言わせれば、その思いによって引かれた引き金の意味はなんだ?テロリストが無差別に放つものと、どう違う?」

 

 

神の名の下に。

 

青き清浄なる世界のために。

 

ジオンのために。

 

木星帝国の繁栄のために。

 

数々の思想や野望によって駆り出された人々の怨念と負の感情に塗れた閃光。それで犠牲になるのは何の罪もないただの一般人だ。俺たちはいい。それを覚悟の上でやっているのだから。

 

 

「俺たちは職業軍人だ。戦うためにMSに乗るし、相手を殺すために引き金も引く。だが、そこに選民思想や差別感を乗せて弾けば、それはもう違うものだ」

 

 

職業軍人が思想に染まれば、それはもう軍人である意味がないと、俺は思う。極論を言えば、兵士に意思なんて必要ない。敵と定められた相手を効率よく倒す。それに特化した武器であり、軍が守るべきものを守る存在だ。そこにエリートの思想や、選民思想が必要か?正直に言えば邪魔でしかない。

 

 

「……それが間違ってると思うならこの部隊を去れ」

 

 

そう言った思いで戦うといつか絶対に頭打ちになる。思想に縛られて誰かを殺せば必ず報いを受ける。それが誰の手によって行われるかは知らない。誰の手によって裁かれるのもわからない。ただ一つわかるのは、その報いをもたらすのは他でもない「人」だからだ。

 

……きっとそれは、軍人であり続けても、誰かの命を奪った以上、必ずその報いは受けることになる。

 

ただ、その時が来たなら……俺は「軍人」として死にたい。先に逝ったアイツらがそうしたように。

 

 

「引き金ってのは、中尉が思うほど軽くはない。それをイメージできないなら……お前は職業軍人に向いてねぇよ」

 

 

レバーを押せばビームが出る。レバーを押せば銃弾が出る。レバーを押せば、誰かを殺すかもしれない。自分で決めて、自分で殺す。その現実が、エリート教育を施されたジェリドに現実として重くのしかかる。

 

シミュレーションが、リアリティになる。爆発が体を突き上げてくる。血と硝煙とビームの焦げた匂いがする。その理想と生々しさのギャップに戸惑っている暇はない。そんなことをすれば死ぬだけだから。

 

重苦しい空気が辺りを包む中、意識を切り替えて俺はジェリドに改めて告げた。

 

 

「だが、中尉はまだ実戦もしてないんだから、結論を出すには早いさ。とりあえず焦るな。急いては事を仕損じる……とも言うしな」

 

 

黙ったまま視線を下へ彷徨わすジェリド。あちゃあー……ちょっと言いすぎたか。理想に燃える野心を抱えた若人には重すぎる話だったかもしれん。エマと話す時は言葉を選ばねば……実験した形になってすまねぇ、ジェリド……まぁ今からお前の尻拭いするからチャラだけどな!!

 

 

「とりあえず今日のことは俺が各方に謝っておくから、中尉は始末書を……」

 

 

自分の部下ぐらいちゃんと手綱を握ってろバカヤロー!って整備兵長に怒鳴られるのやだなぁって思ってると、ポケットに入れていた俺の端末が震えた。手を突っ込んで端末を取り出すと相手はカクリコン。

 

はぁい、もしもぉし!と出たら普段のダンディな声は若干の焦りを孕んでいた。

 

 

【隊長!今どちらに!】

 

「なんだ、カクリコン。今ちょうどMPの詰所に……」

 

【ポイントアルファに熱源を感知。MSだと予測されます】

 

 

その言葉で俺も黙る。ポイントアルファ……サイド2方面か。そこから来るMSなんてロクデモナイ奴ばっかだぞ……。カクリコンの様子からするとおそらく武装しているところまでは確認しているのだろう。となると、今動けるのはグリーン・ノア1の警邏部隊か、俺とカクリコンくらいになる。

 

 

「わかった、すぐ行く」

 

 

端末を切って席を立つと、ジェリドが拘留室の檻を両手で持って俺に詰め寄ってきた。興奮する猿かおのれは。

 

 

「MS?敵なのか!?」

 

「わからん。けど、こっちで対処する。お前はそこで大人しくしてろよ」

 

 

俺も連れて行ってくれという言葉が出る前に封殺する。というか、あんな話した後ですぐそんなこと言えるのかね。押し黙るジェリドを尻目に俺は詰所を後にして、MS格納庫へ向けてコロニー移動用のジープを走らせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

宇宙に閃光が走る。

青と黒のプロト・マラサイがデュアルアイを瞬かせて、吠えた。

 

 

「ジェリド!なぜ出てきた!」

 

「ここらで汚名挽回しないとな!!」

 

「馬鹿!それを言うなら名誉挽回だろうが!!」

 

 

予期せぬ結末を抱えたまま。

 

 

 

 

 

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