転生したら宇宙世紀悪役グラサンの部下だった件   作:紅乃 晴@小説アカ

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蒼の疾風

 

 

 

グリーン・ノア防衛戦から1日。

 

帰還してから色々あった。まずはGMⅡで構成されたグリーン・ノア警備隊に多大な犠牲が出てしまったことだ。これについてはグリーン・ノアの駐屯基地の司令部からしこたま文句を言われてしまい、現場を知る俺たちやシナプス艦長からの定期報告を聞いていたバスク大佐と一悶着ありそうなところまでいったわけだが……。

 

 

「戦況把握はできていましたが、敵の戦力が想定外でした。……我々の油断が招いたことです」

 

 

警備隊の指揮をとっていたブライト・ノア中佐が間を取り持ってくれたので、ひとまず目下の問題である警備隊の人員補填はティターンズ人員から出すという形で決着を迎えた。もちろん、貴重なパイロット人材を出すティターンズ側にも文句はあったものの、人員補填という名の実地教育の側面の方が強いので、警備隊にいるパイロットたちを鍛え上げればお役御免になる手筈だ。

 

 

「というわけで教育よろしく」

 

「……え?」

 

 

まぁ、その補填人員兼、教官役に俺の名前が載っていたわけだが。え、大佐。なんで俺なんです?あっ、ジェリドやエマを教育する任もあるのでついでにやれと……本気かい?(真顔)

ブライト中佐も「彼なら問題ないだろう」と太鼓判押してるし、気がついたら向こう数ヶ月の予定が勝手にリスケされてるんですけど……まじで言ってるの?ねぇ?

 

さすがティターンズと地球連邦軍の司令たち。パイロットの都合などお構いなしである。

 

そんなわけで、防衛戦に参加したパイロットには1日の休暇が言い渡されたわけだが……1人だけ、例外がいた。

 

 

「メサ中尉。謹慎処分はどうだ?」

 

 

ジェリド・メサ中尉。MSを無断で持ち出した上に無許可の任務参加による軍規違反で半年の減給と謹慎処分が言い渡された。

 

本当は帰還後、問答無用で営倉に叩き込まれるはずだったんだけど、ジェリドに救われた警備隊のパイロットの証言や、ジャマイカンの尻拭いの効果もあってその程度の処分で済んだのだった。まぁそのジャマイカンからは帰還後にチクチクと文句を言われたし、人員不足の補填に俺が駆り出される件も合わせて±ゼロくらいなんだろうけどさ!

 

拘置室にリリースされたジェリドは何も言わないまま、迎えにきた俺を見つめていた。まったく、いったい何を思ってハイザックに乗って前線に出てきたのやら……。調書でもそこのところ、曖昧な感じだったし……どちらかと言えば、自分でもよくわかっていない感じとも言えたからな。

 

 

「とりあえず迎えにきたんだが……」

 

「そうかい」

 

 

すごく、愛想が悪いです。ジェリドの言葉に少しイラつきを感じながらも、俺はMPの開けた扉から彼を出す。三度目は勘弁してくれよとMPの詰所を後にして、ジェリドを連れてカートに乗り込んだ。

 

 

「で、どうする?このまま隊舎にもど……」

 

「アンタは……」

 

 

その言葉に俺の声が遮れる。助手席に乗り込む前に、ジェリドはまっすぐと俺を見据えながら問いかける。

 

 

「アンタは、なんのために戦ってる」

 

 

力があってこそ全てを制するはずだ。それがジェリドがティターンズという組織の片鱗を見て感じたものだった。現に地球での訓練で受けた印象はまさにソレであった。力を持つ者こそが正義。弱者は弾き出され、エリートこそがティターンズに必要とされる素養……しかし、目の前にいるジン・シェイクハンドという男を見ると、また違った何かを感じてならなかった。

 

力はある。MSのパイロットとしての素質も十全だし、五連装メガ粒子砲を掻い潜るなど……並のパイロットでは無理だ。ジェリドですら直撃を避けられた程度。カクリコンもエマも中破に追い込んだ相手を撃墜寸前まで追い詰める手腕を持っているのは確かだ。

 

だが、彼には地球で自分を教えた教官のようなエリートという気配は微塵もない。ありふれたパイロットで、そこに威厳や尊大なオーラというものはない。

 

