ぼっち「my new gearで20万溶かしたらお母さんに怒られた」   作:ぼ喜多スキー

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書けたので推敲なし投稿。
今回はMVのお話。
脇役にオリキャラが出てきます。



(11)MV騒動

 1号さんと2号さんにお願いしていた、MVの絵コンテが完成した。

 ちなみにバックで流すのは星座の曲。

 なんだかんだ言って、私たちが持ってる曲の中で一番MV向きなので。

 

「まずは演奏シーン撮っちゃいましょう」

「ひとりちゃんと喜多ちゃんはアイコンタクト多めで、なんなら微笑み合っても可!」

「ひとりちゃん、なるべく顔あげて!」

「今度は喜多ちゃん、ひとりちゃんの視線に全然気付いてないパターンでお願い!」

「ひとりちゃん、切ない感じで!喜多ちゃんと目が合いそうになったら俯いて!」

 

 うん、案の定、喜多ちゃんとぼっちちゃんのラブストーリー。

 そりゃね、そうなるよね。

 演奏シーンを何パターンか撮って、後で編集する素材にする。

 次は外での撮影。ぶっちゃけた話、ここから先は喜多ちゃんとぼっちちゃんだけいれば良いんだけど、任せっぱなしはアレなので同行する。興味もあるし。

 夕方や夜の他に昼間のシーンもあるから、撮影は1日じゃ終わらない。学校も撮りたいらしいけど、大丈夫なの?え、許可は取ってる?さっすがー。

 

「いーよ、いーよー、うん、それじゃそこで跪いて、手を組んでね。はい、ゆっくり上向いて〜……はい、そこで涙流してみよっか!……え、出来るの!?やっば、モデルの演技力半端ない!」

「喜多ちゃんとひとりちゃん、並んであの印のとこまで歩いて、そこで喜多ちゃんは空を指さしてね。ひとりちゃんを振り返って、『見て、一番星!』ってね。無邪気に笑えると尚よし」

「ひとりちゃんは釣られて星を眺めてね。ここはぼーっとしてるのが良いな」

「まだ恋心に自覚してないけど、一緒にいるのが嬉しくて、どうしてなんだろ?って不思議に思ってるとこね」

「うーん、やっぱり友達に囲まれてる喜多ちゃんの絵が欲しいなー。でもエキストラ雇う余裕は……え?呼んでみる?クラスメイト?うわー、流石クラスの人気者」

「ひとりちゃん、あの人だかりの中心にいる喜多ちゃんを見つめて、少ししたらふぃっと視線を外す!そう、自分はその他大勢に過ぎないって諦めてる表情!」

「喜多ちゃん、遠ざかってくひとりちゃんの背中を見つめて溜息ね。すれ違ってる感、出してこう」

 

 なんて言うかさ、ヤバいものが出来そうな予感がする。もうこれ短編映画になってない?大丈夫?結束バンドのSNSで無料公開するんだけど?

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 1号さんと2号さんの力作が完成した。

 4分ちょいしかないそれは、見てるこっちが切なくなるようなラブロマンスに仕上がってた。

 エキストラに来てくれた喜多ちゃんのクラスメイトたちと一緒に上映会したんだけど、その満足感と言ったら、とても結成から1年経ってないバンドが作ったMVとは思えないレベル。

 まぁ、主演がね。絶賛人気急上昇中の新進気鋭読モ様だからね。しかもリアルでの恋人が共演と来たら、気合いの入りようもひとしおってもんだ。

 上映終わった瞬間、あちこちから桃色の溜息が溢れるのも無理はない。

 ……大体さぁ、ぼっちちゃんの表情が反則なんだよ!

 もう、かんっぜんに恋する乙女!

 いつもやってる緩い三つ編みを解いてフワッと広がるロングヘアとか、もう変身の類いじゃん!

 地味ぃ〜な女の子が眼鏡を外して髪を解いたら美少女で、綺麗なロングヘアを靡かせながら星空を眺めて涙を流すシーンとかさ、もうお約束すぎるのにキュンとくるのを止められない!

