ぼっち「my new gearで20万溶かしたらお母さんに怒られた」 作:ぼ喜多スキー
ストックなし推敲なしを続行中。
今回はバレンタインと誕生日。
比較的難産だったかな。
2月にはひとりちゃんの恋人として初めて迎えるバレンタインと誕生日がある。
決して手を抜くワケにはいかない。
普通に考えればサプライズでチョコやプレゼントやパーティーを準備するところだけど、ひとりちゃんってサプライズは好きじゃないのよね。
そもそも同棲してるんだからチョコ作ってたらバレバレだし、誕生日パーティーは後藤家でやることになってるし、私が1人だけで外出したら不自然だし。
そんなワケで、開き直ってオープンにすることにした。2人で一緒にチョコを作るとか、一緒にショッピングに行くとかで良いじゃない。
インパクトはないけど、代わりに一緒にいる時間が増えるんだしね。
なので週末にデートに誘おうとしたところ。
「郁ちゃん。明日、渋谷についてきてもらえますか?」
「……はぃ?」
逆に誘われた。
しかも放課後デート。
えーと、明日の天気は?
曇りのち晴れ?吹雪じゃなくて?
「熱でもあるのかしら?」
「いたって健康ですっ!」
ふむ。本人に自覚症状はなし、と。
おでこをコツンと当てて熱を見る。問題なし。
でも顔は真っ赤。可愛い。
「素人判断は危険ね。今の時間でもやってる病院あるかしら?」
「いい加減怒りますよ?」
「冗談よ」
それくらいびっくりしたってことよ!
付き合い始めてから今まで、ただの一度もデートに誘われたことないのよ?
これはもう、私が一生リードする人生なんだって思うじゃない?
もちろん、誘われたのは嬉しいに決まってる。
「わ、私だってですね、えっ……じゃない、スキンシップ以外で恋人らしいことしてみたいって願望くらいあるんですっ」
「えっちって言った?」
「言ってませんっ」
「うーん……」
赤面涙目のひとりちゃんって、破壊力が凄まじいわね。モニタを凝視してるふたりちゃんも目をキラキラさせてるわ。
あ、お義父さんに抱っこで連れられてっちゃった。
「2月は、バレンタインあるし、私の誕生日もあるし、こ、恋人としてですね?色々とあるじゃないですか?郁ちゃんが好きそうなキラキラ陽キャスポットとか、イソスタ映えスポットとか、私、まだあんまり得意じゃないですし、こういうときくらい――」
「ひとりちゃん大好き〜っ!!」
誘ってのね?
誘惑してるのよね?
もう、しょうがないなぁ、ひとりちゃんはっ!
「ま、待って、今日まだお風呂入ってな――」
☆ ★ ☆
「郁ちゃんが男の子じゃなくて本当に良かったと思います」
「ごめんなさい」
熱いパトスが抑えられなかったの。
「それで、今日はどこに行くの?」
「西◯に入ってるテ◯ファニーです」
「はい?」
「ぺ、ペアリング!欲しぃ、の」
すぅ……ふぅ……。
空が青いわね。曇ってるけど。
ペアリング。ペアリングかぁ。
高校生カップルの憧れよねぇ。
ピンキリだけど、やっぱり恋人とのお揃いアクセって、嬉しいものだし。
……えぇ、聞いた話ですよ。私だってひとりちゃんが初めての恋人ですもの。
でも恋話してると、そう言うのに憧れるってのは多いのよ。
そしてそれが今、現実のものになろうとしているっ!
「それと、ギター弾く時、邪魔になると悲しいので、チェーンも、欲しい、かな」
この子はどこまで私を狂わせれば気が済むのかしら。
私はもう、あなたに狂いっぱなしなのに。
でも、あなたも私に狂ってるなら、お互いさまなのかも。ね?
「つまりそれはペアリングと言う体を装った結婚指輪なのね?そうなのね?」
「なぜそれをっ!?……あ」
うーん。どうしましょうかしらね。
口角が上がっちゃうのを止められないわ。
涙腺の蛇口がどんどん緩んでいくし、動悸は激しくなって心不全一歩手前。
「ありがとう……」
抱きしめる。抱きしめる。心の底から溢れ出る歓喜がおさまらない。おさめなくていい。
こんなに幸せで良いの?って怯える私。
別にいいんじゃないですか?って嘯くあなた。
開き直って強がるなんて、本当は苦手なくせに。
女の子同士なんて変だとか。
どうせ若いうちだけだとか。
普通を選ばなかった私たちに、顔も知らない何処かの誰かは言うだろう。
でも、しょうがないじゃない?