だからこそ、ジェリドにとってこの男は不快だった。わかりやすくない。複雑でありながら……力を持つ化け物……流石のジェリドも、本人に対してそこまでいう度胸はなかったが、その不快感は拭いきれなかった。

 

しばらくジェリドの視線に晒されてから、車の運転席で、助手席を指差す。

 

 

「まぁ何も言わんでいい、少し付き合ってくれ」

 

 

その言葉にジェリドは黙って従う。助手席に乗り込み、扉を閉めるとカートはゆっくりと走り出す。コロニーの天候は指定された雨が上がって、人工的に生成された雨雲がなくなりコロニーのミラー部から太陽光が差し込んでいた。

 

濡れた路面が太陽の光を照り返す。道中は互いに無言だった。湿ったコロニーの空気が肌を撫でてゆき、緑が多いグリーン・ノアの景色が過ぎてゆく。

 

 

「共同墓地……ですか」

 

 

しばらく走って到着したのは、グリーン・ノアにある墓地だった。

 

といっても地球にあるような墓地とコロニーの墓地は全く異なる。

 

基本的に構造上スペースが限られるコロニーでは、人の遺体は灰にして砕き、宇宙に撒くか、金がある者なら地球へと送られ埋葬されるかの二択だ。金銭面で余裕のないコロニー居住者の場合、亡くなった際は大半が前者の宇宙葬となる。

 

宇宙世紀前半では宇宙で亡くなった人をそのまま宇宙空間へと葬っていたが、スペースデブリ化するという社会問題に発展したため、現在では遺体を直接宇宙葬にするのは禁止されており、砕いた遺灰を撒くことが義務付けられていた。

 

ジェリドを連れてきた場所は、一般のコロニー居住者の墓地ではなく、戦没者の慰霊碑だ。側面には戦死した多くのパイロットたちの名前が刻まれていて、そこには共に戦った戦友たちの名も刻まれていた。

 

 

「……地球と宇宙でおっ死んだのに、墓立てる土地がないから、再開発されてるグリーン・ノアの一画に共同墓地と慰霊碑を作ったんだ。軍事基地作るってんで住民からは反対されたけど……ここを作ることだけは反対されなかったな」

 

 

そう呟いて、静かに手を合わせる。ジェリドも何も言わずに、ただ静かに慰霊碑を見つめていた。

 

……ジェームズ、ロイド、デカード、サミュエル、レイチェル、ウィラー……ここに眠る俺の部下や戦友たちだ。遺体も何もない。カクリコンやライラ、まだ生きている戦友も多くいるし、苛烈を極めたデラーズ紛争での損耗率を考えれば、俺の率いた隊は戦死者が少ないと言われているが……それでも、少なくない犠牲はあった。

 

彼らは信じて、共に戦っていた。そんな彼らに顔向けできるかを確認するために、ここに足を運び、手を合わせているのかもしれない。

 

 

「……アンタはなぜ、俺をここに連れてきたんだ」

 

 

ジェリドが不満げな声でそう言った。戦死したらこうなると見せつけているのか?それとも戦死した戦友たちに自分の顔を見せるため?だとすれば、とんだロマンチストだ。

 

 

「感傷に浸ることもあるんだな、蒼き疾風と呼ばれる男も」

 

「中尉。死んで、いなくなって、形見も何もない。それが俺たち職業軍人の宿命ってやつだ」

 

「その宿命ってやつで30バンチ事件を起こしたっていうのか?」

 

 

ジェリドの言葉に思わず意識が強張る。横目で彼を一瞥する。その目は真相を知りたがっている目だった。一応、軍の機密事項なんだが……やはり人の口には戸は建てられんかねぇ。

 

 

「聞いていたのか」

 

 

そう聞くと、「アンタとあのサイコミュザクがやり合っている途中でな」とジェリドは返す。それからしばらく沈黙が降りた。だが、ジェリドの目はハッキリと語っていた。

 

〝アンタは本当に……コロニーに毒ガスを注入したのか〟と。

 

 

「……あぁ、そうだ」

 

「それもまた、軍人の宿命なのか?」

 