 これでバズらなかったら何がバスるんだ!

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 いやー、凄い反響だね。

 結束バンドと喜多ちゃんのSNS、それと喜多ちゃんのクラスメイトたちのクチコミから拡散されたMVは爆発的に広がった。

 でもって火鳥が出てることが盛大にバレた。

 やっちまった!

 そうだよ、ぼっちちゃんはギターヒーローだけじゃなくて読モの火鳥って爆弾も持ってたんだよ!

 まぁ、ギターヒーローがバレるよりはマシか……

 とは言え、火鳥のファンがこぞってMVを見にくるもんだから、MVの再生数は公開から1週間も経ってないのに20万を超えた。

 コメントでは次のライブはいつなんだって問い合わせが殺到してる。

 

「これはヤバいね。路上ライブなんかやったら暴動が起きそう」

「うーん、STARRYに人が来るのは歓迎なんだけど、バンド以外の人気で来られてもなぁ」

「ゔぐっ……すみません……」

「あー、いやいや、ぼっちちゃんのせいじゃないよ!」

「いえ、ひとりちゃんのせいですね」

「喜多ちゃん!?」

「ひとりちゃんが可愛すぎるのがいけないんですっ!もう、なんて罪な子なのかしら!」

「……さいですか」

 

 喜多ちゃんがいつもの調子でいてくれたので、ちょっと冷静になる。

 でもこれ、一介の女子高生にどうにかなる問題じゃないなぁ。

 

「虹夏、電話だ」

「んー?誰から?」

「ぼっちちゃんの雇い主」

「……は?」

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 桜ノ宮芸能事務所。

 それがぼっちちゃん、いや、火鳥が所属している事務所の名前。

 今、私たち結束バンドのメンバーとお姉ちゃんは、その事務所の応接室に来ている。

 え、何コレ?どうなってんの?

 いや分かってるんだよ?

 あのMVのことでお話しが〜って電話だったんだからさ。

 あ、これ死んだかもってガクブルしちゃった私に代わってお姉ちゃんが対応してくれて、それならみんなで行こう!ってなって、今に至る。

 で、目の前にいるバリバリのキャリアウーマンっぽい人が――

 

「はじめまして、取締役をしております、桜ノ宮です」

 

 桜ノ宮芸能事務所取締役会長、桜ノ宮ひばりさん。

 桜色のショートカットヘアに、切れ長な瑠璃色の瞳。スッキリとした体躯に不相応なバスト。

 どっかで見たことある特徴だな、おい!

 

「ひとり、直接会うのは久しぶりね」

「うん、お久しぶり、おば……お姉、ちゃん」

 

 なんか一瞬、空気が冷たくなったのは気のせいだと思いたい。

 どうもこの人はぼっちちゃんの……いや、ぼっちちゃんはこの人の姪っ子なんだそうな。

 あー、色々納得しちゃったわ。

 いやさ、普通に考えてぼっちちゃんが読モやるとか、そんなのハードルが高すぎるんだよ。

 でも『親戚がやってる仕事のお手伝い』ならどうだろう?ギリギリ、なんとか、許容範囲に入ってくるんじゃない?

 それに、ぼっちちゃんの奇行についても、ある程度寛容に対処してくれる可能性が大きい。なにせ経営陣の姪っ子だもん。

 

「それで、お話しと言うのは?」

「そうですね。あなた方が作られた、ひとりをメインに据えたMVですが。非常に素晴らしいと、こちらでは評価しています。撮影された美大生にも声をかけましてね、卒業後はうちに来ないかと」

「ほぉ?」

 

 1号さんと2号さんの就職が人質に取られた!?

 

「ですが、惜しいことに使用している機材の質が悪い。画質、音質共に素人レベルの域を出ません。学生の身ですから仕方ありませんが、素材が良いだけに残念でなりません」

「それで?」

 

 お、お姉ちゃん?