好きになっちゃったんだから。
私たちが今抱き合ってる理由なんて、【好きだから】以外、なにもないの。
社会の常識も道徳も良俗も倫理もどうでも良い。
好き合う2人が結ばれてなにが悪いってのよ。
でもまぁ、アレね。
常識にとらわれない恋愛するのも、ロックよね。
「ね、ひとりちゃん?」
「はい?」
「もちろん、左手の薬指に着けてくれるのよね?」
「はい。郁ちゃんも、私の手に着けてくださいね」
☆ ★ ☆
やってきました、高校初のバレンタインデー。もしもひとりちゃんと恋人になってなかったら、友チョコをあちこちに配り歩くことになってたんだろうな。
今となってはあり得ないんだけど。
ひとりちゃんがヤキモチ妬いちゃうからね。私は恋人を最優先で大切にするタイプなのよ。
まぁ、人付き合いは大切にしないとだから、お返し用のチョコは用意してるけど。ちゃんと友チョコって一目で分かる袋入りの。
ひとりちゃんとは、わざわざひとりちゃんの教室で交換しあった。昨日、一緒に作った手作り本命チョコ。牽制用ですがなにか?
クラスの子たちとも友チョコを交換しあって、お昼休みはいつも通りひとりちゃんをハグ。癒される。
何回か呼び出されそうになったけど、ひとりちゃんとお付き合いしてるからって、呼び出し自体を断った。告白なんかさせない。
私とひとりちゃんがハグしてるところに特攻してきた猛者もいたけど、ペアリングを見せたら退散してくれた。なんかバスケ部だかサッカー部だかのホープらしいけど、眼中にないのよ。お引き取りください!
まぁ、そのせいでクラスの子たちが盛り上がっちゃって、指輪してる手を見せた状態での写真を撮られまくった。バズった。
そりゃねぇ、高校生が着けるような安物とは違うもの。見た目は派手じゃないけど、リングもチェーンもプラチナ。お値段はお察し。
ひとりちゃんはこれを買うのにモデルの仕事を頑張りまくったそうで、美智代さんもそこまで気持ちが固いならって許してくれたんだって。
私、愛されてるなぁ。
色んなものを沢山もらってるけど、私から返せるものは多くない。せめて気持ちだけは負けないように、言葉にすること、行動することを躊躇わない。
ひとりちゃんの全てを支えられるように、ギターも歌も、精一杯精進する。
あ、勉強もね?
同棲しといて成績が下がろうものなら、どんなお仕置きが待ってるのか想像もつかないので。
ひとりちゃんも、数学と英語が高校の授業に追い付いた。なんと自力で小テストの赤点を回避出来るようになったの。
凄いわ!この調子でいけば、そこそこの大学には行けるようになる。やれば出来る子なのよね、ひとりちゃんって。
☆ ★ ☆
ひとりちゃんの誕生日がやってきた。
STARRYでささやかながらも温かいお祝いを受けた後、後藤家へ。
なんか実家に帰ってきたような安心感があるわねー。
……実家ってなんだっけ?
「おねーちゃーん!」
ドアを開けた瞬間、ふたりちゃんの頭突きがひとりちゃんに炸裂した。webカメラ経由では毎日会ってるけど、やっぱりリアルで会うのとは違うものね。
ひとりちゃんは膝をつくほどのダメージを受けながらも、ふたりちゃんを離さずに抱きしめてる。流石のお姉ちゃんパワーだ。
「喜多ちゃんも、おかえりなさい!」
「うん、ただいま」
おかえりなさい、だって。
ふふっ、なんかくすぐったいな。
それからお義父さんと美智代さんにもおかえりなさいって言ってもらえて、もう後藤家は私の家でもあるんだなって感じ。
ホント、実家はどうしてああなっちゃったんだろ。
お父さんの話では、交渉はまだ難航してるらしい。
ポスターのサイズを小さくしたと思ったら数を増やしてきたんだって。
壁一面が葉書サイズのポスターで埋め尽くされてるのは軽くホラーだったって笑ってたけど……
うちのお母さん、ひとりちゃんと同じことやってるの!?
なんだろう、凄いモヤモヤする!
って言うかお父さん、それを軽いホラーで済ませるのって凄くない?
こんなところで親子だって実感したくなかった!
「郁ちゃん、どうかしました?」
「え?あ、うぅん。なんでもない!」
やめやめ、今日はひとりちゃんの誕生日なんだもの。魔窟のことは忘れましょ。
☆ ★ ☆
誕生日おめでとう!