「拒む、拒まない問わずに、軍人というのはそういった立ち位置になる。戦争や戦いになれば……否応なしに俺たちは人を殺すことになる。そこに理由や意味を問うのはナンセンスだ」

 

 

蒼き疾風には二つの意味がある。一つはデラーズ紛争でコロニー落としを阻止した英雄……そして、もう一つが毒ガスでの大量殺戮者という烙印だ。コインの表と裏。裏側についてはバスク大佐や、ジャミトフ閣下が連邦に圧力をかけていることで何とか表沙汰にならなくては済んでいるが……知るものは知っていることだ。

 

それに、噂になる程度には機密は漏れている。蒼き疾風が殺戮者であるということは、地球圏の連邦士官の大多数には知れ渡っているだろう。圧力をかけられた地球連邦軍の上層部は特に。

 

 

「アンタは言ったな?それが認められないなら部隊をやめろと」

 

 

ジェリドは静かにそう言った。価値観やエリート思考、死んで当然と思う怨念を抱えたまま戦うのなら、部隊を去れといった言葉を。そう言った隊長が、あの30バンチ事件で毒ガスを注入した張本人だというなら……。

 

 

「今回の戦闘でハッキリとわかったことはある。死ぬ時は、人は死ぬってことをな。同情なんてしない。俺は生き残ってやる……生きて、俺は……!!」

 

 

ジオン残党を倒すために結成されたのがティターンズだ。30バンチ事件という痛ましい惨事が起こったが、それがティターンズの力だというなら……。死を前にして感じたそれにジェリドは手を伸ばす。

 

 

「じゃあ、隊舎に戻るぞ」と付け加えて、カートへと足をすすめた。そこでふと、立ち止まって呆けているジェリドへ言葉をかける。

 

 

「あと、もう一つ大事なことを教えておくぞ、中尉。死んだやつのことで引きずられるな。そう言ったやつから死者に引きずられて死んでいくからな」

 

 

それは本当にジェリドに対して言ったのか……口に出してから思う。たぶん、これはジェリドに言いながらも、自分自身に言い聞かせている言葉なのだ。

 

 

「アンタは、引きずられないのか」

 

「さぁ、どうだろうな。ただ……先に死んだアイツらに土産話を用意してやりたいからな。さっきの戦う理由はそれだ。それまでは胸を張って、生きられるよう努力はするつもりだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうか……あの事件の生き残りがいたのか」

 

 

1人で行きつけのバーカウンターで飲んでいると、隣にどかっと大きな影が座った。

 

「奇遇だな」と仏頂面でいうバスク大佐は、ウイスキーを注文。俺の当てにしていたスモークチキンを勝手に食べて酒を飲み始めた。そして2人で他愛のない話をして……俺は今日戦った相手のことを伝える。

 

一応、報告書にも書けない内容だったのでどうしたものかと考えていたのだが、この大佐勘が良すぎるのでは?と思ったが、「おおまかな内容はカクリコンから聞いている」とシレッと返された。機密事項はどうした。機密事項は。

 

 

「ええ、しかも……逃げ出した奴もいました」

 

「罪滅ぼし……というには業が深すぎるな。もはや何もかも取りこぼしたというのに。穴だらけの船で何を運べるというのだ」

 

 

そう言って大佐は大きな手でグラスを煽る。飲むペースが早いんじゃないですかね?あ、もしかして大佐、かなり酔ってます?

 

 

「愚痴の一つくらいは溢したくなるわ、馬鹿者。いっそのこと、全てを公表してやりたいくらいだ」

 

「それ、やったらジャミトフ閣下が爆発しますね。ティターンズや俺たちも巻き込んで」

 

「……だからやらんのだろう」

 

 

そう言ってバスク大佐は酒息を吐き出す。多分、30バンチの件の話を蒸し返せば今のティターンズは内部崩壊待ったなしだろう。いや、それ以前にエゥーゴの方に軍配が傾いて自然消滅するのがオチか?