 そんな喧嘩腰の態度やめよう?

 

「身内がいる場で取り繕っても仕方ありませんから、単刀直入に。あのMVの権利をこちらに売っていただきたい。それと、今後ひとりをメインに据えるMVを作ることがあるなら、バンドとしてではなく、モデルとしての火鳥のプロモーションムービーとして制作していただく。もちろん、協力は惜しみませんし、内容についてはそちらに裁量をお任せします」

 

 うん?

 うーん?

 これどういう意味?

 

「結束バンドをデビューさせる、と言うワケではないと」

「それはもちろん。あくまでこちらが扱うのは火鳥です」

「なるほど……どうする、お前ら?」

 

 いや、話についてけてないです。

 

「お、お話しは、持ち帰って、検討させてくださいっ」

 

 どうしようかと迷ってたら、ぼっちがまとめてくれた。

 わ、すご。確かにここでいきなり決めろって言われてもね。ちゃんとみんなで相談したいし。

 

「そうね。ちゃんと考えなさい、ひとり」

「……うん」

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 STARRYに帰ってきて、みんなでぐったりする。

 いやー、緊張したね。

 でも、勝手に火鳥を使ってなにしてくれてんだー!とかの話じゃなくて安心した。

 損害賠償とか言われたらどうしようって、気が気じゃなかったよ。

 

「エキストラに来てくれた子たちに配ったデータは無断コピーしないようにってクギ刺しときました」

「うん、ありがとー」

 

 まぁ、ネット上では拡散しまくってるから、今更だけど。

 

「で、お前らどうするんだ?」

「どうするって、ねぇ?」

 

 正直言って、頭回んないんだよ。

 

「えっと、まずは現行のMVについてですね」

 

 喜多ちゃんは録音してた話の内容を文字起こしツールで文章化して、簡潔にまとめてくれた。

 

「結束バンドのSNSであのMVを公開するのを停止させる……ってことだと思います。火鳥のブランドイメージ保護、ですかね?」

「あの、読モ相手にそんなことしますかね?」

「甘いわよ、ひとりちゃん。私が思うに、あっちの経営計画だと、既にあなたは読モじゃなくて、正式なモデルになってると思う」

「うぇっ!?」

「知らぬは本人ばかりなり、か」

「いやこれ知らないの不味くない?ぼっちちゃん、お母さんになにか聞いてないの?」

「えっと、なんか契約が変わって、延長になった……とか?」

「それだよっ!」

 

 大丈夫なのかこの子。

 将来詐欺に遭わないかガチで心配になって来た。喜多ちゃんにはしっかり監視しといてもらわないとなー。

 

「そうなると報酬の一部は既に受け取ってる可能性があるね。ぼっち、なにか融通されてない?」

「それエステの年間会員証ですよ、多分」

「あぁ、あれのこと?郁ちゃんと一緒に行けるから便利だよね」

「なん……だと……」

 

 モデルさま御用達エステサロンの年間会員証、だと?

 

「喜多ちゃん?」

「……てへっ?」

 

 てへじゃないよー!

 なんなのそれ羨ましいっ!

 

「だって、普通に行ったら年間25万するんですよ!そんなとこに、ひとりちゃんのパートナーだからって無料で行けるんです!行くでしょ!?」

「ぬぉお〜っ!」

 

 なんか最近、妙に肌艶が良いと思ったら!

 ぼっちちゃんと同棲出来て幸せだからかな?なんてほのぼのしてた私の気持ちを返せ!

 あっちでPAさんが血涙流してるぞ!

 

「あの、ぼっちちゃん?それ私たちも行けたりしない?」

「えっと、確かペア会員なので、ごめんなさい……」

「あ、うん。良いの。分かってた」

 

 はぁ。一度で良いから行ってみたかった……

 

「虹夏ちゃん、エステ行きたいです?」

「あー、まぁー、なんて言うか、私も女の子だしね?そう言うの、やっぱり興味あるって言うか」

「……誕生日、期待しててください」

「ぼっちちゃん!」

 

 なんて良い子!