声を合わせてお祝いして、クラッカーを鳴らす。後藤家のお祝いは賑やかだ。
うちの魔窟とは全然違って、ちゃんと祝福されてるって感じがする。
お約束のバースデーケーキに、ひとりちゃんの大好物がずらりとならんだ食卓。こういうのを幸せって言うんだろうな。
「ひとりちゃん、改めて言わせて。生まれてきてくれてありがとう。私と出会ってくれてありがとう。恋人になってくれてありがとう。これからも、ずっとずっと、よろしくね!」
「郁ちゃん……」
あらあら、ひとりちゃんったら、泣き出しちゃった。
「私、こんなに幸せな誕生日がくるなんて、思ってなくて、嬉しくて……去年までの私に教えてあげたいです。高校に入ったら、嬉しいこと、幸せなことが沢山待ってるんだって!」
「ひとりちゃん、これからも嬉しいことや幸せなことは続くわ。きっと、絶対!」
「はい!」
☆ ★ ☆
楽しい時間はあっという間に過ぎて、もう寝る時間。
ちなみにお風呂はふたりちゃんも入れて3人で入ったし、お布団にもふたりがいる。私とひとりちゃんの間に挟まって、ふたりちゃんもご機嫌だった。なんかこうしてると、ふたりちゃんが私たちの娘みたいね。
喜び疲れて寝息をたててるふたりちゃんを、ひとりちゃんが優しい目で見てる。お姉ちゃんのような、お母さんのような、慈しみが溢れたその表情は、私もあんまり見たことがない。もしかしたら、私も似たような顔をしてるのかもしれないな。だってふたりちゃん、可愛いし。
「私、妹に寂しい思いをさせちゃってます。ダメな姉ですね」
「そんなことは、まぁ、あるかもだけど。でも通学に4時間もかけてたら、今度こそ倒れちゃうわよ?」
火鳥の人気は、加速度的に上がって来ている。ファッション誌だけではおさまらなくなるのも、時間の問題かもしれない。
なにせ、写真集を出す気はないか、なんて話まで出て来るらしいからね。それ読モ相手にする話なの?
「確かに、そうなんですけどね。もう少し、こっちに帰ってくる頻度を増やすとか、逆にふたりをうちに招待するとか、フォローしてあげたいなって」
「なるほどね」
月イチくらいなら、週末のお泊まりイベントがあっても良いわね。ふたりちゃんもお友達との付き合いがあるだろうし、毎週とはいかないだろうから。
それに、ふたりちゃんだって少しずつ大人になる。小学生になる頃には、今みたいに甘えてはくれなくなるんじゃないかな。
あ、その頃は私たちも大学生受験の真っ最中だわ。
「大学かぁ」
「どうしました?」
「ちょっと考えちゃって。火鳥の人気がこれからもどんどん上がっていったら、バンドとの両立とか、大学に通ってる余裕とか、あるのかなって」
「流石にそこまではないと思いますよ?他のモデルさんは撮影旅行とかやるみたいですけど、たかだか読モでそんなことしませんよ」
「そうだと良いけど?」
ひとりちゃん、まだ自覚ないんだなぁ。
セ◯ンティーンの発行部数、増えてるんだよ?
そんなモデルを手放すワケないよ。
「もし、忙しくなるとしても、私生活やバンドの時間は死守しますよ。私の宝物ですから」
「そっか」
そうよね。始まりは無駄遣いの罰則だったけど、ちゃんと出来てるのはバンドを続けるためだもんね。
契約続行の件は、ちょっと怪しいけど。
美智代さん、どういうつもりなんだか。
「明日は学校です。朝早いですから、もう寝ましょう」
「うん、おやすみ、ひとりちゃん」
「おやすみなさい、郁ちゃん」
☆ ★ ☆
「頼まれた助っ人、呼んどいたぞ」
「ありがとう、お姉ちゃん!」
ドラムの技術指導に来てくれたのは、お姉ちゃんの元バンド仲間のリナさんだった。
と言っても、最初誰だか分からなかったんだけど。まぁ、最後に会ったのは私が9歳か10歳の頃だし、仕方ないって言ってもらえた。
練習方法については、ネットに上がってる情報――つまり独学でやってきた内容で問題ないらしい。
なので、実際に私の演奏を聴いてもらって、補正すべき箇所や心構えについて教えてもらう。
「クリックを意識しすぎない、自分なりの体内リズムを鍛えた上で信頼する、周りの音との調和を意識する……土台になるのは私のドラムだけど、だからと言って自分のリズムだけに固辞するのも良くない」
うーん、ぼっちちゃんに周りに合わせるように言ってきたけど、私たちの方からぼっちちゃんに合わせるのも重要なんだよね。
今はアイコンタクト出来るようになったから、こっちの意図を伝えられるようになったけど、前はなぁ……ぼっちちゃん、音を聞くだけで合わせようとしてたんだ。
下手にこっちから合わせようとすると行き違いになるから、ぼっちちゃんが合わせてくれるのを待ってる方が良いくらいだった。それか、突っ走るぼっちちゃんを追いかけるか。
思えばそれは、ぼっちちゃんに甘えてたってことなのかもしれない。
まぁ、終わった話なんだけど。
リナさんに演奏を見てもらいながら、練習していくと、やっぱり指導員の有無は大きいなって思う。
経験談や、コツや、ドラムについての雑談。どれも結束バンドの練習だけでは得られなかった充足感がある。
喜多ちゃんも、ぼっちちゃんから教わってる時はこんな感じだったのかも知れないね。
となると――私と同じく、指導員のいないリョウは、どうなんだろう。
リョウの技術は高い。ぼっちちゃんほどじゃないけど、高校生としては別格だ。だけど、それでも、新曲を弾きこなすことは出来ていなかった。
うーん、なんだかんだ言って、プライド高いし、誰かに教わるのを良しとしないかもだけど。今度のスタ練で話してみようかな。
まぁ、私だって人の心配してる場合じゃない。ゆっくりでも良い、しっかりと一歩ずつ進んで行こう。