 

ジャミトフ閣下の立ち回りで内政群雄割拠状態だったティターンズの体制がようやくまとまりを出し始めたと言え、ここでスキャンダルを爆発させたら酷い目に遭うのは間違いない。特に俺とバスク大佐とジャマイカンも。

 

 

「あー、やだやだ。そう言っても逃げられないのが職業軍人の辛いところですねぇ」

 

 

そう言って俺もウイスキーを煽る。酒で酔っても忘れられない光景があるとしたら、あの30バンチの光景だ……。

 

宇宙世紀0085年7月31日。

 

ティターンズが反連邦デモ鎮圧の為に、当時使用が禁止されていたG3ガスと呼ばれる毒ガスを、サイド1の30バンチコロニーに注入し、民間人1500万人を虐殺した事件。

 

作戦は指揮官であるバスク・オム大佐の独断で彼の直下部隊によって行われたもので、ティターンズ総帥ジャミトフ・ハイマン将軍も、事件後のこの報告を受けた時はかなり不快に感じたと言う……。

 

それが表向きの真相。

 

ジャミトフ閣下が厳命したティターンズの圧力による報道規制で、一般には激発性の伝染病による全滅と報道され、鎮圧を依頼した地球連邦軍も、この行為を事実上黙認せざるを得ず、ティターンズの発言権を強めた。

 

その結果、スペースノイド側にはこの事件に疑問を抱く者は多く、結果的に反連邦運動は拡大。

 

やがて地球連邦軍内部でもティターンズへの不信感が増大し、親スペースノイド派のブレックス・フォーラ准将が、エゥーゴを結成するきっかけとなった。

 

 

「……ジン、貴様は逃げられただろ?なぜだ」

 

 

バスク大佐はメガネ越しの目を細めてそう言った。

 

……俺や大佐が、ティターンズ内部の告発で毒ガス注入の動向を知ったのは、G3ガス注入作戦の開始直前だった。

 

事の発端は、ティターンズ内部の権力争いだ。

 

コロニー落とし阻止の栄光により、バスク大佐の権力や影響力が高まる中、エリート思想のティターンズ武官たちが地球連邦軍から依頼されたコロニーのデモ鎮圧に託けて、大佐の失脚とジャミトフ閣下の権力低下を狙ったのだ。ティターンズという肥大した組織の頂点の座を奪うために、コロニーに住む1500万の命が使われたのだ。

 

その事実を知った俺たちはジャミトフ閣下に報告と同時にガス注入阻止のために動いた。それも予見していたのか、武官派閥のMSとの熾烈な攻防戦が展開され、その戦いで多くの戦友をそこで亡くした。

 

ジャブローで窮地を救ったウィラー中尉も。共に戦っていた仲間の多くが同じティターンズである相手の攻撃で命を散らした。

 

ガス注入を阻止するために。

 

 

だが……間に合わなかった。

 

 

輸送中のガスタンクを破壊した後に見たコロニー内部の光景は、すでに息絶えた人々の屍で満たされていたのだ。今でも思い出す。得るものはなにもなく、絶望的な光景しかなかった。……でも。

 

 

「言ったでしょ、職場軍人なんですよ……それに、阻止できると信じて死んでいった奴もいたんですよ」

 

 

落胆するジャミトフ閣下に、この件を使って権力拡大を具申したのはバスク大佐だった。

 

武官たちを内々に粛清し、彼らの起こした事だと言っても、ティターンズの内部分裂は避けられない。ならいっそ、悪の存在として自分を使えばいいと。

 

ティターンズにも、地球連邦士官にもある程度噂が広がっているのは、こう言ったイメージをつけるためにあえて流したという部分も少なからずある。武官がやろうとしたことを丸ごとこちらが被ったのだ。粛清した武官派閥の者たちに、この毒ガス事件で与えるものは何もない。栄光への妬みも、大虐殺を行った大罪も。何もかも。

 

当時、俺にも別隊への移動命令が内密で出されたが、その逃げ道を俺は自らの手で閉じた。多くの仲間が信じて死んでいったというのに……ここで逃げるわけにはいかなかった。

 

 

「……あいつらに土産話を持って帰らんと……死んでも死にきれません」

 

「そうだな……お互い、ろくな死に方はせんな」

 

「まぁ……当然ですね〜」

 

 

なにせ、悪の大佐と悪魔の蒼き疾風ですから。そう言う俺に、大佐は何も言わないまま、ただ静かにグラスを傾けるだけだった。

 

 

 

 

 

30バンチ事件の話をこのあと書くべき?

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