 うん、なにも何回も行きたいってワケじゃないからね。ちょこっと好奇心を満たせれば良いだけだから!

 

「もう良い?」

「あ、うん」

 

 コイツは興味なしか。

 けっ、このイケメンが!

 

「ぼっちの契約が変わってるなら、話は見えてくる。喜多の推測通り、火鳥の保護がメインだね。今後同じ失敗しないようにバックアップしてやるから言うこと聞けってことか」

「それとついでに、お前らの名前も売ってやるってメリット付きだ。ぼっちちゃんの身内とは言え、大盤振る舞いだな」

 

 ひぇっ、なんか凄い話になってるよ。

 

「なら、話を受けるって方向で良いかな?」

「まぁ、そうなんだが。ちょっと話がうますぎてな」

「私も引っかかってる」

「えー、2人とも気にしすぎじゃない?」

「伊地知先輩、相手はあのバリバリキャリアウーマンな取締役ですよ?私たちからひとりちゃんを取り上げようとか企んでたらどうするんですか」

「あ、はい。すみません」

 

 えー、そんなことまで警戒してるの?

 

「ぼっちちゃんはどう思う?おばさんなんでしょ?」

「えっと、そうですね……なにか私たちに、経験させようと、してるんだと思います」

「経験?」

「たとえば、その、こうやって、相手が何を考えてるのか?って、考えることとか、ですね。他にもあるかも、ですけど」

「なるほど?」

 

 社会人って大変だな。

 でも姪っ子には甘いのか。

 

「機材や人員は貸してくれて、作るMVの内容はこっちが決めて良いんだよね?この話だけだと問題なさそう」

「うん、これ以上は考えても無駄っぽい」

「お前ら、契約書にサインするときはちゃん細かく確認しとけよ?なんだかんだ言って、今の段階じゃクチだけなんだからな?」

「はーい」

 

 

☆ ★ ☆

 

 

 契約はスムーズに進んだ。

 心配してた裏がどうこうも、「高校生相手に裏をかいて言うことを聞かせようなんてコスい真似はしない」って笑われちゃったよ。

 まぁ、今回は杞憂だったけど、契約する時は慎重にって姿勢を持つことが出来たのはプラスだと思おう。

 

 結束バンドのSNSからはMVを削除して、火鳥のプロモーションムービーとして扱うことになったって謝罪文も載せた。

 今後の活動については追って連絡。

 それと火鳥が結束バンドで活動するのはプライベートだから自重をお願いする。

 火鳥のサイン欲しいとか言われても対応しないよってね。

 まぁ、物販のブロマイドを買うくらいは許容するけど。一人当たりの購買数は限定させてもらう。多少は転売ヤー対策しとかないとね。

 

「ひとりちゃん、ありがとう!」

「ほんっとーに助かったよー!」

 

 1号さんと2号さんは就職先が決まって大喜び。しかも希望してた映像部門らしい。

 就職難のこのご時世、コネは重要なんだそうだ。卒業はまだ先だけど、就活しないで済む分、気が楽になったってさ。

 でもそれだって、MVの出来が良かったからあちらの目に留まったんだから、実力が認められたことに代わりはない。

 チャンスをモノに出来たのは、彼女たちがこれまで積み重ねてきた知識とか技術とか、それとセンスがあるからだと思う。

 

「さて、MV騒動もひと段落したことだし、練習といきますか!」

「あ、ごめんなさい、虹夏ちゃん。MVの制作依頼、来てます」

「へ?」

「えと、構成は、前と同じで構わないから、ちゃんとした機材で、リテイクだそうです」

「は?」

「お給料は、えと、このくらいだそうです」

「……やるよ、やれば良いんでしょ!?」

 

 時給は人員1人ごとに2千円。

 完成時に30万円。

 経費は別途請求可。

 条件は破格だけどさぁ。

 なんか、こう、釈然としない!

 

 

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